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2節[第一章]
第五十話『優秀なメイド』
しおりを挟むあの日は自室に帰って夕刻まで頭がまわらなかった。
エイム様にやられた時より、何とも言えない感覚が忘れられなかった。
考えに考えた結果、私はひとつの考えで納得した。
まず、ゲームでエイム様のキスは何度も見たことがあるからあまり恥ずかしくなく、ノイン様のキスは見たことがなかったから恥ずかしかったのだという事。
でなければ、この感情に説明が出来ないと思った。
私にキスをしてきた理由は十中八九私がノイン様にキスをしたからだろうが、それでも変な考えが頭に浮かぶ。
そんな事ありえないのに…。
ノイン様が、私を好きかもしれないなんて。
「ありえないのに…。」
次の日の朝も起きてからその事が頭に浮かんでいた。
起きたベッドでため息を吐いていると、扉から音が聞こえた。
「レイン様、カミリアです。」
カミリアちゃん?
「入っていいわよ。」
「失礼します。」
カミリアちゃんはもう随分とこちらの言葉を使いこなせるようになっていた。
私の専属メイドとなったカミリアちゃんは、メイド長からたくさんの事を学び、今では私のことを1番知っているメイドとなった。
カミリアちゃんに会いに行った際、カミリアちゃんが私と同じ能力使いだと噂されていたのがきっかけだった。
けれど調べた結果、カミリアちゃんは能力使いではなく、単純に強い女の子という事が判明した。
調べたというよりかは聞いたの方が正しいのかもしれない。
シャインさんと知り合って次に会った際、私はカミリアちゃんについて質問していたのだ。
「シャインさん、私のとこにカミリアちゃんって子がいるんですけど…。」
「ん?あぁ君が名付けた女の子?」
「はい、その子が能力使いだって噂で私は会いに行ったので…カミリアちゃんって能力使いなんですか?」
「いや、違うよ?」
その時シャインさんはキッパリと言い切った。
シャインさんが言うには、カミリアちゃんに妖精や悪魔の力が感じ取れないし、天使は基本人間に力を貸さないらしい。
「でも、シャインさんは私に力を貸してくれていますよね?」
天使どころか神様なのに。
「ん~、僕は気分屋だからね~。」
「えぇ…。」
そんなこんなでカミリアちゃんは普通じゃないけど普通の女の子という事がわかった。
普段から良い時間帯に来てくれるカミリアちゃんだが、今日はお客さんが来るため少し早めに準備を手伝いに来てくれた。
この世界では1人で着替えが出来ないこと以外は何も言うことはないのだけれど、今やカミリアちゃんが手伝ってくれるのでその辺も気にせずに済んでいる。
この世界のドレスって1人で着れないんだよね…。
「今日はこちらのアクセサリーをお付けになりますか?」
「あっそれ…」
カミリアちゃんが取り出したのは、私の社交界デビュー記念にリカルドが送ってくれたイヤリングだった。
美しい赤い宝石がキラキラと輝いている。
暖かい太陽のような安心する光を放っている。
「うん!これを付けるわ、せっかくリカルドが来てくれるんだもの。」
そう、今日来るお客さんとはサマー家の幼なじみであるリカルドの事。
詳細は手紙で送られてきたのだが、他のサマーの兄弟は忙しく行けないとのことだった。
その代わりお見舞いの品は楽しみにしててね!とアハト様から手紙があった。
あのパーティーの後、それぞれの家紋の人達で事態の収拾をしてくれていたらしい。
四代家紋に所属している家がほとんどなため、みんな大事にしないよう注意された。
そのおかげでこの事件はそこまで大きくはならなかった。
エイム様が毒を飲んだと聞いたプレント家の当主は犯人探しに乗り出ようとしたらしいが、エイム様自身がそれを止め、プレント家でも大きな動きはなかった。
正直、弟が毒を飲んだのに心配事のひとつもないプレント家の兄達には怒りを覚える。
けれど、本人のエイム様が気にしていないのだから深く掘り下げてはいけない。
私はエイム様に何時でもいらして下さい。と手紙を送った。
彼にもまだしっかりとしたお礼をしたい。
私の命はエイム様がいたからこそと言っても過言ではないのだから。
「レイン様、出来ました。」
「ありがとうカミリア、あなたが準備してくれるから私は毎日可愛くいられるわ!」
ゲームの時からレインはすごい美人だなって思ってたけど、鏡で見ると改めて納得してしまう。
カミリアちゃんはレインを引き立てるように準備してくれるから、その分さらにレインが美人に見える。
ドレスからメイクまで全部カミリアちゃんが選んでるから、全体的にまとまってて崩れることはない。
1度私がカミリアちゃんにドレスを着せようとしたんだけど、嫌がって来てくれなかったのよね…。
まぁ転生前の時だって可愛い服が嫌な女の子もいたから強要はしないけど、カミリアちゃん可愛いから絶対似合うんだけどな…とその時思ってた。
「レイン様がお美しいのでドレスを選ぶ必要などありませんから。素顔が素敵ですから化粧もそんなにいりませんし、髪も元々サラサラで手入れ要らず…」
「わっ分かったから!もう言わないで!恥ずかしいから///!」
カミリアちゃんを褒めると怒涛の褒め返しが来るから、迂闊に褒められないのが悔しい。
「リカルド様が来られるまで少し時間がありますから、ご自由に過ごされて下さい。」
「分かったわ、本当にありがとう。」
「いえいえ、では失礼します。」
静かに扉を閉め、カミリアちゃんは部屋を後にした。
私は机に向かいある人に手紙を書いていく。
リカルドが来てくれた後、こちらに来ていただけるかの手紙だ。
書く人が書く人なだけに内容がまとまらない。
伝えたい内容だけを簡潔に書かないと…。
レター用紙に書き始めて1時間が経過した。
やっと書き終えた手紙には、
[パーティーの時の事をお話したいので、お会い出来る日を教えて頂けると嬉しいです。]
という短い文があるだけだった。
もっと書くことあるはずなのに!書こうとすると上手く書けなくて結局こんな感じになっちゃう!
それでもこれ以上書く言葉が見つからず、私は手紙を封筒に入れて自分の名前を書いた。
これであとはシオン君に渡せば、あの人の元に届くはず。
手紙に1時間も使ってしまったせいか少し体がだるい。
これからリカルドが来るのに…。
手紙の送り主の事を考えると、なぜか少し顔が熱くなる。
パーティーでの事以外も、色々と話を聞かないとな…。
物思いに耽りながら外を見ていると、玄関の方にサマー家の馬車が止まったのが見えた。
私は急いで部屋を出て、リカルドの元へ向かった。
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