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第4章 聖王都エルフェル・ブルグ
78話 同郷トーク
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―――エルフェル・ブルグ、滞在4日目
「ヒロト兄ちゃんー!」
「あーそびーましょ!」
「……と、言う事なんですが、お知り合いでしょうか?」
「えぇ、まぁ……はい」
朝のトレーニングを終え、朝食を食べ、さて今日はってアルムたちと会話していた所、レックスさんからオレに対して来客が来たと言う事で、行ってみたらこれである。
子供らしい笑顔と声で、にこにこにこと立っているのは、カイン君とミリィちゃんの2人。
…‥昨日の今日で、何でここにいるんだよ、この人たち。
「ねーねー! 約束! お菓子のやーくーそーく! ミリィが勝ったんだよ!」
「違うよ! 俺が勝ったんだよ、ヒロト兄ちゃんー!」
「……………」
オレは思わず遠い目をしてしまう。
確かにあの時、"先にゴールした方にお菓子をプレゼント" って、言いましたけど。
3か月ほど前、最初の街を出発する直前のオレへ。
あの時『うわー……高いの要求されなきゃいいなぁ……』とか呟いたり、『高級菓子のオチはないよな?』とか危惧していたわけだが……
見事な時間差のフラグ回収でしたよ、ちくしょう!
「あー、うん、分かった分かった。2人に奢るから、ちょっと準備させて」
頭痛を感じながら、とりあえず財布の準備だけはさせてくれと、懇願する羽目になったのであった。
========================
「はああああ!? 魔王が来た!?」
「しかも、ヒロトにお菓子をおごってくれ、と?」
「うん。ほら、最初の街で約束していたやつ」
談話室に戻って、休憩していたアルムとリレルに、先ほどの事を告げると、案の定の反応であった。
オレは荷物を確認して、出発の準備をしながら頷く。
「大丈夫ですか? 私かアルムが同伴しますよ」
「んー……そこが悩みどころでさ」
財布の中身、よしっ。
幸いにもへそくりはほぼ使っていなかったから、下手な高級料理をおごれとか言われない限り大丈夫はなずだ。
「単純に異世界人同士で会話したいって可能性も、なくはないわけで」
「今回ばかりは、その楽観視し過ぎの、夢見すぎファンタジー思考をやめたらどうだ」
だよねぇ。
仮にも相手は魔王様なわけだし、癪に障ったら首すっぱりもありえそうなわけだ。
けど、だからって断りなしに2人を連れて行くのもどうかと思うけど……どうしたもんだろう。
「ヒロト兄ちゃんに危害を加える気はないよ。単純にお喋りしたいだけだし」
そこに、聞き覚えがある声が聞こえて、オレたちは一斉に声のする方向から距離を取る。
思わず身構えたが、そこに立っていたのは、いつの間にか入ってきたカイン君だった。
「遅かったから、迎えに来ちゃった」
語尾にハートマークでもつけてそうな感じで言わないで欲しい。
にっこりと微笑んでそう言った後、カイン君は表情を魔王のそれに戻す。
「心配しなくていいよ、気難し屋軍師の一番弟子に、放浪癖名医の愛弟子。今日は本当に、ヒロト兄ちゃんと同郷同士で話がしたいだけなんだ」
「それをどう信じろと言うのですか」
「まぁそうだよね、その警戒心は実に素晴らしい」
子供の見た目なのに、欠片も子供っぽくない表情でカイン君、と言うか魔王カイレスティンは答える。
「そうだな、じゃあ交換条件と行こう。今日1日、ヒロト兄ちゃんを貸してくれれば、あの新人を倒す手立てを提供する」
新人ってことは、ガランドか!
というか、ガランドを倒す手立て!?
え、オレが話を聞くだけでそれ教えて貰えるのならば、かなり良いのでは。
「魔族を滅ぼす術を、わざわざ僕らにか?」
「もちろん、あの新人を倒す時だけ有効な方法だけどね。他の配下まで同じようには倒せないから、そのつもりで。だけど、悪い条件じゃないはずだ」
「……それとヒロトの命を天秤に賭けろ、と申されるのでしたら、ヒロトの命を優先致します」
「同じくだ。ガランドの奴は僕らでなんとでもするさ」
うーん、厄介かつ素晴らしき仲間愛。と、カイン君は苦笑いしながら愚痴る。
けど、ガランドの倒す手立てか。個人的にはそりゃ欲しい、けど……アルムとリレルの雰囲気から、それを言ったらどんな罵詈雑言が飛んでくるか、分かったもんじゃない。
心配故ってのを理解しているから、余計にね。
「本当に話しをしたいだけなんだけどなあ……いいもん、強制的にヒロト兄ちゃんを連れて行くって方法もあるしぃ?」
そう言いながら、カイン君はぎゅっ、とオレの右腕にくっついてくる。
その瞬間、アルムとリレルの表情も険しくなり……ダメだ、完全に一触即発モードだ。
この状況、どうすりゃいんだよ。助けてサディエル!
って、そのサディエルは、魔術省で精密検査真っ最中なんだった。
下手に返答すれば、アルムやリレルが心配する。
かと言って、カイン君……いや、魔王カイレスティンの提案を無視するのも頂けない。
オレの異世界生活で、かつてないほどのハードモードな説得作業になるんじゃなかろうか、これ……
「アルム、リレル。オレもちょっとカイン君と話したいことがあるから、行ってきても……いい、かな?」
「……ヒロト?」
「元の世界に帰る方法について、多分、一番良く知っているのは魔王様なんだ。あの魔法陣の術式を変えているわけだし」
先日の話通りなら、異世界から人間を呼び出す、と言う機能はそのままに、不老不死の部分を削除して、欠けた箇所を補う為に言語理解の効果を付与している。
そこまで出来ているってことは、確実にあの魔法陣に対する知識があるということだ。
「だから、話は聞いておきたいんだ」
オレの言葉を聞いて、アルムとリレルは互いの顔を見る。
どうするかと、2人はしばし思案した後……
「……僕かリレル、どちらかの同伴を許可してくれ。それなら構わない」
そう伝えてきた。
それを聞いたカイン君は、小さく頷く。
「それでいいよ。さてと、どっちかと言われたぶっちゃけどっちでもいいけど……ミルフェリアの話し相手をして欲しいから、放浪癖名医の愛弟子に願いしようかな」
「分かりました。アルム、申し訳ありませんがサディエルの様子を……」
「了解。気を付けて行ってこい」
意見がまとまったのを確認すると、カイン君は『それじゃ、外で待っているね』と一瞬で消え去った。
いっそ、オレらも転移で連れて行ってくれればいいのに。
と思ったけど、玄関から出ないとレックスさんが不信に思うから無理か。
「それじゃ、行ってきます」
「あぁ。危なかったら無理にでも逃げて来いよ」
魔王様相手に逃亡戦とか、ムリゲー感しかしないわけだけど……と言うツッコミは、黙っておこう。
そのまま、オレとリレルは屋敷の外に出て、門の前で待ってたカイン君とミリィちゃんの所へ行く。
「2人ともお待たせ」
「ヒロト兄ちゃんおっそーい!」
「お腹すいたー! ヒロト兄ちゃん、わたしアイスクリームがいい!」
「あ、ずるい! 俺はクッキー!」
わいわいいいながら、オレの両腕を掴んでぐいぐいと引っ張ってくる。
その光景を見たリレルはぽつりと一言……
「白々しい、と言う単語の意味を……今、凄く実感しております」
呆れ顔で呟いたのだった。
うん、言いたいことは凄くわかるよ……何この二面性もしくは二重人格。
そんなわけで、オレたちはカイン君たちに引きずられながら、国内を歩き回った。
アイスクリームの店、クッキーの店、クレープのお店と順調に梯子して、歩行距離が伸びれば伸びるほど、反比例してオレの財布が軽くなっていく。
あー……サディエルがへそくり取られて、涙目になっていた気持ちが、今ようやく分かった気がする。
「あー、美味しかったぁ!」
「おなかいっぱーい」
子供らしい笑顔と動きで、2人は満足気に最後のパフェを頬張ってご馳走様をした。
本当に、胃袋どうなってんだと言いたいレベルで食べまくってくれたよな……
「さてと、お腹いっぱいになったことだし」
パチン、とカイン君は指を鳴らす。
すると、周囲の音が急に遮断され、街中の喧噪が全く聞こえなくなった。
「本題に入ろうか。大丈夫、周囲の人からは俺らは食後の会話を楽しんでいる人、にしか見えないし、会話内容も聞こえないから」
「安心出来るような、出来ないような……」
オレは苦笑いしながら答える。
「緊張しないで。本当に、同郷同士でトークがしたいだけなんだ。今となっては、思い出を共有出来る相手はいないからね」
周囲に声が漏れなくなった為か、カイン君は口調を魔王様のソレに戻す。
隣に座っているミリィちゃんも、幼い雰囲気を辞めて、令嬢と言わんばかりの表情を浮かべる。
