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第5章 冒険者4か月目
87話 3対3【2】
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「よっ、お待たせ。来てくれたのに悪いな、3人とも」
「いいえ。こちらこそ急に来てすいません、アークさん」
エルフェル・ブルグ国内にある軍港。
そこは、近年新設された海洋生物の魔物化に伴う、調査・対応・要人護衛などを目的とした、海軍が拠点としている場所だ。
以前はただの停泊場だったらしい。
軍港として利用するにあたり、一般的な船が停泊する場所は、別の所に移されているとのこと。
そんな軍港内にある、海軍専用の建物。
海軍作戦本部とも呼ばれるそこは、寄宿舎も兼ねており、オレたちはそこを訪れていた。
訪問先は、サディエルの幼馴染にして元旅仲間であるアークさん。
クレインさんから聞いた内容や、サディエルが槍を使っていた事、その辺りに詳しい人となればこの人しかいないだろう。
寄宿舎の入り口で合流し、オレたちはそのままアークさんの個室へと案内される。
指揮官兼船長の地位に居る為か、なかなかに広くて立派な個室が割り当てられており、オレたち3人がお邪魔しても、まったく窮屈さを感じない場所だった。
「んで、おれの所にわざわざ……しかもサディの奴を抜きでとは。あいつ今度は何をやらかした?」
第一声で疑われるサディエル。
いやまぁ、うん、こればかりは擁護もフォローも出来ないから仕方ない。
「当たらずも遠からず、と申しますか」
「少しばかり、お願いたいことがありまして。だろ、ヒロト」
「うん。実は、サディエルたちに勝つために、アークさんには、オレたちのチームのセコンドをやって欲しいんです!」
オレの言葉を聞いて、アークさんは首を傾げる。
「せこんど……? 何だそりゃ、君の所の言葉かい。響きからの推測で申し訳ないが、おれは通常戦闘について、もう無理な……」
「違います! 戦闘参加のお願いじゃなくて、監督とか、作戦指示を出すとか、第三者視点から指摘をする人が欲しいんです!」
そのままオレは、これまでの経緯をアークさんに説明した。
現在は、狭義の意味でのコンビネーションの試験をやっていること。
ルールと、対戦相手がサディエルたちなこと。
一通り説明を終えると、アークさんは納得いったように頷いた。
「サディの奴は、3対3のチーム戦っつーたんだよな? 戦闘参加が3人……なるほど、戦闘に "不参加" ならば、見学者何人がいて、ヤジをどれだけ飛ばそうとも問題ないってわけか」
「そうです!」
オレがアークさんの元を訪れようと提案したのは、これを打診する為である。
今回の戦闘で分かったことは、客観的に自分たちの動きを確認することは元より、相手の動きも観察した方が良い、と言う事だった。
正直、今日に関しては、あちらの策略に乗せられてしまった部分もある。
本来ならば、今回の試験内容は『コンビネーション』だ。
それをあちらは、わざと速攻で1対1のタイマン勝負に持ち込んで、コンビネーションをさせないようにして来た。
恐らく、サディエルの策だとは思う。
オレらの目的が、オレに対人戦の経験を積ませて、前衛としての視野を広くすること……それを見抜かれていたからだ。
単純な3対3では、正直勝ちの目があまりにも薄い。
だったら、どうやって勝ちの目を増やすのか。
そう考えたオレは、1つの結論に辿り着いた。
合法的に、人数差を作ることだ。
人数差と言うのは、手札の強さに比例しない、大きなアドバンテージになる。
これは、オレがやっていたゲームの話になるんだけど、攻撃力が10あるユニット3人に対し、攻撃力が6しかないユニット3人で勝利せよ、と言う条件の試合があったとして、基本はムリゲーだ。
だけど、同じ攻撃力が6しかないユニットが、4人や5人になれば……話は変わってくる。
人数差が1人でもあれば、相手の1人に対して2人で攻撃をして撃破出来る可能性が生まれてくる。
たった1人でも、人数が異なれば、それだけで取れる手段や行動が増えるのだ。
「正直、今のままじゃ明後日までに1勝出来るかも怪しい状況なんです。なので、サディエルの立ち回りや思考を理解しつつ、バークライスさんやレックスさんの動きの考察を、アークさんにお願いしたいんです!」
「なるほどな、面白そうな話だ」
「じゃあ……!」
「明日と明後日だよな。ここ最近は休暇を取得していなかったし、大丈夫だろ。セコンドとして参加させて貰おうよ」
アークさんから色よい返事を貰え、オレはガッツポーズをする。
いや、それよりもまずは何よりもお礼が先だ。
「ありがとうございます! アークさん!」
頭を下げながら、オレはそう言った。
「気にするな。お前らがやっていることは、要するにこの後の旅で必要なことなんだろ。例の魔族……ガランドとの戦いにおいてな。微力以下ではあるが、おれにも手伝わせてくれ」
「とても助かります、アークさん」
「よろしくお願いいたします。これで、少しは勝利の目が見えそうですね、ヒロト」
