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第一章

第十八話 せめて祈りを

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 その後そばらくは、敵の襲撃が毎日続いた。

「うわああっ!」
「ぎゃああああ‼︎」

 360度、四方からの銃撃にレイたちは曝された。

「ジャマール、ライリー、防護術式を絶対に崩すな! 防戦に徹するんだ!」
「お、おい! また前に行く気かよ⁉︎」
「無茶よ、流石に死ぬわよ!」
「平気だ。ここまで囲まれたら、一番先に行くのは俺しかない。頼んだぞ!」

 その度にレイは先陣を切って敵を殲滅した。
 常人を遥かに超えた身体能力と魔力の前に、敵兵は瞬く間に消されていった。

 早朝、真昼、深夜…時間を問わず彼らは現れた。
 そして、その度に犠牲が出た。
 あるものは魔法で全身をバラバラにされたり、あるいは銃弾で蜂の巣にされたりと、あらゆる方法で殺された。
 エレナは何とか助けようと尽力するものの、大概は無駄な努力に終わった。

「はぁ、はぁ…お願い、生き返って!」

 もう既に息のない人間に、エレナは回復魔法を一心不乱にかけ続けていた。

「もうよせ、とっくにそいつは死んでるよ!」

 ジャマールがエレナの肩を掴み、無理やり引き剥がした。

「放してください! この人は…この人はまだ!」
「やめて、エレナ! それ以上やったら、あなたの方が死んじゃうのよ!」

 ライリーも必死になってエレナを止めた。

「エレナ…ライリーの言う通りだ。せめて、祈ってやってくれ」
「でも、でも……うわあああああっ!」

 その度に彼女は声を上げて泣いた。

「くそっ! まだ本部からの増援は来ねぇのかよ!」
「いつまでこんな所にいりゃあいいんだよ…殺されちまう」

 他の隊員の士気も、目に見えて下がり始めている。
 それをレイは肌で感じていた。





 最終的には、レイ達4人だけになった。
 恐らく敵の目的は、ゲリラ戦でこちらを徐々に損耗させることにある。
 その目論見は成功した。4人を残していまや壊滅状態に近い。
 本部からの応援や通達は未だない。
 リナが後続部隊を率いてくるはずだが、未だに連絡はない。
 そもそも通信魔法自体が全く使えない、いつ何時試して見ても同じである。

「くそっ、繋がりやしねぇ」

 ジャマールが悪態をついた。
 魔法で開いたウィンドウは、砂嵐しか映さなかった。

「この辺一帯に魔導ジャミングを敷いているようね。通信は一切できないと考えた方がいいわよ」

 恐らくはこの山一帯に、魔法による一種の妨害電波を張っているようだった。本隊からの連絡が一切ないのも、恐らくはそのせいである。
 やろうと思えば転移魔法で少量であれば人員や資源を送れるはずだが、それさえも出来ないのはジャミングが原因だ。

「…私たちは」

 エレナが呟いた。

「生き残れるんですか?」

 誰もが考えていたことだ。
 ここまで戦力を削られ、どこまで持ちこたえられるかはわからない。
 食料や水に余裕はあるものの、レイを除いた三人を守りきれるかどうかは不明だ。
 攻撃は止まず、本体からの援助はいつ来るかわからない。
 先の見えない状況だった。

「わからない、だが絶対に生き残るんだ」

 そう言う事しか、レイには出来なかった。

「最後まで、意思を強く持つんだ」

 その最後、とは死ぬ時なのだろうか。レイはふと、そんな事を考えた。






 奇妙なことに、待てど暮らせど襲撃は来なかった。
 晴れの日、雨の日、いつ何時襲撃が来てもおかしくはないはずだったが、敵の影さえ見えなかった。
 その間やることと言えば、兵舎の修復作業だけだった。
 男手がレイとジャマールだけなのでペースは遅々とした物だった。

「敵、来ねぇな…」
「…ああ」

 それ以外には殆ど口を開くこともなく、ただ黙々と二人は作業に徹した。




 二人だけでなく、4人とも口数は少なく、疲れ切っていた。
 何しろ、ここには何もないのだ。ゲームも、ドラマも、映画も、およそ娯楽と呼べるものは一切なかった。
 ライリーが水魔法を工夫してシャワーのような物は浴びれたが、なにせ皆同じ服をずっと来ているのも堪えるものがあった。
 いつ攻めてくるとも知れない敵、すり減らしていく神経、圧倒的な程の退屈。
 それらにレイたちは精神的、肉体的に追い詰められていった。

(ちきしょう、来るなら来い)

 いつしかレイは、敵の襲撃を心待ちにしている事に気がついた。

(じゃないと頭がおかしくなりそうだ)

 そしてそれは、恐らく他の三人とも一緒だった。






 その日、レイは兵舎にて仮眠を取っていた。
 女性二人はシャワーを浴び、外ではジャマールが警備に当たっている最中である。
 アニメやライトノベルならば二人のはしゃぎ声などが聞こえてきそうな所であるが、ただ一体には沈黙しか漂ってはいなかった。
 ライリーやエレナも目に見えて疲弊していた。
 目の下のクマは日に日に濃くなっていき、目からは光が失せていった。
 主人公らしく覗きに行こうとしても、活力が沸かない。
 正確に言えば、レイは生存に関係のある事以外に力を注ぎたくはなかった。
 これが遭難といったシチュエーションならばチームの連帯も崩れそうなところではあるが、これは戦場であり勝敗が見えないと言うところが、余計にレイ達の心身を消耗させた。

「…くそっ」

 小さくレイは呟いた。





 裏ではエレナとライリーが簡易シャワーを浴びていた。
 ライリーも疲弊していたが、特にエレナの消耗具合が非常に強かった。
 次々と負傷していく人間たちを見ながら、それを助けられない現実に嫌と言うほど打ちひしがれていた。

(エレナ…)

 既に目からは光は失せ、神はボサボサに広がり艶がない。心なしか窶やつれても見える。
 男ならば誰もが夢中になるエレナの肢体だったが、その生気の無い顔では魅力はほとんど無いも同然だろう。
 いつの間にかライリーは、一矢絡わぬのも構わず彼女を抱き締めていた。

「少、尉…?」
「大丈夫だから…私が、守るから…」

 ライリー自身も気が付いてはいなかった。
 そう呟いた彼女自身の眼も、同じように光を失っていることを。













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