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外伝 過去と未来の断片集
外伝4 雪の絶景
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「「山登り?」」
「あぁ、今度のゴールデンウィークに行こうかなって」
ゴールデンウィークが近づく4月の下旬。
大学の学食で昼食を食べながら、学と佳奈の問いかけにオレは頷く。
「修哉が……あ、オレの親友なんだけど、そいつがレジャー好きでさ。今度、初心者用の山登りコースに行こう、って話しているんだ」
2人に手元のパンフレットを見せながら答える。
いくつかの山の資料と、山登りの手引きと書かれた本、山登りに必要と思われるもののリスト等、食堂の机に広げられているモノを見ながら、学と佳奈は『ふーん……』と、少し面白くなさそうな顔をした。
ふと、2人は互いの顔を見て……にやり、と笑う。
「なぁ、博人」
「ねっ、博人」
「僕らも」
「私たちも」
「「連れていけ」」
「……へ?」
ずいっ、と顔を近づけながら学と佳奈はそう宣言し、オレは近づいた分だけ後ろに下がる。
「急にどうしたんだよ、2人とも。と言うか、大型連休なんだから実家に帰ったりしないのか?」
「移動するのが面倒だし」
「休み期間暇なのは嫌」
面倒って、暇て。
オレに比べたら、2人はまだ地元近いだろ。
「そう言うわけで、暇する僕らも連れてけ」
「そうよ、連れて行きなさい博人」
……何だろう、すっごいデジャヴっつーか、どこかで見たような光景な気がするのは気のせいか。
必死に思い出すけど、微妙に思い出せない。
多分、異世界行ってた時の光景なんだろうけど……あ、思い出した。
エルフェル・ブルグに残れコールしていた、アルムとリレルだ。
そんなところだけ何で2人とそっくりなんだよ、学と佳奈は。
「けどなぁ……今回行く場所、そこそこ体力居るし、怪我した時の為のワクチンも予約して打たないとだから、今からはきついような」
どうしたもんかとオレは頭を悩ませる。
一方でどうにかしろ、と言わんばかりの視線を送って来る2人。
うん、オレ1人で悩んでも仕方ない。
ここは、大ベテランに相談するとしよう。
オレはスマホを取り出し、SNSアプリを起動して目的の人物のチャット画面を開いて連絡を取る。
【そう言うわけでさ、学と佳奈も参加したいって。初心者どころか山登り初体験な2人が楽しめる場所ない? 修哉】
【山登り初体験か……適当な山のハイキングコースでも連れて行けばいいんじゃないか】
【それも思ったんだけどさ、最初が肝心ってことで。まず、印象に残って感動する光景を見てくれれば、良さも分かるってもんだしさ】
【なるほどな。良い物に触れて、感情を伴った経験をするってわけか。わかった、そう言う事なら1つ良い場所がある。レンタカー借りて、皆で行こう】
さっすが修哉。
もう行き先の候補を見つけてくれたみたいで、チャット画面に特定のURLが送られてきた。
オレはそのサイトを開き……へぇ、こんな場所があるのか。
「学、佳奈。ここに行かないか? 修哉が薦めてくれたんだけど」
2人にスマホの画面を見せながら問いかける。
「何処だここ、すげぇな雪の壁」
「すっごく高いみたいよね。何センチ?」
「センチってレベル超えてるよ、高い時は20メートルぐらいらしい。乗り物に乗り継いで行ける場所で、今の時期なら絶景なんだってさ。どう?」
オレの問いかけに、2人はとびっきりの笑顔を浮かべて答えた。
「行こうぜ博人!」
「大賛成! 行きましょう!」
========================
5月3日の午後9時。
アパートの外で待っていると、レンタルしたキャンピングカーに乗って修哉がやって来た。
「やっ、初めましてお2人さん。おれは阿久津 修哉、今日はよろしく」
「どうも、朝倉 学です」
「理上 佳奈です、無理言ってすいませんでした、阿久津さん」
「修哉でいいよ。おれも2人の事は、学くんと、佳奈さんって呼ばせて貰うから。防寒対策の服はちゃんと持ったか?」
修哉の言葉に、2人は手に持っている荷物を見せる。
オレのアドバイスで詰め込んだ防寒具その他一式なわけだが……
あまりドヤった顔しないでくれ、これで不足分があったら睨まれるのオレなんだから。
「博人は久しぶり。どうだ、大学生活は」
「まだ入学して1か月ぐらいだろ。サークル決めて、ゼミ決めて、授業受けてと慌ただしいよ。修哉は?」
「おれもだいたい同じ。さて、全員乗った乗った!」
修哉に促されて、オレらはキャンピングカーに乗り込む。
オレと修哉が交代で運転して、目的地を目指すことになる。
前半戦はオレが運転するので運転席に座り、助手席が修哉、後方の広い席に学と佳奈と言う配置だ。
「全員、シートベルトしたか? 出発するぞー」
はーい、と元気な声を聞いて、オレはギアポジションをDに切り替えて出発する。
「しっかし、お前ら同じアパートに住んでいたんだな」
「あー、それはオレもびっくりしたんだよ。入学式とオリエンテーション終えて、途中まで一緒に帰るかーって歩いていたはずなのにさ、3人同時に、"オレ、僕、私、ここだから" って立ち止まってさ」
「ぶはっ! 仲良いなお前ら」
ひーひーと笑いながら、修哉は足をばたつかせる。
本当に、あの日はびっくりしたことだらけだったよ。
……と言うか、今更だけど修哉に対してもちょっとデジャヴが。
学や佳奈ほどじゃないけど、なーんか引っかかるんだよな。
しばらくその理由を考え込むが……うん、わからん!
「学くんと佳奈さんは、眠くなったら教えてくれよ。車止めて、寝床のセットするから」
「りょーかい」
「分かりました」
2人は意外と揺れるなーと喋りながら、備え付けられているテレビの電源を入れる。
楽しそうな会話を聞きながら、オレは暗い夜道を走り、高速道路へと向かう。
「急だったのに、良くキャンピングカーなんて残っていたな」
「叔父さんのツテで見つけて貰ったんだ。あ、お前とおれの支払い金額、ちょっと高めにしたからな」
「はいはい、それぐらいは大丈夫だよ」
「なら良かった。そいや、美紀さんは? もう帰ったのか」
「姉ちゃんなら今日の昼過ぎに高速バスで帰ったよ」
池袋と秋葉原で入手した戦利品を持って、ほくほく笑顔で帰られましたとも。
いやぁ、荷物持ちが大変だったよ。
おまけに道中のゲーセン寄って、地元じゃなかなか入荷しない作品のぬいぐるみ、缶バッチ、アクスター! とか言いながら、取り出せない貯金箱に100円突っ込んでいくんだよ。
数分で1000円が吹っ飛んだ光景は、流石のオレでもちょっと引きかけた。
予約したコラボカフェでも、あれこれ品物買っていたけど……バイト代で足りてるんだろうかと心配になってしまう。
「執事喫茶とやらには行ってきたのか」
「行ってきた。めっちゃびびったよ、入った瞬間に "お坊ちゃま" って言われるとは思わなかった。男性客もちゃんと想定されていてさ。あと、フットマンとバトラーとかもしっかり服装違ってた。むしろ役割分担までちゃんとやっていて、ニ重の意味で驚いた」
イケメン&ダンディーな人達に囲まれて、クレインさんの気分味わえたよ。
本当に凄かった……やばいね、お坊ちゃまって呼ばれる感覚。
なお、その後メイド喫茶にも行ってみた、つーか、交換条件で姉ちゃんに連れて行かされた。
そんな会話をしながら、休憩を挟みつつ交代で運転すること約6時間と30分。
午前3時30分頃には目的地の駐車場に辿り着き、オレと修哉も軽く仮眠を取る。
―――そして、午前4時30分頃。
「博人、そろそろ行くぞ。当日券の為に並ばないと」
「ふぁぁぁ……おはよう修哉。そっか、Web予約はさすがに無理だもんな」
スマホの充電が100%なのを確認して、オレたちは学と佳奈を起こさないようにキャンピングカーを出る。
そのまま、駅にある日帰り往復チケット売り場へ行くと……うわ、もう人並んでいるや。
防寒具を着こんではいるものの、寒さで震えながらオレたちはチケット売り場が開くのを待つ。
2人でスマホのソシャゲをして待っていると、いつの間にか起きたのか、学と佳奈がオレたちの所へやってくる。
「悪い、めっちゃ寝てた」
「おはようございます、2人共」
「おはよー、学、佳奈」
「もうちょいしたらチケット売り場が開くから、今のうちに顔洗ったり着替えしておけよ……っと、開いたみたいだ」
オレと修哉は立ち上がり、列の進みに沿ってチケット売り場まで行く。
日帰り往復チケットを無事購入し、キャンピングカーに戻って朝食を食べ、指定時間にケーブルカーに乗って、まずはバスに乗る駅まで移動。
次に、指定の高原バスに乗って50分間揺られながら山を登っていく。
標高は約2450メートル。目的地に近づいてくると、森林限界が近いのか木もまばらになって来た。
「こんな場所、歩いて登ったらどれだけ時間掛かるやら……」
以前、7日間かけて山越えしたことを思い返し、苦笑いしながら呟く。
「トレッキングコースこそあるが、今の時期に歩く奴はいないだろ。行くなら夏か秋だな」
「だーよなー」
こんな寒い時期に歩くのはきついよな、と思いながら眺めていると……じょじょに雪の壁が高く高くなってきた。
進むごとにじわじわと、進めば進むほど、見上げるのが辛い位の高さになっていく。
「おおおお……!」
「凄いわね、これ」
後ろに座っていた2人も、感嘆のため息を吐きながらスマホでそれを撮影する。
「後でここを歩けるから、急がなくていいぞ」
「歩けるの!?」
「その為の場所だからな、ほら、そこの人たちとか」
修哉が指さすと、広めにとってある道路の片側車線に多くの観光客が居た。
それぞれが雪の壁を背に記念撮影をしている。
やがて終点である建物が見え始め、バスはゆっくりとその駐車場に止まった。
荷物を持ち、バスを降りると途端頬に冷たい風が当たる。
視界に飛び込んできたのは、辺り一面の銀世界と、多くの山々。
まるで別世界のような光景が広がっており、ついつい見とれてしまう。
「ここが、この時期限定の絶景ポイント。"雪の大谷" だ。毎年ここはGPS使って道路を測量し、ブルドーザーを使って雪面をカンナで削るように除雪しているらしい」
「へぇぇ」
「って、これ、毎年除雪してるのか!?」
「凄いわね……」
駐車場から逆走し、ウォーキングゾーンと呼ばれる場所をゆっくりと歩く。
15分ほど歩いた所で、この近辺の最高地点に到着し……オレと学、佳奈は口をあんぐりと空けながら雪の壁を見上げる。
「間近で見ると、さらに凄いな……」
「確か、20メートルぐらい、だったわよね? ビル6~7階ぐらい?」
「それぐらいだな。おっと、写真撮ろうぜ、写真」
荷物から三脚を取り出して、オレはスマホをセットする。
邪魔にならないようにしつつも、絶景ポイントを探し出し、タイマーセットと。
「修哉と学、ちょっと右。佳奈はそこでオッケー。よし、いくぞー!」
スタートボタンを押して、3人と合流。
全員でポーズを取って、記念となる1枚目が撮影されたのだった。
そのまま、何枚かポーズ変え場所を変えで撮影しつつ、ホテルもある建物まで戻り、今度は雪の上を少し歩いて360度と言っていい位に広がる銀世界を堪能する。
「はー……寒いけど、空気が美味しい」
「だな。ほんと、日本と思えない光景だよな。むしろ海外? 異世界? いやぁ絶景だ」
佳奈は大きく腕を広げて深呼吸。
学も右手を自身の額に当てながら、周囲の景色を眺めている。
異世界、ね。
確かに、見ようによっては異世界に見えるよなこの光景。
……なんだろな、少し探せば異世界っぽい場所があるって事実に、ちょっとおかしくて笑ってしまう。
「なっ、博人もそうおもうだろ?」
「ん? あぁ、そうだな。確かにそれぐらい絶景だよな」
幻想的な光景を眺めながら、オレは学の言葉に頷いた。
(サディエルたちにも、見せたいよなー……まぁ、無理なんだけどさ)
胸元にあるマジーア・ペンタグラムに触れながら、スマホを掲げて1枚撮影する。
この日撮影された写真の数々は、オレの宝物の1つとなるのだった。
「あぁ、今度のゴールデンウィークに行こうかなって」
ゴールデンウィークが近づく4月の下旬。
大学の学食で昼食を食べながら、学と佳奈の問いかけにオレは頷く。
「修哉が……あ、オレの親友なんだけど、そいつがレジャー好きでさ。今度、初心者用の山登りコースに行こう、って話しているんだ」
2人に手元のパンフレットを見せながら答える。
いくつかの山の資料と、山登りの手引きと書かれた本、山登りに必要と思われるもののリスト等、食堂の机に広げられているモノを見ながら、学と佳奈は『ふーん……』と、少し面白くなさそうな顔をした。
ふと、2人は互いの顔を見て……にやり、と笑う。
「なぁ、博人」
「ねっ、博人」
「僕らも」
「私たちも」
「「連れていけ」」
「……へ?」
ずいっ、と顔を近づけながら学と佳奈はそう宣言し、オレは近づいた分だけ後ろに下がる。
「急にどうしたんだよ、2人とも。と言うか、大型連休なんだから実家に帰ったりしないのか?」
「移動するのが面倒だし」
「休み期間暇なのは嫌」
面倒って、暇て。
オレに比べたら、2人はまだ地元近いだろ。
「そう言うわけで、暇する僕らも連れてけ」
「そうよ、連れて行きなさい博人」
……何だろう、すっごいデジャヴっつーか、どこかで見たような光景な気がするのは気のせいか。
必死に思い出すけど、微妙に思い出せない。
多分、異世界行ってた時の光景なんだろうけど……あ、思い出した。
エルフェル・ブルグに残れコールしていた、アルムとリレルだ。
そんなところだけ何で2人とそっくりなんだよ、学と佳奈は。
「けどなぁ……今回行く場所、そこそこ体力居るし、怪我した時の為のワクチンも予約して打たないとだから、今からはきついような」
どうしたもんかとオレは頭を悩ませる。
一方でどうにかしろ、と言わんばかりの視線を送って来る2人。
うん、オレ1人で悩んでも仕方ない。
ここは、大ベテランに相談するとしよう。
オレはスマホを取り出し、SNSアプリを起動して目的の人物のチャット画面を開いて連絡を取る。
【そう言うわけでさ、学と佳奈も参加したいって。初心者どころか山登り初体験な2人が楽しめる場所ない? 修哉】
【山登り初体験か……適当な山のハイキングコースでも連れて行けばいいんじゃないか】
【それも思ったんだけどさ、最初が肝心ってことで。まず、印象に残って感動する光景を見てくれれば、良さも分かるってもんだしさ】
【なるほどな。良い物に触れて、感情を伴った経験をするってわけか。わかった、そう言う事なら1つ良い場所がある。レンタカー借りて、皆で行こう】
さっすが修哉。
もう行き先の候補を見つけてくれたみたいで、チャット画面に特定のURLが送られてきた。
オレはそのサイトを開き……へぇ、こんな場所があるのか。
「学、佳奈。ここに行かないか? 修哉が薦めてくれたんだけど」
2人にスマホの画面を見せながら問いかける。
「何処だここ、すげぇな雪の壁」
「すっごく高いみたいよね。何センチ?」
「センチってレベル超えてるよ、高い時は20メートルぐらいらしい。乗り物に乗り継いで行ける場所で、今の時期なら絶景なんだってさ。どう?」
オレの問いかけに、2人はとびっきりの笑顔を浮かべて答えた。
「行こうぜ博人!」
「大賛成! 行きましょう!」
========================
5月3日の午後9時。
アパートの外で待っていると、レンタルしたキャンピングカーに乗って修哉がやって来た。
「やっ、初めましてお2人さん。おれは阿久津 修哉、今日はよろしく」
「どうも、朝倉 学です」
「理上 佳奈です、無理言ってすいませんでした、阿久津さん」
「修哉でいいよ。おれも2人の事は、学くんと、佳奈さんって呼ばせて貰うから。防寒対策の服はちゃんと持ったか?」
修哉の言葉に、2人は手に持っている荷物を見せる。
オレのアドバイスで詰め込んだ防寒具その他一式なわけだが……
あまりドヤった顔しないでくれ、これで不足分があったら睨まれるのオレなんだから。
「博人は久しぶり。どうだ、大学生活は」
「まだ入学して1か月ぐらいだろ。サークル決めて、ゼミ決めて、授業受けてと慌ただしいよ。修哉は?」
