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第一章
第四十一話 真実
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「そもそも貴様は、この世界の情勢を誰から聞いた?」
「…デズモンド元帥だ」
「貴様の養父らしいな。なるほど、操るには丁度いいというわけだ」
「知っているのか?」
「察しはつく。異世界からの生まれ変わり、そして敵組織の幹部を同じ姓となればな」
魔王は相変わらずニヤニヤと笑うだけだった。
「…一つ聞くが、亜人は知っているか?」
「知ってるに決まってるだろ。耳やツノが生えた人間の事だ」
「なら、魔族と亜人の違いを説明してみせよ」
「…………?」
考えてみれば、深く考えてみた事は無かった。教わったことさえなかった事だった。
「…敵が魔族、味方が亜人なんじゃないのか?」
「その通りだ。生物学的観点では、全く違いはない。
単純に自らに仇なす者に"魔"と読んでいるに過ぎん。
ついでに言うなら、貴様は亜人を人間とみなすか?」
「みなすよ、当たり前だろ」
「そうか、なら貴様が殺したのも人間という事になるな」
「…だからどうした、正当防衛だろ」
こちらが殺さなければ、自分や仲間が殺されていたかもしれなかった。
きっと相手だって同じなはずである。
だから戦場での殺しは正当なはずだった。
「本当にそうかな? 殺さなければ殺されていたケースばかりか?」
「…何が言いたい」
「女子供や非戦闘員、無害な人間まで殺しはしなかったか、という事だ」
「……‼︎」
今でも視界にありありと浮かび上がるようだった。
幼い子供や女性の、著しく破損した死体。
蹂躙され尽くされ、挙句殺された少女たち。
「被害報告はこちらも受け取っている。
結局は貴様らのやっておる事は、一方的な虐殺に過ぎんのだよ」
「ふ、ふざけるなっ! 大体、自爆テロなんて仕掛ける奴に言われる筋合いなんてあるか‼︎」
「ほう…なら何故そうなったのか、説明できるか?」
「何故、だと?」
「貴様はアズリエル建国の経緯を、どう聞いている?」
「メルヴィン王子による開拓、だろ」
「その通り。グロスターに敗れたメルヴィンが、未開のアズリエルを開拓し、かつての支配者シーアから独立を果たした。
それが普通の、アズリエル王国民なら誰でも知る英雄譚だ。
さてここで貴様に問題だ。亜人や魔族、あるいは魔界といった単語は、アズリエルの歴史の何処で誕生した?」
「……⁇」
この男が何を言いたいのか、レイには全く読めなかった。
「正解を教えてやろう。それらはシーアからの独立直後に政府によって作られた言葉だ。
だがその存在自体は建国以前、1000年以上前から存在した」
「…どういう事だ?」
「簡単に言えば、我々亜人、非純粋種と呼ばれる人種達は、この大陸に最初から存在した、いわば先住民というわけだ」
「……⁉︎」
先住民と入植者。聞いたことがなかった。
未だ知らない真実が存在した事に、レイは驚いた。
「シーアからの入植に伴い、まず領土争いが起こった。
しかし我々に戦う手段はなかった。争うという概念さえ無かったのだ。
開拓者からすれば、これほど都合のいい奴らもおらんだろう。
我々は蹂躙され、多くの仲間達が殺された」
「な…!」
聞いたことが無かった。先住民の存在など、ついぞ聞かされたことがない。
ましてや虐殺の歴史があったなどとは、誰も一言も言ってはいなかった。
「殺されたのは我々だけではない。我らの神までも殺され、凌辱されたのだ」
「神?」
「聖ミロワのことだ。聖書は読んでいるだろう?」
知ってはいる。平等な愛を謳った、教会の象徴とされている人物の一人だ。
「我々は聖ミロワを信仰し、崇めていた。しかし入植者達は原理主義者達であった。
偶像崇拝を禁ず、その言葉を武器に我々は、異端者の烙印を押された。
宗派替えを迫られ、屈しないものは異端者として火刑に処される…絶望の日々は続いた」
「……」
確かに、何回か見た事はあった。
唐草模様のロザリオや銀細工。
その中に、外套を羽織った彫像もあった。
「残された先祖達は北の大地に逃れ、そこを自らの国家であり故郷とした。
それがこのディミトリ共和国。貴様に魔界と呼ばれる場所だ」
「ディミトリ共和国…?」
『ディミトリ共和国に、栄光あれ‼︎』
朧げながらレイには記憶があった。その身を犠牲にした、彼女が叫んだ言葉だ。
「亜人や魔族などという名前をつけられたのも、それ以降だ。
有翼種や有角属といった学術的分類こそあれ、魔なる人種といった差別は存在しなかった。
貴様ら入植者の虐殺や身分制度による支配。それにより差別が生まれ、争いや格差が起こり始めた」
「…そんな」
レイは呆然となった。
「ディミトリ・ラファト…それはこの国の創設者であり、我らの導師であった。
この国の首長はその名を受け継ぎ、歴史を保っている。我もディミトリ・ラファトの名を受け継ぐものだ。
それを魔王と呼び、魔界の長としたのは、貴様らの方だ」
「ディミトリ・ラファト…」
彼らは土地を奪われた。
アイデンティティを奪われた。
そして最後には、名前までも奪われたのだ。
「…それの復讐だとでも言うのか?」
「それだけではない。友好を求めた人間もいたからだ。
イブラヒムやエドワードといった、人種的共存を求めた王も少ないが存在した。
歴代のディミトリ共和国の中枢にも、そうした人間はいた。
南方戦線の亜人達は少々様子が違うようだがな」
「なら何で、こんな戦争を起こす必要があった!」
「起こしたのは我々ではない。あのアズリエル現王・リチャードだ」
リチャード王。あの濁った双眸を持つ、アズリエルの王。
そして、マリアやニコラス王子の実父。
全身に闇を纏ったような男だ。
「貴様もすでに任務で見たことがあるはずだな。
ここディミトリ共和国はミスリル採掘場が存在する」
それもレイは覚えていた。
大規模なミスリル採掘場の制圧任務。砂丘地帯の向こうのはずだった。
「大規模なミスリル採掘場は、ディミトリ共和国の領土内に数多く存在する。
恐らくはこの大陸でも随一と言ってもいいほどだ。そこにリチャードは目を付けたのだよ」
「…どういう事だ?」
「この戦争は、最初からミスリル資源が目当てだ。
それらを独占し、アズリエル王国…リチャードは更なる武力を手にする気だ」
いつしか魔王…ディミトリ・ラファトの顔からは笑顔が消えていた。
何処か苦々しい表情さえ浮かべていた。
「切っ掛けは内政干渉であった。
社会主義を採用し、平和に暮らしていた我々を、独裁政権であり失敗国家だと宣った。
更にはアズリエル王国全土で、野蛮で好戦的な先住民族を駆逐したと、かつての虐殺を正当化する動きさえ見られた。
当然反発は起こった。我々だけではない、100年の長きに渡り南方戦線で戦いを続けるティアーノ共和国もだ。
それに対し奴らは、我々が共産主義のプロパガンダを行い王国に報復を企てているというデマを流した。
そして我々が魔界軍を編成し、その直下の研究施設では大量虐殺のための破壊術式の研究が行われているという大嘘を吹聴した。
最終的にアズリエルは我々の反抗を宣戦布告をみなし、戦争は勃発した…それが全ての経緯だ」
「……」
「貴様ら騎士団の他にも、複数の部隊がミスリル採掘場制圧の任務を負い、そして成功させている。
そして現在、その運営は王国が行い、全てのミスリルは王国に運ばれている。
これが、我が言ったことが正しいと言う、何よりの証拠だ」
「…そんな…」
「奴は…リチャードはこの戦争になど最初から興味がない。
ディミトリ共和国制圧など、奴にとっては通過点に過ぎんのだ。
特に貴様を召喚し、王国側の勝利がほぼ確定した今となってはな」
「……?」
「なんのことかわからん、と言った顔だな。
シーア公国と東アガルタ連合の冷戦の事は聞かされておらんか?」
レイは首を横に振った。
「なるほど、やはり都合の悪い事は教えておらんか…いいだろう、教えてやる。
シーア公国はかつての領主国、そして東アガルタ連合は亜人の小国家群が同盟関係を結ぶことによって生まれた連合国家だ。
この大陸から大海原を挟み、遥か西に位置する大陸に存在する。
公国と連合は宗教的理由で、昔から小競り合いを繰り返している。
公国は原理主義であり、連合は我々と同じく聖ミロワを信仰している。
アズリエルが独立戦争に勝利し、主従関係は逆転した。族国シーアはいまやアズリエル王国にひれ伏すだけだ。
これを利用し、アズリエル王国はシーア公国を援助し、西側大陸に大量派兵を行うつもりだ。
それには大量の物資が必要だ…特に最強の兵器に成り得る、ミスリルがな。
リチャードは派兵を機に西側大陸全土を支配する気だ。
この東側大陸だけでは飽き足りず、全世界の覇権を握るつもりなのだ、あの男は」
「……」
レイは言葉を全て忘れてしまったかのように、ただ口を開けるしかなかった。
何も知らされていなかった。勝手に召喚され、チート能力を与えられ、軍に入隊させられ、勇者として戦果を挙げていった。
そんな彼を、友や家族は持ち上げ、時に誰かが妬んだりもした。
彼はただの操り人形だった。都合のいいことしか教えられず、ただ一方的な虐殺や略奪に加担させられていた。
誰よりも強い力を、ただ上の思惑通りに振るっていたにすぎないのだ。
「くくく、何も言えんか? まぁ、それも仕方あるまい。
貴様の上官も、仲間も、親も、全てが貴様に嘘を付いていたのだ」
ディミトリはレイを嘲笑った。
現実を前に立ち尽くすしかないレイは、さぞ滑稽に見えただろう。
しかし、納得できないものがあった。
「…デズモンド元帥だ」
「貴様の養父らしいな。なるほど、操るには丁度いいというわけだ」
「知っているのか?」
「察しはつく。異世界からの生まれ変わり、そして敵組織の幹部を同じ姓となればな」
魔王は相変わらずニヤニヤと笑うだけだった。
「…一つ聞くが、亜人は知っているか?」
「知ってるに決まってるだろ。耳やツノが生えた人間の事だ」
「なら、魔族と亜人の違いを説明してみせよ」
「…………?」
考えてみれば、深く考えてみた事は無かった。教わったことさえなかった事だった。
「…敵が魔族、味方が亜人なんじゃないのか?」
「その通りだ。生物学的観点では、全く違いはない。
単純に自らに仇なす者に"魔"と読んでいるに過ぎん。
ついでに言うなら、貴様は亜人を人間とみなすか?」
「みなすよ、当たり前だろ」
「そうか、なら貴様が殺したのも人間という事になるな」
「…だからどうした、正当防衛だろ」
こちらが殺さなければ、自分や仲間が殺されていたかもしれなかった。
きっと相手だって同じなはずである。
だから戦場での殺しは正当なはずだった。
「本当にそうかな? 殺さなければ殺されていたケースばかりか?」
「…何が言いたい」
「女子供や非戦闘員、無害な人間まで殺しはしなかったか、という事だ」
「……‼︎」
今でも視界にありありと浮かび上がるようだった。
幼い子供や女性の、著しく破損した死体。
蹂躙され尽くされ、挙句殺された少女たち。
「被害報告はこちらも受け取っている。
結局は貴様らのやっておる事は、一方的な虐殺に過ぎんのだよ」
「ふ、ふざけるなっ! 大体、自爆テロなんて仕掛ける奴に言われる筋合いなんてあるか‼︎」
「ほう…なら何故そうなったのか、説明できるか?」
「何故、だと?」
「貴様はアズリエル建国の経緯を、どう聞いている?」
「メルヴィン王子による開拓、だろ」
「その通り。グロスターに敗れたメルヴィンが、未開のアズリエルを開拓し、かつての支配者シーアから独立を果たした。
それが普通の、アズリエル王国民なら誰でも知る英雄譚だ。
さてここで貴様に問題だ。亜人や魔族、あるいは魔界といった単語は、アズリエルの歴史の何処で誕生した?」
「……⁇」
この男が何を言いたいのか、レイには全く読めなかった。
「正解を教えてやろう。それらはシーアからの独立直後に政府によって作られた言葉だ。
だがその存在自体は建国以前、1000年以上前から存在した」
「…どういう事だ?」
「簡単に言えば、我々亜人、非純粋種と呼ばれる人種達は、この大陸に最初から存在した、いわば先住民というわけだ」
「……⁉︎」
先住民と入植者。聞いたことがなかった。
未だ知らない真実が存在した事に、レイは驚いた。
「シーアからの入植に伴い、まず領土争いが起こった。
しかし我々に戦う手段はなかった。争うという概念さえ無かったのだ。
開拓者からすれば、これほど都合のいい奴らもおらんだろう。
我々は蹂躙され、多くの仲間達が殺された」
「な…!」
聞いたことが無かった。先住民の存在など、ついぞ聞かされたことがない。
ましてや虐殺の歴史があったなどとは、誰も一言も言ってはいなかった。
「殺されたのは我々だけではない。我らの神までも殺され、凌辱されたのだ」
「神?」
「聖ミロワのことだ。聖書は読んでいるだろう?」
知ってはいる。平等な愛を謳った、教会の象徴とされている人物の一人だ。
「我々は聖ミロワを信仰し、崇めていた。しかし入植者達は原理主義者達であった。
偶像崇拝を禁ず、その言葉を武器に我々は、異端者の烙印を押された。
宗派替えを迫られ、屈しないものは異端者として火刑に処される…絶望の日々は続いた」
「……」
確かに、何回か見た事はあった。
唐草模様のロザリオや銀細工。
その中に、外套を羽織った彫像もあった。
「残された先祖達は北の大地に逃れ、そこを自らの国家であり故郷とした。
それがこのディミトリ共和国。貴様に魔界と呼ばれる場所だ」
「ディミトリ共和国…?」
『ディミトリ共和国に、栄光あれ‼︎』
朧げながらレイには記憶があった。その身を犠牲にした、彼女が叫んだ言葉だ。
「亜人や魔族などという名前をつけられたのも、それ以降だ。
有翼種や有角属といった学術的分類こそあれ、魔なる人種といった差別は存在しなかった。
貴様ら入植者の虐殺や身分制度による支配。それにより差別が生まれ、争いや格差が起こり始めた」
「…そんな」
レイは呆然となった。
「ディミトリ・ラファト…それはこの国の創設者であり、我らの導師であった。
この国の首長はその名を受け継ぎ、歴史を保っている。我もディミトリ・ラファトの名を受け継ぐものだ。
それを魔王と呼び、魔界の長としたのは、貴様らの方だ」
「ディミトリ・ラファト…」
彼らは土地を奪われた。
アイデンティティを奪われた。
そして最後には、名前までも奪われたのだ。
「…それの復讐だとでも言うのか?」
「それだけではない。友好を求めた人間もいたからだ。
イブラヒムやエドワードといった、人種的共存を求めた王も少ないが存在した。
歴代のディミトリ共和国の中枢にも、そうした人間はいた。
南方戦線の亜人達は少々様子が違うようだがな」
「なら何で、こんな戦争を起こす必要があった!」
「起こしたのは我々ではない。あのアズリエル現王・リチャードだ」
リチャード王。あの濁った双眸を持つ、アズリエルの王。
そして、マリアやニコラス王子の実父。
全身に闇を纏ったような男だ。
「貴様もすでに任務で見たことがあるはずだな。
ここディミトリ共和国はミスリル採掘場が存在する」
それもレイは覚えていた。
