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第三章

第二十一話 次のモナド

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 安全地帯にいるとはいえ、交戦エリアまで後少しというところに、レイ・サリー・アルベルトの三人は赴いた。
 乾いた砂埃を含んだ風が相変わらずキツく、それは常に兵士達の視界を遮っている。
 先陣を切るレイは、その両眼に術式を展開した。

(熱源探査モードに移行する)

 するとレイの視界は、一瞬にして高性能サーモグラフィーと同じになった。
 その目には、上空に浮かぶ幾つもの人影や、地面より深い場所に息を潜めている無数の兵士たちの熱源を感知できた。
 そして、そのはるか後方にある反り立った大きな丘の中に、多くの人間の姿がある。

(あの丘の裏…いや、中か? それに地面より下にいるって事は…)

 視界の中の熱源反応から、レイは確信した。

「恐らく奴ら、塹壕に身を潜めながら、こちらの攻撃に耐えている。
 艦砲射撃が効かないのも、恐らくそのためだ」
「塹壕だと? バカな、この辺の地形を上空からの確認した限りでは、そのような形跡は…」
「この一帯の地形全体に、大規模な撹乱魔法を施している。
 後方のカモフラージュが解析できないほどなんだ。
 そこまでやれても、おかしくはない。
 熱源の位置や数から察するに、後ろの丘にも洞窟の様なスペースを確保しているんだろう。
 そこから補給を受け取ったり、後方支援を行ったりしているようだな」
「マジかよ…この辺りには、元々そんな洞窟もないし、平地で塹壕が作れるほどの起伏もないはずだぜ」
「この作戦を考えついた奴は、相当に用意周到なようだな。
 開戦から間も無く、ここが重要な拠点になる事を察知し、これだけの兵が潜めるだけの塹壕や、後方の洞窟スペースも作り上げた。
 魔力係数や総魔力値だけじゃなく、頭の良さまで飛び抜けてるとはな…」

 レイは拳を握り締めた。

「いずれにせよ、トリックがわかれば攻略は簡単だ。行ってくる」

 そう言うと、レイはおもむろに飛び立っていった。

「あ、おい! くそ…本当に大丈夫なのか、あいつは」
「平気だよ。私が信じる男だぜ、最強に決まってるだろ?」

 戸惑うばかりのアルベルトを横目に、サリーはニヤリと笑った。



 上空では20人程度の遊撃兵の数が確認できた。

(こいつらが上空を飛び回り、下の人間に攻撃を仕掛けるわけか)

 早速レイは、上空の兵の一人に電気ショックを食らわせた。

「があぁっ!」

 突然の攻撃に兵は反応し切れず、気絶したまま地面に落ちるとこだった。

「おっと!」

 レイは慌てて兵士の身体を拾い上げた。
 この高さから落ちれば、命の危険があるからだ。

「な…⁉︎」
「き、貴様…何故我々の位置がわかる⁉︎」
「見た目をカモフラージュしても無駄だ。俺はお前らの体温を感知できる。もうお前らの戦術は通じないぞ」
「く、くそぉっ‼︎」

 もはや捨て身と言わんばかりに、全員で魔法攻撃をレイに向かって連発してきた。
 しかし敵の手の内が完璧に知れ渡った以上、力の差が歴然としているレイに叶うはずはなかった。

(無駄だ!)

 超スピードで攻撃をかわしながら、敵に一人ずつ電気ショックを与えていくと、次々と兵士たちは意識を失っていった。
 そして次々と落下していく身体を受け止め、優しく地面に横たえてやった。

