オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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第4章 聖王都エルフェル・ブルグ

77話 召喚の理由【後編】

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「さっき彼に触って確信した。それは、ヒロト兄ちゃんとサディエル君が、『縁ある者』……これは俺が命名した言葉なんだが、要は "同じ魂を持つ人間同士" だからだ」

 …………は?
 一瞬、この魔王様が何を言っているのか理解出来なかった。

 同じ魂を持つ人間、同士?

「はあああああ!? そういう場合って、もうちょい顔が似ているとか、声が似ているとか、髪の毛とか目の色も似ているとか、そんなもんじゃないの!?」
「魂は同一だけど、器と育った環境が違えばそうなるよ」

 えぇぇ……
 オレは思わずサディエルを見るが……全然、自分と同一人物、いや、魂が同一人物には見えないんですけど。

「あー……もしかして、おれがサディとヒロト君を一瞬見間違えたのって、まさか」

 ふと、アークさんが何かを思い出したように呟く。
 そう言えば、アークさんと、ここに居ないレックスさんは、初対面のオレに対して違和感抱いていたもんな。

「恐らく、それを察知したんだろうね。アークシェイド君の場合、幼い頃からサディエル君と一緒に育ったわけだから、余計にだったんだろう」
「そうなると、同様の反応をしたレックスさんは……あの人、他の人をよく見てるからその辺りか」

 一方のサディエルも、結構冷静に話しを聞いて、そんなことを考察している。
 ……って、サディエル!?

「ちょっと、冷静過ぎない!?」
「驚いてはいるぞ。うん、めっちゃ驚いている」

 そうは見えないんだけど!

「とりあえず、2人が "同じ魂" と言うのは一先ず置いときまして……それと、サディエルが狙われた理由が分かりません」
「だな。現時点だと、サディエルとヒロトが同条件なのは変わらない」

 アルムとリレルも、意外と冷静だね。
 普通、オレみたいに驚く場面だと思うんですけど……何、もしかして2人も心当たりがあったとか?
 口に出してなかったけど、実は初対面時に一瞬ブレて見えていた可能性もあるな。

 オレがぐるぐると頭を悩ませている間に、魔王カイレスティンは言葉を続ける。

「前提条件として知って貰わないといけなかったからね。まず、俺も先ほど話した通り、元は異世界の人間だ。そして、俺を召喚した人物が、俺の『縁ある者』……の、はずだったんだが」
「確か、変死体で発見されたんだったな」

 本の内容を思い出しながら、アルムがそう答えた。

『なるほど、無理やり魔法陣を発動した結果、この事件が明るみになったわけですね』
『あぁ、屋敷の主人が変死体で発見されてな。その周囲の遺骨から事件が発覚……と言うのが、ここに記載されている内容だ』

 そうだった、正確には死者蘇生だけど、魔王カイレスティンを召喚した人物は……

「召喚され、意識を取り戻した時には、そいつは既に事切れていた。死にたての老人と、周りに数人分の白骨化した遺体の中で目が覚めた時は、軽くパニックになったぞ……おまけに、そいつが俺の『縁ある者』だと気付いたのも、つい最近。君ら2人の関係性に気づいたからだ」

 うわぁ……悲惨な光景だ。
 あまり想像したくないっつーか、そんな状況に飛ばされて誰もいないとか嫌すぎる。

 おまけに、死んでいたらそりゃ相手の魂を見るとか不可能だから、気づかないのも無理ないか。

「それでだ。そういった経緯から、配下として創造した魔族たちは、俺が元異世界人であることは知っている。だが、『縁ある者』については何も知識がなかった」
「……なるほど、読めてきた。ヒロト君と魔王カイレスティンは、いわば同類もしくは同志。双方とも異世界から召喚された存在だ。しかし、サディエルは違う。この世界に元から居た住人だ」

 何かに納得した表情で、バークライスさんはそう言葉を続ける。
 オレと魔王カイレスティンは、ある意味同じ。

 だけど……サディエルは、その1点だけが違うわけで……

「サディエルには、オレを召喚しても "生き残っている"、と言う状況が生まれた。だから狙われた!?」
「そういう事だ。俺の召喚主は死んでいるのに、彼は生きていた。何かしらがあると、あの時、あの街を襲撃させた奴が感じ取ったんだろう」

 その結果から、古代遺跡のある国でサディエルが狙われて、今に至ると。
 はぁ……こんなの分かるわけないじゃん!
 三人称とか、敵側視点でも見ることが出来ない限り、分かるわけがない!