「やっと1歩って感じ。ただ、まだ詰めないとダメな気がする……そうだよね、アルム」
オレの問いかけに、アルムは頷く。
「あぁ、これでようやく勝率が5%あるかないかだな。元々、僕やリレルの立ち回りに思考、作戦傾向がバレバレな状態だから、なんとか0%から動いたって感じだ」
「サディエルとバークライスさんの影響、だよね」
オレが対人戦に慣れる以外にも、大問題な点が1つ。
アルムとリレルの行動パターンを完全に読まれてしまっていることだ。
あっちにはサディエルとバークライスさんという、2人に対してガンメタ張れるメンツが居るわけだし。
正直、それだけでもこっちは大きなハンデだ。
特にアルムの戦術が全く通用しなくなるのは痛すぎる。
それに対して自覚があるからこそ、今回アルムは、オレに作戦を全投げしてきているわけだけど。
「レックスさんも侮らない方が良い。あの人、クレイン殿に仇名す奴を見抜くのは上手いって噂をよく耳にする。サディとヒロト君の関係性も、違和感を持っていたんだろう?」
「はい。あの方もアークさん同様に、ヒロトに対してサディエルの親族か、と言われておりました」
アークさんの言葉に、リレルが答える。
幼馴染であるアークさんが気づくのは分かるけど、レックスさんがソレに気づくってことは、それだけ他の人を良く見ているってことなんだろう。
じゃないと、あぁいう反応は絶対にないはずだし。
「おれだったら、こんなメンツ相手だと知った瞬間、白旗振りたくなるね」
「オレもめっちゃ振りたいですよ、本音は。だけど……」
今回の試験を言い渡した時のサディエルを思い出す。
悔しそうに自身は拳を握り、苦しそうに試験の内容を通達していた彼のことを思うと、諦めたくはない。
「オレの最終目標は、『元の世界へ帰る』ことと『サディエルたち全員に見送って貰う事』だ! 誰かが欠けることなんて絶対ごめんだからな。笑顔でみんなとお別れしたいんだ」
これだけは絶対に譲れない。
サディエルが、アルムが、リレルが、目標達成の為ならば自分たちの生死を問わないと言ってもだ。
「そうだ、アルムにリレル。いい加減、そっちの最終目標からも『自分たちの生死を問わない』ってやつ、除外して! 矛盾した目標持っていたら、一致団結も出来やしない!」
「それは外さなくていいだろ」
「ですよね?」
「いーや、外して! オレが嫌だ!」
外して! 外さなくても変わらんだろ、とあーだこーだとオレらの間で論争が始まる。
しばらくの間、その光景をポカーン、と見ていたアークさんは、突然吹き出して笑い始めた。
「ぷっ、あっはははは! 本当にお前ら仲が良いな!」
「今まさに、意見が割れてるんですけど?」
「意見をぶつけ合えないような奴と、パーティ組んでてもしかたねーだろ。互いの良い所も、悪い所も、嫌でも見せ合わないといけないんだ。意見の対立なんて些事なもんさ。そっからどう最善手を探すかが、仲間だろ」
……確かに、そうかも。
オレも、サディエルも、アルムも、リレルも、良い所も、悪い所も色々見せあって来た。
それでもこうやって、旅を続けてきたし、続けてこられた。
「はい!」
「まぁな」
「そうですね、アークさんの言う通りです」
アークさんの言葉に、オレたちは各々同意する。
ここにサディエルがいないのだけが、ちょっと残念だ。
彼からも、聞きたかったな……
いや、この試験が終わったら聞こう、聞き出そう、サディエルからも。
「アークさん、改めて明日からよろしくお願いします!」
「あぁ、任せろ。時間と場所は?」
「明日の午前10時から、クレインさんのお屋敷になります」
「了解。とりあえずは、休暇申請だな。えーと、急ぎの書類は片付いた、会議も明日明後日はない、緊急性の高いやつもなし、あとは……」
ぶつぶつと呟きながら、アークさんは手帳を取り出してスケジュールを確認する。
そっか、指揮官で船長だから、やらないといけない仕事いっぱいあるんだった。
「えっと、すいませんアークさん、本当に急に」
「ん? あぁ気にすんな。おれだって、全く打算なく協力するわけじゃない。心配だからな、サディのことは」
親友の為……ってことだよな。
つい最近になって再会して、色々あったってのに、2人の友情は本当に固いんだなってのが良く分かる。
―――この後、アークさんの休暇申請は無事に降りた。
ここ最近、休暇未取得状態が続いていたのと、海洋生物の魔物に関する調査の為に航海が頻発していたので、そろそろ休ませないといけないから、という形での許可だった。
アークさん……もっと、休んだ方が良いと思います。
明日の午前9時頃には合流する、と約束を貰って、オレたちがクレインさんのお屋敷に戻る頃には、すっかり日も暮れていた。
「さっすがにお腹すいた」
「ですね。今日の夕飯は何でしょうね。毎日美味しいものばかりなので、旅に戻ったら、しばらくはお屋敷の食事が恋しくなりそうです」
「言えてる。ヒロトじゃないけど、魔物の肉食うのに躊躇しそうになるかもな」
そんな会話を交わしながら、オレたちはいつも夕飯を食べる部屋に入る。
「おや、皆様。お帰りなさいませ」
「作戦会議は済んだのか?」
そこには、レックスさんと、食事中のバークライスさんが居た。
って、あれ?
「ただいまです。あの、サディエルは?」
「彼でしたら、部屋にいますよ。一足先に夕飯を召し上がって、明日の調整をされています」
「そっか……」
サディエルはもう夕飯食べ終わってたのか、残念。
仕方なく、オレたちは席に座り、用意してもらった夕飯に舌鼓を打つ。
途中、先に食べ終わったバークライスさんが、一足先に退室して行く。
レックスさんの話によると、バークライスさんは試験中はクレインさんのお屋敷に滞在するとのこと。
あれ? それなら、アークさんの滞在もお願いすればいいんじゃないかな。
海軍作戦本部からの移動は大変なはずだし、うん、明日お願いしてみよう。
今はほら、アークさんがセコンドとして参加するって件は、秘密にしているわけだし。
明日、サディエルは驚くだろうな。
彼が驚く様が今から楽しみである。
「ヒロト、顔に出てるぞ」
「うわっ!? あ、ごめん」
隣で食べていたアルムに指摘され、慌てて表情を戻す。
危ない危ない、レックスさんという対戦相手が近くにいるんだ、下手なヒントを与えてはいけない。
明日まではトップシークレットなんだし!
「いいえ。こちらこそ急に来てすいません、アークさん」
エルフェル・ブルグ国内にある軍港。
そこは、近年新設された海洋生物の魔物化に伴う、調査・対応・要人護衛などを目的とした、海軍が拠点としている場所だ。
以前はただの停泊場だったらしい。
軍港として利用するにあたり、一般的な船が停泊する場所は、別の所に移されているとのこと。
そんな軍港内にある、海軍専用の建物。
海軍作戦本部とも呼ばれるそこは、寄宿舎も兼ねており、オレたちはそこを訪れていた。
訪問先は、サディエルの幼馴染にして元旅仲間であるアークさん。
クレインさんから聞いた内容や、サディエルが槍を使っていた事、その辺りに詳しい人となればこの人しかいないだろう。
寄宿舎の入り口で合流し、オレたちはそのままアークさんの個室へと案内される。
指揮官兼船長の地位に居る為か、なかなかに広くて立派な個室が割り当てられており、オレたち3人がお邪魔しても、まったく窮屈さを感じない場所だった。
「んで、おれの所にわざわざ……しかもサディの奴を抜きでとは。あいつ今度は何をやらかした?」
第一声で疑われるサディエル。
いやまぁ、うん、こればかりは擁護もフォローも出来ないから仕方ない。
「当たらずも遠からず、と申しますか」
「少しばかり、お願いたいことがありまして。だろ、ヒロト」
「うん。実は、サディエルたちに勝つために、アークさんには、オレたちのチームのセコンドをやって欲しいんです!」
オレの言葉を聞いて、アークさんは首を傾げる。
「せこんど……? 何だそりゃ、君の所の言葉かい。響きからの推測で申し訳ないが、おれは通常戦闘について、もう無理な……」
「違います! 戦闘参加のお願いじゃなくて、監督とか、作戦指示を出すとか、第三者視点から指摘をする人が欲しいんです!」
そのままオレは、これまでの経緯をアークさんに説明した。
現在は、狭義の意味でのコンビネーションの試験をやっていること。
ルールと、対戦相手がサディエルたちなこと。
一通り説明を終えると、アークさんは納得いったように頷いた。
「サディの奴は、3対3のチーム戦っつーたんだよな? 戦闘参加が3人……なるほど、戦闘に "不参加" ならば、見学者何人がいて、ヤジをどれだけ飛ばそうとも問題ないってわけか」
「そうです!」
オレがアークさんの元を訪れようと提案したのは、これを打診する為である。
今回の戦闘で分かったことは、客観的に自分たちの動きを確認することは元より、相手の動きも観察した方が良い、と言う事だった。
正直、今日に関しては、あちらの策略に乗せられてしまった部分もある。
本来ならば、今回の試験内容は『コンビネーション』だ。
それをあちらは、わざと速攻で1対1のタイマン勝負に持ち込んで、コンビネーションをさせないようにして来た。
恐らく、サディエルの策だとは思う。
オレらの目的が、オレに対人戦の経験を積ませて、前衛としての視野を広くすること……それを見抜かれていたからだ。
