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第一章
第十五話 戦場での日常・その四
しおりを挟む夜も更けていった。
哨戒班以外は全員眠りについているところである。
レイが用を足しに外に出たところで、エレナの姿を見かけた。
(まだ起きてたのか?)
他の人間は殆ど眠りについたところなのに、何故彼女は起きているのか。
不思議に思ったレイは、彼女に近づいてみた。
「エレナ?」
「あ…デズモンド伍長」
振り返ると彼女はいつもの優しい笑みを浮かべた。
「まだ起きてたのか?」
「ええ、いつ奇襲が起きるかわからないので…定期的に術式の整理や強化が必要なんです」
見てみると、確かに術式のフォルダが開いていた。
「真面目なんだな」
「いえ、人命に関わることですから、このくらい慎重でないと」
やはり似つかわしくないと感じた。
人を如何に制圧するかという戦場において、彼女の存在は異端だった。
「…デズモンド伍長」
「レイでいいよ。エレナは士官扱いなんだから」
「じゃあ…レイ殿かレイ様か…」
「レイ様で」
レイは即答した。アニメで見る女性キャラはだいたい様付けだ。
敬称で"様"をつける人間を初めて見た。
だがそれも彼女の人間性なのだろう。
それだけエレナの表情は、常に慈愛を感じさせた。
「レイ様は…怖くありませんか? 突然生まれ変わって、戦場に送られて」
「うーん…まあ不安ではあるけど、多分そう簡単に死にはしないと思うから、大丈夫だよ」
そう言えるだけど根拠は、新兵訓練で感じてきた。
「エレナは怖い?」
「…少し」
そう言うと、エレナは俯いた。
それが考えてみれば当然の話である。
元々は彼女は地域の医療補助の仕事をしていたに過ぎない、ただの一般人だ。
レイのようにチート能力を持っていなければ、不安どころではないはず。
「大丈夫、俺が守るよ」
自然とそんな言葉が、口をついて出た。
昔の自分では考えられない事だ、とも思った。
するとエレナは、少しだけ頬を染めた後、優しく微笑みかけた。
「…ありがとうございます」
その笑顔を見るたびに、胸の奥に温かいものが満ちていく。
感覚は、レイが未だ経験した事が無いものだった。
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