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第3章 冒険者2~3か月目
51話 航海の最中【前編】
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「サディエル! アルム! ごはんは!?」
「おっ、来たな。出来てるぞ」
一通りの動き確認と、自分に合う戦い方について、リレルをあれこれ会話していたら予想以上に時間が掛かってしまった。
自分じゃ具体的にどんな動きがいいのかさっぱりだから、結構悩んだ。
こればっかりは自分がどう動くかってのをこれから確認していかないと難しい、ということで保留事項である。
保留事項、忘れないようにしよう……結構、あるから。
そしてオレとリレルは、サディエルたちが待つ船内の調理場兼食堂に赴いた。
「おぉ、リレル君、ヒロト君も、おはよう」
「おはようございます、クレインさん」
「おはようございます!……って、大丈夫ですか?」
「はっはっは……レックスの奴が大量に儂の部屋に書類の山と山と山と山を形成してくれおってな……やっと終わったよ」
あー……だから、船旅が始まってから全然クレインさんを見かけなかったのか。
ずっと書類整理をしていて、ようやく落ち着いたってことで食堂に顔を出した、と。
というか、別邸でも結構な山が形成されていたはずだけど……あの時処理した分ですら生易しいレベルだったのか。
「ほぼまるまる1週間缶詰……オレだったら途中で逃げそうです」
「逃げだしたらレックスが煩いんじゃよ……まぁこれで、やっと儂もしばし自由の身だ」
そう言いながら、クレインさんは大きく背伸びをする。
そんな彼の目の前に、1枚の皿が置かれる。置いたのはアルムだ。
「では、お疲れのクレインさんへ、朝食はこちらになります」
「おおお、これは……! 持ってきてくれてありがとうアルム君」
クレインさんはまずアルムにお礼を言い、そのまま視線を厨房にいるサディエルに向ける。
「サディエル君、久しぶりに作ったのかい?」
「そうですよ。クレインさん覚えてたんですね」
「あぁもちろんだとも。実に懐かしい」
皿には朝食と言う事で、サンドイッチがのせられているわけだけど……
一見すると、ふつーのサンドイッチだよな、これ。
「街で買いこんどいた塩漬けした肉を塩抜きして、少量の野菜とバターとかで炒めたやつだ。俺のお気に入り。ほら、2人も座れよ、今持っていくから」
「おっしゃ! 待ってました!」
オレは手近な席に座り、サディエルが朝食を持ってきてくれるのを待つ。
その間に、クレインさんはお先にとサンドイッチを頬張っている。相当疲れていたのか、はたまた空腹だったのか、かなりのハイペースでサンドイッチが消えていく。
本当に……お疲れ様です、クレインさん……
「ほい、おまちどう!」
そこに、4人分の皿と飲み物をお盆ようなものに乗せたサディエルがやってきた。
カタンと順番に、オレたちの目の前に料理が並べられる。
肉だー! 久しぶりのお肉だー!
魚も悪くはないけど、やっぱほぼ1週間の3食オールは無理でしたごめんなさい!
「ヒロトには後でデザートもあるからな」
「それも結構期待してた。って、この短時間でデザートなんて作れるもん? だいたい時間掛かりそうなのに」
「なーに、ちょっと卵と牛乳と砂糖でちょちょいっと煮て、水と氷の魔術使って急速冷蔵すればすぐさ」
卵と牛乳と砂糖で出来る簡単なデザート? 煮込んで?
あー、もしかしてプリンかも。けど、煮て作れるんだったっけ、イメージは蒸しなわけだけど。
「さてと、俺も早速頂きまー……」
「おっ、美味そうだな。貰うぞ」
席に着き、自分の分をうきうきと食べようとしたサディエルだったが、急に伸びてきた腕によって、サンドイッチが強奪された。
何が起こったか一瞬分からなかったのか、サディエルは硬直する。
「うん、イケるな」
「あら、アークさん。おはようございます」
奪ったサンドイッチを頬張るアークさんと、特に何も言わずリレルが挨拶をする。
いや、挨拶している場合じゃないような……?
