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2節[第一章]
第四十二話『夏の家紋』
しおりを挟む「どうしたの2人とも?会場で走ったら危ないよ?」
慌てて走ってきた2人をアハト様が落ち着かせている。
パーティー会場で何か問題が起きたなら、主役である私が対処しなければならない。
「なっ何かあったのですか?」
「あれ?レイン!?」
「あぁレインちゃん!」
「えっ?」
慌てていたのが嘘かのように2人は私を見て満面の笑みになった。
「主役やから会えへんのちゃうかって思っとったんやけど、会えてよかったわ!」
「また見ないうちに一段と可愛なったな~!」
シーブン様とゼクス様はサマー家の次男と三男、リカルドのお兄ちゃんでもありレインの大切な親戚のお兄さん的な存在だ。
2人もレインを妹のように可愛がっていた為、レインが社交界デビューした事を心から喜んでくれているようだ。
「社交界デビューおめでとうレイン!」
「これからますますレインの魅力が世に出てまうな。」
「お2人ともありがとうございます!そう言っても私からしか何も出ませんよ?」
「アハハハッ!何もいらんて!」
「主役を独り占めも良くないやろうしな!」
2人は私の頭を交互に撫でる。家族のように喜んでくれているのが素直に嬉しい。
「お前らな、いくらレインが可愛いからって私を無視するのは良くないぞ?」
「あっ!エイム!」
「エイムさんお久しぶりです!」
「はぁ…まぁ元気ならいいが…。」
いつもの事なのかエイム様はため息は着いたものの微笑みながら2人を見つめている。
エイム様は横目でアハト様の方を少し見て、クスッと笑ってから私の横で頭を撫で始めた。
アハト様はその姿を見て静かに笑っている。
そしてふと、アハト様がシーブン様とゼクス様の方を向いて言い出した。
「ところで2人とも、慌ててたのは何だったの?」
「ああっ!せや!」
「大変なんや兄ちゃん!」
アハト様に言われて思い出した2人はさっきあった出来事を話し始めた。
その話は私にとってとても恐ろしい話だった。
ヒロインが2人に接触して来たらしい。特に目立った動きはなかったのに…。
聞けばヒロインと出会ったのは飲み物を取った時らしい。
戻ろうとした際に近くでヒロインが転び、ゼクス様が手を伸ばしたところ手を取らず抱きついて来たらしい。
その後に一緒に踊らないかと誘われ、全力で逃げて来たのだと。
ゲームではヒロインがこのパーティーでゼクス様と会い好感度をあげるイベントもあるが、その時は伸ばされた手をそっと取り、笑顔でお礼を言うことで好感度が上がるのだが…。
もしかしてヒロインになった子ってゲーム下手なの??
2人が言うには笑顔の中にとんでもない不気味さを感じたのだとか。
とりあえずシーブン様とゼクス様に何もなくてよかったと思う。
「そんな事があったのですね。」
「フユーンから聞いとったけどあれはヤバいわ!」
「とても四代家紋の令嬢じゃないよ…。」
思い出した2人はあまりに嫌だったのか顔が引きつっている。
「新しくフィーダー家に入ってきた平民出身の子って噂以上にやばそうだね…。」
「ごめんな2人とも…後で妹にはきつく言っとくよ。」
「いやいやフィーヤさんが謝る事やないで!」
「せやせや!フィーヤさんはなんも悪ないし!」
ヒロインがこんなだとお兄ちゃんであるフィーヤ様は大変だろう。悪役令嬢のレインもこうだったなら、ゲームの中のフィブア様達はよく最後までレインを好きでいてくれたな…。
「おっと!そろそろ行かなきゃ!」
「ん?アハト兄さんどっか行くん?」
「あぁ、ちょっとお偉いさんと別室でお話がね。2人は楽しんでて。」
そう言うとアハト様は飲み終えたグラスをテーブルに置き、扉へと歩いていった。
フィーヤ様はヒロインを探して説教しに行くらしい。シーブン様とゼクス様はせっかくだからとフユーン様とズハイ様に会いに行くのだとか。
そして私はエイム様と二人っきりになった。
少し疲れたので椅子に座って休憩すると言ったら、彼も私の隣で休むと言って隣に座った。
「あの…エイム様?」
「何だ?」
「あっあの…先程から手を握っていらっしゃるのは何か意味があるのですか?」
「意味がなければしてはいけないのか?」
「あっいえ!そういう訳ではないのですが…///」
正直握られている手が気になって休憩どころではなくなっているんだけど。
エイム様が私を見つめながら微笑むので、手を振り払う訳にもいかない。
何とか1人になって落ち着きたい。
「う~ん…。」
「どうした?落ち着かないなら一緒に別室に行って休むか?」
「ひゃっ!?」
下を向いている時に急に下に潜り込まないで!
ただでさえ隣でドキドキしてるのにそんな事されたら心臓が持たない!!
私とエイム様は一緒にいちゃいけないから、徐々に距離を置いてエイム様には素敵な人を見つけてもらわないといけないのに!
なぜかエイム様が距離を詰めてきている気がするのよね…。エイム様と私は私の一方的な気持ちで婚約しただけの関係でそういう気持ちはないはずなのに…。
でも距離を詰められてるのが嫌じゃないって感じるあたり私はエイム様の事、やっぱり好きなんだな…。
それでも悪役令嬢の私と一緒にいたらエイム様は幸せになれない。
好きでも一緒にいれないって、こういう気持ちなんだ…。
ゲームのレインもこんな気持ちだったのかな…。
エイム様と両思いだったら別のハッピーエンドになるのかもしれないけど。
そんな事ありえないよね…。
「レイン?」
「わっ私!飲み物取ってきます!」
ダメダメ!今日そんな事考えてる場合じゃないんだから!!
落ち着くためにそっと手を離して私はエイム様と私の分の飲み物を取りに向かった。
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