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2節[第一章]
第五十四話『学校』
しおりを挟むヤヌア様の待つリビングの扉をノックする。
「失礼します。」
中には長い机と椅子が数個並べられ、空席のふたつにケーキ用の皿とティーカップが置かれていた。
「いらっしゃいレイン、少し座って待っててくれへん?呼んだやつがちょっと遅れてるみたいやねん。」
「あっ分かりました。」
呼んだやつ??
一体誰だろ。
椅子に座るとメイドさんが紅茶を注いでくれた。
ほんのりと香るフルーツの匂いに少しばかり気が緩む。
ヤヌア様は遅れている方を気にしているのか、落ち着かない様子だった。
「あの、ヤヌア兄様?待っておられる方って、どんな方なんですか?」
私が話すとヤヌア様は紅茶を一口飲み、微笑みながら答えた。
「レインもよく知っとる人やで。」
「よく知ってる人ですか?」
じゃあ四代家紋の人?
ヤヌア様とよく会う人ならそれぞれの三男の人かな??
ハーベスト家ならノイン様
サマー家ならゼクス様
フィーダー家ならズハイ様
う~ん、今ノイン様に会うのはちょっと気まづいな…。
サマー家もリカルドの件があったから気まづいし…。
それに、私がその人とヤヌア様と3人で話すことなんてあったっけ??
ゲームとはストーリーがあまりに変わってるから、もうなんのイベントがあったとかあんまり意味を成してないんだよね。
これじゃあほぼ初見プレーと変わらないよ。
まぁやる事は決まってるしいいんだけども…。
用意された紅茶を半分くらい飲んでいたその時、私たちのいる部屋の扉が開いた。
扉を開けた人物が挨拶する。
「イヤ、ごめんごめん!フィーヤ兄さんがケーキ選びに凄いこだわるからさ、時間かかっちゃって…。」
「まぁフィーヤ様なら仕方ないな…こっちも急に呼んだわけやし。」
「久しぶりにヤヌアに呼ばれたからとびきり美味しいケーキを選んでやろうと思ってさ!」
「フフっ、そういうとこだけお前って気遣いできるよな。」
「そういうとこだけってのは余計や!」
扉を開けた人物はフィーダー家の三男、ズハイ様だった。
ズハイ様はお土産のケーキをヤヌア様に渡して私の向かいに座った。
「パーティー以来ですね、レインさん。」
「あっはい、そうですね。」
さっきのを見たあとだと余計だが、ズハイ様の八方美人ぶりが凄すぎて混乱する。
八方美人というよりかはヤヌア様とだけあぁなるのだろうか?
こう友達というより、信頼しあった相棒みたいな感覚。
例えるなら、エイム様とフィブア様みたいな信頼関係。でも忠誠心じゃなくて、互いに背を預けれるみたいな感じ。
上手い例えが見つからないけど簡単に言えば、この人になら素の自分が出せるな~って感じだと思う。
ゲームでもこの2人は仲良しだったし、目の前でそのやり取りが見れたのはかなり嬉しい。
でもそれなら尚更、私がここにいるのお邪魔なのでは??
ズハイ様の元にも紅茶が運ばれ、お土産のケーキが並べられたところでヤヌア様が話を切り出す。
「今日話すんはズハイと話しとったあの件についてや。」
あの件?
「レインはわからんと思うし、一から説明するな?」
そしてヤヌア様はあの件について話し始めた。
ことは数ヶ月前、フィリエント家からある依頼が来たらしい。
フィリエント家とは、エイム様の育ったプレント家と並ぶ王国を支える二大勢力のひとつ。
そこの長男、ヴァーガ・フィリエントが約一年前、様々な学問を学べる学校を作ったらしい。
設備も先生もかなり充実した学校らしく、たくさんの貴族から息子、娘をいれたいと依頼が殺到していた。
しかしある問題が生じた。それが生徒によるイジメだった。
どんな世界でも必ずイジメは起きる。
こう見るとファンタジーの世界ですら現実味を帯びてくる。
イジメが起きた原因は、貴族と平民の格差だった。
そもそも学校に通うには莫大な資金が必然的に必要になる。
まず入学金から制服費、教科書代にイベント用の支援金など、様々なところでお金がいる。
そのため平民はまず入学出来ないのが現実だ。
しかし、ヴァーガ様が作った学校にはある制度がある。
それが、学費援助制度。
これは入学試験で優秀な成績を収め、条件を満たしていると受けられるもの。
これは貴族も平民も関係なく受けられるため、平民はこの制度を利用するのが普通になってくる。
しかし、学校に平民と貴族が集まると起こるのが格差によるイジメ。
いくら優秀で学校にはいれても、平民出身だからと貴族の子供が平民の子をイジメて、その子の学習環境が整わなくなってしまうという問題が出来てしまう。
先生が注意しようにも、家柄を盾にして先生を撒く子供が多く、先生すら動けない状態が続いているのが現状。
そのせいで平民からの入学要望が少なく、思っていたように学校が運営出来ていないらしい。
そこで、私たちが学校に生徒として潜入し、イジメの原因を取り除く手伝いをして欲しいとヤヌア様がお願いされたそうだ。
ヤヌア様と同時にズハイ様にもお願いがかかり、あちらの要請で一人女性の生徒役も欲しいとの事。
それで私が呼ばれたらしい。
ヤヌア様とズハイ様が選ばれた理由は、生徒に変装しても一番バレにくそうだからという事らしい。
2人は堂顔だからか、と心の中で思っていたのは秘密だ。
2人はもう行く事が決まっているのだが、私が行く事について同意がないのに連れていくのはどうなんだという話になったらしい。
別に良かったのだが、私の返事がないと2人が納得しないだろうと思い返事をする。
「もちろん行かせて頂きます、私で力になれる事があるなら。」
「うちの妹がこんなにも優しい。」
「ヤヌア、真顔で言うのやめて。」
こうして私は、ヴァーガ・フィリエント様が建てた学校[シュナイダーリング学校]へ潜入する事になった。
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