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第3章 冒険者2~3か月目

外伝1-2 船内パニック【後編】

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「しっかし、何も弱体化だけじゃなくて、TSまでしなくていいじゃん」
「だな。ったく、もう1つよりはマシだとは言ったが、こうも面白……ごほん! 厄介なことになるとは」
「そうですよね、とても楽し……こほん、めんどくさい事になってしまうなんて……」

「……そこの3名、言いたいことがあるなら俺の目を見ながら言え」

 あの後、アークさんは船長にして指揮官の仕事があるのでと、ひとしきりサディエルを笑いものにした後、満足げに去っていった。
 思いっきり玩具にされてたサディエルは、不貞寝モードである。

 ……もし、今回の出来事が船上じゃなくて、下船後の港町とかだったら、恐らくリレルと一緒に嬉々として洋服選びに参戦してきそうな勢いだったのは、もう見なかったことにした方が良さそうである。
 そして、オレとアルムは荷物持ち。
 無駄にながーい待ち時間と、無駄にながーい着せ替え人形のフルコース、なんとも想像しやすい展開だ。

「このまま治らなかったら、どうせギルドで検診受けるんだ。ついでに色々調べてもらえ」
「面白事象が追加されて、余計に検査項目が増える未来しか見えないんだが」

 アルムの言葉に、サディエルは顔色悪く答える。
 まぁうん、確実に珍しい事象扱いであれこれ検査されるのは確定だろうな。
 こればっかりは、変わってあげることも出来ない為、オレは心の中でエールを送るしかない。

「ちなみにサディエル、痣の方は何か変化は? 疼くとか、痛みがあるとか」
「それは無いかな」

 オレの問いかけに、サディエルは念のためと言わんばかりに首元を手鏡で映して確認する。
 ついでに、自分の胸の山を確認してげっそりしている……
 なんつーか、マジで自分の胸を揉むって発想なさそうなんですけど、他人事ながら、性欲が皆無すぎる彼に少しばかり不安を覚える。

 しかし、痣に変化が無いってことは、ガランドが襲撃してくる可能性は低そうかな。

「痣の方に変化があったら、そこは生き残り重視でいてくださいよ」
「流石にこの姿で死ぬのだけはごめんだよ、俺も」

 だよなぁ、うん、男の姿に戻ってから死にたいのはちょこっと、分かる。

「気休め程度の話だけど、こういった場合は襲撃されるのは稀だから大丈夫、だと思う」
「本気でTSは娯楽扱いなんだな、ヒロトの世界は。その娯楽でこんな姿になっている俺に、ちょっと謝って欲しいんだけど」

「大丈夫、オレの世界じゃ、実在する歴史上の人物を始め、架空だろうか、神様だろうか、魔族だろうか、なんだろうが等しくTSの被害にあってるから!」

 サディエルを安心させる意味で、オレの世界の同一被害者様をピックアップしてみたが……

「ヒロト、慰めになってない」
「むしろ、節操無し、という感想しか抱けませんでしたよ」
「お前の世界、娯楽の為に性別までいじるとか、やっぱ頭おっかしーわ……」

 アルム、リレル、サディエルの順にドン引き全否定である。
 やめて、そんな目でオレを見ないで。
 TS考えたのはそもそもオレじゃないし。若干、濡れ衣着せられた状態になってない!?

「ヒロト、本当の本当に、元に戻る方法は、あの変態魔族を倒すことだけなんだな?」
「大半はそうかな。あとは、無理やり痣の効果を解除、解呪? する方法を探すってのもあるんだけど……それが出来る可能性って」
「エルフェル・ブルグが現状最有力……ダメだ、どうしようもない」

 サディエルは頭を抱えて絶望の表情を浮かべる。
 なんつーか、本当にオレが想像していたTSと展開がまったく違うせいで、そういう意味でも想像出来ない。

「まっ、ここであーだこーだと喋っていても解決しないな。リレル、ヒロト、今朝のトレーニングに行こう」
「そうですね」
「わかった。サディエル、大人しくしてろよ」

「ついにヒロトにまでそう注意される羽目になった……」

 今回は100%俺のせいじゃねぇー……と、ぼやくサディエルを置いて、オレらは甲板へと向かう。
 甲板に出ると、今朝も同じように体を動かすために、何組かの冒険者パーティの姿が見える。
 日中は甲板も結構暑いから、朝のうちにトレーニングする人が結構いるんだよね。

「さってと、さくっと運動して、朝食にしよう」
「賛成。サディエルの分も貰ってこないといけないし……どうする? 食堂で食べる?」
「サディエルの部屋で食べるのはいかがですか。いい機会です、のんびりお話でもして過ごしましょう」

 そんな会話をしながら、オレらはいつも通り準備運動をする。
 毎朝のこととはいえ、毎日続けるといつの間にかルーチンワークと言うか、これやらないと1日の調子が狂いそうな感じになってきたな。

 慣れとは恐ろしいものである。

 けど、良いルーチンワークだし……元の世界に戻ってからも、これは続けてもいいかもしれない。

「いっちにー、さんしーっと。うおっ!? やっと前屈で両手が地面に着いた!」

 いつもなら、まだギリギリで届かなくてやきもきしていた前屈が、今日はぺたりと両手を床につけることが出来た。
 これは、凄い進歩だ! やったぜ!

「おっ、やったなヒロト」
「おめでとうございます。頑張った成果ですね」
「へっへー、やれば出来る!……って、ここに来るまであんまり実感なかったけど」

 やっぱり、結果ってそう簡単に出ないもんなんだな。
 都合よくいかないもんだ、強敵が現れたら速攻パワーアップ! なんてのは、こういう経験すると夢のまた夢、才能があっても、それはさすがにねーよ、ってなるよな。

 あぁいうのは展開の都合上ってやつだから、仕方ないんだろうけど。

「これなら180度開脚も夢じゃないかも! さっそく練習を……」

「よぉ、おはようさん。あれ、サディエル君が見当たらないけど……」

 そこに、少々無骨で人を寄せ付けない見た目をしている冒険者さんと、先日サディエルに突っかかってきた冒険者さんが話しかけてきた。
 オレたちはそれぞれ、おはようございます、と返す。

「サディエルは少し体調を崩していて、今は船室にいます」

 嘘は言っていない。
 ただ、一般的な体調不良とはちょっと違うだけで。
 オレの言葉を聞いて、少々無骨で人を寄せ付けない見た目をしている冒険者さんたちは心配そうな表情を浮かべる。

「え? 大丈夫なのかよ、それ」
「それは心配だな。どうする、見舞いにでも行くか?」

 おぉ、先日の協力もあってか友好的、なのはいいけどちょっと待った。
 今の流れだと、彼らはサディエルの部屋に行きそうじゃない!?

 いやいやいや、それやったら部屋に引きこもっている意味がなくなってしまう!

「えーっと、大丈夫ですよ! ほら、病気移しちゃ悪いですし、あと2日で港につくわけですし」
「けどな……ほら、おれ、この前迷惑かけたし」
「あぁ、冒険者という立場上、次いつ再会出来るか分からないし、困った時はお互い様だ。なに、体は頑丈だ、気にするな」

 好意が……! 好意のはずなのに、今はそれが有難迷惑!
 いや、事実を言うわけにいかないから伝えられないんだけど、その優しさが、親切が、今回ばかりは申し訳ないんですけど。
 そりゃ、傍目から見れば、サディエルは風邪か何かでダウン、ってのが普通だけどさ。

「おーい、リーダー、どうしたんだ?」
「あぁ丁度良かった、サディエル君のこと知っているだろ。彼が……」

 そこに、少々無骨で人を寄せ付けない見た目をしている冒険者たちの仲間が続々と集まってきた。
 ちょ、人数が増え始めた!?
 リーダーである、少々無骨で人を寄せ付けない見た目をしている冒険者さんが、サディエルの不調を仲間に説明すると、彼の仲間たちは、やれ「それは大変だ」、やれ「心配ですよね」と話しを始める。

 さらにここで悪循環。

 オレたちの集まりを見た他の冒険者たちまで集まってきた。
 口々にサディエルの名前が出て、大丈夫なのか、薬はいらないのか、見舞いに行こうなどの言葉が続く。

「ここで無駄に顔が広いアイツの利点と言うべきなのか、場合によっては欠点が出たか」
「出ましたね……いつもながら、どうやって交友の輪を広めているのか、不思議でたまりません」

「ちょっと、アルム、リレル!? 他人事のように言ってるけど、結構地味にピンチだって分かってる!?」

 完全に思考放棄しているアルムとリレル。
 一方で話題がヒートアップして、今すぐにでもサディエルの所へ行こうとする冒険者の皆さん。

 サディエルの光属性主人公パワーが完全に裏目だー!

「いやいやいや、皆さんまって! 待ってって!!」

 オレが必死に止めるのも聞かず、彼らは歩き始める。
 その光景を、何故か止める事もせず見送るアルムとリレル……って、本当に色々とおかしい!?

 あーもー! こうなったらヤケクソだ! もうあとは野となれ山となれ!

「みーなーさーん! サディエルは大丈夫というか、心配しなくていいのでお願いですから、とまってくださいいいいい!」

========================

「とまってくださいいいいい!……‥って、あれ?」

 がばりっ! と、オレは起き上がる。
 と言うか、自分の絶叫で目が覚めた、とも言える。

 周囲をきょろきょろと見回して……うん、ここは、オレがこの数日間ずっと寝泊まりしている、船室だ。

 いや、そうじゃなくて!
 オレは慌てて起き上がり、部屋を出て、サディエルの部屋の前まで行く。
 そのまま乱暴にドンドンドン! と彼の部屋をノックする。

「サディエル! サディエル!? 大丈夫!?」
『あー……? ヒロト? ちょっとまってくれ、今開ける』

 中から、若干眠そうな声が響く。
 少し待つと、鍵が開く音がして、サディエルが顔をだし……あれ?

「ふぁぁ……どうしたヒロト、まだ明け方だぞ。と言うか、凄い絶叫が聞こえたけど、何かあったか?」

 部屋から出てきたサディエルは、見覚えのある、いつものサディエルだった。
 決して、女体化した感じでもなく、本当にいつも通りの彼だ。
 オレは思わず上から下まで彼を見て……

「あれ? サディエル、女になってたんじゃ」
「………は?」

========================

「あっはははははは! つまりなんだ? 俺が痣の影響で女になった夢を見てたってこと?」
「……そう、みたいです」

 あの後、騒ぎに気付いたアルムとリレルも起きて来て、全員がサディエルの部屋に集結。
 オレの素っ頓狂な発言の真相を根掘り葉掘り聞かれ、今に至る。

 うわああああ、この異世界に来た当初、うっかり『ここ異世界ですか?』って口が滑った時と全く状況が同じ!

 ただし、あの時との違いは、今回の内容が明らかにひどすぎるってことだ!

「ほー、どんな感じだったんだ? 女のサディエル」
「まぁ羨ましい。私もその夢、ご相伴に預かりたかったです。せっかく女性の仲間が出来たのに……」

 アルムは意地の悪い顔でニヤニヤと。
 リレルは本気で残念そうな表情を浮かべている。

 思えば、夢の中のアルムとリレル、途中から急に動かなくなったのって、つまりそういうことだったんだな。
 あと、前屈して手が床につくようになったあれも、さっきやってみたら、まだ全然出来ない状態のまま……うん、都合のいい夢を見ていたってわけでして。

「オレ……欲求不満だったのかな……自分の世界のテンプレっつーか、これぞ異世界だ! ってやつに」

 いい加減、この世界に慣れてきて、だいぶ割り切っていたつもりだったけど。
 思ったよりも、やっぱり不満があったのかもしれない。

 だからって、だからって、こういう展開を望んでいたわけでは、断じて! ない!!

 今回の結論
 穴があったら入りたい。ここ、海の上だけど。
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