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2節[第一章]

第四十八話『兄妹』

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執務室の扉をノックすると、聞きなれた声が返事をする。それに従い扉を開ける。

扉が開いた瞬間、目の前が青に包まれた。

その原因は声を聞いて一瞬で理解した。

「レイン!よかった目が覚めて!」

めいっぱいの力で抱きしめられ少し息苦しい。

「スッスベイスお兄ちゃん…苦しい…。」

「あっ!ごめん…。」

離れたスベイス様の顔を見ると瞳が少し潤んでいるのがわかった。

自分はスベイス様を泣かせるほど心配をかけてしまったらしい。

「スベイスお兄ちゃん…ごめんね、心配かけて。」

「謝らなきゃいけんのは僕の方やでレイン。」

「えっ?」

「君を助けられへんかった。大事な妹を失うとこやったんや…。」

スベイス様は堪えていた涙をポツリポツリと落としている。

スベイス様は涙を流しながら私の頭を撫で始める。目から涙が零れているのに口元は笑っている。

スベイス様は一体今どんな感情で私を撫でているんだろう。

涙も止まりいつもの笑顔に戻ったスベイス様を見て私は安心した。

すると、今までフィブア様の横で黙っていたヤヌア様が私にデコピンをした。そしてムスッとした顔をしたまま私をジッと見つめ始めた。

少しジンジンする額を撫でながらヤヌア様を見ると、完全に拗ねている子供だった。

ヤヌア様も心配してくれていたのだろう。目の下のクマがくっきりと見える。

私は少し背伸びをしてヤヌア様の頭を撫でる。

ヤヌア様は驚いたようにこちらに振り返り人差し指で額を押してくる。

「レイン?俺が今どんな気持ちがわかる?」

「えっえっと…。」

「怒ってるんだよ?エイムさんを助けようとしたのはとっても立派やけど、そのせいでレインが死にかけるなんてお兄ちゃんは望んでないんやから!」

へっ?死にかけた?

「私って死にかけてたんですか?」

「ヤヌア、レインにはまず色々説明しなくちゃ。」

そう言いながら今まで椅子に座ったっていたフィブア様が私の前に立った。

「移動するからちょっとじっとしてな?」

ん??

足が浮く感覚がして咄嗟にフィブア様にしがみつく。自分の体勢を見て一瞬でわかった。

私フィブア様にお姫様抱っこされてる!?!?

てっていうか高い!高いよ!フィブア様の身長が高いせいですごい高い場所にいるみたいになってる!

怖っ!怖っ!!でも上を向いたら至近距離のフィブア様と目が合うし!そんなの耐えれる気がしないし!

頭の中で慌ただしくしていると、フィブア様がゆっくりと私をソファーに降ろしてくれていた。

「まだ病み上がりやからな、ソファーに座って無理しなや。」

「はっはい…。」

フィブア様はスベイス様のように泣いたり、ヤヌア様のように怒ったりせず、ただ私を甘やかしてくれる。

フィブア様は普段兄妹といられない分、お兄ちゃんとしていられる時間が少なく、甘やかせていないと思い込んでいるのかもしれない。

そんな事一切ないのに。

「スベイス、ヤヌア、2人は他の家紋にレインが起きたことを伝えてきてくれへんか?」

「おっけー!」

「分かった。」

「よろしくな。」

スベイス様とヤヌア様はそれぞれ部屋を後にし、フィブア様と私だけになった。

「まずはレイン、無事で本当によかったよ。」

フィブア様は私の頭を優しく撫でる。触り方がまるで割れ物を扱うような手つきで、少し緊張する。

「ありがとうございます…。」

フィブア様はポンポンと私の頭を叩いてニッコリと笑う。

「じゃあレインが聞きたいことを聞いてみ?」

優しい笑みを浮かべたままフィブア様は私が質問するまで待っていてくれた。

「あっ…あの、エイム様はご無事なんですよね?」

私の頭にずっと残っていた疑念のひとつ。それがエイム様だった。

私がシャインさんの力を借りたからといって容態が安定しているかは定かではない。

エイム様がまず無事なことを確認しなければ。

「レインのおかげでエイムはあの日から通常運転やで。毒飲んだ人間と思えんぐらいな。」

「よかった…。」

まずひとつ安心できた。あの日からカミリアに教えてもらったところ3日間眠り続けていた私。

まさかそこまでになるなんて思ってなかったから正直びっくり。

「ヤヌア兄様が仰っていた事って…」

「ん?レインが死にかけてたって話か?」

「はい。」

それがもうひとつの疑念。力を限界まで使ったわけではないのに…なんでだろう。

「まぁ死にかけてたっていうか…これはレインの力を見た俺やから冷静でいられるんよ。」

どういうこと??私のチート能力が関係してるって事??

「レインが寝てる間にレインの中にある力がちょっとやんちゃしてな?」

やんちゃ??

「1回レインの部屋がだいぶズタズタに切られたみたいになったんや。」

部屋がズタズタ!?

「多分レインの能力が寝てる間に漏れ出したんちゃうかなって…。」

うそっ!今まで1度もそんな事なかったのに!

力を使いすぎてコントロールが効かなくなったとか!?そんな事ありえるの!?

「ごっごめんなさい!私のせいで…。」

「ええんよ、部屋より危なかったんはレインやったんやから。」

えっ?私??

「レインの能力でズタズタにされたからクローゼットが倒れたり、飛んだ椅子がレインに向かってったりして、それを防ぐんが大変やったんや。」

そっそんなにヤバかったんだ…。そりゃヤヌア様も怒るよ…。

「私が寝ている間、みなさんで守っていてくれたんですね…。」

「ヤヌアなんかずっと付きっきりで見とったからね。後でちゃんと寝かさんとな…。」

ヤヌア様のクマが酷かったのは、それでだったんだ。

「ヤヌア兄様にもスベイスお兄ちゃんにもちゃんとお礼をしなきゃですね。」

「レインがいつもの様に笑っとるだけで俺らにとってはお礼になっとるんやけどな?」

そう言いながら微笑むフィブア様は私の頭を数回撫でてソファーから立ち上がった。

「レイン、四代家紋のやつらを順番に招こうと思うねんけど、誰に一番会いたい?」

「へっ!?そっそんなの私が決めちゃ…」

四代家紋の順番なんて、今後のウィンター家の関係に差し支えてもおかしくない!

そんな重要な事を私が決めるなんて無理だよ!!

「レインのお見舞いに来る言うてんねんから、レインが決めたらええんよ?ここはウィンター家なんやから。」

ウィンター家…そっか、私だって四代家紋の1人なんだよね。

四代家紋の中で…今一番会いたい人

一番、お礼を言いたい人…

「なら…」
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