異世界転生チート勇者と“真の英雄”、そしてその物語について 〜本当に『最強』なのは、誰の命も奪わない事。そして赦し受け入れる事〜

Soulja-G

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第二章

第十三話 南の戦線にて

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 南方戦線、その最前線にマリア・アレクサンドル大佐はいた。
 戦況は膠着状態にあり、一進一退の戦いが続いている状況である。
 加えて補給線が伸びきっているため、武器弾薬や食糧といった物資の確保さえままならない時もあった。

「くそっ…」

 目に見えてマリアは苛立っていた。
 ここ数日で、目に見えて兵の士気は下がっている。
 こうも先の見えない戦いを続けていれば、それはやむを得ないことかもしれない。
 何処から攻めてくるとも知れない、命を捨てて特効を仕掛けてくる敵兵たち。
 殺しても殺してもまだ抵抗を続けるゲリラ達に、アズリエル軍は翻弄された。

(こんな時に、あいつがいてくれれば…いや、それは考えてはダメな事だな)

 マリアは彼の事を思い出した。
 彼の圧倒的な力ならば、この状況を間違いなく打破してくれるはずだ。
 しかしそれは考えてはいけない事だった。
 彼は上層部に踊らされ、多くの仲間を失った。
 言うなれば、彼は生きている犠牲者だ。
 それに彼は既に名誉除隊した身であり、これ以上戦乱に巻き込むわけにはいかなかった。
 何より戦略を寝るうえで、たらればの話は時間の無駄だからだ。

(お前のような奴を、これ以上生み出さないためにも…私が強くあらねば)

 その感情が今のマリア・アレクサンドルを支えていた。
 大元には、彼への愛があったからだろう。
 だからこそ、彼の事を考える度に胸が痛むのだ。
 軍人としても、一人の女性としても、マリアはその男を求めていた。



 ブツン。


 突如として、灯りが消えた。

(停電か?)

 すぐさま非常電源に移り変わったため、視界は良好だった。
 敵襲を疑ったが、それはありえなかった。
 非常サイレンや見張りからの合図も無い。
 しかし次の瞬間、地面が微かに揺れた。

 ズドォン!

 コンマ1秒ほど遅れて、爆発音が轟いた。

「な、何だ⁉︎」

「武器庫を爆破しました。心配しなくても、死者は出ていませんよ」

 背後から不意に聞こえた声に、マリアは瞬時にホルスターから銃を抜き、後ろの敵に構えた。
 目に映った男は、まさしく彼女が今一番必要としている男だった。

「…デズモンド」

「お久しぶりです、大佐。ご無事でなによりです」

 レイ・デズモンド。
 彼女が誰よりも愛し、そして頼った男。
 一瞬呆けてしまったが、直ぐに銃を構え直し、眼光鋭く睨みつけた。

「爆破だと? 哨戒兵たちはどうした!」
「手荒な真似はしていませんよ。ただ、あと数日の間は眠ったまま起きないだけです」
「バカな! 敵襲の合図など無かったぞ⁈」
「合図を出される前に眠ってもらいました。残っているのは貴女一人です。
 基地の周りには防護術式を展開してますので、攻撃の心配はありませんよ」
「そ、そんな…音一つ立てる暇さえ無かったというのか…!」

 レイの頭部に照準を合わせたまま、マリアは問いた。

「一体何が目的だ! 軍への復讐のつもりか?」
「まさか。復讐するつもりなら、上層部の人間しか狙いませんよ。
 俺は、自分の武器を回収しに来ただけです。
 正確にはカインの、ですけどね」

 その言葉を聞いて、マリアは勘付いた。
 あのミスリルの巨大な塊とも言える大剣。
 あれを追ってレイはここまで来たのだ。
 そしてそれは、今はマリアが所持していた。

「あれを使って何をする気だ!」
「心配しなくても、人殺しには使いませんよ。
 ただ、今の俺には力が必要なんです。
 何よりあの大剣をフルに扱えるのは、俺しかいない」

 それは理に叶った事ではあった。
 魔法のブースターとなるミスリルは、扱う者の総魔力値や魔力係数によって総出力が変わってくる。
 ならば、それらの値が桁外れであるレイが扱えばどうなるか、容易に想像がついた。

「そうはいかん!」

 銃を構えたまま、マリアはバックステップで部屋の隅に立てかけられた大剣の所まで下がった。

「いくら貴様が強くとも、そう易々と私が思い通りになると思うな!」

 そしてそのまま柄を掴み、剣を構えた。
 マリアも相当に魔法の素養があるのだろう、剣先から溢れんばかりの魔力の躍動を感じた。

「はっ!」

 その切っ先が、レイの頬を掠めた。
 紙一重の動きでマリアの剣の軌道から外れた。

「くそっ!」

 続け様に何度も斬りかかるが、同じ事だった。
 レイは全ての斬撃を見切っていた。
 もはや勝機はゼロに近い。
 そして最後にレイは直接刀身を掴み、動きを封じた。

「な…⁉︎」

 マリアは愕然とした。
 剣を素手で直接受け止めても、血の一滴も流れないのだ。
 しかも剣を引こうとしても、ピクリとも動かなかった。

「さすがは大佐です。
 俺の知る中で、ディミドリ・ラファトの次に強いのが貴女だ。
 でも、俺を止めるには足りない。
 死んでいった全ての人間のためにも、俺は俺のやるべきことをやる」

 そしてレイは、マリアの頭を鷲掴みにした。

「ぐっ⁉︎」

「しばらく眠っていてもらいますよ。
 大丈夫、目覚めた時には全て終わってます」

 掌に術式が現れた。
 それは毒の術式の一種であり、敵を強制的に眠りにつかせるものだった。

「き…さま…」

 そのまま抗う事も出来ず、マリアは崩れ落ちた。

「さて、と…」

 そしてレイは、地面に落ちた大剣を拾った。

「カイン…悪いが、少し借りるぞ」


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