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2節[第二章]

第六十七話『ヒロインだったら…』

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夢中で遊んでいると、日はすっかり傾いていた、ヘトヘトになるまで遊んだのは一体何年ぶりだろう。

浜辺に座り込んで飲み物を取りに行ってくれたエイム様を待つ。

私はこの一日がとても楽しいけれど、エイム様はどうなんだろう。私だけはしゃいじゃって、エイム様は楽しめたのかな?

海に沈む夕日を眺めながらふとそんな事を思った。

推しとのお出かけなんてどこでだって楽しいのは事実。その上行きたかった海に来られるなんて、とんでもなく幸運な事。

忘れられないくらい楽しかった、でもそのせいでエイム様の気持ちを考えていなかった。

私が聞いたらエイム様はきっと楽しかったと気をつうだろう。本音を話してくれたら、それが一番嬉しいんだけど…私とエイム様じゃ…。

「お待たせレイン。」

飲み物を差し出してきたエイム様は、いつものように私を優しい眼差しで見てくれる。

エイム様なら勇気を出して、聞いてみてもいいのかもしれない。

「エイム様は、海で遊んでどうでしたか?」

エイム様はどう答えてくれるのだろう。ハラハラする気持ちを隠しながら聞いた私は、緊張から心臓の音が早くなっているのを感じた。

ただ、楽しかった?と聞くだけなのに。どうしてこんなに苦しいんだろう。

体が震えていることに気づく、寒さからくるものではない。ダメだ…エイム様の顔が見れない。

うずくまり下を向いて目をつぶっていると、エイム様がそっと私を自分の方に抱き寄せてくれた。

体の震えと心臓の音が落ち着くの感じる。顔をあげればエイム様は夕日を眺めていた。

「私はこの一日、一瞬たりとも退屈しなかったぞ?君と一緒にいるだけで、私は楽しいのだからな!」

私の目を真っ直ぐ見つめながら強く抱き締めるエイム様は、本音を話してくれているように見えた。

目の端に光が見え、ふとその方向を向いた。その方向には夕日の光が反射して宝石が波打っているように見える海があった。

それを見つめるエイム様の金髪も同じくらいキラキラしていて、思わず手に取ってしまう。

エイム様は拒否せず、私の髪を触りだした。海で泳いぎ濡れているためサラサラしてはいないはずなのに、エイム様は愛おしそうに私の髪を撫でる。

「エイム様?私の髪は濡れていますから、あまり触られない方が…。」

「レインの髪の毛は美しい空色の髪だと思っていた。」

えっ??

「しかし、こうまじまじと見ると透き通った海の色に似ているな。」

んんっ///!?!?

「やはり君の言う通り海にしてよかった。海の色が君の髪と素晴らしい色合いを奏でている。」

あっあの…エイム様///!?

「いつも美しいが、今日は一段と美しいなレイン。」

ひゃぁああ///!!
なんでそんな恥ずかしいセリフをペラペラというんですか!

「えっエイム様はどうしてそのような恥ずかしい言葉をスラスラと仰るんですか///!」

顔が熱い、エイム様を真っ直ぐ見られない!

触っていたエイム様の髪から手を離ししどろもどろしていると、エイム様は私の髪に優しくキスをしてニッコリと微笑んだ。

「全て思ってることやからね。」

突然の関西弁。
親しい人にしか使わない本心の証。

そんな単純なことでも今の私にはクリティカルヒットで、さっきの苦しさとは違う込み上げてくる苦しさと身体中をめぐる熱さが私の心拍数を跳ね上がらせる。

心臓の音がうるさすぎて、周りの音が聞こえない。

「レイン…」

優しい声色で私の頬を撫でるエイム様は今まで以上に大人っぽく見えてしまう。雰囲気が委ねろと誘っている。

私は悪役令嬢のレイン・ウィンター、彼は主人公のエイム・プレント。ふたりが一緒になる事なんて決して世界が許さない。

(その…はずなのに…。

二次元の世界でしか見た事のない雰囲気が冷静な判断を狂わせていく。

私は静かに真実をつぶった。

周りの音も聞こえずエイム様が今私の目の前にいることしか分からない。

エイム様が徐々に近づいできているのを感じながら雰囲気の緊張具合に思わず息を飲む。

エイム様との唇が触れそうになったその瞬間、一瞬血を吐きながら倒れるエイム様の姿が浮かんだ。

思わずエイム様を突き放す。

見た事のある姿

私の代わりに死にかけたあの時の姿

私といるとエイム様は傷ついてしまう

彼の幸せな未来に私はいなくていい

私は、悪役令嬢だから

「ごめんなさいエイム様、私はしゃいで疲れてしまって…少し休みます。」

「あぁそうか…気づいてやれずすまない。レイン一人では危ないだろうから、私が部屋まで送ろう。」

「いえ、大丈夫です!私のせいでエイム様の楽しみを奪う訳には行きませんから!」

私はエイム様に返事をする間も与えないよう急いでその場から離れた。

彼は何も悪くない、ただ私が変に臆病なだけなのだ。

「私がヒロインだったら…こんな不安も抱かずにすんだのかな…。」

悔しい涙なのか、悲しい涙なのか分からない。
でも今はただ泣きたかった。

あの瞬間私がヒロインだったらって、今まで悪役令嬢で良かったと思っていたのに、あの瞬間だけは…悪役令嬢である自分が憎い。

でも、私は悪役令嬢だからってなりふり構わず諦める訳にはいかない。

だって私はこの世界のメインキャラ達を死亡フラグから救う転生者なんだから。

あのヒロインはみんなを確実に死亡フラグに連れていく気だろう。
そんなことは絶対許さない。

「エイム様の気持ちに答えられなくても、私は私ねできることをやらなくちゃ…。」

わがままは言っちゃダメ。
それは転生前も一緒だったから、何ともない。

大丈夫、何に変えても死なせたりしないから。

「ごめんなさい…エイム様。」
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