一方で硬直していたサディエルはようやく正気に戻ったらしくて、ギロリとアークさんを睨みつける。
「アァァァクゥゥウ!?」
「おれも久々に肉が食いたかったから助かった。いやぁ、美味しい美味しい」
「てんめぇ!? 俺が作ったって分かってて奪っただろ!?」
「そりゃお前の得意料理ぐらい覚えているって。クレイン殿、おはようございます。アルム君たちもな」
サディエルの抗議もどこ吹く風。
アークさんは営業スマイルよろしく、クレインさんに挨拶して、オレらにもそう言ってくる。
「アークさん、容赦ねぇ……」
「そんなもんだろ、多分」
「ですね」
今にも殴りかかりそうなサディエルを横目に、オレたちは自分たちの朝食を頬張る。
んー……お肉が口の中に広がって幸せ!
「おはよう、アークシェイド君。今の所、航路は予定通りかね?」
「少し遅れ気味ですが、日程に影響はありません。それに、今日の風向きと速度ならば遅れもすぐに解消されるはずです」
「ふむ、それなら良かった。あの山脈を超えるのはちと一苦労じゃからな。かなりの迂回になるものの、航路が確実じゃ」
クレインさんと事務的な会話を始めたせいで、これ以上怒りのやりどころを無くしたサディエルは、不機嫌になりながら厨房へと戻っていく。
オレはまだサンドイッチが残っている皿を持ってサディエルを追いかける。
「サディエル。オレの分、食べなよ」
「あっはは……ありがとうヒロト。だけど、それはお前が頑張ったご褒美なんだ、気にするなって」
そう言いながらオレの頭をポンポンとやりながら、荷物を確認する。
取り出したのは中くらいの大きさの瓶、中には塩漬け肉と一緒に買い込んだ干し肉が入っている。
瓶の蓋を開けて、サディエルは干し肉を3本取り出し、近くのコンロ……じゃないな、ピザを焼くような窯に入れてしばらく炙り始める。
「そういえば、リレルとの訓練状況はどんな感じだ?」
「剣の立ち回り模索中。オレらしいって所が難しくて」
「そうだな。第三者視点から、こういう動きの方が合っている、と伝えても最後は当人の意思だ」
だよねぇ……防御重視の方がいいよ! って言われても、いや攻めたいんだよー! とかありそうだし。
ゲームでもあるある、かなーりあるあるだ。
「にしても、リレルに対しては結構素直に話しを聞いてるな」
「あー……いやさ、サディエルやアルムと違って女性だし……何より」
「何より?」
「姉ちゃんの事思い出すと、逆らえないっつーかなんつーか」
「……あー、分かる。それめっちゃ分かる。俺も姉がいるからな、逆らえないの超分かる」
年が近い姉なんて怖い以外なにがある?
たまーに、一人っ子とか、姉妹がいない奴らが『姉ちゃん羨ましー』とか『妹とかかわいいじゃん』って呑気に言ってくることあるけど、総じて姉妹がいる連中は遠い目してるって気づいてないんだよな!
漫画やアニメのイメージで言うの禁止、はい、禁止!
オレは念のため、周囲を見回して他の人がいないことを確認してから、次の言葉を紡ぐ。
「と言うか、姉が怖いって印象……世界違ってても変わりなくて嬉しい」
「世界が違っても、姉こえぇは共通言語」
ガシッ、とオレらは同時に握手する。
「寝てる時に物投げられてきたりとか」
「とりあえず弟は買い物時の荷物持ち係だったり」
「姉の機嫌のとり方を、まず真っ先に学ぶよな!?」
「触らぬ神に祟りなし、って言葉があるんだけど、ほんとそれ! どこにプッツンいく導火線あるか分かったもんじゃない!」
「せめて年齢がもーちょい離れてたら、ちょっとは大目に見て見逃してくれるのでは? と、思ったことなんざ数知れず! だよな、ヒロト!」
「正直、理不尽が服着て歩くってのが姉妹だよ! そうだよね、サディエル!」
今ここに、姉に夢見すぎダメ絶対同盟が結成された瞬間である。
異世界だろうがなんだろうが、姉は怖い! これは真理!
弟君よしよし、とか、お兄ちゃんかっこいーなんて、あれはまやかし以外の何物でもねーからな!?
夢もへったくれもねぇんだよ、これは!
「なにやってんだ、お前ら……」
そこに、オレらが戻ってこないことを心配して、厨房を覗きに来たアルムが呆れ顔で立っていた。
「ちょっと、姉は理不尽な生物である、という議論を」
「話が飛躍しすぎてわからん。と言うか、焦げてるぞ、ソレ」
「え?……ああああああああ!? 俺の干し肉!」
あっ、しまった。
うっかり姉議論に夢中になってたせいで、さっき炙り始めた干し肉の存在、完全に忘れていた。
サディエルは大慌てで窯から干し肉を取り出すが、残念ながら無残な焦げ肉に変貌していた。
「俺の干し肉……」
「お前なぁ、食材を無駄にするなよ。タダじゃないんだから」
しょんぼりしながら、焦げた干し肉をゴミ箱に捨てるサディエルに、オレはそっとサンドイッチを差し出す。
「食べようよ、これ」
「うん、ありがとう……」
今度はさすがに素直に受け取って貰えた。
サンドイッチの1切れを受け取り、サディエルは頬張る。
オレも同じように、残っていたサンドイッチを手に取って食べた。
「美味しいね、サンドイッチ」
「そうだな、美味しいな」
「仲いいなお前ら。ところで、アークさんから少し連絡があったぞ」
連絡?
オレとサディエルは互いの顔を見た後、アルムに向き直る。
「内容は?」
「この先の海域なんだが、魔物からの襲撃される可能性が高くなる場所らしい。1週間ほどは、可能な限り甲板待機して欲しいとのことだ」
「それって、エルフェル・ブルグでの調査結果から?」
らしいぞ、とアルムが肯定する。
海に住む魔物か……イカとか、亀とか、タコとかみたいな奴が魔物化しているのかな。
既存の生物を魔物化ってことだから、こっちにもオレの所のテンプレが通用すればいいんだけど……どうなんだろうな。
「そう言う事なら、協力しよう。俺らも船上での戦闘経験は多い方じゃない、同乗している冒険者たちと連携しないといけないわけだから、その辺りも交渉しないとだな」
「頼めるか、サディエル」
「まっ、それがリーダーのお役目ですから? なーに、ちょっと雑談がてらにあれこれ情報収集してくるさ」
よしっ、とサディエルはオレから皿を奪って流し台で軽く洗い始める。
ついでにと言わんばかりに、アルムも手に持っていた空の皿を流し台に置き、無論でサディエルに睨まれた。
「そうだ、アルム。そこの冷蔵貯蔵庫からデザート取ってきてヒロトにあげてくれ」
「なんだ、まだあげてなかったのか。はいはい」
肩を落としながら、アルムは少し先にある冷蔵貯蔵庫へと入っていき、プリンを持って戻ってきた。
結論だけいいます、めっちゃ美味しかった。
超なめらかに仕上がっていて、びっくりしたよ。固いプリンかとおもったら、本当になめらかプリン。
「サディエルって、結構器用なタイプ?」
「不器用ってわけじゃないな。アイツの場合、興味があることなら色々触るからな。そういう意味では別ベクトルで色々触るリレルと同類だ」
「………別ベクトルって」
リレルの武器を扱うあれこれを思い出して、それを同列に扱っていいのか結構悩む。
これ以上のツッコミ入れても進展もしなければ、改善もされないと察したオレは、無言で残りのプリンを自分の胃袋へ納める作業に戻ったのであった。
「おっ、来たな。出来てるぞ」
一通りの動き確認と、自分に合う戦い方について、リレルをあれこれ会話していたら予想以上に時間が掛かってしまった。
自分じゃ具体的にどんな動きがいいのかさっぱりだから、結構悩んだ。
こればっかりは自分がどう動くかってのをこれから確認していかないと難しい、ということで保留事項である。
保留事項、忘れないようにしよう……結構、あるから。
そしてオレとリレルは、サディエルたちが待つ船内の調理場兼食堂に赴いた。
「おぉ、リレル君、ヒロト君も、おはよう」
「おはようございます、クレインさん」
「おはようございます!……って、大丈夫ですか?」
「はっはっは……レックスの奴が大量に儂の部屋に書類の山と山と山と山を形成してくれおってな……やっと終わったよ」
あー……だから、船旅が始まってから全然クレインさんを見かけなかったのか。
ずっと書類整理をしていて、ようやく落ち着いたってことで食堂に顔を出した、と。
というか、別邸でも結構な山が形成されていたはずだけど……あの時処理した分ですら生易しいレベルだったのか。
「ほぼまるまる1週間缶詰……オレだったら途中で逃げそうです」
「逃げだしたらレックスが煩いんじゃよ……まぁこれで、やっと儂もしばし自由の身だ」
そう言いながら、クレインさんは大きく背伸びをする。
そんな彼の目の前に、1枚の皿が置かれる。置いたのはアルムだ。
「では、お疲れのクレインさんへ、朝食はこちらになります」
「おおお、これは……! 持ってきてくれてありがとうアルム君」
クレインさんはまずアルムにお礼を言い、そのまま視線を厨房にいるサディエルに向ける。
「サディエル君、久しぶりに作ったのかい?」
「そうですよ。クレインさん覚えてたんですね」
「あぁもちろんだとも。実に懐かしい」
皿には朝食と言う事で、サンドイッチがのせられているわけだけど……
一見すると、ふつーのサンドイッチだよな、これ。
「街で買いこんどいた塩漬けした肉を塩抜きして、少量の野菜とバターとかで炒めたやつだ。俺のお気に入り。ほら、2人も座れよ、今持っていくから」
「おっしゃ! 待ってました!」
オレは手近な席に座り、サディエルが朝食を持ってきてくれるのを待つ。
その間に、クレインさんはお先にとサンドイッチを頬張っている。相当疲れていたのか、はたまた空腹だったのか、かなりのハイペースでサンドイッチが消えていく。
本当に……お疲れ様です、クレインさん……
「ほい、おまちどう!」
そこに、4人分の皿と飲み物をお盆ようなものに乗せたサディエルがやってきた。
カタンと順番に、オレたちの目の前に料理が並べられる。
肉だー! 久しぶりのお肉だー!
魚も悪くはないけど、やっぱほぼ1週間の3食オールは無理でしたごめんなさい!
「ヒロトには後でデザートもあるからな」
「それも結構期待してた。って、この短時間でデザートなんて作れるもん? だいたい時間掛かりそうなのに」
「なーに、ちょっと卵と牛乳と砂糖でちょちょいっと煮て、水と氷の魔術使って急速冷蔵すればすぐさ」
卵と牛乳と砂糖で出来る簡単なデザート? 煮込んで?
あー、もしかしてプリンかも。けど、煮て作れるんだったっけ、イメージは蒸しなわけだけど。
「さてと、俺も早速頂きまー……」
「おっ、美味そうだな。貰うぞ」
席に着き、自分の分をうきうきと食べようとしたサディエルだったが、急に伸びてきた腕によって、サンドイッチが強奪された。
何が起こったか一瞬分からなかったのか、サディエルは硬直する。
「うん、イケるな」
「あら、アークさん。おはようございます」
奪ったサンドイッチを頬張るアークさんと、特に何も言わずリレルが挨拶をする。
いや、挨拶している場合じゃないような……?
