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2節[第二章]

第六十五話『約束と思い出』

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着替えが終わった後、メイドさん達が部屋を出ていき、それと入れ替わるように執事長が挨拶にやって来た。

「初めましてレイン・ウィンター様、エイム・プレント様の執事をしております。ローラックと申します。」

「ウィンター家長女、レイン・ウィンターです。わざわざ挨拶に来て下さり感謝致します。」

エイム様直属の執事、ローラック。彼は幼い頃からエイムの教育係を務めたエイム様が最も信頼する従者。

厳しい事で有名な彼だけど、エイム様にこの環境を生き抜いて欲しいと考えてした事ばかりで、実際はエイム様の幸せを一番切に願う人。

エイム様も彼が一番信頼出来る従者だから重要な案件を任せたりする。

そんな彼が私に挨拶に来てくれるって事は、少なくともエイム様側の人達には受け入れられてるって事だよね?

何だか嬉しいな…。

「では、レイン様に早速ではありますが色々お聞きしておきたいことがあります。」

そう言いながらローラックさんは素早くメモ帳とペンを取り出した。                    

「何でしょうか?」

「数日間ここで過ごされるということですので、苦手なものやアレルギーについてお話願えればと思います。」

「分かりました。ここに住まわせていただく身ですから、そういった質問は気軽にしてくださいな。」

「寛大なお心遣い、感謝致します。」

こうしてローラックさんからのあらゆる質問に答え、エイム様から貰った物の整理をしているとすっかり窓の外は月明かりが見えるようになっていた。

気になって外の月を眺めていると、扉からノックが聞こえ一人のメイドさんが礼儀正しくお辞儀をしていた。

理由を聞くと、エイム様が一緒に食事をしようと言っているらしく呼びに来たらしい。

私がレインになってから正式にエイム様と食事をするのは初めてで少し緊張していたが、やや強引にメイドさん達に押されエイム様の待つ場所に向かった。

「お待たせしてしまい申し訳ありません、エイム様。」

向かいの方にいるエイム様にお辞儀し、案内された席に着く。

「私がいきなり呼び出したからな、謝らないといけないのはこっちだ。」

「いえ、お食事に誘って下さり感謝しております。」

エイム様を正面にしながら互いに何を話したらいいかドギマギしながら食事が出るのを待っていた。

部屋にはかなり気まずい空気が流れ、互いが互いに喋らないのか探り合いをしている状態だ。

そんな中、エイム様が満を持して話し始めた。

「レインはその…どこか行きたいところはないか?」

「行きたいところですか?」

はっきり言えばシャインさんやクリーンさんの元へ行って、色々問いただしたいけれど…。

エイム様のいう行きたいところは私とエイム様で行きたいところという意味だろう。

…二人で行きたい。

そっそれってもしかしなくてもデっデート!?

私とエイム様でデート!?

転生前ですらデートなんて程遠い存在だったのに!!

「エイム様はどこか行きたいところはございませんの?」

そう問いかけると、エイム様は私の方を見てニッコリと微笑んだ。

「君の行きたいところなら、私はどこへでも行くよ。」

エイム様は言葉の意味を完全に分かってて私に決めさせようとしている。

私の口から言わせたい魂胆が丸見え…。かと言ってあんな風に言われたらエイム様に任せるなんて出来ないし…。

転生して、自分の大好きで仕方なかった推しとデート。

何時だったか、診断テストみたいなもので“推しとデートするならどこにする?”みたいなテストがあった気がする。

私はその時、家族と旅行で行った思い出が忘れられなくて思わずそこを選んでいた。

もし叶うなら、エイム様と一緒にって…。

「エイム様…私…」

「ん?行きたいところが決まったかい?」

「はい、私は“海”に行きたいです!」

家族で言った初めての旅行、それが海だった。

海の見える旅館で、窓を開けると潮風が流れ込む。日が沈むのを見て、朝は早起きをして日の出を見る。

初めて海で泳いだ弟が手についた海の水を舐めて、「ホントにしょっぱい!」ってビックリしていたのを今でも覚えてる。

その後、何で海の水がしょっぱいのか散々聞かれて大変だったし、帰りは私も弟も疲れて寝ちゃって、気がついたら家に着いてた。

また行こうねって約束してたのに、今では家族も私も死んじゃったから。

次の海の思い出はエイム様と作ってみたい。

「海か、それならいい所を知ってる。きっと君に喜んで貰えるよ。」

「!!…ありがとうございます。」

そこから私とエイム様は海の話で盛り上がり、食事の時間はあっという間に過ぎていった。

エイム様は海を知ってはいるものの、行ったことはないらしい。

幼い頃から厳しく教育を受けてきたため、そんな時間はなかったのだろう。

「だが、初めての海が君と一緒だということが私にとってとても嬉しいことだからな。むしろ今まで行けていなくて良かったと思うよ。」

「そっそんな風に言わないでください…恥ずかしいので///」

とまぁこんな感じで、エイム様はむしろ喜んでいて、私はまんまとその場で照れさせられた。

食事、エイム様はまだ仕事があるため退席し、私も部屋に戻り先程の会話を振り返っていた。

海に行く日程はエイム様から連絡してくれるらしい。忙しいだろうから、あんまり無理はして欲しくは無いけれど…。

それ以上にエイム様と二人で海に行ける事が嬉しくてたまらなかった。

「早くその日にならないかな…//」

その日、私は興奮して寝られず翌朝しっかり寝不足になりメイドさん達からめちゃくちゃ心配されてしまった。
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