85 / 131
第三章
第二十二話 その資格
しおりを挟む360度・上下左右を縦横無尽にジャクソンは猛スピードで飛び回り、その動きはレイを翻弄した。
その中で次々と放たれる高威力のビーム砲を、レイもまた持ち前の超スピードで駆け回る事で回避していった。
空中に向かってハイジャンプし、レイはジャクソンに向かって斬りつけた。
しかしそれは残像を掠めただけで、傷をつける事は出来なかった。
瞬時にレイは斜め上からの光に気付き、身体を捻って上空からのビームを躱した。
途轍もない速さで空を飛び回れる彼は、相手の意表をつく位置からの攻撃はお手の物なのだろう。
「くっ!」
レイも負けじと全開のスピードで空を飛び回り、ジャクソンを追尾した。
しかしそのスピードは凄まじく、レイの攻撃は魔法・剣撃を問わず悉ことごとく空振りした。
(スピードだけなら、恐らくはディミトリ・ラファトと互角だな)
レイと並べるともなれば、恐らくは魔王と呼ばれた男・ディミトリと同等とみていいだろう。
確かに攻撃自体は当たらないし、当たっても防御術式で簡単に無効化できる。
しかし攻撃を何とか躱し続けられる反面、相手のスピードが異常に早く、此方の攻撃もまた相手に躱されてしまっていた。
(負ける事は確かに無いが…しかしこれだけじゃ勝てないな)
相手の攻撃をかわしながらレイは思った。
このまま持久戦に持ち込む事も可能ではあるが、そうなった場合こちらが弱体化した隙に他の兵が不意打ちを加えてくる恐れがあった。
雑兵ならば何とか対応できるかもしれないが、それがまたモナドのような人間であった場合、勝率は未知数であった。
根本的な戦法を変える必要性をレイは感じ始めていた。
(攻め方を変える必要があるな)
しかし突如として、ジャクソンは動きを止めた。
『流石ハ勇者…僕の攻撃ヲここまで見切るなんテ、君が初めてダよ』
「お褒めに預かり光栄だな。とはいえ、お前の攻略法も少しだが見えたぜ。
確かにお前は強いが、俺には勝てない。
諦めて投降するなら、痛い目は見ずに済むぜ」
『気が早いネ…それはコレを受けてからにシテもらおうか!』
そしてジャクソンは、その1メートルはあろうかという嘴を大きく広げ、術式を展開した。
すると周囲の空間全てが瞬時に歪んでいき、それにレイも取り込まれていった。
「⁉︎」
次の瞬間、レイの鼓膜から脳髄にかけて激痛が走った。
例えようのない不快感と痛みの中で、レイは悶え苦しみ、遂には浮遊状態さえ維持できずに地面に崩れ落ちた。
「ぐっ…あがっ…‼︎」
『苦しんデいるようだネ…点ではなく線ヲ攻める必要があると思っテね、こうした攻撃方法にさせテもらっタよ』
「う…くそっ!」
毒の術式かと疑い、レイは防護術式と回復術式を同時に展開した。
しかし何故か効果はなく、むしろ激痛は悪化するばかりだった。
『ハハっ、あまり魔力を消耗しない方がイい。余計に痛みが酷クなるぞ』
「バカな…防護術式で防げないだと⁉︎」
術者の能力次第で防護術式は、その強度を増す。
レイほどともなれば、殆どの物理的・魔術的干渉を全て跳ね除ける。
それは毒を含んだ空気に対しても同じだった。
しかしそれをも無効化するともなれば、これは全く別のものであると考えるべきであった。
防護術式でも防げないもの、防ぐ必要が無いもの、恐らくそれは一つであった。
「これは…超音波か!」
『よくわかったネ。
君ノ能力の高サは知っていたから、事前に君へノ対策も練っテいたんダよ。
範囲攻撃であリ、絶対に防げなイ"音"で攻撃するしかナイとね』
「ぎっ…ぐぅぅっ…」
『さぁ、ユックリと死んでいくガいい!』
その痛みは徐々にレイの脳髄を蝕んでいた。
激痛に苦しみながら、レイは必死で対抗策を考えた。
(何か…何かこの音に対抗する術は…)
鼻血を垂らし、地に膝を付きながらも、尚もレイは考えた。
(超音波…周波数…何か…!)
やがてレイは、たった一つの解決策を打ち出した。
(うろ覚えだが、やるしかない!)
思い切り息を吸い込み、レイは全身に水の術式を展開した。
するとレイの全身は水の球体に包まれ、呼吸すらできなくなった。
『ハハっ、遂に自殺カイ⁉︎ オカシクなったのカ⁉︎』
その球体の中でレイは術式を放った。
十数秒の間、その術式は輝き続け、その間レイは呼吸できない苦しさに表情を歪めていた。
『今更何をやったってテ無駄サ! さぁ、ユックリと死んでい…け……⁉︎』
しかし次の瞬間には、ジャクソンが地面に倒れ伏していた。
『アグ…ガ…バカ、な…⁉︎』
「ブハァっ! はあっ、はあっ…‼︎」
やがてレイが術式を解くと、球体はレイの体を離れた。
しかしそれは粘性を持ち、スライムのように地面に塊となって残った。
『な、何故…超音波ガ…効かなイ…』
「効かなかったわけじゃない。
ただ効果を薄める事は出来た。
この水は見ての通り、ただの水じゃない。
吸音材に使われるゴムに近いものだ。
こいつが周りの音を大分吸収してくれた。
お前を神経毒の術式で動けなくする十数秒間、超音波のダメージを軽減する必要があった。
下手をすれば、こちらが魔法を発動させる前に死んでたかもしれないからな」
『ぐ…くそ…』
「油断したな。
あのタイミングで慢心せず、俺から離れておけばよかったんだ。
そうすれば毒の術式にはかからなかったものを」
ジリジリとレイはジャクソンに向かって歩みを進めた。
『うグ…殺すなら殺セ…どうせ、生き残ってモ狂い死にするだけダ…』
「そうかもな。でも、それじゃ俺は納得出来ないんだ」
そうしてレイは手を翳した。
するとジャクソンの獣化魔法が、徐々に解けていった。
「流石に2度目ともなれば、多少はスムーズにいくもんだな」
『な…バカな! 何を考えている⁉︎』
「確かにお前は死ぬべきなのかもしれない。
でも、同じように人をたくさん殺しておきながら、勇者呼ばわりされてる俺みたいな奴だっている。
なら、俺にお前を殺す資格なんてないよ。
それに俺は戦いを止めに来たんだ。
誰かを殺して戦いを鎮めても、絶対に遺恨は残る。
だから殺さない。それだけの話だ」
やがてジャクソンは完璧に人間の形を取り戻した。
「ふぅ…やっぱり体力を消耗するな、これは」
そうしてレイは、ジャクソンの手を握り、身体を起こした。
「しばらくは動けないだろうからな、少しだけ肩を貸してやる」
「お前…」
ジャクソンの瞳からは、既に敵意は抜け落ちていた。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~
夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。
全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。
適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。
パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。
全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。
ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。
パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。
突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。
ロイドのステータスはオール25。
彼にはユニークスキルが備わっていた。
ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。
ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。
LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。
不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす
最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも?
【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。
目覚めると彼は真っ白な空間にいた。
動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。
神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。
龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。
六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。
神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。
気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる