31 / 123
第一章
第三十話 誰を、そして誰が
しおりを挟む敵は爪を振り払い、リナを乱暴に地面に放った。
その小さな体は内臓を撒き散らし、後ろに転がった。
「軍人ニシては骨がなカっタな…さぁ、次は貴様ノ番カ?」
次々と脇道の方から、新たなる敵兵がゾロゾロと現れた。
その数はざっと十人以上はあり、レイが普通の兵士だったならば、絶体絶命の状況かもしれない。
レイは目の前の状況に、ただ手を震わせたままであった。
「なァに、仲間の元二送っテ…」
敵が最後まで言葉を言い終わらないうちに、レイの絶叫が辺り一面に轟いた。
「うわああああああああっ‼︎」
レイは目に見える全ての敵に向かって、渾身の重力魔法を放った。
一瞬にして全員が黒い重力球に巻き込まれ、全身の骨が砕ける音を聞きながら、四肢も胴体も有り得ない方向に曲がるのを目にする羽目になった。
「グギぃっ!」
「ゴゲぁッ!」
「ギャアああっ!」
敵は断末魔の悲鳴をあげ、身体中をあらゆる方向に捻らせた。
リナと同じく骨や内臓をばら撒きながら、全員がグロテスクな姿を晒すこととなった。
「リナ‼︎」
すぐさまレイは、リナの元に駆け寄った。
幸にしてまだ息はあるようだが、しかし全身の何箇所もを鉤爪で貫かれており、もう長くないことは明白な状態である。
「あ、あはは…自分の、内臓…初めて見た…」
「リナ! 待ってろ、今エレナの元に…」
「む、無駄ですって…骨まで見えてたら、助から…ない…です、よ…」
リナの言うとおり、すでに所々から内臓や骨が見えており、そもそもの出血量からしても助けられる状態ではない。
レイが回復魔法をマスターしていても、結果は同じだろう。
「ど、どうしよ…伍長と、二人っきりになりたいって、思ってたけど…こんな、形で…叶うなんて…」
「リナ……」
これが最後の言葉になることを予期し、レイはリナの手を優しく握った。
するとリナは、もうほぼ残ってはいないであろう力を振り絞り、その手を握り返してきた。
「せ、戦場で、出会ってなければ…普通に、私…告白して、付き合ってとか…出来たかな…」
「…そうかもしれない」
「ふふっ…だったら、よかったのになぁ…」
力なく、リナは笑った。
「伍長…大好き、です……お先、に……」
そう言って、リナの腕から力が抜けた。
「リナ…!」
レイは亡骸となったリナを抱き締める事しかできなかった。
目の前で、大切な人が命を奪われる。その絶望と悲しみを、レイは初めて味わう事となった。
「なんで、だよ……」
レイは自らが許せなかった。
誰よりも強い力を持っていながら、なぜ彼女を守る事が出来なかったのか。
そのための力ではないと言うのか。
ただただ無力感だけが、レイを責め苛んだ。
「ウ、ぐゥ…」
微かに呻くような音が聞こえ、レイは振り返った。
幸か不幸か、敵の1人はまだギリギリ生きているようだった。
だがもう長くない事は一目瞭然である。
全身がほぼねじ切れている状態では、少なくともレイに向かって抵抗する事は、到底叶わないだろう。
「ゆ、許サナい……か、母ちゃンを…村ヲ…返せ…」
「村?」
「オ、お前らが…焼いタ…村、だ…」
「……‼︎」
その瞬間、レイはすぐに気が付いた。
彼らは騎士団が殲滅した村の生き残りである。
レイの記憶では、死体には女性や老人が多く、若い男は少なかったのを覚えている。
また作戦が日没前ということもあり、若い男たちが仕事に出かけている時間帯という事も十分に考えられた。
現に彼らは今まで相手にしてきたような、専門的な重火器による武装をしていない。
のであれば、軍属の人間ではない事は明白である。
「こ、これデ終わラない…周りの、集落一体ガ…動キ出シた……」
「何⁉︎」
「お前ラは、終ワリ、だ……」
それだけ行って、男は事切れた。
上空を見上げれば、空には同じように獣化魔法で獣の化した者たちが、千人近い群れで上陸しようとしていた。
恐らくは男の言った通り、被害にあった村の生き残りや、その周辺の集落の連合体だろう。
「…そんな…嘘だ…」
だとしたら、誰を恨めばいいのか?
その答えが見つかることは、永久になかった。
「やめてくれ…頼むから、やめてくれ…」
レイは両手をきつく握り締めた。
その間にも獣達は上陸し、基地を蹂躙せんとしていた。
すでに戦闘は始まっており、あたりでは銃声や絶叫が止む事なく続いている。
誰かが敵を排除しなければ、確実に全滅である。そしてその”誰か”は、明白であった。
「やめてくれえええっ‼︎」
レイは文字通り無双した。
襲いくる敵全てを切り裂き、燃やし尽くし、打ち砕いた。
その度に敵は断末魔の悲鳴を上げ、レイに向かって返り血を浴びせてきた。
誰一人としてレイに叶う者はいなかった。
ただただ圧倒的な力の前に、敵はなす術なく駆逐されていくのみであった。
そしてそれが本当に殺されるべき相手なのか、それは誰にも分からなかった。
全てが終わった。
レイは全身を真っ赤に染め、所々抉れて燃えている地面に崩れ落ちた。
あたり一面には敵味方問わず、多数の屍が転がっていた。それは凄惨な有様である。
「うわああああああっ!」
ただ絶叫だけが、虚空に消えていった。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる