異世界転生チート勇者と“真の英雄”、そしてその物語について 〜本当に『最強』なのは、誰の命も奪わない事。そして赦し受け入れる事〜

Soulja-G

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第一章

第一話 ありふれた転生

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 次に目覚めた時、見たこともない景色の中にいた。

 自分の周りを取り囲む西洋風の服を着た人々、そして中世の宮殿の様な建築様式は、殆ど馴染みのないものだった。
 その中には、王冠を被った人物もいた。
 察するにそれはこの場においては、最も高い地位にあるのであろう。
 身に纏う厳かさには王たる空気が漂ってはいたが、その顔には何とも言えない様な陰鬱な笑みを浮かべていた。


「()++)&&&^^$%#^!!!」


 王冠の人物は高らかに何かを宣言した。
 それが余程の衝撃なのだろう、群衆が一気にざわめいた。
 中には引きつった表情を浮かべながら、叫び出す者もいた程だ。
 そしてその王とみられる人物は、何人かの側近とみられる人物を引き連れ、奥の部屋に消えていった。

 彼は地に描かれた魔法陣の中心に、裸で横たわっていた。
 なぜだか全身は血が通っていないかのように感覚がなく、軽い痺れさえも覚えている。
 そしてその身体中は、汗でびしょ濡れだった。


(俺は…さっきまで花畑の様な場所にいたはずだ)


 それが最後の記憶だった。


「^&%^$#^%**%#」
「@$^()_”|::!?」
「_+_)**&^(*^w&q<」


 皆一様に彼を見て動揺している様子である。
 しかし言葉がわからないので、何が何やらさっぱりわからない。
 なぜ自分がここにいるのか、ここは何処なのか、さっぱり理解が追いつかない状況である。
 そんな中、豊かな口髭を蓄えた金髪碧眼の壮年男性が話しかけてきた。


「&$%^#&%^@|”」


 彼を気遣ってか、幾ばくか優しい口調で話しかけてくれているようだった。
 その表情には、軽く笑顔さえ浮かべている。
 その気遣いは伝わったが、しかし肝心の話の内容が全くわからないままであった。

「え、えっと…すいません、よくわからないです」

 そこでその壮年男性が、自分に言葉が通じないことがわかった様子だった。
 すると何故か彼の口元を指差した。



 不思議なことが起こった。



 彼の口元、両耳、両目に魔方陣の様なものが現れ、すぐに消えた。

「さあ、これで大丈夫かな?」
「え、ええ!? に、日本語?」
「ニホンゴというのが君の母国語なのか? まあいい。付いてきてくれ」

 いきなり流暢な日本語を話したかと思えば、今度は自分の日本語が完璧に通じている。

 一体何が起こったというのか?
  先ほどの魔法陣の様なものはなんだ? 
 それ以前にあなた方は何者なのか?

 様々な疑問を抱えながら、彼は何人かに付き添われる形で、壮年男性の後を追った。





 案内された場所は応接間の様な部屋だった。
 かなり豪奢な造りになっており、壁には絵画、天井にはシャンデリアが飾られていた。
 民衆の中でも上層階級に位置する人間が居住する、あるいは勤務する場所であることは否応なく感じ取れた。
 彼は軽装に着替えさせられた後、先の壮年男性と向かい合って座る形になった。

「落ち着いたのなら、まずは名前から聞かせてもらいたいんだが、構わないかな?」
「は、はい…加藤玲、です」
「レイか。私はモーガン・デズモンド。王国軍元帥を務めている」

 王国? 元帥? 
 レイが先程から聞く単語は創作物以外では聞き馴染みの無い言葉ばかりである。

「まあ、解らないことだらけ、と言うより解らないことしかないだろう。なんでも聞いてくれたまえ」

 確かに、解らないことしかなかった。
 唯一解るのはここがレイの記憶にある日本とは全く別の世界であるということである。
 しかし分からないことだらけで逆に質問が纏まらない。レイは頭を抱える羽目になった。

(落ち着け……こういう時は5W1Hで考えてみるんだ)

「こ、こ、ここはどこなんですか?」
「ここはアズリエル王国総行政府。さっきいたのは非常用の地下宮殿だ」

 どうやら官庁の類の建物の中にいるらしいことはわかった。
 どこで、は解った。あとは何時、何が、誰により、どのようにを明確化しなければならない。

「俺に何が起こったんですか?」
「君は一度死んで生まれ変わったのさ」
「……は?」





 デズモンド元帥の話を纏めると、こうだ。

 5年ほど前、アズリエル王国は遥か北方の魔族の国“魔界”から一方的に戦線布告を受けた。
 だが戦況は膠着し、兵の犠牲は増え、民衆の間には厭戦ムードが漂っていた。
 そこでアズリエル国王、リチャード1世は奇天烈な打開策を打ち出した。


『死者の国より勇者の魂を呼び出すべし!』


 死後の世界より最強の存在・勇者の魂をこの世界に呼び出し、この状況を打破するとの事だった。
 魔導師としても桁違いの実績を持つリチャード国王が自ら主導する形で、異世界勇者召喚計画は極秘裏に進められた。





「だからわざわざ、使われた事もない地下宮殿を使う必要があったのさ。あの場に居ることができたのも、行政のトップクラスの人間が私を含め数十人だ」
「機密上の問題ってことですか…」
「これが外部に漏れたら、どんな妨害工作にでるかわからんからな」

 魔族の王“魔王”は奸計に長け、ゲリラ戦術やスパイ・テロといった緻密かつ狡猾な手口で、数に勝る王国軍を圧倒している。
 だからこそ滞りなく計画を進め、尚且つ敵軍が対策を練るより前にレイを召喚したかったらしい。

「そう言えば、あの場にいた王冠の人…」
「あれがアズリエル王国現国王、リチャード・アレクサンドル1世だ」

 顔はよく見えなかった上に、一瞬しか姿を見なかったが、その目の光をレイはよく覚えていた。
 何かドス黒い光を宿したような、ギラついた両眼だったことは確かだ。あまり生理的に愉快でない感情をレイは感じた。
 そこまで来て、ふとレイは根本的な疑問を思い出した。

「魔法…てのがあるんですよね? さっき俺の顔にやったみたいな」
「その通り。今我々がこうして言葉を交わす事が出来るのも、魔法の力あってこそだ」



 デズモンド元帥が言うには、この世界には魔法が存在するし、誰もが使える。
 だがその強さは人によって異なり、才能も関わってくるという。

 そしてアニメやゲームの様に詠唱は存在せず、頭に“術式”と呼ばれる魔方陣の様な物を思い浮かべて発現させる。
 この"術式”が世界の法則そのものに干渉し、自然発火や念動力といった物理法則を超えた事象が発生する。
 一応法則はあり、ある程度体系化されてはいるものの、術式の組み合わせ次第で幾らでも新しい魔法は生み出せるらしい。

 先程レイにかけられた魔法は“言霊”にアクセスし、言葉や意味をダイレクトに五感に伝える魔法だった。これによりレイは、この世界の読み書きや会話を全てクリアした。




「さて、これで大体の事はわかったかな?」
「まあ…」
「よし、ならば早速付いて来てもらいたい」
「え、ええ?」

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