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2節[第一章]

第四十五話『レインという人』

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爽やかな風が頬を掠めた。

優しい日差しが降り注ぐ部屋で私は目覚めた。

そこは見慣れたレインの寝室だった。

しばらく頭が回らず外を眺めていると扉から音がした。

扉を見ると目を潤ませたシオン君が立っていた。

シオン君は私の傍に座り、下を向いたまま無言だった。

彼にもかなり不安な時間だっただろう。

エイム様を助けてから記憶が無いため、おそらく私はエイム様を助けるために力を使って、今まで眠っていたのだと思う。

一体何日寝ていたのかは分からないが、シャインさんと特訓していた時は、普通の睡眠時間で済むようにシャインさんが止めてくれていた。

けれど、今回は私が出来るめいっぱいの力を使ったため、どうなのか分からない。

シオン君から色々聞きたいことはあるけれど、まずやる事はひとつかな。

私は下を向くシオン君の頭を優しく撫でる。

「おはようシオン。心配かけてごめんね?」

シオン君は小刻みに震えながら泣いていた。

泣きながら彼は自分が情けないと何度も話した。

会場で私の従者として何かしておこうと考えたシオン君は、私が悪役令嬢という噂を流したヒロインを見張ることにしたらしい。

私の社交界デビューパーティーをどこかで邪魔しに来るかもしれないとヒロインから目を離さず自然を装って見ていたと。

実際ゲームではヒロインがレインの前に現れるのだが、シオン君が言うには目立った動きは特になく、特定の相手とずっと一緒にいることはなかったらしい。

ヒロインを見張っている最中に会場から悲鳴が上がり、駆けつけた時には私がエイム様を治療して倒れていたようだ。

肝心な時に傍におらず何も出来なかった事が相当悔しいみたいだった。

けれどシオン君が傍にいなかったのはヒロインを見張るためだけではなく、私の社交界デビューパーティーで私がたくさんの人と交流する事をしやすくする為に離れていたのだと思った。

従者が常にいる人とは話しずらいのも事実だし、何よりシオン君はハーベスト家の消えていた四男でもある。

私と行動し公に顔が広まるのは良くないだろう。

私だって常にそばにいてくれとは言わなかった。

シオン君にも自由にパーティーを楽しんで欲しかったから。

「だから、そんな風に思わないでシオン。それにあなたは今から私にとっても素晴らしい事をしてくれるじゃない。」

「素晴らしい事?」

「えぇ、パーティー会場で私が倒れた後の話を聞かせて?あなたが知る全部の情報をね?」

シオン君が私が倒れた時にその場にいたのなら、その後を知っているはず。その情報は私にとってとても重要な事だから。

シオン君は涙を拭いて顔を上げた。その目はもう幼い時のシオン君ではなく、従者として輝く真っ直ぐな瞳だった。

「分かりましたレイン様!知っている全ての事を正確にお話致します!」

それからシオン君は私が倒れた後の出来事を話し始めた。























倒れたレイン様をエイム様が抱え会場を出ていかれた。

僕は急いで後を追った。レイン様が倒れたのを知っている僕は、会場のキッチンから氷を借り水を貯めた桶を持ち清潔なタオルを準備した。

中にいるエイム様の分の水も持ち、エイム様が入っていった扉をノックする。

「誰だ?」

中からエイム様の声が聞こえる。僕が返事をすればエイム様が扉を開けてくださった。

僕の両手が塞がっていたのを分かっていたようだ。

中に入りレイン様の額に濡らしたタオルを置き、エイム様とお話した。

「すみません、レイン様を助けて下さって。」

「いや、救われたのは私の方だ。彼女は本当にこちらが不安になるくらい優しい人だ。」

彼は少し悲しげな目でレイン様を見つめた。

彼の気持ちは僕にも理解出来る。

なんでも出来てしまうレイン様はそのせいか肝心な時に人に頼らない。

悪役令嬢の噂もフィーダー家での事件もフィブア様の件も何もかも1人で解決しようとして、傷ついて、それを隠して、誰も巻き込まないように。

エイム様はレイン様の婚約者だから余計感じるのだろう。

レイン様は光の神から力を授けられ、その力であらゆるものを救ってきた。

しかし、レイン様を助ける人はいるのか?

レイン様が人を助けても、レイン様が辛い時に助けられる人がいなければ、彼女は永遠に苦しむ事になってしまう。

だから僕は、その人になりたかった。

レイン様を助けられる、支えてあげられるひとつの存在に。

けど、僕は確信した。

レイン様を助けるのは、エイム様だ。

僕ではなく、彼なんだと。

レイン様にとって僕は、どこまでいっても助けてあげる側として写ってしまう。

でも、エイム様は違う。

レイン様はエイム様には背負っている重荷を預ける事が出来る気がする。

エイム様なら、レイン様を助けられる。

「僕は、エイム様ならレイン様を幸せに出来ると思っています。エイム様だから、レイン様を救えるのだと…そう、思います。」

僕では出来ない。それが悔しくて悔しくて、泣きたくなる気持ちを抑えた。

彼にしか出来ない。目の前にいる、エイム・プレントにしか出来ない。

僕の恩人を救う事が出来るのは僕ではなく彼。

僕は頭を下げて頼むことしか出来ない。

けれど、レイン様には幸せになって欲しい。

重荷を無くして、無邪気な笑顔で笑える日々をすごして欲しい。

「レイン様をお願いします、エイム様。」

僕は頭を下げエイム様に託した。

レイン様の苦しみをどうか無くしてあげて欲しいと。
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