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第四章

第二話 奪還

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「さて、退陣を迫るとは言ったものの、具体的にはどうするつもりかね?」

 フランシスが横に座るレイに問うた。

「署名を集めるというのも手ですが、それでは皆さんの立ち位置が危うくなる。
 極秘でリチャード現王のスキャンダルを見つけ出し、弾劾裁判にかけるのがベストでしょう。
 そもそも、この戦争だって王国憲法からしたら違反しているんだ」
「それはそうですが、現王を弾劾させる材料としては弱いですわ。
 もっと決定的な、否応なく王座を追われる…平民であるならば、即座に死罪となるような大罪…そうした大きなものを見つけ出すのがよろしいかと」

 ジョセフィーンは正しかった。
 南北戦役をはじめ、今までの戦乱を王国憲法に違反する者だという声は、少なからず起こっていた。
 にも関わらずリチャードが健在なのは、それらが立証されていないからである。

『そうなると、よほどでかいスキャンダルって事か…誰か心当たりはないか?』

 サリーが問いかけると、皆一様に難しい顔になった。

『難しいな…公文書偽造や国費流用といった疑惑は確かに流れたが…どれも根も葉もないということで一蹴された』

 マリアは恐らく、その様子を誰よりも間近で見てきてはいるはずだった。

「…これは、私も単なる噂だとは思うのだが…」

 ニコラスが口を開いた。

「…父が先王エドワードと、その妃であるソフィア妃を暗殺したと」

 マリア、ジョセフィーン、フランシスが一様に息を飲んだ。

『…暗殺?』
「どういうことですか?」
「…私が生まれる前、エドワード夫妻が崩御され、父上が王座について間もない時、噂が流れたことがあるというんだ…リチャードが王座を握るため、エドワード王を誅殺したのではないかと」
『もちろん、証拠なんてどこにもないから、すぐに噂も消えたが…確かにタイミングが良すぎるんだ。
 ソフィア妃の妹であるヘイリー王妃に婿入りして間もなくの事だったからな』
「…しかし未だに疑惑はある、ということですか」
『ああ。しかもその少し後で、母上…ヘイリー妃も亡くなられたから、余計にな』

 レイは皆を見据えた。

「これを調べましょう。
 空振りに終わるかもしれないが、何もやらないよりはいい。
 エレナとサリーは、教会でリチャード王と教会の癒着の証拠を掴んでくれ」
『はい、必ず』
『任せておきな』

 レイは立ち上がり、モニターのエレナやマリアを見た。

「危ない橋を渡らせてすまない…大佐も、この埋め合わせは必ず」
『全く…惚れた弱みという奴だな』
『きもっ。アンタみたいなのに惚れられたら、レイも困るだろうよ』
『それはそっちだ、腕力バカの野蛮人など、愛人にするのも御免被るだろう』
『なにぃ⁉︎』

 サリーとマリアが画面越しで喧嘩を始めた。
 その様子を皆笑いを堪えながら見、またエレナは複雑な表情で姉と元上官を見た。

『あ、あの…私が一応恋人って事になってるんですけど』
「ほっとけ、エレナ。何を言っても聞かないよ。心配しなくても、俺はエレナ一筋だから」
『れ、レイ様…』

 エレナは顔を真っ赤にしたが、他の全員は少々呆れたような表情だった。
 それを悟ったレイは、軽く咳払いをした。

「…陛下と大佐には、お辛いでしょうが…これは世界のためなのです」
「わかっているよ。だからこそ、私はここにいるのさ」

 ニコラスはレイに微笑んだ。


 リチャード・アレクサンドル王。
 それは現在のアレクサンドル朝の始まりの存在であり、ある意味ではアズリエル王国を象徴するような存在でもある。
 元々は魔力の才能あふれる子らだけを集めた孤児院の出身であったリチャードは、極左テロリストともいえるジョルジュ・ネルディームの襲撃を、その人並外れた魔力で一人で退けた。
 それも幼い少年の身である。
 ただ一人の襲撃事件の生き残りとなったリチャードは一躍時の人となり、やがて士官学校に入隊。
 ティアーノや”魔界”ディミトリ自治区で多大な戦果を挙げ、勇者としてアズリエル王国民に認知されることとなる。
 やがてヘイリー王妃と結婚し王族入り、先王であるリチャードが崩御してからは、王として正式に国内の頂点に上り詰めた。
 それがアズリエル王国民が知る、リチャード王の物語である。
 数々の戦場にて汚らわしい亜人を成敗し、その正義を体現したリチャード王はまさしく純粋種にとって希望の光でもあり、大義を体現した存在であった。
 だからこその強靭な支持基盤を持ち、幾人もの側室を召抱えるような好色ぶりが取り沙汰されても、それがさらに彼を輝かせた。
 平民の羨望が集まり、さらにそれが彼の強力な男性性を際立たせたからである。

「つまり、孤児院に来る前の彼のことは、誰も知らないんですね?」
「ああ。父上も話したがらなかったし、当人もよく覚えていないとの事だったよ。
 物心ついた頃には、孤児院にいたとの話だ」

 ニコラスの話が正しければ、リチャードの氏素性は全く誰にもわからない事となる。
 そうなると、一気にリチャードの怪しさが増した。

「その孤児院というのは、今も存在しているんですか?」
「いや、既に跡形もないようだ」
「…どうにもキナ臭いな」
「とはいえ、父上の出生は確かめる方法がない。別のことを探した方が賢明だろう」
「…そうですね」





 そうして、平和を勝ち取るための最後の戦いが始まった。





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