上 下
36 / 77
1節[第三章]

第三十三話『プレゼント』

しおりを挟む

屋敷に帰るとシオン君とカミリアちゃんが迎えてくれた。

「お帰りなさいませ、レイン様。」

「お帰りなさいませ。」

シオン君に伝えずに突然私がいなくなったのは今回で2度目だ。もしかしたらかなり怒っているのかもしれない。

少し怒気を含んだようなシオンの声に思わず笑顔が引きつってしまう。

ちなみにフィブア様はまだ仕事の続きがあるようで、エイム様の元へ向かった。正直、フィブア様がいてくださった方が心強くはあった。

シオン君やカミリアちゃんだけでなく、今回はスベイス様、ヤヌア様にも詳細を伝えず勝手な行動をしてしまった。

屋敷に帰れば必ず説教されるのは目に見えているので、帰るのが少し億劫ではあった。それでも、屋敷でやり残しているあれ・・を仕上げなければならないと思い、結局帰ってきたのだ。

「ただいま2人とも。シオン…怒ってる?」

「…。」

シオン君は少し目をつぶり、ため息をひとつ吐き出して私を見た。その目には怒りではなく呆れのような感情が現れている。

「レイン様が思い立った瞬間行動される事はもう把握致しましたから。怒ってはいませんよ?」

目が笑ってないよシオン君。完全に呆れてるよね私の事!シオン君に呆れられるのも無理はない行動しかして来てないけど!ちょっと悲しいよ!?

「“ふふっ、シオンはレイン様が大好きですからね。傍におられないと不安で仕方ないのですよ。”」

「そっそうなのかな?だったら嬉しいけど///」

「カミリア?レイン様に何言ったんだ?」

「ナイしょです。」

あれ?今カミリアちゃんの言葉、翻訳無しでもハッキリ聞こえた?

「カミリア、もしかして私たちの言葉でも話せるようになったの!?」

「“あっ!まだ練習中です!カタコトでしか今は話せませんが、いつかレイン様とこちらの言葉で話せるようにと…。”」

カミリアちゃんがいた冬の街カミリアタウンでは、独自の言語が発達していた。言語は元々どの街でも同じで、別れ始めたのは中央都市ができ始めたあたりから。

その時代では、王に従う者だけが中央都市に住める条約だった。しかし、王に反発した4つの王族がいた。

その反発した王族の1つがカミリアという名前だった。カミリアは冬を司っており、他3つの王族たちも季節を司っている。

春をブロッサム、夏をサンフラワー、秋をコスモス、彼らはそれぞれ話し合い、中央都市を囲むように、それぞれ東西南北へ散って新しい街を作った。

現在も散った王族の街は残っている。

花が美しく咲く東に位置する春の街ブロッサムタウン、観光地として人気の南に位置する夏の街サンフラワータウン、食で有名な西に位置する秋の街コスモスタウン、そして年中雪が降る北に位置する冬の街カミリアタウン。

コスモスタウンはフィブア様のフラグを回避するために訪ねた西の街だ。季節を司っている時点で察せられるかもしれないが、私たち四代家紋がそれぞれの街との繋ぎになっている。

昔の王がその形で講和を結び、今もそれが残っている。家紋と東西南北の街が手を取り助け合いながらそれぞれの街を支えている。

簡単に言えば、四大家紋が司っている季節の街がその家紋に対して友好関係を結んでいるということだ。

しかし、中央都市から離れ独自に発展してきた街の人々は言語に特徴が現れ、私たちとは違う言語を使うようになっていた。

それがカミリアが普段使う言葉。フィブア様とエイム様達と西の街を訪ねた時も街の人達との会話は私が通訳をしていた。街の長は中央都市に来ることもあるため、こちらの言葉で話せるようだったが。

「カミリアが、私と話したい思いで努力してくれているのは素直に嬉しいわ。頑張ってね!」

「“はい!頑張りますレイン様!!”」

聞けばカミリアちゃんに教えているのはシオン君らしい。あまり表立って言わない子だが人一倍優しいのを私は知っている。

シオン君はハーベスト家の一件以来冷静で落ち着いた雰囲気のある男性へと変わった。レインより2歳年下のはずなのだが、今や私より歳上に見えるほど大人っぽい。

未だに可愛かったシオン君の姿が頭から離れない私は、今のシオン君に慣れずにいる。あまり会っていないのも無意識に私が避けてしまっているのかもしれない。

「レイン様?どうかなされましたか?」

「あっ!ううん!何でもないわ!」

初めに出会った時はあんなに可愛い男の子だったのに…今はもう色っぽい男性になってしまったのね…。男の子の成長は早いって聞くけど、本当なのかも。

ちょっと寂しかったり…あっ!あれって…

前を歩くシオンの首には、私がプレゼントしたチョーカーがあった。正面に輝いている紫の宝石は、その上に輝くシオンの瞳そっくりだ。

同じ時にプレゼントしたつなぎはたまに着てくれているようだが、私専門の従者として働く中で自然とスーツを着ている時間の方が長くなってしまうようだ。

それでも欠かさずチョーカーは付けてくれていると思うと、ちょっとした事だが少し嬉しい。

「シオン本当に優しいね…私シオンの事大好きだよ!」(ニコッ

シオンは少し振り返り小さくありがとうございますと言って前を向いた。耳まで真っ赤になって照れている姿は、まだまだ可愛いシオンの名残りがあるのだと少し嬉しくなった。

そういえばカミリアちゃんには何もプレゼントあげてなかったな…。

「ねぇカミリア?」

「はい、レイン様」

「何か欲しい物はない?シオンにはチョーカーをプレゼントしたから、カミリアにも何かあげたくて。」

カミリアちゃんは可愛いから、どんなアクセサリーも似合うと思う。ネックレス、イヤリング、髪飾り!

カミリアちゃんは少し微笑んで首を振った。

「“私はもう頂きましたから、これ以上は必要ありません。”」

私、カミリアちゃんに何かあげたっけ?

「本当にいいの?」

「“はい、私は[カミリア]という立派な名前をもうレイン様に頂きましたから。」(ニコッ

そう言ったカミリアちゃんの笑顔は、冬の朝日のように静かな光をまとっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します

シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。 両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。 その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...