「おれもだいたい同じ。さて、全員乗った乗った!」
修哉に促されて、オレらはキャンピングカーに乗り込む。
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前半戦はオレが運転するので運転席に座り、助手席が修哉、後方の広い席に学と佳奈と言う配置だ。
「全員、シートベルトしたか? 出発するぞー」
はーい、と元気な声を聞いて、オレはギアポジションをDに切り替えて出発する。
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「あー、それはオレもびっくりしたんだよ。入学式とオリエンテーション終えて、途中まで一緒に帰るかーって歩いていたはずなのにさ、3人同時に、"オレ、僕、私、ここだから" って立ち止まってさ」
「ぶはっ! 仲良いなお前ら」
ひーひーと笑いながら、修哉は足をばたつかせる。
本当に、あの日はびっくりしたことだらけだったよ。
……と言うか、今更だけど修哉に対してもちょっとデジャヴが。
学や佳奈ほどじゃないけど、なーんか引っかかるんだよな。
しばらくその理由を考え込むが……うん、わからん!
「学くんと佳奈さんは、眠くなったら教えてくれよ。車止めて、寝床のセットするから」
「りょーかい」
「分かりました」
2人は意外と揺れるなーと喋りながら、備え付けられているテレビの電源を入れる。
楽しそうな会話を聞きながら、オレは暗い夜道を走り、高速道路へと向かう。
「急だったのに、良くキャンピングカーなんて残っていたな」
「叔父さんのツテで見つけて貰ったんだ。あ、お前とおれの支払い金額、ちょっと高めにしたからな」
「はいはい、それぐらいは大丈夫だよ」
「なら良かった。そいや、美紀さんは? もう帰ったのか」
「姉ちゃんなら今日の昼過ぎに高速バスで帰ったよ」
池袋と秋葉原で入手した戦利品を持って、ほくほく笑顔で帰られましたとも。
いやぁ、荷物持ちが大変だったよ。
おまけに道中のゲーセン寄って、地元じゃなかなか入荷しない作品のぬいぐるみ、缶バッチ、アクスター! とか言いながら、取り出せない貯金箱に100円突っ込んでいくんだよ。
数分で1000円が吹っ飛んだ光景は、流石のオレでもちょっと引きかけた。
予約したコラボカフェでも、あれこれ品物買っていたけど……バイト代で足りてるんだろうかと心配になってしまう。
「執事喫茶とやらには行ってきたのか」
「行ってきた。めっちゃびびったよ、入った瞬間に "お坊ちゃま" って言われるとは思わなかった。男性客もちゃんと想定されていてさ。あと、フットマンとバトラーとかもしっかり服装違ってた。むしろ役割分担までちゃんとやっていて、ニ重の意味で驚いた」
イケメン&ダンディーな人達に囲まれて、クレインさんの気分味わえたよ。
本当に凄かった……やばいね、お坊ちゃまって呼ばれる感覚。
なお、その後メイド喫茶にも行ってみた、つーか、交換条件で姉ちゃんに連れて行かされた。
そんな会話をしながら、休憩を挟みつつ交代で運転すること約6時間と30分。
午前3時30分頃には目的地の駐車場に辿り着き、オレと修哉も軽く仮眠を取る。
―――そして、午前4時30分頃。
「博人、そろそろ行くぞ。当日券の為に並ばないと」
「ふぁぁぁ……おはよう修哉。そっか、Web予約はさすがに無理だもんな」
スマホの充電が100%なのを確認して、オレたちは学と佳奈を起こさないようにキャンピングカーを出る。
そのまま、駅にある日帰り往復チケット売り場へ行くと……うわ、もう人並んでいるや。
防寒具を着こんではいるものの、寒さで震えながらオレたちはチケット売り場が開くのを待つ。
2人でスマホのソシャゲをして待っていると、いつの間にか起きたのか、学と佳奈がオレたちの所へやってくる。
「悪い、めっちゃ寝てた」
「おはようございます、2人共」
「おはよー、学、佳奈」
「もうちょいしたらチケット売り場が開くから、今のうちに顔洗ったり着替えしておけよ……っと、開いたみたいだ」
オレと修哉は立ち上がり、列の進みに沿ってチケット売り場まで行く。
日帰り往復チケットを無事購入し、キャンピングカーに戻って朝食を食べ、指定時間にケーブルカーに乗って、まずはバスに乗る駅まで移動。
次に、指定の高原バスに乗って50分間揺られながら山を登っていく。
標高は約2450メートル。目的地に近づいてくると、森林限界が近いのか木もまばらになって来た。
「こんな場所、歩いて登ったらどれだけ時間掛かるやら……」
以前、7日間かけて山越えしたことを思い返し、苦笑いしながら呟く。
「トレッキングコースこそあるが、今の時期に歩く奴はいないだろ。行くなら夏か秋だな」
「だーよなー」
こんな寒い時期に歩くのはきついよな、と思いながら眺めていると……じょじょに雪の壁が高く高くなってきた。
進むごとにじわじわと、進めば進むほど、見上げるのが辛い位の高さになっていく。
「おおおお……!」
「凄いわね、これ」
後ろに座っていた2人も、感嘆のため息を吐きながらスマホでそれを撮影する。
「後でここを歩けるから、急がなくていいぞ」
「歩けるの!?」
「その為の場所だからな、ほら、そこの人たちとか」
修哉が指さすと、広めにとってある道路の片側車線に多くの観光客が居た。
それぞれが雪の壁を背に記念撮影をしている。
やがて終点である建物が見え始め、バスはゆっくりとその駐車場に止まった。
荷物を持ち、バスを降りると途端頬に冷たい風が当たる。
視界に飛び込んできたのは、辺り一面の銀世界と、多くの山々。
まるで別世界のような光景が広がっており、ついつい見とれてしまう。
「ここが、この時期限定の絶景ポイント。"雪の大谷" だ。毎年ここはGPS使って道路を測量し、ブルドーザーを使って雪面をカンナで削るように除雪しているらしい」
「へぇぇ」
「って、これ、毎年除雪してるのか!?」
「凄いわね……」
駐車場から逆走し、ウォーキングゾーンと呼ばれる場所をゆっくりと歩く。
15分ほど歩いた所で、この近辺の最高地点に到着し……オレと学、佳奈は口をあんぐりと空けながら雪の壁を見上げる。
「間近で見ると、さらに凄いな……」
「確か、20メートルぐらい、だったわよね? ビル6~7階ぐらい?」
「それぐらいだな。おっと、写真撮ろうぜ、写真」
荷物から三脚を取り出して、オレはスマホをセットする。
邪魔にならないようにしつつも、絶景ポイントを探し出し、タイマーセットと。
「修哉と学、ちょっと右。佳奈はそこでオッケー。よし、いくぞー!」
スタートボタンを押して、3人と合流。
全員でポーズを取って、記念となる1枚目が撮影されたのだった。
そのまま、何枚かポーズ変え場所を変えで撮影しつつ、ホテルもある建物まで戻り、今度は雪の上を少し歩いて360度と言っていい位に広がる銀世界を堪能する。
「はー……寒いけど、空気が美味しい」
「だな。ほんと、日本と思えない光景だよな。むしろ海外? 異世界? いやぁ絶景だ」
佳奈は大きく腕を広げて深呼吸。
学も右手を自身の額に当てながら、周囲の景色を眺めている。
異世界、ね。
確かに、見ようによっては異世界に見えるよなこの光景。
……なんだろな、少し探せば異世界っぽい場所があるって事実に、ちょっとおかしくて笑ってしまう。
「なっ、博人もそうおもうだろ?」
「ん? あぁ、そうだな。確かにそれぐらい絶景だよな」
幻想的な光景を眺めながら、オレは学の言葉に頷いた。
(サディエルたちにも、見せたいよなー……まぁ、無理なんだけどさ)
胸元にあるマジーア・ペンタグラムに触れながら、スマホを掲げて1枚撮影する。
この日撮影された写真の数々は、オレの宝物の1つとなるのだった。
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目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
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