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第一章
第三十八話 見えない未来
しおりを挟むレイが兵舎に帰ってくると、少女達は全員殺されていた。
彼らはレイ達の態度にシラけたと言って、全員が銃を乱射して一瞬にして殺したそうだ。
エレナ、ライリーは二人とも、ただ泣いていた。
マリアは憤りに震えながら、拳を握り締めていた。
レイは、たまらずその場に膝をついた。ただ呆然となるしかなかった。
「もう嫌…イヤです…人が死ぬのは…」
エレナは泣きながら呟いた。
そんな彼女をいつものように、レイは抱き締めた。
「ごめん、俺……エレナのことが大好きなのに、どうすればいいのかわからない」
「…いいんです。私こそ、泣いてるだけでごめんなさい」
しばらくすると、その左腕にライリーが近づいて来た。
「これが、私たちの戦いなの…? なら、もうイヤよ」
するとライリーは横からレイの体を抱いた。
ライリーもまた涙を流している。
目の前で起こる事の理不尽さと禍々しさに、怒りと悲しみが収まらないのは、恐らくはこの場にいる人間は全員一緒だった。
「ごめん、やっぱりさ…私も、レイに側にいてほしい…ごめん、エレナ」
「仕方ないですよ…こんな状況だし、少尉の気持ちはわかってますから」
そしてマリアもレイの側に立ち、握っていた拳を開いた。
「カインから何も報告を受けていない以上、そちらの事は関知しないとさ…要するに見て見ぬ振りだ」
「そんな…ここまで人が死んでるのに…」
マリアはその開いた掌で、レイの右手を包み込んだ。
「上官が部下に向かって、あるまじき行為だとは思うが…許してくれ」
マリアも二人と同じく、レイに体重を預けてきた。
「すまない、少尉、コーヴィック…私は…」
「いいんです、大佐。私もエレナも一緒です」
右にエレナ、左にライリー、後ろにマリアの暖かさを感じた。
「ごめんなさい…私、レイ様と離れたくない…
大好きだから…今は、一緒にいないとおかしくなっちゃいそうだから…」
「不安で不安でしょうがないの…立っていられないほど苦しいの…
だから、そばに居てほしい…愛しているから」
「好きな男にすがりつくなんて情けない事だと思うが、私は…すまない…」
彼女達の存在を感じながら、レイは言葉を絞り出した。
「俺も…みんなが大好きだ…離れたくない」
いつの間にか、レイは涙を流していた。
悲しいからなのか嬉しいからなのか、最後までレイ自身にすらわからなかった。
その夜、四人で激しく求めあった。
全員と身体を重ねあった。
それは傷の舐め合いかもしれなかった。
現実は変わらない。
それでも、そうしなければ壊れてしまいそうだった。
狂いそうな現実を前に、心と身体と繋ぎ止めたかった。
レイ達は一つだった。
全員と絆を深く結び合った。
翌朝。
魔界の中枢、魔王城への突入が決定した。
今ある兵力と物資を総動員し、一気に叩き落とす作戦だった。
最後の戦いは近かった。
最終決戦の朝が来た。にも関わらず、皆奇妙な程に落ち着き払っていた。
それは昨夜、お互いの絆を全員と確かめ合った事が理由かもしれない。
「これが正真正銘、最後の戦いね」
「…ああ、この戦いで終わらせるんだ」
ライリーは言った。
これが終われば、本当に魔界は平定され、戦争は終わる。
それはレイ達の戦いが終わる事を意味していた。
「これを乗り切れば、もう人が死ぬ事も無くなるんですね」
「そうだな…」
エレナの言葉は事実のはずだった。
戦争が終わりさえすれば、死傷者はこれ以上出るはずもない。
もう彼女が悩まされる事は無くなるはず。そう信じたかった。
「すまない…最後まで上官らしい事が出来なかったな」
「何言ってるんですか。大佐がいなければ、全滅してましたよ」
それは事実だった。
純粋な戦闘能力では、レイに次ぎカインとマリアという図式のはずである。
何度も彼女に助けられた事はあるはずだった。
「帰ったら、何をしたい?」
レイは皆にそう問いかけた。まだ決行までは時間があった。
それまでは彼女達と一緒に居たいというのが、せめてもの願いだった。
「私は、今まで通り医療補助の仕事をして…それから正式に医師を目指すと思います」
「まあ、私は実家の跡を継ぐことになるのかなぁ」
「私は職業軍人だが…除隊するかもしれんな」
答えは三者三様だった。
「レイ様はどうするんですか?」
ふとエレナが問いかけた。
「俺は…」
レイは言葉に詰まった。考えてみたことも無かったからだ。
前の世界では、ただ目的もなく生きるだけだった。
こちらに召喚された後も、役目を与えられただけで、こちらの意思など存在しなかった。
「わからない…帰った後で考えるよ」
生き残ればの話ではあるが、それでも今は考えつかなかった。
今はただ四人を全員守って、魔王に勝つことに全神経を集中したかった。
(ジャマール、リナ…お前らに恥じない戦いをするよ)
今はいない二人に語りかけた。
もう誰も失いたくはなかった。
絶対に、全員で生きて帰る。
その思いがレイを奮い立たせた。
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