「リレル様はこちらへ。私とお話頂けますか?」
「え? いえ、ですが……」
「カイレスティン様は、ヒロト様とお話したいだけです。大丈夫ですから」
ささっ、こちらにとリレルとミリィちゃんは、隣の席に移動する。
それを確認してから、カイン君は深呼吸をしてから口を開く。
「ヒロト兄ちゃん、少しだけ聞いててくれる? 俺がこの世界に来た時の話」
少しばかり寂しそうに微笑みながら、魔王カイレスティンは語った。
―――語られたのは、魔王カイレスティンの人生の断片。
ある日突然、異世界に呼ばれたこと。
意識を取り戻したら、死体と白骨化した骨だけが転がった部屋で目覚めたこと。
パニックになっている所に、ギルドの依頼を受けて調査に来ていた冒険者パーティに拾ってもらったこと。
そのリーダーが、サディエル並みのお人よしだったこと。
言葉が通じない魔王カイレスティンに、根気強く交流して言語や文化を教えてくれたこと。
元の世界に戻る為に、お人好しな冒険者パーティと一緒に各地を旅したこと。
各地に散り散りになっている資料をかき集め、戻る方法を見つけるまでに60年近く掛かったこと。
ようやく帰ることが出来ると思って、仲間たちに見送られて戻ってみたが……この世界で過ごした年月分が経過しており、家族も友達も、もう誰も生きておらず、自身の居場所がなくなっていたこと。
その為、この世界に舞い戻ってきたこと。
しかし、この世界の仲間たちも老いには勝てず、それから数年のうちに全員がこの世を去ったこと。
なかなかに、壮絶な内容だった。
彼の人生は言わば『元の世界に帰れなかったオレ』の、1つの結末なんじゃないか……そう思わせるには十分だった。
「……今話した通り、この世界に滞在した日数分だけ、元の世界でも同じ日数が進んだ地点に戻ることになる」
「それを、オレに伝える為に?」
「あぁ。元の世界に帰る気でいるならば、俺と同じ失敗はして欲しくないからね」
そう言うと、魔王カイレスティンは小さくため息を吐く。
「俺の場合、エルフェル・ブルグのように各国の資料を1か所に集めるような施設がなかった。そのせいで、60年もの時間を掛けて、元の世界に戻る手立てを探すことになった。不老不死だからさ、時間が掛かっても、戻る方法さえ見つかればなんとかなるって、高を括っていたんだ」
「だけど、そうじゃなかった……」
「あぁ。俺がこの世界に召喚されたのは、元の世界の西暦で言うけど、2011年……で、戻ってみたら2071年だった。ひどいもんだよ、浦島太郎も良いところだ」
その事実が判明してから、すでに何千年と経っているわけで……
「仮に今戻ったとしたら……」
「当然、その分の年数が過ぎているだろうね。下手したら人類滅びてるんじゃない? もしくは宇宙に拠点を移しているか」
仮に戻ったとして、西暦4000、いや、5000?
とにかく、途方もない未来にしか、彼は辿り着けない。
それならば、この世界に居続ける方が、彼にとってはいいのかもしれない……けど……
「あのさ、魔王様。オレが帰る時に、一緒に帰るってのはどうかな?」
「ヒロト兄ちゃん?」
「オレなら、まだ異世界に来て3か月と少し。予定通りに行けば、半年内に帰るつもりでいるんだ。オレと一緒に帰れば、きっと……!」
「ダメだ。ヒロト兄ちゃんの時間軸に辿り着けるかは半々、いや、3分の1あれば良いところだ」
そう言いながら、魔王カイレスティンは静かに首を振る。
そして、少し悲しそうに微笑む。
「もし、俺も一緒に戻ったとして……君が戻るべき時間軸が大きくずれてしまっては意味がない。危ない賭けはしない方が良いよ」
「だけど……」
「それに、俺はこの世界でやるべきことがあるからな。ヒロト兄ちゃんは自分の心配だけしていなよ」
「やるべき、こと?」
「仲間たちとの約束なんだ。魔王として君臨しているのは」
魔王カイレスティンが共に旅した、仲間たちの……?
オレが首を傾げてると、魔王カイレスティンはパンッ、と手を叩く。
「はい、話はここまで! これ以上はさすがに野暮ってもんだし、同情を買う気もサラサラない。だけど、ありがとうヒロト兄ちゃん。そういう所、サディエル君と一緒で、うちのリーダーそっくりだ」
「ヒロト兄ちゃんー!」
「あーそびーましょ!」
「……と、言う事なんですが、お知り合いでしょうか?」
「えぇ、まぁ……はい」
朝のトレーニングを終え、朝食を食べ、さて今日はってアルムたちと会話していた所、レックスさんからオレに対して来客が来たと言う事で、行ってみたらこれである。
子供らしい笑顔と声で、にこにこにこと立っているのは、カイン君とミリィちゃんの2人。
…‥昨日の今日で、何でここにいるんだよ、この人たち。
「ねーねー! 約束! お菓子のやーくーそーく! ミリィが勝ったんだよ!」
「違うよ! 俺が勝ったんだよ、ヒロト兄ちゃんー!」
「……………」
オレは思わず遠い目をしてしまう。
確かにあの時、"先にゴールした方にお菓子をプレゼント" って、言いましたけど。
3か月ほど前、最初の街を出発する直前のオレへ。
あの時『うわー……高いの要求されなきゃいいなぁ……』とか呟いたり、『高級菓子のオチはないよな?』とか危惧していたわけだが……
見事な時間差のフラグ回収でしたよ、ちくしょう!
「あー、うん、分かった分かった。2人に奢るから、ちょっと準備させて」
頭痛を感じながら、とりあえず財布の準備だけはさせてくれと、懇願する羽目になったのであった。
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「はああああ!? 魔王が来た!?」
「しかも、ヒロトにお菓子をおごってくれ、と?」
「うん。ほら、最初の街で約束していたやつ」
談話室に戻って、休憩していたアルムとリレルに、先ほどの事を告げると、案の定の反応であった。
オレは荷物を確認して、出発の準備をしながら頷く。
「大丈夫ですか? 私かアルムが同伴しますよ」
「んー……そこが悩みどころでさ」
財布の中身、よしっ。
幸いにもへそくりはほぼ使っていなかったから、下手な高級料理をおごれとか言われない限り大丈夫はなずだ。
「単純に異世界人同士で会話したいって可能性も、なくはないわけで」
「今回ばかりは、その楽観視し過ぎの、夢見すぎファンタジー思考をやめたらどうだ」
だよねぇ。
仮にも相手は魔王様なわけだし、癪に障ったら首すっぱりもありえそうなわけだ。
けど、だからって断りなしに2人を連れて行くのもどうかと思うけど……どうしたもんだろう。
「ヒロト兄ちゃんに危害を加える気はないよ。単純にお喋りしたいだけだし」
そこに、聞き覚えがある声が聞こえて、オレたちは一斉に声のする方向から距離を取る。
思わず身構えたが、そこに立っていたのは、いつの間にか入ってきたカイン君だった。
「遅かったから、迎えに来ちゃった」
語尾にハートマークでもつけてそうな感じで言わないで欲しい。
にっこりと微笑んでそう言った後、カイン君は表情を魔王のそれに戻す。
「心配しなくていいよ、気難し屋軍師の一番弟子に、放浪癖名医の愛弟子。今日は本当に、ヒロト兄ちゃんと同郷同士で話がしたいだけなんだ」
「それをどう信じろと言うのですか」
「まぁそうだよね、その警戒心は実に素晴らしい」
子供の見た目なのに、欠片も子供っぽくない表情でカイン君、と言うか魔王カイレスティンは答える。
「そうだな、じゃあ交換条件と行こう。今日1日、ヒロト兄ちゃんを貸してくれれば、あの新人を倒す手立てを提供する」
新人ってことは、ガランドか!
というか、ガランドを倒す手立て!?
え、オレが話を聞くだけでそれ教えて貰えるのならば、かなり良いのでは。
「魔族を滅ぼす術を、わざわざ僕らにか?」
「もちろん、あの新人を倒す時だけ有効な方法だけどね。他の配下まで同じようには倒せないから、そのつもりで。だけど、悪い条件じゃないはずだ」
「……それとヒロトの命を天秤に賭けろ、と申されるのでしたら、ヒロトの命を優先致します」
「同じくだ。ガランドの奴は僕らでなんとでもするさ」
うーん、厄介かつ素晴らしき仲間愛。と、カイン君は苦笑いしながら愚痴る。
けど、ガランドの倒す手立てか。個人的にはそりゃ欲しい、けど……アルムとリレルの雰囲気から、それを言ったらどんな罵詈雑言が飛んでくるか、分かったもんじゃない。
心配故ってのを理解しているから、余計にね。
「本当に話しをしたいだけなんだけどなあ……いいもん、強制的にヒロト兄ちゃんを連れて行くって方法もあるしぃ?」
そう言いながら、カイン君はぎゅっ、とオレの右腕にくっついてくる。
その瞬間、アルムとリレルの表情も険しくなり……ダメだ、完全に一触即発モードだ。
この状況、どうすりゃいんだよ。助けてサディエル!
って、そのサディエルは、魔術省で精密検査真っ最中なんだった。
下手に返答すれば、アルムやリレルが心配する。
かと言って、カイン君……いや、魔王カイレスティンの提案を無視するのも頂けない。
オレの異世界生活で、かつてないほどのハードモードな説得作業になるんじゃなかろうか、これ……
「アルム、リレル。オレもちょっとカイン君と話したいことがあるから、行ってきても……いい、かな?」
「……ヒロト?」
「元の世界に帰る方法について、多分、一番良く知っているのは魔王様なんだ。あの魔法陣の術式を変えているわけだし」
先日の話通りなら、異世界から人間を呼び出す、と言う機能はそのままに、不老不死の部分を削除して、欠けた箇所を補う為に言語理解の効果を付与している。
そこまで出来ているってことは、確実にあの魔法陣に対する知識があるということだ。
「だから、話は聞いておきたいんだ」
オレの言葉を聞いて、アルムとリレルは互いの顔を見る。
どうするかと、2人はしばし思案した後……
「……僕かリレル、どちらかの同伴を許可してくれ。それなら構わない」
そう伝えてきた。
それを聞いたカイン君は、小さく頷く。
「それでいいよ。さてと、どっちかと言われたぶっちゃけどっちでもいいけど……ミルフェリアの話し相手をして欲しいから、放浪癖名医の愛弟子に願いしようかな」
「分かりました。アルム、申し訳ありませんがサディエルの様子を……」
「了解。気を付けて行ってこい」
意見がまとまったのを確認すると、カイン君は『それじゃ、外で待っているね』と一瞬で消え去った。
いっそ、オレらも転移で連れて行ってくれればいいのに。
と思ったけど、玄関から出ないとレックスさんが不信に思うから無理か。
「それじゃ、行ってきます」
「あぁ。危なかったら無理にでも逃げて来いよ」
魔王様相手に逃亡戦とか、ムリゲー感しかしないわけだけど……と言うツッコミは、黙っておこう。
そのまま、オレとリレルは屋敷の外に出て、門の前で待ってたカイン君とミリィちゃんの所へ行く。
「2人ともお待たせ」
「ヒロト兄ちゃんおっそーい!」
「お腹すいたー! ヒロト兄ちゃん、わたしアイスクリームがいい!」
「あ、ずるい! 俺はクッキー!」
わいわいいいながら、オレの両腕を掴んでぐいぐいと引っ張ってくる。
その光景を見たリレルはぽつりと一言……
「白々しい、と言う単語の意味を……今、凄く実感しております」
呆れ顔で呟いたのだった。
うん、言いたいことは凄くわかるよ……何この二面性もしくは二重人格。
そんなわけで、オレたちはカイン君たちに引きずられながら、国内を歩き回った。
アイスクリームの店、クッキーの店、クレープのお店と順調に梯子して、歩行距離が伸びれば伸びるほど、反比例してオレの財布が軽くなっていく。
あー……サディエルがへそくり取られて、涙目になっていた気持ちが、今ようやく分かった気がする。
「あー、美味しかったぁ!」
「おなかいっぱーい」
子供らしい笑顔と動きで、2人は満足気に最後のパフェを頬張ってご馳走様をした。
本当に、胃袋どうなってんだと言いたいレベルで食べまくってくれたよな……
「さてと、お腹いっぱいになったことだし」
パチン、とカイン君は指を鳴らす。
すると、周囲の音が急に遮断され、街中の喧噪が全く聞こえなくなった。
「本題に入ろうか。大丈夫、周囲の人からは俺らは食後の会話を楽しんでいる人、にしか見えないし、会話内容も聞こえないから」
「安心出来るような、出来ないような……」
オレは苦笑いしながら答える。
「緊張しないで。本当に、同郷同士でトークがしたいだけなんだ。今となっては、思い出を共有出来る相手はいないからね」
周囲に声が漏れなくなった為か、カイン君は口調を魔王様のソレに戻す。
隣に座っているミリィちゃんも、幼い雰囲気を辞めて、令嬢と言わんばかりの表情を浮かべる。
「リレル様はこちらへ。私とお話頂けますか?」
「え? いえ、ですが……」
「カイレスティン様は、ヒロト様とお話したいだけです。大丈夫ですから」
ささっ、こちらにとリレルとミリィちゃんは、隣の席に移動する。
それを確認してから、カイン君は深呼吸をしてから口を開く。
「ヒロト兄ちゃん、少しだけ聞いててくれる? 俺がこの世界に来た時の話」
少しばかり寂しそうに微笑みながら、魔王カイレスティンは語った。
―――語られたのは、魔王カイレスティンの人生の断片。
ある日突然、異世界に呼ばれたこと。
意識を取り戻したら、死体と白骨化した骨だけが転がった部屋で目覚めたこと。
パニックになっている所に、ギルドの依頼を受けて調査に来ていた冒険者パーティに拾ってもらったこと。
そのリーダーが、サディエル並みのお人よしだったこと。
言葉が通じない魔王カイレスティンに、根気強く交流して言語や文化を教えてくれたこと。
元の世界に戻る為に、お人好しな冒険者パーティと一緒に各地を旅したこと。
各地に散り散りになっている資料をかき集め、戻る方法を見つけるまでに60年近く掛かったこと。
ようやく帰ることが出来ると思って、仲間たちに見送られて戻ってみたが……この世界で過ごした年月分が経過しており、家族も友達も、もう誰も生きておらず、自身の居場所がなくなっていたこと。
その為、この世界に舞い戻ってきたこと。
しかし、この世界の仲間たちも老いには勝てず、それから数年のうちに全員がこの世を去ったこと。
なかなかに、壮絶な内容だった。
彼の人生は言わば『元の世界に帰れなかったオレ』の、1つの結末なんじゃないか……そう思わせるには十分だった。
「……今話した通り、この世界に滞在した日数分だけ、元の世界でも同じ日数が進んだ地点に戻ることになる」
「それを、オレに伝える為に?」
「あぁ。元の世界に帰る気でいるならば、俺と同じ失敗はして欲しくないからね」
そう言うと、魔王カイレスティンは小さくため息を吐く。
「俺の場合、エルフェル・ブルグのように各国の資料を1か所に集めるような施設がなかった。そのせいで、60年もの時間を掛けて、元の世界に戻る手立てを探すことになった。不老不死だからさ、時間が掛かっても、戻る方法さえ見つかればなんとかなるって、高を括っていたんだ」
「だけど、そうじゃなかった……」
「あぁ。俺がこの世界に召喚されたのは、元の世界の西暦で言うけど、2011年……で、戻ってみたら2071年だった。ひどいもんだよ、浦島太郎も良いところだ」
その事実が判明してから、すでに何千年と経っているわけで……
「仮に今戻ったとしたら……」
「当然、その分の年数が過ぎているだろうね。下手したら人類滅びてるんじゃない? もしくは宇宙に拠点を移しているか」
仮に戻ったとして、西暦4000、いや、5000?
とにかく、途方もない未来にしか、彼は辿り着けない。
それならば、この世界に居続ける方が、彼にとってはいいのかもしれない……けど……
「あのさ、魔王様。オレが帰る時に、一緒に帰るってのはどうかな?」
「ヒロト兄ちゃん?」
「オレなら、まだ異世界に来て3か月と少し。予定通りに行けば、半年内に帰るつもりでいるんだ。オレと一緒に帰れば、きっと……!」
「ダメだ。ヒロト兄ちゃんの時間軸に辿り着けるかは半々、いや、3分の1あれば良いところだ」
そう言いながら、魔王カイレスティンは静かに首を振る。
そして、少し悲しそうに微笑む。
「もし、俺も一緒に戻ったとして……君が戻るべき時間軸が大きくずれてしまっては意味がない。危ない賭けはしない方が良いよ」
「だけど……」
「それに、俺はこの世界でやるべきことがあるからな。ヒロト兄ちゃんは自分の心配だけしていなよ」
「やるべき、こと?」
「仲間たちとの約束なんだ。魔王として君臨しているのは」
魔王カイレスティンが共に旅した、仲間たちの……?
オレが首を傾げてると、魔王カイレスティンはパンッ、と手を叩く。
「はい、話はここまで! これ以上はさすがに野暮ってもんだし、同情を買う気もサラサラない。だけど、ありがとうヒロト兄ちゃん。そういう所、サディエル君と一緒で、うちのリーダーそっくりだ」
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レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
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異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
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覚悟を決めてボスに挑む無二。
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そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
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霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
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