3 / 130
第一章
第二話 強くなった体、弱いままの心
しおりを挟む案内された場所は、どうやら研究施設のようだった。
何やらレイは首元や腕に聴診器の様なものを張り付けられ、ベッドの上に寝かされる羽目になった。
聴診器は全てコードで計測機の様な機械につながっており、何やらレイの能力を測定する様子だ。
デズモンド元帥以下、白衣を着た数人が固唾を飲んで見守る中、1人が術式を発現させた。
計測機を作動させたとレイにもわかる。
その瞬間、計測機の針が大きく揺れ、全員の間に動揺が走った。
「こ、これは……生体感応値500以上です!」
「総魔力値2000を超えています! 魔力係数に至っては計測不能です……元帥、これは」
「ああ、やはり間違いは無いようだな」
何が起こっているのか、レイにはさっぱり理解出来なかった。
(コイツらは一体何に驚いているんだ? 俺は何もしていないぞ?)
レイの頭は酷く混乱した。
「とりあえず、起き上がってくれて大丈夫だ。その器具も取っ払ってくれて構わない」
元帥の言葉通り、すぐにレイは体に取り付けられた器具を外した。
彼らの驚き様と会話内容の前後から、とんでもない計測結果が出たのは彼にも解った。
「一体、どんな結果が出たんですか?」
「うむ……一つずつ説明しよう。まずは生体感応値についてだ」
最初に計測結果が出た数値である。確か500オーバーとのことだ。
「簡単に言えば、生命力の強さを数値化したものだ。
スタミナや筋力などにも左右されるが、結局のところ極限状態でどこまで生き延びれるかと言う事だ」
恐らくゲームのステータスで表すなら、HPや物理攻撃・防御力、素早さなどの総合値に近いものだろう。
そう解釈するのが、レイにとっては一番理解しやすかった。
「総魔力値と言うのは、身体の中にある魔法を使うための体力だ。
これが尽きると魔法は使えなくなるし、少ないと使える術式が限られてくる」
これはMPに置き換えられるだろう。ネットに投稿されている小説には、こうしたゲーム的ステータス説明があるものも珍しくはない。
「最後に魔力係数だが、これは魔法を使う時の強さの基準値だ。
これが低いと魔法の規模も小さくなるし、魔法で攻撃を受けた時のダメージも大きい」
恐らくは魔法攻撃・防御力に相当するものだ。
また魔力係数×魔力値で魔法の規模が決まるというのが、この世界の法則らしい。
つまり発火魔法でも、魔力係数が高ければ火炎放射器になるし、低ければライター程度にしかならない。
「それが、そんなにすごい数値なんですか?」
「ああ。通常の成人男性は生体感応値100、魔力値300、魔力係数1000がどんなに頑張っても限界だ。
だが君はその何倍もの数字を叩き出している。常人には不可能な領域だ」
思わず口が開いてしまった。
(まさか……これがチート転生ってやつか?)
レイには目の前の現実が信じられなかった。
(さっきまで俺はただの、ほぼニートに近いコンビニバイトだったはずだ)
それが今や、とんでもない力を身につけ、救国の勇者とならんとしている。
喜ぶよりも前に、レイは大いに戸惑った。望んでいたこととは言え、目の前の現実があまりに早く記憶と変わりすぎた。
「確認は取れた。早速、リチャード王に会いに行こう」
「え、ええ?」
半ば強引に引っ張られるような形で、彼は謁見の間に通された。
「陛下は直にやってくる。しばらく待っていよう」
「はあ…」
広々とした謁見の間に、元帥とレイの二人だけになった。
あまりにも突然すぎるため、レイには目の前の物事に現実感が伴わなかった。
(現実にこんな日が来るなんて思いもよらなかったからな…)
小説の中の出来事でしかなかったチート転生。それがまさか我が身に起こるとは、レイは想像もしていなかった。
そう考えていると、部屋にコツコツとブーツの足音が響いた。
(来たぞ! 頭を下げろ!)
(え、ええ? はい…)
デズモンド元帥はすぐさま片膝をつき、跪いた。レイもそれを傚う形で頭を下げた。
「面を上げよ」
その時、レイははっきりとリチャード王の顔を見た。黒髪黒目、髭に覆われた口元、そして恐ろしいほど濁り、ギラついた双眸を。
瞬時に沸き起こった寒気と、奇妙な既視感をレイは感じた。
(なんだ…?)
どうしようもなくおぞましい、しかしどこか見知った雰囲気を感じる王である。
そう考えていると、リチャード王が二人に呼びかけた。
「その男が、異世界より来た勇者か」
「仰る通りにございます、陛下。先程全ての能力を計測したところ、相違ございません」
「なるほど…名前はなんだ? 異世界人よ」
得体の知れない恐怖感を抑えながら、レイは答えた。
「か、加藤玲…です」
「ククク、そうか…わがアズリエル王国のため、戦ってはくれぬか、勇者よ」
この瞬間、彼は勇者の称号を得た。
その後、レイはデズモンド邸に案内され、豪奢な食卓についていた。
「機密上、君はこれよりデズモンド家の養子となる。これからはレイ・デズモンドを名乗るといい」
「はあ…」
「これは妻のフランソワだ」
元帥の隣にいた貴婦人が、レイに向かって頭を下げた。
年齢を感じはするが、小綺麗にしている分、若い印象を受ける。まさしく貴族階級の婦人といった雰囲気だ。
「これからは実の家族だと思って、何でも言ってちょうだいね」
「あ、はい…」
「我々は子宝に恵まれなくてな、こうして養子を迎える事が出来て嬉しい限りだ」
レイはどうにも照れ臭いような感覚を覚えた。
赤の他人であるにも関わらず、ここまで篤い待遇を受けた上、家族になるというのである。
少し前までいた世界では考えられない話だった。
「正式な兵役に就くのは、まだ少し先になるだろう。君にはまだこの世界を知る必要がある」
「そうですね…」
当然の話ではあった。現代科学に満ち溢れた日常から、剣と魔法の世界に放り込まれたのだ。
まだまだ常識にも疎い状態では、兵として以前に社会人として役立たずだろう。
「まあ、今日はめでたい日だ。遠慮せず食べてくれ!」
「我が家に息子ができた日ですものね」
「あ、はい…いただきます」
試しに一口、スープを口に含んでみた。
(…美味い!)
「すげー美味いです、これ!」
「ははは、そうか。遠慮せず食べてくれ」
レイは目の前の食事に迷わず手を伸ばした。
メニューはパンやスープや肉類など、元の世界とあまり変わらず、尚且つ非常に美味だった。
久方ぶりの豪勢な食事を、レイは心置きなく満喫した。
(あー、食った食った)
食事も終わり夜も更けた頃、天蓋付きベッドに寝転がりレイはふと考えた。
(俺、これからどーなんだろ?)
突然死んだと思ったら異世界に召喚され、魔王などというゲームじみた存在を倒せと言われ。
おまけにチート能力まで与えられ、勇者という称号のおまけ付きだ。まだ喜びや安堵よりかは、不安や戸惑いの方が大きかった。
(まあ、何とかなるだろ)
大抵のラノベでは、チート能力を持つ異世界転生勇者が敵を無双し、ハーレムを作り上げる。
苦労らしい苦労もせずに、自分にとっての理想の世界を作り上げるのだ。
試しにレイは起き上がり、部屋に備え付けられている鏡を見た。どう見ても二十歳前後にしか見えない。
年齢を考えると、明らかにレイの顔も身体は若返っていた。
(若い顔だな~…少なくとも三十路じゃないな)
何か事件が起こっても、全てチート能力で何とかなるとレイは考えていた。
(これからは俺の無双だぜ…へへへ…)
下卑た考えを浮かべながら、レイは眠りについた。
彼は人間以上に強く生まれ変わった。
その心は、弱く優しい人間のままで。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。
真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆
【あらすじ】
どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。
神様は言った。
「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」
現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。
神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。
それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。
あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。
そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。
そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。
ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。
この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。
さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。
そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。
チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。
しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。
もちろん、攻略スキルを使って。
もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。
下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。
これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる