28 / 123
第一章
第二十七話 それは戦いか、それとも
しおりを挟むアズリエル軍前線基地。
マリアはブリーフィングルームにいた。それは、ある人物にコンタクトを取るためである。
スクリーンには呼び出し中の表示が続いていたが、しばらくすると目当ての人物が表示された。
「お呼びかな? アレクサンドル大佐」
呼び出しに応じた人物は、髭を蓄えた、半分頭が禿げ上がった人物だった。
バリー・コンドレン将軍。
この作戦だけでなく、魔界と呼ばれる地域全般における軍事作戦、その全ての総指揮を取っている人物である。
「…先遣隊の指揮を取っていたのは、あなたでしたね」
「その通りだ。諜報任務が主なゆえ、今は南方戦線に移動させたがね」
この場にはおらず、すぐには呼び出せない。
つまりは、追求したくても出来ない状況だ。
マリアは唇を噛み締めた。
この状況は、おそらく最初から計画されていたのだ。
「報告に誤りがありました…あの場所にいたのは全員が非武装の民間人、民兵ゲリラなどではありませんでした」
「ほう、それは本当かね?」
事もなげに将軍は言い放った。
「私たちは、一体何をしたのですか⁉︎ これは…これではまるで…」
「まあ落ち着きたまえ。魔族は女子供でさえ誰が敵かわからん状況だ。
現に特攻に使われるのは、民間人に化けた子供や女性じゃないか。
その事は件のテロで知っておるだろう?」
「…はい」
血の祝祭。先の国内連続自爆テロだ。
その際にも少年少女が多く自爆術式を展開し、大惨事になった。
「ならば、民間人に見えても彼らが突如として牙を剥く可能性は十分にある。
万が一にもテロや特攻による被害は避けねばならん」
「しかし彼らは全く抵抗さえしませんでした‼︎ テロリストや民兵ならば、確実に我々に攻撃してくるはずです!」
「反撃の隙も無かっただけではないかね?」
「そんなバカな! これは作戦行動ではない、ただの虐殺です‼︎」
怒りに任せ、たまらずマリアが握り拳で机を叩いた。
そんな姿がよほど滑稽に映るのか、将軍は鼻でせせら笑った。
「まだそちらには殲滅すべき拠点がいくつもある。
通達があるまで待機していたまえ」
「お待ちください、将ぐ…」
マリアの返答を待たずに、通信は打ち切られた。
その後のスクリーンには砂嵐だけが映っていた。
「くそっ‼︎」
弊社では、全員がうなだれていた。自らの行為に打ちのめされていたのだ。
会話もなく、ただ重い空気だけが漂っていた。
それはレイたちの小隊も例外ではなかった。
(俺たちは、何をしたんだ…?)
自らの手を見つめた。そこは引き金を引いた指があった。
それがただの一般市民かもしれない、彼らの命を奪った。
(本当に民間人を殺したのか?)
そうして自己問答していると、マリアが入ってきた。
全員がハッとしたように顔を向け、その場にいた全ての視線が彼女に向かった。
「大佐! 将軍は…」
「…民間人による特攻を危惧してとのことだ。
恐らく作戦はまた通達される。それまでは待機だ」
そう言って、マリアは背を向けた。
「…攻撃命令を出したのは私だ。皆が責任を感じる必要はない」
そう言い残し、マリアは去っていった。
その場には重い沈黙だけが残された。
誰も、何も言う事が出来なかった。
「…そんな」
リナやエレナも驚愕していた。
彼女らは後方待機を命じられており、少し離れた拠点に身を潜めていた。
「間違いない、あれは全員民間人だ。
上層部は変装したゲリラだと言ってるみたいだが…あれはそんな雰囲気じゃない」
「俺も覚えてるぜ。どんだけ探しても、武器の一つさえ見当らねぇんだ」
今でもハッキリと思い出せる。
立ち上る黒煙、鼻を刺す生臭さ、そして赤子や老人の死体。
それらはレイの脳裏に焼き付いて、離れることはなかった。
「…またあるのかな、こういう作戦」
ライリーが沈んだ表情で問いかけた。
「わからない…上層部次第だろ」
マリアですら王国軍の手駒の一つだろう。
アズリエル近衛騎士団という尖兵たちの、前線での纏め役にすぎないはずである。
そしてデズモンド元帥をはじめとする軍上層部が、先の攻撃のように民間人もろとも一国を滅亡させる方針だとしたら。
(…それでも、俺は戦い続けるのか)
相手が無抵抗な女子供でも剣を振るい、銃を撃つ。
そんな自分自身の姿に、レイは初めて疑問を持った。
夜更け。
基地内は静かだった。ほぼ全員が大いびきをかき、熟睡している最中だ。
この時間に起きているのは、せいぜい哨戒班くらいだろう。
レイは何度目かの眠れない夜を過ごしていた。
色々と考えを巡らせていると眠りを忘れることは、前の世界の記憶でも覚えていた。
(戦場でしか生きられないのか、俺たちは…)
世の中にいても違和感しかない。なら戦場にいる以外の選択肢がない。
そして兵士だけでなく、非力な女子供でさえも殺し続けるのか?
そんな自問自答を繰り返すうちに、レイ以外の全員が眠りに落ちていた。
(…外の空気を吸うか)
そうしてベッドから起き、ドアを開けた。
外は星空だった。
こんな暴力的な世界でさえ、星空は輝いていた。
平和であった前の世界よりも、血にまみれた戦場の方が星が綺麗というのは、ある種の皮肉にも思える。
レイが腰をおろせる場所を探していると、ベンチを発見した。だがそこには先客がいた。
「…大佐」
「…デズモンドか」
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる