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2節[第一章]
第五十二話『3つのプレゼント』
しおりを挟むリカルドに押し倒されたまま数秒が過ぎた。
リカルドの気持ちがわからないわけじゃない。
最終的にはリカルドも幸せにしてあげたいと思っているのも事実だ。
でも、今はダメ。
まだ私にはやることがあるから。
この状況を私は切り抜けなきゃいけない。
リカルドには苦しいかもしれないけれど
まだその気持ちは抑えていて…。
「リカルドの悩みは私には解決出来ないことは分かった…。でも、そんな顔した幼なじみをほっとけないよ…。」
今私がどんな顔をしているのか分からない。
でも、リカルドのことを考えたら私はこう言うしかない。
ワガママなのはレインじゃなくて私なのかもね…。
リカルドの顔がどんどん悲しみで歪んでいく。
吐き出せない思いに押しつぶされそうになっている。
そんな彼の姿が悪役令嬢のレインと重なって、私の瞳から涙が止まらなくなった。
私が泣いているのに気づいて、リカルドがたじろぐ。
涙を何度拭っても溢れて止まらない。
目の前が涙で見えず、私の上からリカルドがいなくなっていた事に気づかなかった。
体にかかっていた重さがなくなっている事でリカルドがいなくなっているのが分かった。
少し涙もおさまって、視界がはっきりしてきた。
いなくなったリカルドを探そうと辺りを見回すと、シオン君がリカルドの首を絞めている姿が見えた。
私は急いで立ち上がりシオン君を止める。
「何してるのシオン君!」
「レイン様…。」
リカルドの首を絞めていたシオンは首だけをこちらに向けた。
リカルドはかろうじて呼吸している状態。
首を絞めているシオン君の腕を引っ張る。
シオン君は察してゆっくりとリカルドを離す。
「リカルド!大丈夫!?」
「ゲホッゲホッ…。」
肩で息をするリカルドは意識が朦朧としているのか上手く立てない様子だった。
シオン君がリカルドの首を絞めた理由はわかっている。
恐らく、部屋に入ってきたシオン君が泣いている私に乗っているリカルドの姿を見てしまったのだろう。
シオン君目線では私がリカルドに泣かされたと思っているに違いない。
「シオン君、私はリカルドに泣かされたわけじゃないの…。私が勝手に泣いちゃっただけだから。」
「レイン様、私にはリカルド様があなたを泣かせたかは重要ではありません。」
えっ…??
「少なくともレイン様が泣かれた理由がリカルド様にあるのは事実。」
そう言うとシオン君は私を抱き寄せリカルドを睨みつける。
「レイン様を脅かす元凶は誰であっても許しはしない。」
シオン君から溢れ出る殺意に身が強ばってしまう。
だんだん意識が戻って来たリカルドは自分がしたことを思い出し、ゆっくりと立ち上がって頭を下げた。
「ごめんレイン…僕おかしかったよ。今日のことは忘れて…欲しい。」
顔が見えないのに歯を食いしばっているのが分かる。
シオン君の腕から離れ、リカルド両頬を掴み顔を上げさせる。
「なに謝ってるのよ!謝る事なんて何もないじゃない!」
あなたの愛が歪んでしまったのは、私のせいでもあるんだから。
「リカルドが悩んでいるのに気づけなかった私の責任もあるわ。だから…そんなに重く思わないでリカルド。」
掴んでいた手を離し、私はリカルドの手を掴む。
リカルドは手を掴むことなく私の手をゆっくりと下ろす。
「君は優しすぎるよ…。」
「そこが私の取り柄だからね。」
私が笑顔で返事をすると、リカルドは悲しさを隠すように微笑んだ。
シオン君にはここであった事は内緒にするように伝えた。
先にシオン君に部屋から出てもらい、リカルドにあの人への手紙を返してもらった。
3つのプレゼントを残したまま、リカルドはサマー家へ帰っていった。
帰る時も深々と頭を下げられたので、
「次やったら怒るからね!」
と言って帰した。
リカルドから返して貰った手紙をシオン君に渡し、あの人の元へ届けてもらう。
私は部屋に残されたプレゼントを見つめ、どうすればいいか悩んでいた。
あんな事があった後だけど、私のお見舞いのプレゼントをくれたアハト様達の事を考えると、開けるべきだと思いプレゼントを開ける。
まずピンク色のリボンの箱を開ける。
中には白い猫のぬいぐるみが入っていた。
昔から可愛いぬいぐるみをくれるのはリカルドとゼクス様だった。
特にゼクス様は可愛いぬいぐるみを選ぶのが得意でだった。
子供の頃は一緒に買い物に行っては可愛いぬいぐるみの売り場で2人ではしゃいでいたのを今でも覚えている。
ゼクス様はよくある事を言っていた。
「レインちゃん、ぬいぐるみは好き?」
「うん!大好き!!」
「そうかそうか!あのなレインちゃん、ぬいぐるみには意味があるんやで。」
「意味?」
「そう、プレゼントされたぬいぐるみにはその人からの思いがこもっとる。それを知っとるだけで、数倍嬉しい気持ちになれるんよ。」
「意味って沢山あるの?」
「まぁレインちゃんが思っとるよりたくさんね。」
「ゼクスお兄ちゃんは全部覚えてるの?」
「もちろん!兄ちゃんの記憶力は特別やからね!」
「へぇ~、ゼクスお兄ちゃん!私も意味知りたい!!」
「よし!帰ったらしっかり教えたる!」
「やったぁ!」
ぬいぐるみには意味がある。
送ってくれた人の気持ちがぬいぐるみにある。
ゼクス様にたくさん教えてもらったぬいぐるみの意味を思い出す。
確か白い猫のぬいぐるみの意味は…
「君の無事を祈る…だっけ?」
あまりハッキリは覚えていないけど、確かそんな意味だったと思う。
ゼクス様から貰ったぬいぐるみはこれで何個目だろうか…。
記憶が確かなら、ゼクス様からプレゼントされたぬいぐるみは全部色も形も違っていた気がする。
もしかして全部覚えてるの?
いやそんなまさか!何年前から送ってるぬいぐるみなんて覚えてるわけないよ!
『兄ちゃんの記憶力は特別やからね!』
「…。」
ホントに…覚えてるかも…。
だとしたらゼクス様はただものでは無い。
兄ちゃんの記憶力は特別って言ってたあの言葉。
まさか、ゼクス様も能力を持ってるとか?
いや、それなら兄弟に隠す必要なんてない。
第一、能力を持ってるならシャインさんやクリーンさんが教えてくれてるはず。
ゼクス様は、一体何者なの??
リカルドの件があったからサマー家に行くのは気まずいし…。
今はプレゼントを開けることの方が先!
私はゼクス様からのプレゼントを傍に置き、空色のリボンのプレゼントに手を伸ばした。
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