「悪いな。戦いが終わるまで、しばらくこのまま眠っていてもらうぞ」

 そうしてレイは、視界の先にある荒野と、背後にある切り立った丘を睨みつけた。

「ここからは、俺が攻める番だ」

 そう言って駆け出してから、戦いの展開はひたすら一方的になった。
 奇襲に警戒する必要がなくなった今、純粋な白兵戦でレイに叶うものなどいるはずもなく、皆為す術なく行動不能に陥っていった。
 時折増援と思しき兵力が空中から攻撃を加えることこそあったものの、熱源を直接感知できるレイには容易く位置を見破られ、即座に電気ショックで撃ち落とされていった。
 そして地上の兵の8割程を動けなくした辺りで、丘の上に異常な熱反応をレイは感知した。
 それは徐々に熱を増していき、また規模も巨大化していった。
 やがてそれは、一筋の巨大な光線となってレイに向かってきた。

「なっ⁉︎」

 咄嗟の防御術式でなんとか防いだものの、あと一瞬気付くのが遅ければ致命傷になっていたかもしれない。
 ここまでの強力な魔法を駆使するような人間は、恐らくは敵の親玉に違いない。そうレイは確信していた。

「ボスのお出ましか?」

 見上げた視界の先には、黒い肌の男が立っていた。
 小高い丘の頂に立ち、悠然とレイを見下ろしながらも微かに笑みを浮かべたその姿は、まさしく多くの兵士を率いるに相応しいカリスマ性を感じさせた。

「お前…モナドの一員だな。あれだけの魔法を放てる奴は、そうそう多くはないぞ」

 ふっと男は短く溜息をついた。

「やれやれ、お見通しのようだね。僕の名はジャクソン。
 御察しの通り、僕がこの一帯の指揮をとっているモナドの一員だ。
 全く、本来ならば隠密行動が必須の僕らが、こうして最前線に出なければならないとは…君のように常識離れした人間のせいだよ、レイ・デズモンド」

 その口調には何処か戦場に似つかわしくない優雅ささえ感じられた。
 恐らくはジャマールと同じような種族である事は想像できたが、その佇まいには知性や気品といった類のものが滲み出ている。

「俺の事は知っているようだな。
 なら話は早い、もうこんな戦いはやめろ。
 お前の貼ったカモフラージュも全て見破った。お前の戦術は俺には通じない。
 これ以上互いの憎しみを増やすな。こんな戦いを続けていても、奴らに戦争の口実を与えるだけだ!」
「馬鹿げた事を。
 おとなしく成されるがままにしていて、何が変わったというんだい?
 民衆はリチャード王やガルム大公を支持し、結局僕らは弱者に逆戻りだ。
 我々非純粋種が世界の覇権を握る事でしか、世界は変わらないんだ!
 その事は、かつて南北戦役で戦った君がよくわかっているんじゃないかい?」

「そんなバカな事があるか!
 今の教会のトップは、お前と同じ亜人なんだぞ。
 それに良識ある人間達は戦争や差別に反対してるし、その声は少しずつだが大きくなりつつある! 
 世界は変わり続けているんだ‼︎ 
 だからもう、争いはやめろ‼︎ 
 もし仮に暴力で覇権を握ったとしても、今度は純粋種がお前らに復讐するぞ。
 そんな負の連鎖になんの意味があるんだ? 
 俺たちはそんな戦いを繰り返して、いつまで悲しい思いをすればいいんだ?
 俺たちに立ち向かう勇気があるなら、まず武器を捨てる勇気を持ってくれ‼︎」
「くっ…あはははは!」

 ジャクソンの高笑いが響いた。

「…確かに、世界が君のような人間ばかりなら、僕らが武器を手に取る必要もないんだろう。
 それはきっと、ハリーも最後まで同じ事を思っているはずだ」

 その身にまとう殺気が、一瞬だけ消えた気がした。

「しかし、そういうわけにもいかない。
 世界はそう甘くは無いからね…お喋りが過ぎたようだ、ここから先は本気で行くよ」

 そして彼もまた、ハリーと同じく変身魔法の術式を展開した。
 その姿は徐々に、巨大な金色に輝く鳥の姿へと変貌していった。

『ククク…僕は一味違ウと考えタ方がいいヨ‼︎』

「まったく…またこのパターンかよ!」

 レイは背の大剣を抜き、構えた。




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