異世界転生チート勇者と“真の英雄”、そしてその物語について 〜本当に『最強』なのは、誰の命も奪わない事。そして赦し受け入れる事〜

Soulja-G

文字の大きさ
上 下
75 / 131
第三章

第十二話 シーア公国

しおりを挟む
 それはシーア公国軍からの緊急コールだった。

『こちらはシーア公国陸軍第7部隊隊長のアルベルト・ローレンスである。
 そちらはルークスナイツの一個大隊とお見受けする。そちらの責任者はいらっしゃるかな?』

 その問い掛けには、サリーが応じた。

「こちら、ルークスナイツ特殊大隊隊長のサリー・コーヴィックだ。
 緊急コールとは何事だ? 上陸許可はとってあるはずだが」

『確かにそれは受理している。用件は、そこにいるモナドの事だ。
 先ほど、大規模な戦闘による魔力の炸裂を感知した。波長パターンから亜人である事は明らかだ。その上、これだけの魔力係数を叩きだすのは、モナドの人間をおいて他にはおるまい』

「…確かに亜人は確保してはいるが、モナドかどうかは判りかねる。それはあんたらも同じなんじゃないのか?」

『シラを切っても無駄だ。そこにいるのはハリー・ジダンだろう? こちらが唯一把握しているモナドの構成員だ。
 そちらが奴を庇いだてする場合、我々も強硬手段を取らせてもらう。以上だ』

 そう言って、通信は途切れた。

「どうやら筒抜けらしいな。どうするよ、レイ?」

「…ここで抵抗しても、みんなの立場が危うくなるだけだ。
 向こうが先に武力に訴えなければ、大人しく身柄を引き渡すしかないだろう」

「…仕方ねぇか」

 サリーは溜息を吐いた。


 数十分後に到着した飛空挺発着場では、シーア公国軍一個大隊がレイたちを完全武装で出迎えた。さながらそれは、抵抗すれば迷わず武力によりそちらを制圧すると高らかに叫んでいるかのようだった。
 通信で話していたアルベルト・ローレンスもそこにいた。その場にいる大隊の指揮は、想像通り彼が執っているようだ。

「シーア公国へようこそ、コーヴィック女史に勇者レイ・デズモンド。こちらもこうした歓迎の仕方は本意ではないのだがね、何せ目的の人物が人物なだけに、御容赦願いたい」

 白々しい事を、とレイは思った。アルベルトの目は明らかに殺気立っているし、背後の兵たちも明らかにレイたちを敵視している。仮にレイたちがハリーを捕獲していなくても、彼らは武力に訴えていた可能性も高かった。

「それで、奴を含めた捕虜は、中にいるのかね?」

「ああ。全員ふん縛ってあるよ。封印術式もかけてあるから、魔法も使えないはずだ」

 返答するサリーの顔にも、どこか嫌悪感が浮かんでいた。

「よし、連れて行け!」

 アルベルトの指揮により、兵士たちが一斉に中に突入した。

「おい、さっさと来い!」
「なっ、てめぇ、何しやがる‼︎」
「うるせぇ‼︎」

 中で多数の人間が暴れまわっている音が聞こえた。
 兵士たちが捕虜に対して暴行を加えているのは明らかだ。

「おい、彼らは抵抗できないんだぞ。もう少し穏便にいったらどうなんだ?」
「悪いが君を含め、全員が我々にとって脅威的存在なのでね。最大限の防衛行為をさせてもらっているよ」

 歯牙にも掛けないようなアルベルトの態度に、レイは腸が煮えるような感覚を覚えた。

「…ならわかるよな。やろうと思えば、俺はあんたらを一人で皆殺しに出来るんだぞ」

 途端にアルベルトの顔色が変わった。

「あんたらが無用な暴力に訴えないという前提があるからこそ、俺は無抵抗なんだ。
 そちらがその前提を覆すなら、俺も手荒な事をせざるを得ない」

 アルベルトの額には、微かに脂汗が浮かんでいた。

「心配しなくても、全員の身柄は引き渡す。その代わり、不当な暴力は止めろ」

「…おい、殴るよりも先に連れて来い‼︎ 出来うる限り無傷で連れて来るんだ!」

 そうして、ハリーを含めた全員は軍に引き渡された。






 そして町外れの教会に、レイたち一向は滞在していた。
 教会というのは国内に於いては、ある種の治外法権でもある。
 それ故にルークスナイツが滞在し、また武器などを貯蔵しても、それを各国の司法は咎める事が出来ない。

