27 / 124
第一章
第二十六話 唐草模様
しおりを挟む
山の中腹に、総勢約200名が集結している。
かつての中隊に補充人員が加わり、マリアが率いる隊の規模は拡大していた。
眼下に広がる集落を肉眼で確認した後、彼女は全員に指揮を取った。
「この集落は民兵ゲリラの巣窟との報告を受けている。殲滅作戦により、完膚なきまでに叩き潰せとコンドレン将軍からの命令だ。
360度、周囲を囲った後に一斉攻撃で完全に制圧する」
集落自体の規模はそこそこではあったが、周りを取り囲むことが困難なほどではなかった。
奇襲により相手の意表を突き、対応を遅らせることが出来れば、制圧は容易いだろう。
「散開!」
マリアの号令により、兵が動き出した。
レイたちの前衛小隊を除き、ほぼ全員が集落の包囲に当たった。
ガサガサと音を立てながら、全員が指示された所定の位置まで向かっていった。
約10分ほどすると、術式を介してマリアに連絡が入った。
『大佐、全員配置完了しました』
「よし、デズモンド伍長による先制攻撃を待て。
音が聞こえたら、第2・第3小隊と連続して波状攻撃を仕掛けろ。敵軍を混乱させ、抵抗する間も無く叩き潰す」
マリアの横で、レイは指示を待った。
自らの一撃が、攻撃の狼煙となる。
レイの銃を持つ手に、否が応でも力が入る。
「全員による射撃の後、術式による爆撃で粉微塵にせよ」
「了解」
レイは短く頷いた。
「撃て‼︎」
それが合図となり、レイとジャマールの機関銃が火を吹いた。
そこから少しだけ間を置いて、反対方向からも銃声が響いた。
たちまち辺りが絶え間ない発砲音で埋め尽くされ、悲鳴や絶叫すら掻き消している。
妙だ、とレイは不意に感じた。
隣のジャマールを見やると、同じように怪訝な表情を浮かべていた。
「おい、奴ら全然抵抗してこねぇぞ?」
「確かにな……どうしますか、大佐?」
「妙ではあるが、万が一のこともある。予定通り、デズモンドとデュボワで薙ぎ払え」
命令通り、ジャマールが下がりライリーが前に出た。
「発射!」
それを合図にして、レイとライリーによる爆撃が始まった。
事前に建物の位置は確認しており、二人は正確に建物のみを破壊できた。
辺りに爆煙があがり、肉と木材が焼ける嫌な臭いが辺りに立ち込めた。
ライリーは顔をしかめる。
それは恐らく、この強烈な臭気だけが原因ではないはずだ。
「…ヘンだわ、発砲さえしてこないなんて」
「ああ、俺もそう思ってた」
もちろんこの集落に潜んでいるのは民兵ゲリラであり、レイたちのように専門的な訓練を受けたわけではないが、それにしても状況があまりにおかしい。
「…そうだな、いずれにせよ状況確認が必要だ。
各小隊は警戒態勢と維持しつつ、敵の損害状況を確認せよ!」
全員が銃を構えたまま、ジリジリと歩みを進める。
レイたちが破壊した家は、未だブスブスと黒煙を上げている。
蜂の巣にされ、破壊された家を覗き込んだ。
それは地獄絵図だった。
全身を蜂の巣にされ、内臓がはみ出た右頰に古傷のある老婆の死体。
黒く炭化し、性別すらわからない骨格がひとつ。
若い男女と思しき死体が一組、いずれも緑色の目をしていた。
中には赤ん坊や小さな子供をと思われる死体もあり、それらの遺体のダメージも凄まじかった。
家族全員体に鱗があり、魔族である事は明らかだが、戦闘員とは到底思えなかった。
「そんな…バカな」
レイは思わずそう呟いた。
「な、なんだよこりゃあ…」
ジャマールも明らかに動揺していた。
ここまで狼狽する彼は初めてだ。
「じょ、冗談でしょ……う、ぉええっ」
たまらずライリーがその場で嘔吐した。
レイも必死で胃液が逆流するのを堪えていた。
(こいつらは、民兵ゲリラじゃないのか?)