一方で硬直していたサディエルはようやく正気に戻ったらしくて、ギロリとアークさんを睨みつける。
「アァァァクゥゥウ!?」
「おれも久々に肉が食いたかったから助かった。いやぁ、美味しい美味しい」
「てんめぇ!? 俺が作ったって分かってて奪っただろ!?」
「そりゃお前の得意料理ぐらい覚えているって。クレイン殿、おはようございます。アルム君たちもな」
サディエルの抗議もどこ吹く風。
アークさんは営業スマイルよろしく、クレインさんに挨拶して、オレらにもそう言ってくる。
「アークさん、容赦ねぇ……」
「そんなもんだろ、多分」
「ですね」
今にも殴りかかりそうなサディエルを横目に、オレたちは自分たちの朝食を頬張る。
んー……お肉が口の中に広がって幸せ!
「おはよう、アークシェイド君。今の所、航路は予定通りかね?」
「少し遅れ気味ですが、日程に影響はありません。それに、今日の風向きと速度ならば遅れもすぐに解消されるはずです」
「ふむ、それなら良かった。あの山脈を超えるのはちと一苦労じゃからな。かなりの迂回になるものの、航路が確実じゃ」
クレインさんと事務的な会話を始めたせいで、これ以上怒りのやりどころを無くしたサディエルは、不機嫌になりながら厨房へと戻っていく。
オレはまだサンドイッチが残っている皿を持ってサディエルを追いかける。
「サディエル。オレの分、食べなよ」
「あっはは……ありがとうヒロト。だけど、それはお前が頑張ったご褒美なんだ、気にするなって」
そう言いながらオレの頭をポンポンとやりながら、荷物を確認する。
取り出したのは中くらいの大きさの瓶、中には塩漬け肉と一緒に買い込んだ干し肉が入っている。
瓶の蓋を開けて、サディエルは干し肉を3本取り出し、近くのコンロ……じゃないな、ピザを焼くような窯に入れてしばらく炙り始める。
「そういえば、リレルとの訓練状況はどんな感じだ?」
「剣の立ち回り模索中。オレらしいって所が難しくて」
「そうだな。第三者視点から、こういう動きの方が合っている、と伝えても最後は当人の意思だ」
だよねぇ……防御重視の方がいいよ! って言われても、いや攻めたいんだよー! とかありそうだし。
ゲームでもあるある、かなーりあるあるだ。
「にしても、リレルに対しては結構素直に話しを聞いてるな」
「あー……いやさ、サディエルやアルムと違って女性だし……何より」
「何より?」
「姉ちゃんの事思い出すと、逆らえないっつーかなんつーか」
「……あー、分かる。それめっちゃ分かる。俺も姉がいるからな、逆らえないの超分かる」
年が近い姉なんて怖い以外なにがある?
たまーに、一人っ子とか、姉妹がいない奴らが『姉ちゃん羨ましー』とか『妹とかかわいいじゃん』って呑気に言ってくることあるけど、総じて姉妹がいる連中は遠い目してるって気づいてないんだよな!
漫画やアニメのイメージで言うの禁止、はい、禁止!
オレは念のため、周囲を見回して他の人がいないことを確認してから、次の言葉を紡ぐ。
「と言うか、姉が怖いって印象……世界違ってても変わりなくて嬉しい」
「世界が違っても、姉こえぇは共通言語」
ガシッ、とオレらは同時に握手する。
「寝てる時に物投げられてきたりとか」
「とりあえず弟は買い物時の荷物持ち係だったり」
「姉の機嫌のとり方を、まず真っ先に学ぶよな!?」
「触らぬ神に祟りなし、って言葉があるんだけど、ほんとそれ! どこにプッツンいく導火線あるか分かったもんじゃない!」
「せめて年齢がもーちょい離れてたら、ちょっとは大目に見て見逃してくれるのでは? と、思ったことなんざ数知れず! だよな、ヒロト!」
「正直、理不尽が服着て歩くってのが姉妹だよ! そうだよね、サディエル!」
今ここに、姉に夢見すぎダメ絶対同盟が結成された瞬間である。
異世界だろうがなんだろうが、姉は怖い! これは真理!
弟君よしよし、とか、お兄ちゃんかっこいーなんて、あれはまやかし以外の何物でもねーからな!?
夢もへったくれもねぇんだよ、これは!
「なにやってんだ、お前ら……」
そこに、オレらが戻ってこないことを心配して、厨房を覗きに来たアルムが呆れ顔で立っていた。
「ちょっと、姉は理不尽な生物である、という議論を」
「話が飛躍しすぎてわからん。と言うか、焦げてるぞ、ソレ」
「え?……ああああああああ!? 俺の干し肉!」
あっ、しまった。
うっかり姉議論に夢中になってたせいで、さっき炙り始めた干し肉の存在、完全に忘れていた。
サディエルは大慌てで窯から干し肉を取り出すが、残念ながら無残な焦げ肉に変貌していた。
「俺の干し肉……」
「お前なぁ、食材を無駄にするなよ。タダじゃないんだから」
しょんぼりしながら、焦げた干し肉をゴミ箱に捨てるサディエルに、オレはそっとサンドイッチを差し出す。
「食べようよ、これ」
「うん、ありがとう……」
今度はさすがに素直に受け取って貰えた。
サンドイッチの1切れを受け取り、サディエルは頬張る。
オレも同じように、残っていたサンドイッチを手に取って食べた。
「美味しいね、サンドイッチ」
「そうだな、美味しいな」
「仲いいなお前ら。ところで、アークさんから少し連絡があったぞ」
連絡?
オレとサディエルは互いの顔を見た後、アルムに向き直る。
「内容は?」
「この先の海域なんだが、魔物からの襲撃される可能性が高くなる場所らしい。1週間ほどは、可能な限り甲板待機して欲しいとのことだ」
「それって、エルフェル・ブルグでの調査結果から?」
らしいぞ、とアルムが肯定する。
海に住む魔物か……イカとか、亀とか、タコとかみたいな奴が魔物化しているのかな。
既存の生物を魔物化ってことだから、こっちにもオレの所のテンプレが通用すればいいんだけど……どうなんだろうな。
「そう言う事なら、協力しよう。俺らも船上での戦闘経験は多い方じゃない、同乗している冒険者たちと連携しないといけないわけだから、その辺りも交渉しないとだな」
「頼めるか、サディエル」
「まっ、それがリーダーのお役目ですから? なーに、ちょっと雑談がてらにあれこれ情報収集してくるさ」
よしっ、とサディエルはオレから皿を奪って流し台で軽く洗い始める。
ついでにと言わんばかりに、アルムも手に持っていた空の皿を流し台に置き、無論でサディエルに睨まれた。
「そうだ、アルム。そこの冷蔵貯蔵庫からデザート取ってきてヒロトにあげてくれ」
「なんだ、まだあげてなかったのか。はいはい」
肩を落としながら、アルムは少し先にある冷蔵貯蔵庫へと入っていき、プリンを持って戻ってきた。
結論だけいいます、めっちゃ美味しかった。
超なめらかに仕上がっていて、びっくりしたよ。固いプリンかとおもったら、本当になめらかプリン。
「サディエルって、結構器用なタイプ?」
「不器用ってわけじゃないな。アイツの場合、興味があることなら色々触るからな。そういう意味では別ベクトルで色々触るリレルと同類だ」
「………別ベクトルって」
リレルの武器を扱うあれこれを思い出して、それを同列に扱っていいのか結構悩む。
これ以上のツッコミ入れても進展もしなければ、改善もされないと察したオレは、無言で残りのプリンを自分の胃袋へ納める作業に戻ったのであった。
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