単純な3対3では、正直勝ちの目があまりにも薄い。
だったら、どうやって勝ちの目を増やすのか。
そう考えたオレは、1つの結論に辿り着いた。
合法的に、人数差を作ることだ。
人数差と言うのは、手札の強さに比例しない、大きなアドバンテージになる。
これは、オレがやっていたゲームの話になるんだけど、攻撃力が10あるユニット3人に対し、攻撃力が6しかないユニット3人で勝利せよ、と言う条件の試合があったとして、基本はムリゲーだ。
だけど、同じ攻撃力が6しかないユニットが、4人や5人になれば……話は変わってくる。
人数差が1人でもあれば、相手の1人に対して2人で攻撃をして撃破出来る可能性が生まれてくる。
たった1人でも、人数が異なれば、それだけで取れる手段や行動が増えるのだ。
「正直、今のままじゃ明後日までに1勝出来るかも怪しい状況なんです。なので、サディエルの立ち回りや思考を理解しつつ、バークライスさんやレックスさんの動きの考察を、アークさんにお願いしたいんです!」
「なるほどな、面白そうな話だ」
「じゃあ……!」
「明日と明後日だよな。ここ最近は休暇を取得していなかったし、大丈夫だろ。セコンドとして参加させて貰おうよ」
アークさんから色よい返事を貰え、オレはガッツポーズをする。
いや、それよりもまずは何よりもお礼が先だ。
「ありがとうございます! アークさん!」
頭を下げながら、オレはそう言った。
「気にするな。お前らがやっていることは、要するにこの後の旅で必要なことなんだろ。例の魔族……ガランドとの戦いにおいてな。微力以下ではあるが、おれにも手伝わせてくれ」
「とても助かります、アークさん」
「よろしくお願いいたします。これで、少しは勝利の目が見えそうですね、ヒロト」
「やっと1歩って感じ。ただ、まだ詰めないとダメな気がする……そうだよね、アルム」
オレの問いかけに、アルムは頷く。
「あぁ、これでようやく勝率が5%あるかないかだな。元々、僕やリレルの立ち回りに思考、作戦傾向がバレバレな状態だから、なんとか0%から動いたって感じだ」
「サディエルとバークライスさんの影響、だよね」
オレが対人戦に慣れる以外にも、大問題な点が1つ。
アルムとリレルの行動パターンを完全に読まれてしまっていることだ。
あっちにはサディエルとバークライスさんという、2人に対してガンメタ張れるメンツが居るわけだし。
正直、それだけでもこっちは大きなハンデだ。
特にアルムの戦術が全く通用しなくなるのは痛すぎる。
それに対して自覚があるからこそ、今回アルムは、オレに作戦を全投げしてきているわけだけど。
「レックスさんも侮らない方が良い。あの人、クレイン殿に仇名す奴を見抜くのは上手いって噂をよく耳にする。サディとヒロト君の関係性も、違和感を持っていたんだろう?」
「はい。あの方もアークさん同様に、ヒロトに対してサディエルの親族か、と言われておりました」
アークさんの言葉に、リレルが答える。
幼馴染であるアークさんが気づくのは分かるけど、レックスさんがソレに気づくってことは、それだけ他の人を良く見ているってことなんだろう。
じゃないと、あぁいう反応は絶対にないはずだし。
「おれだったら、こんなメンツ相手だと知った瞬間、白旗振りたくなるね」
「オレもめっちゃ振りたいですよ、本音は。だけど……」
今回の試験を言い渡した時のサディエルを思い出す。
悔しそうに自身は拳を握り、苦しそうに試験の内容を通達していた彼のことを思うと、諦めたくはない。
「オレの最終目標は、『元の世界へ帰る』ことと『サディエルたち全員に見送って貰う事』だ! 誰かが欠けることなんて絶対ごめんだからな。笑顔でみんなとお別れしたいんだ」
これだけは絶対に譲れない。
サディエルが、アルムが、リレルが、目標達成の為ならば自分たちの生死を問わないと言ってもだ。
「そうだ、アルムにリレル。いい加減、そっちの最終目標からも『自分たちの生死を問わない』ってやつ、除外して! 矛盾した目標持っていたら、一致団結も出来やしない!」