「帰ったぞ」

 サリーは地下室のドアを開け、レイに呼びかけた。
 教会の地下には数人が居住できるスペースがあり、レイとサリーを始めとする数人はそこを利用していた。
 この教会を始めとした各拠点に分散し、目的地にて合流するという手筈だった。

「おかえり。どうだった?」
「最近の市場は賑わってないな。
 戦争状態で貿易がガタガタになっちまってんだろうよ。ほれ、肉とパンな」
「お、ありがとう」

 わざわざサリーが夕食の買い出しを買って出てくれたのだ。
 他の兵士たちは哨戒任務にあたっており、現在はサリーとレイの二人きりである。
 そんな中で、サリーが突如として問いかけてきた。

「…なぁ、一つ聞きたいんだけどよ」
「何?」
「お前はつまり、この世界から戦争を無くすために戦ってる、っていう解釈でいいんだよな?」
「ああ、そうだよ」

 レイは軽く頷いた。

「そうは言ったってお前…人間がいれば争いは起こる、それは人類って種が始まった時からじゃないのか?
 身も蓋もない言い方をすれば、人類史イコール戦争なんて解釈さえ出来ちまうかもしれない。
 お前が前に生きていた世界でも、そうだったんじゃないのか?」
「…俺が転生してきたって、知ってるのか」
「一応な、エレナから聞いてはいるよ。
 ただ機密事項だから、詳しい話は聞いてねぇ。安心しな」

 サリーはレイの隣に腰掛け、真っ直ぐにその目を見つめてきた。

「んな事よりもよ…お前、人間の本能みたいなもんに抵抗する気でいんのか?
 いくらお前が強くたって、マジでやろうと思ったら、お前が全世界に独裁政権でも築くしかないんじゃないか?」
「そんなものは、俺は求めていない」
「知ってるよ。お前がそんな奴じゃない事は、十分わかってるつもりだ。
 でもだからこそ…不安なんだよ。
 人間の醜さとか業っていうか…そんなものに立ち向かって、最後にはお前が打ちのめされちまうのが」

 サリーの目には不思議な輝きが宿っていた。
 姉妹であるエレナとはもちろん瞳の色は一緒だったが、どこかしかライリーやリナにも同じような輝きが宿っていたようにレイは記憶していた。
 どこか試されているような感覚に陥り、レイは答えた。

「…確かにサリーの言う通りだ。
 人類は文明が始まってから、争いをやめられない。
 それは俺が前に生きてきた世界でもそうだったよ。
 人種、宗教、領土、経済格差…ありとあらゆる事で争いは起こる。
 ここと全く一緒だよ。
 でも、だからこそ…誰かが立ち向かわないといけないんだ。
 ここでみんながダンマリになってしまったら、何も変わらない。
 たまたまこんなにも強大な力を持ってしまった俺だからこそ、何かできる事があるはずだと思うだけだ」
「…私にゃ想像もつかないな」

 サリーは軽く溜息をついた。

「私も何人も人を殺してきてるけど…もういい加減慣れちまったよ。
 どいつもこいつも見境なしに暴力を振るってくる、そういうもんだって理解してる。
 だからこそよくわからないよ、死んだ仲間のためとはいえ、なんでお前がそこまで頑張れるのか」

「確かに、敵が俺たちに害を加えようとするなら、こっちも身構えなきゃならないとは思うよ。
 でも俺は…俺たちは、何人もの罪のない一般人の命を奪ってしまった。
 その罪の意識に耐えかねて、自殺してしまった仲間もいる。
 もうあんな事は…二度と繰り返してはいけないんだ。
 ましてや、それが国の上層部のエゴによって起こる戦争なら、尚更だ…俺は、もう逃げたりはしたくないんだ」

「…はぁ、わかったよ」

 呆れ返ったように、しかしどこか笑ったようにサリーは返した。

「もうどこまでだって付き合ってやるよ…ここまできたら一蓮托生だからな」
「…ありがとう、やっぱりサリーは優しいよな」

 レイは優しく微笑んだ。
 するとサリーは突如として頬を赤らめた。

「う、うるせぇ! ほっとけ」
「意外と可愛いところあるよな、サリーって」
「て、てめぇおちょくってるな!? この野郎殺すぞ!」

 拳を振り上げてサリーはレイを脅した。

「おわっ、ちょ、ちょっと待…」
「隊長、隊長ー‼︎」

 突如として、入り口付近を見回っていた哨戒兵の声が響いた。
 見るとそこには、息を切らして駆け込んできた兵士の姿があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

処理中です...