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2節[第一章]

第四十六話『嫌な予感』

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その後、会場では当時の状況と犯人探しが始まっていた。

犯人はフィブア様やフィーヤ様の素早い判断とノイン様とフユーン様の行動力で、レイン様にドリンクを渡したスタッフが捕まった。

おそらく誰かに指示されてやったのだろうが、あの方達相手ならすぐに真犯人があばかれるだろう。

しかし、相手がもし相応の権力者なら既に証拠は隠滅されているだろう。

エイム様が倒れたのは、エイム様が飲んだドリンクに毒が仕込まれていたからだ。

毒の種類はドリンクの入っていたコップを検査して調べるらしい。

毒の種類が分かれば出処も突き止めやすくなる。そこから真犯人を絞る事も可能だろう。

僕も協力して調べたけど、結局その場では真犯人は出てこなかった。

そして一旦パーティーはお開きになり、残りのスタッフと僕とカミリアで後片付けをした。

レイン様はエイム様とフィブア様達がウィンター家へ連れて帰ることになった。

他の家紋のハーベスト家、フィーダー家、サマー家の方々は後に訪問すると言って今日は帰られた。

パーティー会場には僕とカミリアとスタッフのみ。

あらかた片付いた後はスタッフを帰して、僕とカミリアで最後の整理整頓。

「貴方ならレイン様について行くと思ったのに、どうして行かなかったの?」

「レイン様にはエイム様やフィブア様達がついてるんだ。僕が行かなくても大丈夫だろ?」

僕はその時レイン様を守れなかった悔しさから目を背けたくて、レイン様を自然と避けていた。

カミリアにはそれを察せられたらしく深くは聞いてこなかった。

けど、カミリアは僕が屋敷に戻る前にある物を渡してきた。

「貴方が何を悩んでるかは知らないけど、貴方にしか出来ないこともあると思うよ?シオン。」

彼女が渡してきたのはレイン様が落としたティアラだった。

「貴方がレイン様に返しなさい。“レイン様の従者”である貴方しか出来ないでしょ?」

カミリアはティアラを渡した後、ウィンター家で通常通り仕事をしていた。

僕はレイン様が目を覚まされるまでティアラを返すことが出来なかった。

レイン様が目を覚まされるまで僕は毎日看病をして、気づけば1週間が経っていた。

そしていつもの様に扉を開けると、いつもと同じ優しい笑顔をしたレイン様がいた。

僕は変わらないレイン様の笑顔に泣きそうになった。

そんな僕をレイン様は優しく抱き締めてくれた。

「おはようシオン。心配かけてごめんね?」

そう声をかけられて僕の止めていた涙が溢れ出した。

僕はこの優しい人の唯一の従者なんだと。

僕を選んでくれたこの人には幸せになって欲しい。

それだけは確かだった。

たとえ僕が彼女を幸せに出来なくても。

彼女が幸せなら

僕はそれでいいんだ。


























シオン君の話で犯人が捕まり、真犯人はまだ見つけられていない事がわかった。

時折寂しそうな顔をするシオン君はそれでも淡々とあったことを話していた。

「ありがとうシオン、私が眠っている間頑張ってくれていたのね。エイム様やお兄様達にもお礼を言わなくちゃ…。」

「あっ!レイン様、最近分かったことがありまして…」

??

シオン君が話し始めたのは私の飲み物に盛られていた毒の種類だった。

毒は無味無臭の特別な毒で普通では入手できないものらしい。

それでも真犯人が分からないとなると…

真犯人は相当地位が高い、王族か、“四代家紋”の誰か…。

「…。」

「レイン様?」

「ごめんシオン、少し席を外してくれる?」

「あっ分かりました、用があればお呼びください。」

「えぇ。」

気になる事もあるはずだが、シオン君は一礼して扉から部屋を去ってくれた。

私がシオン君に話しずらい事だから出ていって欲しい事を察してくれたのかな…。

転生者の私が“この”話が出来るのは一人しかいない。

「出てきて下さい、シャインさん。」

私が名前を呼ぶと白い光が目の前に現れ、その中から真っ白な布に身を包んだシャイン様が現れた。

「はぁいレイン、体調は大丈夫?」

「はい、もう大丈夫です。すみません、かなり力を貸してもらいましたよね?」

「別にいいよ?あれくらいの力、一眠りすればすぐ回復するし。」

フワフワと浮かんでいるシャイン様は私の隣に椅子を生み出しそこに腰かける。

指を鳴らしてクッキーを生み出しモグモグと頬張っている。

「シャインさんに一つ聞きたいことがあって…」

「どうぞ?なんでも答えるよ~。」

嫌な予感がしていて、それを違うと否定したくて…

神様であるシャインなら、なんでも知っているはずだから…

「私に毒を盛ろうとしたのは、ヒロインだと思うんです。」

「そうだね。」

「それは仕方ないんです、私と彼女は敵同士ですから。」

ヒロインが悪役令嬢を消そうとするのは当たり前だ。

だってストーリーの中のレインだってヒロインを殺そうと毒を盛ったんだから。

「けどヒロインが毒をドリンクに混ぜてスタッフに渡し、証拠を残さないようにその場を去るなんて、1人で出来るとはどうしても思えなくて…」

そうであって欲しくない。

そう思いながら私はシャイン様に聞いた。

「ヒロインを影から援助しているのは、四代家紋の誰かなんですか?」

今までクッキーを食べていたシャイン様の手が止まる。

横に目を逸らして考え込むように口を噤んだ。

私は冷や汗が止まらなかった。

本当にそうなら、私がパーティーで話した誰かが私を殺そうとしていた事になる。

その事実が怖くて、もしかしたら今この屋敷にいるフィブア様やスベイス様やヤヌア様が…。

今まで死亡フラグを折ってきたメインキャラクターに命を狙われているかもしれない。

そう考えただけで悲しくて、怖くて、震えが止まらない。

それを察したのかシャイン様が私の手を優しく握ってくれる。

俯いていた顔を上げシャイン様の顔を見る。

その顔はとても優しくて、本当に神様のようだった。

「大丈夫だよレイン、君には僕がいるから…君が死ぬ事は絶対ない。いや、僕がそんな許さない。」

シャイン様は私の額に手を置き微笑む。

「だから、今はまだお休み?次目覚める時は幸せな目覚めにしてあげる。」

その言葉を聞いたあと、私は沈むように眠った。

深い深い海に沈んでいるかのような気持ちだった。
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