大規模なミスリル採掘場の制圧任務。砂丘地帯の向こうのはずだった。
「大規模なミスリル採掘場は、ディミトリ共和国の領土内に数多く存在する。
恐らくはこの大陸でも随一と言ってもいいほどだ。そこにリチャードは目を付けたのだよ」
「…どういう事だ?」
「この戦争は、最初からミスリル資源が目当てだ。
それらを独占し、アズリエル王国…リチャードは更なる武力を手にする気だ」
いつしか魔王…ディミトリ・ラファトの顔からは笑顔が消えていた。
何処か苦々しい表情さえ浮かべていた。
「切っ掛けは内政干渉であった。
社会主義を採用し、平和に暮らしていた我々を、独裁政権であり失敗国家だと宣った。
更にはアズリエル王国全土で、野蛮で好戦的な先住民族を駆逐したと、かつての虐殺を正当化する動きさえ見られた。
当然反発は起こった。我々だけではない、100年の長きに渡り南方戦線で戦いを続けるティアーノ共和国もだ。
それに対し奴らは、我々が共産主義のプロパガンダを行い王国に報復を企てているというデマを流した。
そして我々が魔界軍を編成し、その直下の研究施設では大量虐殺のための破壊術式の研究が行われているという大嘘を吹聴した。
最終的にアズリエルは我々の反抗を宣戦布告をみなし、戦争は勃発した…それが全ての経緯だ」
「……」
「貴様ら騎士団の他にも、複数の部隊がミスリル採掘場制圧の任務を負い、そして成功させている。
そして現在、その運営は王国が行い、全てのミスリルは王国に運ばれている。
これが、我が言ったことが正しいと言う、何よりの証拠だ」
「…そんな…」
「奴は…リチャードはこの戦争になど最初から興味がない。
ディミトリ共和国制圧など、奴にとっては通過点に過ぎんのだ。
特に貴様を召喚し、王国側の勝利がほぼ確定した今となってはな」
「……?」
「なんのことかわからん、と言った顔だな。
シーア公国と東アガルタ連合の冷戦の事は聞かされておらんか?」
レイは首を横に振った。
「なるほど、やはり都合の悪い事は教えておらんか…いいだろう、教えてやる。
シーア公国はかつての領主国、そして東アガルタ連合は亜人の小国家群が同盟関係を結ぶことによって生まれた連合国家だ。
この大陸から大海原を挟み、遥か西に位置する大陸に存在する。
公国と連合は宗教的理由で、昔から小競り合いを繰り返している。
公国は原理主義であり、連合は我々と同じく聖ミロワを信仰している。
アズリエルが独立戦争に勝利し、主従関係は逆転した。族国シーアはいまやアズリエル王国にひれ伏すだけだ。
これを利用し、アズリエル王国はシーア公国を援助し、西側大陸に大量派兵を行うつもりだ。
それには大量の物資が必要だ…特に最強の兵器に成り得る、ミスリルがな。
リチャードは派兵を機に西側大陸全土を支配する気だ。
この東側大陸だけでは飽き足りず、全世界の覇権を握るつもりなのだ、あの男は」
「……」
レイは言葉を全て忘れてしまったかのように、ただ口を開けるしかなかった。
何も知らされていなかった。勝手に召喚され、チート能力を与えられ、軍に入隊させられ、勇者として戦果を挙げていった。
そんな彼を、友や家族は持ち上げ、時に誰かが妬んだりもした。
彼はただの操り人形だった。都合のいいことしか教えられず、ただ一方的な虐殺や略奪に加担させられていた。
誰よりも強い力を、ただ上の思惑通りに振るっていたにすぎないのだ。
「くくく、何も言えんか? まぁ、それも仕方あるまい。
貴様の上官も、仲間も、親も、全てが貴様に嘘を付いていたのだ」
ディミトリはレイを嘲笑った。
現実を前に立ち尽くすしかないレイは、さぞ滑稽に見えただろう。
しかし、納得できないものがあった。
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