「それは外さなくていいだろ」
「ですよね?」
「いーや、外して! オレが嫌だ!」
外して! 外さなくても変わらんだろ、とあーだこーだとオレらの間で論争が始まる。
しばらくの間、その光景をポカーン、と見ていたアークさんは、突然吹き出して笑い始めた。
「ぷっ、あっはははは! 本当にお前ら仲が良いな!」
「今まさに、意見が割れてるんですけど?」
「意見をぶつけ合えないような奴と、パーティ組んでてもしかたねーだろ。互いの良い所も、悪い所も、嫌でも見せ合わないといけないんだ。意見の対立なんて些事なもんさ。そっからどう最善手を探すかが、仲間だろ」
……確かに、そうかも。
オレも、サディエルも、アルムも、リレルも、良い所も、悪い所も色々見せあって来た。
それでもこうやって、旅を続けてきたし、続けてこられた。
「はい!」
「まぁな」
「そうですね、アークさんの言う通りです」
アークさんの言葉に、オレたちは各々同意する。
ここにサディエルがいないのだけが、ちょっと残念だ。
彼からも、聞きたかったな……
いや、この試験が終わったら聞こう、聞き出そう、サディエルからも。
「アークさん、改めて明日からよろしくお願いします!」
「あぁ、任せろ。時間と場所は?」
「明日の午前10時から、クレインさんのお屋敷になります」
「了解。とりあえずは、休暇申請だな。えーと、急ぎの書類は片付いた、会議も明日明後日はない、緊急性の高いやつもなし、あとは……」
ぶつぶつと呟きながら、アークさんは手帳を取り出してスケジュールを確認する。
そっか、指揮官で船長だから、やらないといけない仕事いっぱいあるんだった。
「えっと、すいませんアークさん、本当に急に」
「ん? あぁ気にすんな。おれだって、全く打算なく協力するわけじゃない。心配だからな、サディのことは」
親友の為……ってことだよな。
つい最近になって再会して、色々あったってのに、2人の友情は本当に固いんだなってのが良く分かる。
―――この後、アークさんの休暇申請は無事に降りた。
ここ最近、休暇未取得状態が続いていたのと、海洋生物の魔物に関する調査の為に航海が頻発していたので、そろそろ休ませないといけないから、という形での許可だった。
アークさん……もっと、休んだ方が良いと思います。
明日の午前9時頃には合流する、と約束を貰って、オレたちがクレインさんのお屋敷に戻る頃には、すっかり日も暮れていた。
「さっすがにお腹すいた」
「ですね。今日の夕飯は何でしょうね。毎日美味しいものばかりなので、旅に戻ったら、しばらくはお屋敷の食事が恋しくなりそうです」
「言えてる。ヒロトじゃないけど、魔物の肉食うのに躊躇しそうになるかもな」
そんな会話を交わしながら、オレたちはいつも夕飯を食べる部屋に入る。
「おや、皆様。お帰りなさいませ」
「作戦会議は済んだのか?」
そこには、レックスさんと、食事中のバークライスさんが居た。
って、あれ?
「ただいまです。あの、サディエルは?」
「彼でしたら、部屋にいますよ。一足先に夕飯を召し上がって、明日の調整をされています」
「そっか……」
サディエルはもう夕飯食べ終わってたのか、残念。
仕方なく、オレたちは席に座り、用意してもらった夕飯に舌鼓を打つ。
途中、先に食べ終わったバークライスさんが、一足先に退室して行く。
レックスさんの話によると、バークライスさんは試験中はクレインさんのお屋敷に滞在するとのこと。
あれ? それなら、アークさんの滞在もお願いすればいいんじゃないかな。
海軍作戦本部からの移動は大変なはずだし、うん、明日お願いしてみよう。
今はほら、アークさんがセコンドとして参加するって件は、秘密にしているわけだし。
明日、サディエルは驚くだろうな。
彼が驚く様が今から楽しみである。
「ヒロト、顔に出てるぞ」
「うわっ!? あ、ごめん」
隣で食べていたアルムに指摘され、慌てて表情を戻す。
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