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2節[第二章]
第六十一話『裏で糸を引くのは』
しおりを挟む暖かな日差しが目にチラつく。
私が今どこにいるのか、何が起きているのかは分からない。
ただ今は、
「眠たい…。」
レインが消えた。
俺はその場で何も出来なかった。
眠るレインの姿を見て、俺がもっと早く気づいていればと後悔した。
どうしてずっとそばにいてやれなかったんだろう。
なぜ1人にしてしまったんだろう。
兄さん達は俺のせいではないと言ってくれたけど、俺はレインのお兄ちゃんやから。
一緒にいたのに妹を守れなかった責任は兄である俺にあるのが普通だ。
俺だってもう17歳や。
自分に出来ることを考えないほど無能じゃない。
俺は捕まえた奴らからレインに目をつけた理由を聞くべく、奴らを預けたフィリエント家の方へ向かった。
どこからか聞きつけてきたズハイと共にフィリエント家の長男、ヴァーガさんを訪ねた。
行く前に連絡をしたので、メイドの人が談話室へ案内してくれた。
「お前までこんでも良かったんやで?」
「俺にも責任はあるからな…。兄さん達にも話はしてある。」
ズハイはレインの話を聞いて、自ら調べを進めていたらしい。
フィーダー家であるズハイだから調べられる事もあるらしく、調べた資料を俺に渡してくれた。
そこからある人物の名前が出た。
それが…
「お待たせしました。」
開いた扉から待ち望んでいた人物が現れた。
紫色のストールをまとい、後ろに一つ結びされた長い髪が印象的だ。
彼は綺麗にまとめあげたであろう資料の束を机に置き、俺たちの前に座った。
「今回の件、やはり貴女方に任せて正解でした。おかげで学校でのイジメはピタリと止み、運営もスムーズに行えています。」
メイドの人が用意した紅茶を飲みながら作ったような笑みをする。
ヴァーガ・フィリエントはプレント家に並ぶ家紋の長男だ。
そんな単純な理由で依頼してきたのではないことくらい俺にだってわかる。
「ここまで来たのですから、本音くらい教えて頂きたいのですが。」
俺は鋭い目で彼を見つめた。
すると彼はひとつため息をついて苦笑いをしながら話し始めた。
「ごめんね、君たちを巻き込んでしまって。俺には信頼に足る人間が少ないから、こうするしかなかったんだ。」
「貴方はフィリエント家の長男ですよね?」
横で黙っていたズハイが口を開いた。ズハイも納得していないようだ。
「俺には家族も従者も信用できない。俺が信頼してるのは、エイムと君たち四代家紋の人間だけだ。」
彼の目は嘘をついていなかった。だからひとまずヴァーガさんの言うことを信じる事にした。
「なら、俺たちに本音を話してくれますよね?」
ヴァーガさんは深呼吸をして資料をめくった。
「君たちが捕まえた中にアルベンという奴がいただろ?アイツの家系は、裏で良くないことをしているのに、金で人を買収していたんだよ。」
「だから表立って調査するために俺たちを利用したと?」
ヴァーガさんは黙った。肯定ということだろう。
「本当なら話して置くべきだったんだろうけど、俺が君たちを信頼しきれなかった。」
フィリエント家の長男が人にこれまで頭を下げたのは片手で数えられるくらいだと聞いたことがある。
その彼が今、俺に頭を下げている。
本来なら急いで顔を上げてもらうはずなのだが、俺はレインをあんな形に巻き込んでしまった事の方に意識をしてしまい、上手く声をかけられなかった。
いくらヴァーガさんが謝っても、レインに刻まれま恐怖は消えない。
彼の姿を見れば見るほどレインを巻き込んだ自分の判断が間違っていた事を表していた。
俺があの時レインを誘わなければと、何度思っただろう。
もう考えないようにしていたはずやのに。
「ヴァーガさん、俺は貴方の依頼を受けた。その時点で、どんな状況も覚悟するべきだったんです。」
兄として、ウィンター家の三男として、依頼を受けた者として…
「俺がレインを巻き込んだ、だから俺が悪いんです。ヴァーガさんが謝ることなんてないんですよ。」
やりきれない怒りや後悔は人にぶつけても意味が無い。
よくフィブア兄さんが言っていた。
怒りや悔しさは人にぶつけるな、それは刃だからって。
「俺はレインのお兄ちゃんではなく、依頼を受けたヤヌア・ウィンターとして来ているんです。」
だから、私情は挟まない。俺は、俺に出来ることをするだけや。
「レインが強い子なのは、俺が1番知ってます。だから、もう心配はしてません。」
俺はズハイがくれた資料を机に置き、ヴァーガさんに向き合った。
「俺たちがこれから話すのは、貴方にも重要な話です。」
ズハイが調べてくれた、裏で糸を引く人物の話だ。
こいつだけは、絶対に許しはしない。
レインを騙したことを後悔させてやる。
「やぁやぁレインちゃん。よく寝ていたね」
だれ?
「シャインだよ?分かるかい?」
「シャイン…。」
シャインって…光??
光がなんで喋ってるの?
というか…
レインってだれ??
「レインって…私の事??」
そう言うと、前にいる彼は目を見開いて私の肩を掴んだ。
「君の名前、分かる?」
私の名前。
名前は…
「園田萌。」
私はゲームオタクの園田萌、ただのオタクの女の子だ。
私は一体、なんでここにいたんだろうか。
「学校…行かなくていいのかな?」
何か忘れている気がするのに思い出そうとすると頭が痛くなる。
大切な事のはずなのに…。
「レイン!」
一体誰を呼んでるの?
「ありがとうございます、レイン様。」
どうしてそんな目をしてるの?
あなた達は誰??
あぁ…
「痛い。」
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