「………それよりも重要なことなんだが」
「サディエル?」

「やっぱり……俺が、ヒロトをこの世界に呼んでしまった、ってことだよな?」

 あっ、しまった。

 その可能性をまだ話していなかった。
 いや、アルムたちの話から総括するに、一応可能性としては考慮していたかもしれないけど、今回の話で、完全に確定してしまったわけだからな。

「サディエル、その件は以前にも言ったぞ。部屋に入る順番が異なっていれば、結果も違っていた」
「そうですね。私か、アルムの『縁ある者』が召喚されていた可能性はあります」

 こちらも予想していたと言わんばかりに、アルムとリレルがフォローを入れた。
 オレじゃなかった可能性も当然あるわけだよな。
 今となっては、もしそうだったらと考えると違和感というか、オレじゃなかった場合が想像出来ないかな。

 それにしても、アルムとリレルの『縁ある者』か……どんな人物か、ちょっと見てみたい気もする。

「サディエル、気にしなくていいよ」
「けどな、お前だって元の世界に家族や友達もいるし、将来を決める為に必要な受験も近かったんだ。それを邪魔してしまったのは……」

 ……何だろう。

 こういう所、見覚えがあるというか、親近感というか。
 内容こそ違うけど、異世界に来た当初、旅に出るか否かで、あれこれもちゃもちゃと悩んでた自分自身を見ている感覚がすごーくする。

 今なら、オレとサディエルが "同じ魂を持つ人間同士" ってのも、納得出来る気がした。

「僕さ……今、サディエルが思いっきり、いつぞやのヒロトに見えいるんだけど」
「同じくです。オーガを1人で倒せって言った時に、あれこれ言っていたヒロトに似ておりますね」

 オレとは別のタイミングを思い出していたらしく、アルムとリレルが呆れ顔をしている。
 あ、そう言えばそのタイミングも、似たようにグダグダ悩んでたな、オレ……

「サディエル君、落ち込むのは後回しでね。今はそれが本題じゃないから」
「……わかりました」

 魔王カイレスティンはそう言いながらも、サディエルを心配そうに見る。

 だけど、それに気付いていない彼の表情は、とても暗い。
 完全にサディエルは落ち込みモードだな。
 ここまで落ち込んだ雰囲気の彼は初めて見たよ。

「そんなわけで、召喚主として生存しているサディエル君を、今日消滅させた奴が襲撃の最中に目を付けて、直近で誕生した新人に、彼を狙うように指示したみたいなんだ」

 そう言えば、元々はオレに能力があるかどうかを探る為の襲撃だったもんな、あのスケルトンの大群。
 オレが殺されそうになった時に、颯爽と現れて助けてくれたけど、魔族側からしたら、2人仲良く並んでいるわけで、"同じ魂を持っている" ことを見抜くのは簡単だったってことか。

「おまけに、新人の奴は今回シレっと逃亡してくれやがった。現在こちらでも捜索中だが、見つけたらタダじゃおかねーからな。あの野郎」

 両手の指をバキボキと鳴らしながら、世紀末覇者よろしく怖い顔をする。
 魔王様相手に良く逃げれたな……ガランドのヤツ。

 あいつ、最初こそ色々ミスっててデバフ大量に食らっているけど、万全な状態でぶつかっていたら、こっちに勝ち目がなかったかもな。

「結果として、サディエル君が狙われたのは完全にこちらの管理ミスだ。ヒロト兄ちゃんが無害で、こちらと対立の意思がない以上、何事もなく元の世界に戻るなりなんなりして貰うのを、静かに待てばよかったのに、余計なことを……!」

 ダン! と魔王カイレスティンは忌々しいと言わんばかりにテーブルを叩く。
 それと同時に、テーブルに置いてあった飲み物が軽く跳ね上がり、水滴が少しばかりこぼれた。
 近くで静かに事の成り行きを見守っていたミリィちゃんこと、ミルフェリアさんが、手際よくテーブルを拭き終えるのと待ってから、彼は話を続ける。

「ってことで、ヒロト兄ちゃんには、これまで通り何事もなく元の世界に戻る為に頑張ってくれればいいから!」
「けど、ガランドの件はどうしよう。きっとまた襲ってくる」

「ガランド……? あぁ、あいつに仮称をつけているのか」

 ガランドねぇ、と魔王カイレスティンは何度か名前を繰り返し呟く。
 そうだ、今ちょっと思いついたこと、提案してみようかな。

 ほら、せっかく目の前に魔族の総元締めさんがいらっしゃるわけだし。

「で、ついでだから魔王様に相談したいんですけど……オレが元の世界に戻る為に、ガランドの魔力を使いたいって言ったら、ダメかな?」

========================

 とりあえず今日は落ち着く為にも、一旦解散となった。

 バークライスさんは頭を抱えながら、明日以降の検査予定をサディエルに伝えて、魔術省へ。
 アークさんも、心配そうにサディエルの肩を叩いて、2~3言葉を交わした後、仕事があるからと海軍の方へ戻っていった。

 魔王カイレスティンと、その妃であるミルフェリアさんは、オレが提案した事項を検討し後日通達する、と言ってさっさと転移の魔術で自身の領地へと戻っている。

 そんなわけで、現在この部屋に居るのは、オレたち4人だけだ。

「はぁぁ……タイミング的に、俺が召喚したって可能性が高いことは分かっていたけど。ごめんなヒロト、本当にごめん。怖い目にも合わせてるし、受験勉強もままならない状況だし、親御さんたちにも申し訳ない」
「本当に気にしないでよサディエル。どう考えても不可抗力だし、どうしようもなかったんだから!」

 声が戻ったこととか、痣の効果が一部解除されたこととか、オレが元の世界に帰る為の手立てに目途が立ちそうかもとか、喜ぶべき箇所が沢山あったはずなのに、サディエルの表情は浮かない。

 オレと同じ魂が云々なんてのは、完全に二の次な感じだ。
 そんなことよりも、オレをこっちの世界に呼んでしまったことの方が、彼の中では重大事項なんだろう。

「オレがこの世界に来た当初、そんな素振りをミリも感じさせなかったのに……」

「当時はヒロトを不安にさせない為に、猫を100匹ぐらい被っていたからなコイツ」
「そうですね。猫かぶりその2ですよ、サディエルは」

 以前、サディエルがアルムに対して『猫かぶりその1』って言っていたけど、その2は自分自身のことだったのかよ。

「しかし、魔王からの返答次第だが、ヒロトが元の世界に戻る為に必要な魔力の件は、これでケリがつきそうだな」
「うん。色々大変な目にあったけど、結果的に上手くいっている。まぁ、魔王様に協力要請はちょっと予想外だったけど……」

「あら、確か先ほど、魔王も一概に悪ではない、とおっしゃっておりませんでしたか?」

 リレル、よく覚えていたな。
 オレは思わず苦笑いしながら、その問いかけに答える。

「うん。昔の作品はラスボス……物語の最後に倒す敵で、勧善懲悪な存在だったんだけどね。設定を捻る為か、むしろ味方だったり、人間側の方がよっぽど極悪で、みたいな展開もあったりする。今回はその味方だったパターン」

 あとは、道中にこれといって魔王様の悪行を聞かなかったというのも、大きかったかもしれない。
 もしも道中で、魔王様が直接あの国を滅ぼした、その街の人々を血祭りにした、とかいう話題を聞いていたら別だった。

 滅んだ国はあったけど、ほら、言語統一を拒んで、魔物の襲撃への対応が遅れた結果とか、ある種の自業自得なわけだし。
 そんなわけで、オレがここまでで仕入れた魔王様の情報は、ある日を境に人間と対立した。この1点のみだ。

「今の感じだと、人間との対立にも何かしら理由がありそうなんだよね。だから余計に、単純な悪人! って見れないのかも」
「お前の場合は、それに追加で同じ異世界人ってのもあるんだろうな」
「まぁね。話の内容と言葉尻から、さほど時代が離れている人じゃないっぽいし」

 ワンチャン、日本人の可能性すらあるんだよね。
 Gとか、Gとか、Gの話題とか。
 実際の所はどうか分からないけどな。

「一応お聞きますが、信じてよろしいんですよね? あの魔王を」

 リレルが、真剣な表情でそう問いかけてくる。
 オレは小さく頷き……

「うん、大丈夫だと思う。根拠は何だって言われたら困るけど、もしもオレらが本当に邪魔だったら、とっくにこっちを殺しているはずだ」

 何せ、魔王カイレスティンは冗談めいた感じで何度も『オレを始末しなきゃいけなかった』と言っていた。
 これに関しては、間違いなく嘘じゃないんだろう。

「何より、痣の件。こっちに研究されたくないってのなら、効果を解除せずに、サディエルを殺してしまえば済む話だしさ」
「それもそうだな。それでサディエル、調子はどうだ?」

「………」

 問いかけに無反応である。
 それを見たアルムは、ツカツカツカと、サディエルに近づき、遠慮なく頭をはたいた。

「いって! アルム、何するんだよ!」

「人の話を聞いてない奴が悪い。お前がどれだけウダウダ悩んだ所で、ヒロトが元の世界に戻れるわけがない。だったら、やるべきことをやる。お前の口癖だろ。割り切れとはいわん、罪悪感を全部ヒロトの為に使え」
「……分かった。ありがとうアルム」

 叩かれた場所を抑えながらも、サディエルはそう言った。
 一度、大きく深呼吸して表情を戻す。

 うん、サディエルはその方がいいな、やっぱり。

「まず声は出るようになっているし、弱体化の方も体の軽さからして問題ない」

 ベッドから降りたサディエルはぴょんぴょんと軽くジャンプする。
 そのまま、器用にバック転をして体の調子を確認した。
 
「となると、目印以外は全部外れた……と見てよろしいかもしれませんね」
「……いや、多分、弱体化は残っていると思う。今日までの分が無かったことにされただけ、という感じだ」

 え? 弱体化が残ってる!?

「分かるの?」
「あぁ。カインさんに解除された時、バキン、バキンって何かが壊れる音が響いたんだけど、回数が3回だったんだ」

 3回ってことは、3つの効果が消えたというわけで。

「声が出なくなる効果と」
「意識を奪った上で、体の主導権を握る効果」
「後は、意識がある上でも強制的にサディエルの体を動かす効果……で、3つか」

「多分な。それに、弱体化効果に関してはアイツに痣を付けられた時からの付き合いになるからな、違和感が拭えてない以上は残っていると思っていい」

 弱体化の効果が残っているにしろ、タイムリミットが伸びたのは事実だ。
 次のガランドとの戦闘において、サディエルも戦闘に参加出来る可能性がグッと高まったと思えば、いい結果だよな。

「そうなると……お前が本気の全力を出し切れる間に、アレをやった方がいいな」
「そうですね。サディエル、申し訳ありませんが検査が終わって自由になり次第、お願いできますか?」

「あぁ、任せろ。最悪出来ないと思ってた項目だったからな、やるなら今だ」

 オレに分からない会話を3人が続ける。
 この場合、十中八九でオレに関係することなのは確かなわけだけど……

「ヒロト」
「何、サディエル」

「俺の検査が終わって、動けるようになったら、このパーティでのコンビネーションについてを指導する。これは、帰路における必須項目だ」

 コンビネーション!
 そっか、ということは……

「自衛だけじゃなくて、オレもみんなと一緒に戦えるように、ってことだよね!」
「そういうことだ。開始は早くて5日後になるから、それまでにしっかり準備しておいてくれ」
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