異世界転生チート勇者と“真の英雄”、そしてその物語について 〜本当に『最強』なのは、誰の命も奪わない事。そして赦し受け入れる事〜

Soulja-G

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第三章

第二十九話 突撃

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「ぐはっ…‼︎」

 口元から血を吐きながら、マリアは床に倒れ込んだ。

「口程にもない…元王国軍近衛騎士団と言っても、所詮はこの程度か」

 既にマリアは体の半分以上に火傷を負い、辺り一面に肉の焼け焦げるような悪臭が漂っていた。

(つ、強い…これが、モナドの実力という事か…)

 事実、マリアはここまで実力差のある相手と戦った事は無かった。マリア自身が相当に強い事もあり、多少相性が悪くても根本的な格闘技術や魔法攻撃のテクニックでなんとかなった。
 しかし目の前の相手は違う。マリアと同等以上の魔力や戦闘技術を有している上、魔法研究所から強奪した強力な術式まで駆使してくるのだ。

「しかし…だからと言って、負けられん‼︎」

 決死の力を振り絞りサーベルを握り直すと、マリアは立ち上がった。そのまま一気に間合いを詰め、イリーナに向かっまて斬りかかった。

「遅い」

 しかしイリーナはその刀身を片手で、しかも掌で受け止めた。

「鉄屑で私を切れると思ってる辺り、甘いという事を思い知らせないとね」

 イリーナがそう言うと、掌の周囲の空間が歪み始めた。すると握りしめたサーベルの刀身が、まるで溶けた飴細工の様に融解し、床に滴り落ちた。
 そして空いている方の手で、マリアの腹部に思い切りボディブローを喰らわせた。

「ぐふっ…‼︎」

 辛抱堪らず、マリアはくの字に倒れ込んだ。

「しぶとさだけは認めてあげるわ。だから貴女はすぐに殺さない。私の同族も、貴女の指揮の下で随分と殺されたわ。その報いを受けさせてあげる…心も身体もたっぷりと痛ぶって殺してあげるわ」






 レイとサリーは甲板上で風を受けながら、落下のタイミングを計っていた。
 目標の要塞は後少し、肉眼で確認できるタイミングで落下し、一気に突入する作戦であった。

「よし、見えてきたぞ! 」

 サリーが指差した先には、防護術式に包まれた要塞があった。低空飛行で飛んでいるせいか、その要塞が猛スピードでこちらに向かってきている様にも見えた。

「隊長、ご武運を!」

 部下がサリーに向かって敬礼した。

「ありがとよ! さぁ、行くぜ、レイ‼︎」
「ああ‼︎」

 レイは目の前の要塞を見据えながら、甲板から空中に飛び出した。強烈な空気抵抗をその肌にヒシヒシと感じながら、そして横にサリーを抱きかかえたまま、体勢を整えた。

「振り落とされるなよ!」
「わかってるよ! 私の腕力を甘く見んじゃねえ‼︎」
「なら安心だ…行くぜっ‼︎」

 両足に魔力を込めて、レイは空を思い切り蹴った。ゴッという音が響き、マッハのスピードでレイは基地に突っ込んだ。

「うおおおおおおおっ‼︎」

 大剣の切っ先にありったけの魔力を込めて、防護術式に突き立てた。ガリガリという嫌な音を立てながら、火花を散らして防護術式は少しずつだが削れていった。
 サリーもレイの体にしがみつきながらも、その脇に挿した剣を抜き、魔力を込めて障壁の上に突き立てた。

「壊れろおおおおおっ‼︎」
「いけええええええっ‼︎」

 絶叫しながらその障壁を削っていくと、徐々に割れ目の様なものが出来てきた。それは少しずつ広がっていき、最終的には人一人くらいが通れるくらいの大きさになった。

「これで…最後だ‼︎」

 思い切り剣をねじ込むと、防護障壁は音を立てて割れ、レイとサリーは障壁の内部、基地の上空に雪崩れ込んだ。すぐさま待機していた敵兵からの銃撃が飛んできた。恐らくレイの強大な魔力反応を感知しての事だろう。すぐさま防護術式を張り、銃弾の雨を凌いだ。

「くそっ、息つく暇も無さそうだ!」
「まかせな、雑魚は引き受けるぜ」

 サリーは掌を地面に付け、術式を展開した。

「はあああっ!」

 蜘蛛の巣上に電流が広がり、周りを取り囲む敵兵を一網打尽にした。

「ぐぁぁっ!」
「ぐおお‼︎」

 周囲の敵は一気に感電し、気絶した様だった。
 そしておそらくそれは、彼女と一騎討ちしたハリーの技でもあった。

「この私が、殺さねぇ様に手加減するとはな…お前の甘ちゃんぶりが移っちまったよ」
「ふっ…それは嬉しいばかりだな」

 二人はお互いに笑い合った。
 しかしその間にも、新手はゾロゾロと増えていくばかりである。
 それらにレイとサリーは背中合わせで相対した。

「二手にわかれよう。
 俺はモナドの方へ行く。
 サリーは閣下やエレナを助けだしてくれ」
「はいよ。
 強い奴はお任せするぜ。
 その代わり、絶対にとめるんだぞ!」









「き、緊急事態です! 侵入者が…防護障壁を突破しました‼︎」
「何⁉︎ 人数は?」
「ふ、二人です…レイ・デズモンドとサリー・コーヴィック、たった二人だけです‼︎」
「…‼︎」

 イリーナも驚きを隠せない様子だった。各国の軍が全力を出しても傷一つ付かなかった防護術式が、レイのチート能力により破られたのだ。焦るのも至極当然のこととも言えた。

「…全員、奴をここに誘き寄せつつ後退。その後は撤退なさい」
「司令官⁉︎」
「どうせ彼には私以外歯が立たないわ。なら、隙を見て逃げなさい。無駄死にする事はないわ」
「…司令官、ご武運を」

 敬礼したのち、男は駆け出していった。
 イリーナは下唇を噛んだ。

(やはり貴方と…闘わなくてはいけないの?)





 エレナとニコラスの魔力反応を頼りに、サリーは要塞内部へを歩みを進めていった。
 施設内での戦闘は激しいものを予想していたが、それは外れた様だった。

「ハァァっ!」

 彼女の得意とする炎の術式と、ハリーが得意とした雷の術式を組み合わせ、サリーは可能な限り犠牲を抑えながら進んでいった。

「ったく、殺さずに抵抗不能にするってのが、一番難しいぜ!」

 そしてすぐに、エレナの魔力反応が一番高い部屋を見つけた。
 すぐさまドアを蹴破ると、そこには見慣れた顔があった。

「お姉ちゃん!」
「エレナ! それに…陛下‼︎」

 拘束魔法に縛られている二人を発見し、すぐさまサリーは駆け寄った。
 解除術式ですぐに溶けるかと思いきや、予想を裏切り外れる気配が無い。

「くそっ、ハズレねぇ!」
「だめよ、お姉ちゃん…恐らくこれは秘匿魔法の一種。
 通常の人間の魔法では解けないものよ」
「ああ、その通りだ。
 僕も何度か解除を試みたが、うまくいかない。
 レイデズモンドに頼るしか…」
「チッ…結局最後までアイツ頼みか…!」


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