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第4章 聖王都エルフェル・ブルグ
72話 縁ある者【前編】
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バークライスさんからその報告を聞くと同時に、アルムは首元から自身のマジーア・ペンタグラムを取り出し魔力を込める。
すると、宝石が光りだした。
光は4つ。けれども、そのうちの1つが他3つと比べて今にも消えかけている。
「………ダメだな、恐らくこの施設内にはいない」
「そんな……!? それでは、サディエルはどちらに……」
消えていない、と言う事はサディエルは生きている。
だけど、マジーア・ペンタグラムの感知範囲内にはいない。
「現在、施設内を職員たちに探させてはいるが……期待は薄そうだな」
「マジーア・ペンタグラムの感知範囲と、僕らがサディエルと別れたタイミング……それを加味すると、少なくとも人間の犯行はほぼ不可能だ」
「となりますと、やはり……」
「ガランドが先日の戦闘で動けない以上、可能性が高いのは、さっき話していた別の魔族……ってことだよね」
あの時、古代遺跡でサディエルだけが相対した魔族か……
と言うか、話題に出した途端こんなことしでかしやがって!
本当に、無駄にテンプレに沿ってくれなくていいんだよ、今はむしろ休憩時期、閑話休題、そういうタイミングのはずだろ。
「転移で移動中の可能性も、一応はあるな。しばらく僕は、このままペンダントに変化が無いか確認する」
「でしたら、私たちは可能性は低いでしょうが、施設内の探索に回りましょう」
「うん。少しでも手がかりがあるかもしれない! 30分ぐらいしたら戻るから!」
アルムにそう伝え、オレはリレルと一緒に立ち入り禁止区画の出口へと向かう。
図書館内は慌ただしくしない、静かに、って怒られそうけど、それどころじゃない。
とにかく少しでも、何かしらの手がかりを探さないと……!
焦りながらも、オレはドアを開けて走り出そうとした。
だが、ドン! と、何かにぶつかって、そのまま倒れてしまう。
「うわっ!?」
ぶつかった何かと一緒に、オレは床に倒れこむ。
最近、こういう形でコケるの増えてきてる気がするんだけど……
「ご、ごめん! 大丈夫……って、え?」
「いったたた……大丈夫だよ。あれ、ヒロト兄ちゃん?」
「カイン……くん……?」
起き上がって、ぶつかってた相手を見ると、そこに居たのは……最初の街で出会った幼い兄妹の片割れ、カイン君だった。
「え、あれ、本当にカイン君!? どうしてここに……」
「お兄ちゃん見つけたー! あれ、ヒロトお兄ちゃんだー! わーい、遊ぼうよ!」
そこに、本棚の影からミリィちゃんまで顔を出してくる。
思わぬ再会に、脳の処理が追い付かない。
だけど、今は……
「ご、ごめん2人とも! 今は忙しくて……後で……」
「ヒロト! 離れてください!」
言い終わるよりも早く、リレルがオレの前に立つ。
そして、短剣を取り出して2人に向ける。
「リレル!? ちょっと待って、あの子たちだよ! ほら、あの街で……」
「存じておりますよ。私もお会いしていますから。ですが、ここはあの街ではありません、エルフェル・ブルグです」
カイン君とミリィちゃんは、突然突き付けられた刃物に驚き、震えている。
そんな幼い兄妹から視線を外さず、リレルは言葉を続けた。
いつもの笑顔が、リレルから消えている。
今にも射殺さんと言わんばかりの表情で、幼い兄妹を睨みつけた。
「あの街から、エルフェル・ブルグまでの最短ルートを通ってここに居る、となれば理解は出来ます。ですが、そのルートは熟練の冒険者や訓練を積んだ兵士でも滅多に通らない場所です。そもそも、標高の高い山を越えないといけない」
「それって……」
「はい、この方々がその旅に耐えられる可能性があるとしたら、エルフェル・ブルグの要人であり、相応の護衛を大量に連れている場合だけです……そして、直近でそのような大掛かりな護衛部隊が結成された、と言う話は聞いておりません」
つまり、リレルが言いたいことは……
オレは驚きと共に、2人を見る。
リレルの言った言葉が正しいならば、それはつまり……この2人が、ここに居ることがおかしい、と言うわけで。
「………」
「沈黙は肯定と受け取ります。何者ですが、あなた方は」
このタイミングで、この子たちが現れた。
あまり考えたくない、けど……
「ねぇ、ヒロト兄ちゃん。慌てていたけど何があったの?」
リレルから向けられていた短剣に怯えていた表情が消えた。
それを見て、リレルも警戒心を強める。
一方で、それを全くものともせず、カイン君はオレに視線を向けてきた。
「カイン君……きみは、いったい……」
「早く答えてよ。誰かが危ないんじゃないの?……まっ、今のままじゃ喋ってくれないよね」
はぁ、とカイン君はため息を吐く。
その姿は、あまりにも見た目にも、年齢にもそぐわない姿だ。
「おい、何があった!?」
騒ぎに気付いたらしいく、アルムとバークライスさんが立ち入り禁止区画から出て来た。
目の前に居た2人を見て、アルムも腰にある短剣に手を伸ばす。
カイン君は肩を落とし、ミリィちゃんは苦笑いする。
「今回の件はこちらの不手際だ、それの後始末に来た。あんまり騒ぎにしたくないから、君ら以外に誰も気づかないよう、わざわざ結界まで張って聞いてるんだ。もう1度聞くよ、ヒロト兄ちゃん。誰が、連れ去らわれたの?」
「………」
オレは必死に考えを巡らせる。
この場合、どっちが正解なのか。
今のカイン君の言葉から、想定される可能性は……
「……カイン君と、ミリィちゃんは会ったことが無いと思うけど、オレの旅仲間。リーダーのサディエル」
「ヒロト!?」
「お前、喋って……」
「大丈夫、だと思う。あんまり想像したくないけど……この状況から、そう言えるのって……」
オレが全てを言い終わるよりも先に、カイン君はにっこりと微笑む。
嫌なぐらいに子供らしいその笑顔が、今は逆に怖い。
「あぁ、彼か。以前のトラブルの時もそうだけど、貧乏くじ引くのが趣味だったり……ね、バークライス」
「……何故、ここに居るんだ?」
バークライスさんが、カイン君を睨みながら問いかける。
「さっき言った通り、こっちの不手際の後始末さ。さっさと助けに行くとして……ヒロト兄ちゃん、協力してくれる?」
「え? 協力?」
オレは思わず問い返す。
この状況で、オレが協力って……
「だって、ヒロト兄ちゃんを支点にしないと探せないから。ここに居る人への説明はミリィ、頼む」
「分かったわ」
今まで喋らなかったミリィちゃんも、その姿に似合わない大人びた口調で返す。
さっきから何が何だか!
いや、もうこの2人は、あの街にいたカイン君やミリィちゃん本人かはどうでもいい。
最優先は、サディエルを助けることだ。
「一緒に行けば、サディエルを助けられるんだよな」
「もちろん」
オレの質問に、カイン君は笑顔で答える。
……やるしかないか。
「アルム、リレル。念のため、ペンダントでオレの生存確認をしてくれる?」
「いけませんヒロト! それは承知しかねます!」
「同感だ。最悪を考えろ! それなら僕かリレルが……」
「ヒロト兄ちゃんじゃないとダメなんだよ。異界の人間であり、"縁ある者" だからね」
また良く分からない単語が!
あーはいはい、後で全部種明かしパターンだね、これ! 異界の人間とかしっかり言っちゃってるし。
バークライスさんにどう説明すりゃいいんだよ、この場合。
つーか、やっぱりそうだよな。そういう意味で取るからな!?
「で、オレは何をすればいいんだよ」
「難しい事じゃないよ。手を繋いで一緒に来てくれればいい。以前会った時に、君の魂は見ているから、あとはそこから追うだけ」
そう言いながら、カイン君は右手をオレに向けてくる。
「分かった」
頷いて、オレはその手を取る。
「それじゃ、ミルフェリア。行ってくる」
「はい、お気をつけて行って来てください、カイレスティン」
「……は!? おいちょっとまて、その名前」
「魔王の……!」
アルムとリレルの言葉が途中で途切れたと思うと、周囲が全くの別世界になった。
先ほどまでいた図書館とは打って変わって、どこかの地下、いや、城? とにかく、そんな場所だ。
周囲に何かいるって感じもない、なんとも静かな空間である。
さて……この場合、やっぱツッコミ入れないとダメだよな?
「……あの、さ……さっき、嫌な単語が聞こえたんだけど」
「ん? そうだよ」
すると、カイン君の姿が一瞬で変わる。
子供の姿から一転し、そのまま成長したらきっとこんな少年……いや、青年になるだろうな、ってのが分かる、そんな姿に。
「改めて、この世界へようこそ、異界からの来訪者にして同志。我が名はカイレスティン。今まで通り、カイン君って呼んでくれていいよ。それと、あとでお菓子おごってよ、"約束" だったよね?」
語尾に音符でもつきそうなぐらい、軽いノリで言われてしまった。
オレは、空いている手で頭を抱える。
いや、うん、魔族な気はしていた。
魔族だろうなーとは思っていたけど、ガランドや、もう1人の魔族とは派閥が違って、対立関係だとか。
色々とやらかしてくれたから、粛清する為にみたいな感じで動いている、そんなレベルだと思っていたのに……!
おまけに、オレたちしか知らない『約束』まで口走ってくれた!
Q:異世界に来て、サディエルたちを介さず仲良くなった幼い兄妹の片割れが、実は魔王様だった時のオレの心境を述べよ。
A:テンプレふざけんな!!!!
========================
「連れてきたよ」
広い空間で、サディエルを抱えたまま、ローブの人物はそう言った。
しかし反応がない。
「……回復が追い付いていないようね。まったく、2度も失敗するから厄介なことに」
愚痴りながら、ローブの人物は気絶したまま動かないサディエルを、近くのソファに乱暴に放り投げる。
「痣の件を解析されたらまずいわ。とりあえずは、こいつをずっと眠らせたままにする、それでいい?」
『あぁ、頼む……』
「やっと反応した、手間をかけさせないで。ただでさえ、ここはエルフェル・ブルグと魔王様の領地に近いのよ。さっさと回復して、こいつを食え。食ってしまえば、さすがに文句は言わないはずよ」
そう言いながら、ローブの人物はだるそうに近くの椅子に座る。
ちらりとサディエルの方を見て、動きが無いことを確認して、視線を空中に戻す。
「私が"顔"を手に入れてなかったら、横取りしたいぐらいなのに。そうよ、あっちのガキをお前が、私はコイツに鞍替えすればよかったんじゃない!」
当てつけのように、声を荒げつつローブの人物は言う。
けれど、返答がなく静かな時間が過ぎる。
「反応なし。本当に奪ってやろうかしら……」
すると、宝石が光りだした。
光は4つ。けれども、そのうちの1つが他3つと比べて今にも消えかけている。
「………ダメだな、恐らくこの施設内にはいない」
「そんな……!? それでは、サディエルはどちらに……」
消えていない、と言う事はサディエルは生きている。
だけど、マジーア・ペンタグラムの感知範囲内にはいない。
「現在、施設内を職員たちに探させてはいるが……期待は薄そうだな」
「マジーア・ペンタグラムの感知範囲と、僕らがサディエルと別れたタイミング……それを加味すると、少なくとも人間の犯行はほぼ不可能だ」
「となりますと、やはり……」
「ガランドが先日の戦闘で動けない以上、可能性が高いのは、さっき話していた別の魔族……ってことだよね」
あの時、古代遺跡でサディエルだけが相対した魔族か……
と言うか、話題に出した途端こんなことしでかしやがって!
本当に、無駄にテンプレに沿ってくれなくていいんだよ、今はむしろ休憩時期、閑話休題、そういうタイミングのはずだろ。
「転移で移動中の可能性も、一応はあるな。しばらく僕は、このままペンダントに変化が無いか確認する」
「でしたら、私たちは可能性は低いでしょうが、施設内の探索に回りましょう」
「うん。少しでも手がかりがあるかもしれない! 30分ぐらいしたら戻るから!」
アルムにそう伝え、オレはリレルと一緒に立ち入り禁止区画の出口へと向かう。
図書館内は慌ただしくしない、静かに、って怒られそうけど、それどころじゃない。
とにかく少しでも、何かしらの手がかりを探さないと……!
焦りながらも、オレはドアを開けて走り出そうとした。
だが、ドン! と、何かにぶつかって、そのまま倒れてしまう。
「うわっ!?」
ぶつかった何かと一緒に、オレは床に倒れこむ。
最近、こういう形でコケるの増えてきてる気がするんだけど……
「ご、ごめん! 大丈夫……って、え?」
「いったたた……大丈夫だよ。あれ、ヒロト兄ちゃん?」
「カイン……くん……?」
起き上がって、ぶつかってた相手を見ると、そこに居たのは……最初の街で出会った幼い兄妹の片割れ、カイン君だった。
「え、あれ、本当にカイン君!? どうしてここに……」
「お兄ちゃん見つけたー! あれ、ヒロトお兄ちゃんだー! わーい、遊ぼうよ!」
そこに、本棚の影からミリィちゃんまで顔を出してくる。
思わぬ再会に、脳の処理が追い付かない。
だけど、今は……
「ご、ごめん2人とも! 今は忙しくて……後で……」
「ヒロト! 離れてください!」
言い終わるよりも早く、リレルがオレの前に立つ。
そして、短剣を取り出して2人に向ける。
「リレル!? ちょっと待って、あの子たちだよ! ほら、あの街で……」
「存じておりますよ。私もお会いしていますから。ですが、ここはあの街ではありません、エルフェル・ブルグです」
カイン君とミリィちゃんは、突然突き付けられた刃物に驚き、震えている。
そんな幼い兄妹から視線を外さず、リレルは言葉を続けた。
いつもの笑顔が、リレルから消えている。
今にも射殺さんと言わんばかりの表情で、幼い兄妹を睨みつけた。
「あの街から、エルフェル・ブルグまでの最短ルートを通ってここに居る、となれば理解は出来ます。ですが、そのルートは熟練の冒険者や訓練を積んだ兵士でも滅多に通らない場所です。そもそも、標高の高い山を越えないといけない」
「それって……」
「はい、この方々がその旅に耐えられる可能性があるとしたら、エルフェル・ブルグの要人であり、相応の護衛を大量に連れている場合だけです……そして、直近でそのような大掛かりな護衛部隊が結成された、と言う話は聞いておりません」
つまり、リレルが言いたいことは……
オレは驚きと共に、2人を見る。
リレルの言った言葉が正しいならば、それはつまり……この2人が、ここに居ることがおかしい、と言うわけで。
「………」
「沈黙は肯定と受け取ります。何者ですが、あなた方は」
このタイミングで、この子たちが現れた。
あまり考えたくない、けど……
「ねぇ、ヒロト兄ちゃん。慌てていたけど何があったの?」
リレルから向けられていた短剣に怯えていた表情が消えた。
それを見て、リレルも警戒心を強める。
一方で、それを全くものともせず、カイン君はオレに視線を向けてきた。
「カイン君……きみは、いったい……」
「早く答えてよ。誰かが危ないんじゃないの?……まっ、今のままじゃ喋ってくれないよね」
はぁ、とカイン君はため息を吐く。
その姿は、あまりにも見た目にも、年齢にもそぐわない姿だ。
「おい、何があった!?」
騒ぎに気付いたらしいく、アルムとバークライスさんが立ち入り禁止区画から出て来た。
目の前に居た2人を見て、アルムも腰にある短剣に手を伸ばす。
カイン君は肩を落とし、ミリィちゃんは苦笑いする。
「今回の件はこちらの不手際だ、それの後始末に来た。あんまり騒ぎにしたくないから、君ら以外に誰も気づかないよう、わざわざ結界まで張って聞いてるんだ。もう1度聞くよ、ヒロト兄ちゃん。誰が、連れ去らわれたの?」
「………」
オレは必死に考えを巡らせる。
この場合、どっちが正解なのか。
今のカイン君の言葉から、想定される可能性は……
「……カイン君と、ミリィちゃんは会ったことが無いと思うけど、オレの旅仲間。リーダーのサディエル」
「ヒロト!?」
「お前、喋って……」
「大丈夫、だと思う。あんまり想像したくないけど……この状況から、そう言えるのって……」
オレが全てを言い終わるよりも先に、カイン君はにっこりと微笑む。
嫌なぐらいに子供らしいその笑顔が、今は逆に怖い。
「あぁ、彼か。以前のトラブルの時もそうだけど、貧乏くじ引くのが趣味だったり……ね、バークライス」
「……何故、ここに居るんだ?」
バークライスさんが、カイン君を睨みながら問いかける。
「さっき言った通り、こっちの不手際の後始末さ。さっさと助けに行くとして……ヒロト兄ちゃん、協力してくれる?」
「え? 協力?」
オレは思わず問い返す。
この状況で、オレが協力って……
「だって、ヒロト兄ちゃんを支点にしないと探せないから。ここに居る人への説明はミリィ、頼む」
「分かったわ」
今まで喋らなかったミリィちゃんも、その姿に似合わない大人びた口調で返す。
さっきから何が何だか!
いや、もうこの2人は、あの街にいたカイン君やミリィちゃん本人かはどうでもいい。
最優先は、サディエルを助けることだ。
「一緒に行けば、サディエルを助けられるんだよな」
「もちろん」
オレの質問に、カイン君は笑顔で答える。
……やるしかないか。
「アルム、リレル。念のため、ペンダントでオレの生存確認をしてくれる?」
「いけませんヒロト! それは承知しかねます!」
「同感だ。最悪を考えろ! それなら僕かリレルが……」
「ヒロト兄ちゃんじゃないとダメなんだよ。異界の人間であり、"縁ある者" だからね」
また良く分からない単語が!
あーはいはい、後で全部種明かしパターンだね、これ! 異界の人間とかしっかり言っちゃってるし。
バークライスさんにどう説明すりゃいいんだよ、この場合。
つーか、やっぱりそうだよな。そういう意味で取るからな!?
「で、オレは何をすればいいんだよ」
「難しい事じゃないよ。手を繋いで一緒に来てくれればいい。以前会った時に、君の魂は見ているから、あとはそこから追うだけ」
そう言いながら、カイン君は右手をオレに向けてくる。
「分かった」
頷いて、オレはその手を取る。
「それじゃ、ミルフェリア。行ってくる」
「はい、お気をつけて行って来てください、カイレスティン」
「……は!? おいちょっとまて、その名前」
「魔王の……!」
アルムとリレルの言葉が途中で途切れたと思うと、周囲が全くの別世界になった。
先ほどまでいた図書館とは打って変わって、どこかの地下、いや、城? とにかく、そんな場所だ。
周囲に何かいるって感じもない、なんとも静かな空間である。
さて……この場合、やっぱツッコミ入れないとダメだよな?
「……あの、さ……さっき、嫌な単語が聞こえたんだけど」
「ん? そうだよ」
すると、カイン君の姿が一瞬で変わる。
子供の姿から一転し、そのまま成長したらきっとこんな少年……いや、青年になるだろうな、ってのが分かる、そんな姿に。
「改めて、この世界へようこそ、異界からの来訪者にして同志。我が名はカイレスティン。今まで通り、カイン君って呼んでくれていいよ。それと、あとでお菓子おごってよ、"約束" だったよね?」
語尾に音符でもつきそうなぐらい、軽いノリで言われてしまった。
オレは、空いている手で頭を抱える。
いや、うん、魔族な気はしていた。
魔族だろうなーとは思っていたけど、ガランドや、もう1人の魔族とは派閥が違って、対立関係だとか。
色々とやらかしてくれたから、粛清する為にみたいな感じで動いている、そんなレベルだと思っていたのに……!
おまけに、オレたちしか知らない『約束』まで口走ってくれた!
Q:異世界に来て、サディエルたちを介さず仲良くなった幼い兄妹の片割れが、実は魔王様だった時のオレの心境を述べよ。
A:テンプレふざけんな!!!!
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「連れてきたよ」
広い空間で、サディエルを抱えたまま、ローブの人物はそう言った。
しかし反応がない。
「……回復が追い付いていないようね。まったく、2度も失敗するから厄介なことに」
愚痴りながら、ローブの人物は気絶したまま動かないサディエルを、近くのソファに乱暴に放り投げる。
「痣の件を解析されたらまずいわ。とりあえずは、こいつをずっと眠らせたままにする、それでいい?」
『あぁ、頼む……』
「やっと反応した、手間をかけさせないで。ただでさえ、ここはエルフェル・ブルグと魔王様の領地に近いのよ。さっさと回復して、こいつを食え。食ってしまえば、さすがに文句は言わないはずよ」
そう言いながら、ローブの人物はだるそうに近くの椅子に座る。
ちらりとサディエルの方を見て、動きが無いことを確認して、視線を空中に戻す。
「私が"顔"を手に入れてなかったら、横取りしたいぐらいなのに。そうよ、あっちのガキをお前が、私はコイツに鞍替えすればよかったんじゃない!」
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