辺りを見回してみても、武器になりそうなものはない。
小さな槌が置いてあるが、凶器には不向きである。
隅の方に集られている工具や窯を見るに、銀細工か何かを作っていたようだ。
現に遺体は、特徴的な唐草模様のような装飾のついた指輪やロザリオをしていた。
「う、嘘だ…そんな、そんな事が…」
後ろのマリアは、ガタガタと震えていた。
ここを含むすべての民家が銃撃され、最後には爆破された。
そしてそれは紛れもなく、マリア・アレクサンドル大佐の指示によるものだ。
「大佐‼︎ 一体これは…先遣隊によれば、ここはゲリラの巣窟なのではなかったのですか⁉︎」
「そ、そうだ! 報告に間違いは無いはずだ! 武器弾薬の類が無いか、草の根分けて探し出せ‼︎」
「報告します!」
別の小隊も一兵卒が、マリアに向かって敬礼した。
「すべての民家をくまなく捜索したところ、全く武器になりそうなものは発見されませんでした…。
ここにいたのは、全員が間違いなく只の民間人です…」
「な…」
マリアは絶句した。
兵士たちの間にも動揺が走った。
「大佐…我々は一体何を…」
「うるさいっ! 黙っていろ‼︎」
全員が水を打ったように静かになった。
「私がコンドレン将軍に確認する…それまでは全員待機していろ」
絞り出したようにマリアが言った。それが精一杯の返答である事は、皆が承知していた。
かつての中隊に補充人員が加わり、マリアが率いる隊の規模は拡大していた。
眼下に広がる集落を肉眼で確認した後、彼女は全員に指揮を取った。
「この集落は民兵ゲリラの巣窟との報告を受けている。殲滅作戦により、完膚なきまでに叩き潰せとコンドレン将軍からの命令だ。
360度、周囲を囲った後に一斉攻撃で完全に制圧する」
集落自体の規模はそこそこではあったが、周りを取り囲むことが困難なほどではなかった。
奇襲により相手の意表を突き、対応を遅らせることが出来れば、制圧は容易いだろう。
「散開!」
マリアの号令により、兵が動き出した。
レイたちの前衛小隊を除き、ほぼ全員が集落の包囲に当たった。
ガサガサと音を立てながら、全員が指示された所定の位置まで向かっていった。
約10分ほどすると、術式を介してマリアに連絡が入った。
『大佐、全員配置完了しました』
「よし、デズモンド伍長による先制攻撃を待て。
音が聞こえたら、第2・第3小隊と連続して波状攻撃を仕掛けろ。敵軍を混乱させ、抵抗する間も無く叩き潰す」
マリアの横で、レイは指示を待った。
自らの一撃が、攻撃の狼煙となる。
レイの銃を持つ手に、否が応でも力が入る。
「全員による射撃の後、術式による爆撃で粉微塵にせよ」
「了解」
レイは短く頷いた。
「撃て‼︎」
それが合図となり、レイとジャマールの機関銃が火を吹いた。
そこから少しだけ間を置いて、反対方向からも銃声が響いた。
たちまち辺りが絶え間ない発砲音で埋め尽くされ、悲鳴や絶叫すら掻き消している。
妙だ、とレイは不意に感じた。
隣のジャマールを見やると、同じように怪訝な表情を浮かべていた。
「おい、奴ら全然抵抗してこねぇぞ?」
「確かにな……どうしますか、大佐?」
「妙ではあるが、万が一のこともある。予定通り、デズモンドとデュボワで薙ぎ払え」
命令通り、ジャマールが下がりライリーが前に出た。
「発射!」
それを合図にして、レイとライリーによる爆撃が始まった。
事前に建物の位置は確認しており、二人は正確に建物のみを破壊できた。
辺りに爆煙があがり、肉と木材が焼ける嫌な臭いが辺りに立ち込めた。
ライリーは顔をしかめる。
それは恐らく、この強烈な臭気だけが原因ではないはずだ。
「…ヘンだわ、発砲さえしてこないなんて」
「ああ、俺もそう思ってた」
もちろんこの集落に潜んでいるのは民兵ゲリラであり、レイたちのように専門的な訓練を受けたわけではないが、それにしても状況があまりにおかしい。
「…そうだな、いずれにせよ状況確認が必要だ。
各小隊は警戒態勢と維持しつつ、敵の損害状況を確認せよ!」
全員が銃を構えたまま、ジリジリと歩みを進める。
レイたちが破壊した家は、未だブスブスと黒煙を上げている。
蜂の巣にされ、破壊された家を覗き込んだ。
それは地獄絵図だった。
全身を蜂の巣にされ、内臓がはみ出た右頰に古傷のある老婆の死体。
黒く炭化し、性別すらわからない骨格がひとつ。
若い男女と思しき死体が一組、いずれも緑色の目をしていた。
中には赤ん坊や小さな子供をと思われる死体もあり、それらの遺体のダメージも凄まじかった。
家族全員体に鱗があり、魔族である事は明らかだが、戦闘員とは到底思えなかった。
「そんな…バカな」
レイは思わずそう呟いた。
「な、なんだよこりゃあ…」
ジャマールも明らかに動揺していた。
ここまで狼狽する彼は初めてだ。
「じょ、冗談でしょ……う、ぉええっ」
たまらずライリーがその場で嘔吐した。
レイも必死で胃液が逆流するのを堪えていた。
(こいつらは、民兵ゲリラじゃないのか?)
辺りを見回してみても、武器になりそうなものはない。
小さな槌が置いてあるが、凶器には不向きである。
隅の方に集られている工具や窯を見るに、銀細工か何かを作っていたようだ。
現に遺体は、特徴的な唐草模様のような装飾のついた指輪やロザリオをしていた。
「う、嘘だ…そんな、そんな事が…」
後ろのマリアは、ガタガタと震えていた。
ここを含むすべての民家が銃撃され、最後には爆破された。
そしてそれは紛れもなく、マリア・アレクサンドル大佐の指示によるものだ。
「大佐‼︎ 一体これは…先遣隊によれば、ここはゲリラの巣窟なのではなかったのですか⁉︎」
「そ、そうだ! 報告に間違いは無いはずだ! 武器弾薬の類が無いか、草の根分けて探し出せ‼︎」
「報告します!」
別の小隊も一兵卒が、マリアに向かって敬礼した。
「すべての民家をくまなく捜索したところ、全く武器になりそうなものは発見されませんでした…。
ここにいたのは、全員が間違いなく只の民間人です…」
「な…」
マリアは絶句した。
兵士たちの間にも動揺が走った。
「大佐…我々は一体何を…」
「うるさいっ! 黙っていろ‼︎」
全員が水を打ったように静かになった。
「私がコンドレン将軍に確認する…それまでは全員待機していろ」
絞り出したようにマリアが言った。それが精一杯の返答である事は、皆が承知していた。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる