49 / 132
第3章 冒険者2~3か月目
49話 ヒーラーの心得【後編】
しおりを挟む
彼方、笑顔で人体のイラストが描かれた本を手に持ち、満面の笑顔を浮かべるリレル。
此方、その表紙を見て1か月前を思い出して頬が引きつるオレ。
第三者がこの光景を見たら、さぞ奇怪なんだろうなぁ……
「と言うわけで、改めて"治療"についてお話致しますね!」
「うわぁい、超笑顔だー……」
「もちろんです。アルムはずっと戦術論を、サディエルだって何だかんだ色々お話していらっしゃったじゃないですか。私もずーっと治療についてお話したかったんです!」
1か月も待ちぼうけですのに。と、リレルはうきうきと荷物から本を取り出しながら言う。
うん、確かに1か月と言うか……ごめんなさい、半分忘れてました。
「それに、1か月前では少し早すぎたのも事実でした」
そう言いながら、リレルは目的のページに辿り着いたのか、オレに見せてくれる。
書かれているのは、文字こそ読めないものの、科学室とかに置いてある人体模型と似たようなイラスト。
「今のヒロトであれば、あの時、"人体の構造と、内臓その他の正しい位置を把握しましょう"と言ったのか、もうお分かりですよね?」
その言葉に、オレはゆっくりと頷く。
「うん、それは間違いなく分かる。少なくとも1か月前……ううん、アルムと喧嘩する前のオレじゃ分からなかったことは……分かっているつもりだ」
本当にこの1か月だけで色々あった。
旅立つ前と比べても結構大変だったけど、正直それの比じゃないぐらいだ。
「ではヒロト、問います」
「はい」
「何故、人体の構造を学ぶのか」
「最悪を少しでも回避する為、生き延びる可能性を高める為。大怪我をした人が目の前にいたとして、何もしなかったらその人は死ぬ。だけど、応急処置が出来れば助かる可能性が僅かにでも生まれる」
「何故、治癒の魔術そのものではなく、治療……ひいては応急処置から学ぶのか」
「ただ治癒の魔術を掛けても意味がない。事前に消毒など必要な処置をしてからじゃないと、後々に後遺症が残る可能性がある。破傷風がいい例だ」
「何故、"知識"から学ぶのか」
「難しい病ほど、治療するという"経験"は簡単に積めない。だけど、経験してないので出来ません、助けられません、はもっとダメだから」
「その通りです」
オレの回答を聞いて、リレルは少し寂しそうに微笑み頷く。
そして、普段の笑みを消し、真剣な表情を浮かべた。
「少し例え話をしますね。これは医療に限った話ではありませんが、人は何かに困った時、その筋の専門家に相談したくなります。この人なら、すぐに解決は無理でも、確実に対処できる、そんな安心感から相談に訪れるのです」
病気になればお医者さん。
勉強でわからない方があれば、学校の先生。
駅で困れば駅員さん。
オレたちが日常生活で困ったら、そうやって誰かに、何が困っているかを相談する。
「目の前に現れた人物の技力がどれだけ低くとも、等しく"専門家"とみなされます」
オレはこくりと頷く。
高卒で就職する予定の奴から、聞いたことがある内容だ。
1度就職して企業に勤めると、例え社内では新人だと認識されていても、客の前に出たら等しく『プロフェッショナル』として扱われると。
未経験だろうがなんだろうが関係ない。客はそんな事情を知らないから。
毎日乗る地下鉄の運転手が、実は今日初めて電車を運行する新人だ、なんてオレらは知る由もない。
たまたま乗った飛行機のパイロットが、今回が初のフライトである、なんて知りえない。
「その"専門家"が、分からないので助けません、などと言う言葉は許されないのです。分からなくても、何かしらの処置をするのとしないのとでは、雲泥の差があります」
「だからこそ、学ぶ。何故と、どうしてと、1つ1つの"ルールや理由"を学びながら」
「はい。仮に失敗したとしても、致命的な失敗にしないように。どれだけ注意しても、人である以上、失敗は必ず起きます。回避は出来ません。でしたら、何を持ってその失敗を最小限にするのか……それこそが"学び"であり"知恵"です」
そこまで言い切って、オレたちは一度大きく深呼吸する。
はぁぁ……かなり、きっつい。
聞いてるだけで、凄い頭が痛い内容だよ……
「ふふっ、口が達者になりましたね」
ようやく表情を崩して、いつもの笑顔を浮かべるリレル。
今はその笑顔が、すごくホッとする。
「まぁね。勝ち筋と負け筋を考える上で、結果に対する過程がどれだけ重要なのかを学んだから、かな」
以前、アルムはこういった。
日常的に訓練出来るし、初心者なら尚の事、まず負け筋を学ぶべきだと。
負ける、と言う言葉のネガティブな印象に隠されがちだが、つまりは失敗してはいけないこと"学ぶ"ことだ。
「先人が失敗したことを、わざわざ記録に残してくれている。それを学んで、同じ悲劇を繰り返さないこと。初めてであっても類似事象があるならば、まずは過去に実績のあることを試す」
「はい、それこそが治療……いいえ、全てに通じる"知恵"です。どんなことでもまず座学から入るのも同じ理由です。そして、ここからが本題です」
リレルは改めて、本をオレに差し出してくる。
とても分厚く、図鑑じゃないかと言いたいぐらいの本を、オレは受け取る。
オレが読めないのは承知だろう。だけど、それでも渡してきたその本を見る。
「ヒロト。これからお伝えするのは、仮に私たちと離れ離れになり、貴方が1人ぼっちになった時。確実に次の街まで辿り着く為に、必要な知恵の1つとなります」
「……必要な知恵の、1つ」
「そうです。次の街まで、魔物でも、盗賊でも、貴方を狙ってくるモノが必ずいます。逃げるにしても戦うにしても、大なり小なり怪我をするでしょう。その時、貴方を助けられるのは、貴方だけです」
リレルが、サディエルが、アルムが、誰も近くに居なかった時。
怪我を負ったまま、その場に倒れこんだオレ自身を助けられるのは、オレだけになる。
その時、応急処置も何も出来なければ、すぐには死ななくても、後々何かしらの後遺症が残り、最悪は死に至る。
「リレルさ……1か月前、オレが治癒の魔術を知りたいって言った時から、そのつもりで言ったんだよね」
「そうですよ。私たちが一番心配する最悪の展開は、貴方を1人残して私たちが全員死に……そのまま貴方まで死んでしまう事です」
もう、何度も聞き飽きるぐらい聞いた言葉。
それが再び紡がれる。
「ほんっっっと、お人よし」
「構いませんよ、お人よしで。それですべてが上手く行くのであれば」
うん、本当に……お人よしだ。
リレルだけじゃない、サディエルも、アルムもだ。
オレが少しでも異世界で不安にならないように、あれこれと認識を擦り合わせながら、やらなければいけないこと、やらないと"死ぬ"ことを伝えてくれたサディエル。
何をどうすればいいかを決め切れないオレに、明確な目標設定と過程の重要さを教えてくれたアルム。
今、万が一の万が一に備えての治療の"知恵"を伝えようとしてくれているリレル。
「リレル、まずオレに応急処置についてを教えてくれ!」
「わかりました。では、順番にお話致しますね」
オレの言葉を聞いて、リレルは嬉しそうにそう答えた。
まずは何処からにいたしましょう、とリレルはウキウキで別の本を手に取って、ページを捲り始める。
―――っと、そういえば応急処置について学ぶ前に、聞いとかないといけないことが。
「リレル、話を始める前に1つ。さっき、医学を学ぶ上で必要だから色々な武器を使えるようにってやつ、あれは何で?」
「そういえばお伝えしておりませんでしたね」
リレルもすっかり失念していたらしい。
オレも人の事言えないわけだけどさ。
「理由は簡単です。武器の傷を覚える為です」
「武器の……傷?」
え? どういうこと?
オレが首を傾げていると、リレルは近くに置いていた自分の槍を手に取る。
「例えば槍でこう、相手を突きますでしょ? その時に出来る傷がどの位置かによって、損傷している可能性がある臓器を割り出す。そうすれば、緊急性と治療の優先順位の目明日にもなりますので」
「えーっと、リレルさん……それって……」
「剣だとこう、バスっと切った場合は意外と慌てなくていいです。見た目凄い出血しているようですが、骨がガードして大半無事ですから。逆にこう、剣を横に寝かせた状態で一突きの場合は、肋骨をすり抜けて貫通する危険があり、そうなった場合は様々な臓器にもダメージが行くので……」
「たんま! ちょっとたんま!! だいたい分かった、応急処置の話に戻ろう!」
つまり、リレルが色々な武器を結果的に使えるようになった理由って……
自分で相手を怪我させて、どういう怪我が出来上がるか。
それをどう治療すればいいのかあれこれ検証するってこと!?
その怪我させる相手って十中八九魔物だよね?……いや、盗賊とか襲ってくれば、ワンチャン彼らで検証するとかそういう……
そこまで考えて、オレは悪寒が走る。
理論は分かる。凄い効率がいい『覚え方』なのも分かる。
だけど、ちょっとそれは、それはいただけないっつーか、いいのかそれが武器を色々扱える理由で!?
「ヒロト? どうされました?」
「いえ、ナンデモナイデス」
オレはこの時、アルムが彼女をちょっと特殊、と評した理由をハッキリと理解した。
正直、理解はしたくなかった。
リレル、思ったより変な方向にネジぶっ飛んでたー!?
怪我させる相手が魔物とか、敵対する相手だからいいものの、一歩間違えたらそれ完全にマッドサイエンティスト方向ー!
しかもそれを効率がいいの一言で済ませてそうだよ!?
あれか……やっぱり、ストレスがより多くかかる職業に従事る人たちって、多少ネジ吹っ飛ばさないと、正気を保てないのかもしれない。
本人が至って真面目に考察してるせいで、余計に始末が悪いよな、これ。
========================
ヒロトがリレルから、応急処置について学んでいる頃。
「…………」
船の先端で、黄昏ているサディエルが居た。
ふと、彼は自身の右手を見て、グーパーと何度か握りこぶしを作っては開くを繰り返した。
「……違和感は、無い。うん、感じない。間違いなくいつも通り……なんだけど……」
サディエルは眉を顰める。
違和感は確かに感じない、感じないが『おかしい』と……直感的に思った。
「サディエル、こんな所にいたのか」
「アルム?」
突然声をかけられ、サディエルは驚いたように後ろを見る。
そこには、何か言いたげな表情を浮かべたアルムがいた。
その無言の圧に、しばしサディエルは視線を泳がせるものの、観念したのか口を開く。
「さっきの模擬戦で、ちょっと違和感……いや、正確には違和感はないんだ。だけど、"おかしい"と思った」
「おかしい、ね……今はその程度か?」
「あぁ、本当に直感レベルだ。だけど、ヒロトの言っていたことを考えると……」
もしかしたら、と続けようとしてサディエルは言葉を止める。
そんな彼を見て、アルムはため息を吐く。
「わかった、今はそれでいい。一瞬隠そうとしたことは、リレルやヒロトには黙っておいてやる」
「あっははは……助かるよ。特にリレルに知られたら怖すぎる」
「怖いどころじゃないだろ」
「まぁな」
肩を落としながら、サディエルは同意する。
「はっきりと確信したら、また言うよ」
「すぐに言えよ」
「あぁ」
此方、その表紙を見て1か月前を思い出して頬が引きつるオレ。
第三者がこの光景を見たら、さぞ奇怪なんだろうなぁ……
「と言うわけで、改めて"治療"についてお話致しますね!」
「うわぁい、超笑顔だー……」
「もちろんです。アルムはずっと戦術論を、サディエルだって何だかんだ色々お話していらっしゃったじゃないですか。私もずーっと治療についてお話したかったんです!」
1か月も待ちぼうけですのに。と、リレルはうきうきと荷物から本を取り出しながら言う。
うん、確かに1か月と言うか……ごめんなさい、半分忘れてました。
「それに、1か月前では少し早すぎたのも事実でした」
そう言いながら、リレルは目的のページに辿り着いたのか、オレに見せてくれる。
書かれているのは、文字こそ読めないものの、科学室とかに置いてある人体模型と似たようなイラスト。
「今のヒロトであれば、あの時、"人体の構造と、内臓その他の正しい位置を把握しましょう"と言ったのか、もうお分かりですよね?」
その言葉に、オレはゆっくりと頷く。
「うん、それは間違いなく分かる。少なくとも1か月前……ううん、アルムと喧嘩する前のオレじゃ分からなかったことは……分かっているつもりだ」
本当にこの1か月だけで色々あった。
旅立つ前と比べても結構大変だったけど、正直それの比じゃないぐらいだ。
「ではヒロト、問います」
「はい」
「何故、人体の構造を学ぶのか」
「最悪を少しでも回避する為、生き延びる可能性を高める為。大怪我をした人が目の前にいたとして、何もしなかったらその人は死ぬ。だけど、応急処置が出来れば助かる可能性が僅かにでも生まれる」
「何故、治癒の魔術そのものではなく、治療……ひいては応急処置から学ぶのか」
「ただ治癒の魔術を掛けても意味がない。事前に消毒など必要な処置をしてからじゃないと、後々に後遺症が残る可能性がある。破傷風がいい例だ」
「何故、"知識"から学ぶのか」
「難しい病ほど、治療するという"経験"は簡単に積めない。だけど、経験してないので出来ません、助けられません、はもっとダメだから」
「その通りです」
オレの回答を聞いて、リレルは少し寂しそうに微笑み頷く。
そして、普段の笑みを消し、真剣な表情を浮かべた。
「少し例え話をしますね。これは医療に限った話ではありませんが、人は何かに困った時、その筋の専門家に相談したくなります。この人なら、すぐに解決は無理でも、確実に対処できる、そんな安心感から相談に訪れるのです」
病気になればお医者さん。
勉強でわからない方があれば、学校の先生。
駅で困れば駅員さん。
オレたちが日常生活で困ったら、そうやって誰かに、何が困っているかを相談する。
「目の前に現れた人物の技力がどれだけ低くとも、等しく"専門家"とみなされます」
オレはこくりと頷く。
高卒で就職する予定の奴から、聞いたことがある内容だ。
1度就職して企業に勤めると、例え社内では新人だと認識されていても、客の前に出たら等しく『プロフェッショナル』として扱われると。
未経験だろうがなんだろうが関係ない。客はそんな事情を知らないから。
毎日乗る地下鉄の運転手が、実は今日初めて電車を運行する新人だ、なんてオレらは知る由もない。
たまたま乗った飛行機のパイロットが、今回が初のフライトである、なんて知りえない。
「その"専門家"が、分からないので助けません、などと言う言葉は許されないのです。分からなくても、何かしらの処置をするのとしないのとでは、雲泥の差があります」
「だからこそ、学ぶ。何故と、どうしてと、1つ1つの"ルールや理由"を学びながら」
「はい。仮に失敗したとしても、致命的な失敗にしないように。どれだけ注意しても、人である以上、失敗は必ず起きます。回避は出来ません。でしたら、何を持ってその失敗を最小限にするのか……それこそが"学び"であり"知恵"です」
そこまで言い切って、オレたちは一度大きく深呼吸する。
はぁぁ……かなり、きっつい。
聞いてるだけで、凄い頭が痛い内容だよ……
「ふふっ、口が達者になりましたね」
ようやく表情を崩して、いつもの笑顔を浮かべるリレル。
今はその笑顔が、すごくホッとする。
「まぁね。勝ち筋と負け筋を考える上で、結果に対する過程がどれだけ重要なのかを学んだから、かな」
以前、アルムはこういった。
日常的に訓練出来るし、初心者なら尚の事、まず負け筋を学ぶべきだと。
負ける、と言う言葉のネガティブな印象に隠されがちだが、つまりは失敗してはいけないこと"学ぶ"ことだ。
「先人が失敗したことを、わざわざ記録に残してくれている。それを学んで、同じ悲劇を繰り返さないこと。初めてであっても類似事象があるならば、まずは過去に実績のあることを試す」
「はい、それこそが治療……いいえ、全てに通じる"知恵"です。どんなことでもまず座学から入るのも同じ理由です。そして、ここからが本題です」
リレルは改めて、本をオレに差し出してくる。
とても分厚く、図鑑じゃないかと言いたいぐらいの本を、オレは受け取る。
オレが読めないのは承知だろう。だけど、それでも渡してきたその本を見る。
「ヒロト。これからお伝えするのは、仮に私たちと離れ離れになり、貴方が1人ぼっちになった時。確実に次の街まで辿り着く為に、必要な知恵の1つとなります」
「……必要な知恵の、1つ」
「そうです。次の街まで、魔物でも、盗賊でも、貴方を狙ってくるモノが必ずいます。逃げるにしても戦うにしても、大なり小なり怪我をするでしょう。その時、貴方を助けられるのは、貴方だけです」
リレルが、サディエルが、アルムが、誰も近くに居なかった時。
怪我を負ったまま、その場に倒れこんだオレ自身を助けられるのは、オレだけになる。
その時、応急処置も何も出来なければ、すぐには死ななくても、後々何かしらの後遺症が残り、最悪は死に至る。
「リレルさ……1か月前、オレが治癒の魔術を知りたいって言った時から、そのつもりで言ったんだよね」
「そうですよ。私たちが一番心配する最悪の展開は、貴方を1人残して私たちが全員死に……そのまま貴方まで死んでしまう事です」
もう、何度も聞き飽きるぐらい聞いた言葉。
それが再び紡がれる。
「ほんっっっと、お人よし」
「構いませんよ、お人よしで。それですべてが上手く行くのであれば」
うん、本当に……お人よしだ。
リレルだけじゃない、サディエルも、アルムもだ。
オレが少しでも異世界で不安にならないように、あれこれと認識を擦り合わせながら、やらなければいけないこと、やらないと"死ぬ"ことを伝えてくれたサディエル。
何をどうすればいいかを決め切れないオレに、明確な目標設定と過程の重要さを教えてくれたアルム。
今、万が一の万が一に備えての治療の"知恵"を伝えようとしてくれているリレル。
「リレル、まずオレに応急処置についてを教えてくれ!」
「わかりました。では、順番にお話致しますね」
オレの言葉を聞いて、リレルは嬉しそうにそう答えた。
まずは何処からにいたしましょう、とリレルはウキウキで別の本を手に取って、ページを捲り始める。
―――っと、そういえば応急処置について学ぶ前に、聞いとかないといけないことが。
「リレル、話を始める前に1つ。さっき、医学を学ぶ上で必要だから色々な武器を使えるようにってやつ、あれは何で?」
「そういえばお伝えしておりませんでしたね」
リレルもすっかり失念していたらしい。
オレも人の事言えないわけだけどさ。
「理由は簡単です。武器の傷を覚える為です」
「武器の……傷?」
え? どういうこと?
オレが首を傾げていると、リレルは近くに置いていた自分の槍を手に取る。
「例えば槍でこう、相手を突きますでしょ? その時に出来る傷がどの位置かによって、損傷している可能性がある臓器を割り出す。そうすれば、緊急性と治療の優先順位の目明日にもなりますので」
「えーっと、リレルさん……それって……」
「剣だとこう、バスっと切った場合は意外と慌てなくていいです。見た目凄い出血しているようですが、骨がガードして大半無事ですから。逆にこう、剣を横に寝かせた状態で一突きの場合は、肋骨をすり抜けて貫通する危険があり、そうなった場合は様々な臓器にもダメージが行くので……」
「たんま! ちょっとたんま!! だいたい分かった、応急処置の話に戻ろう!」
つまり、リレルが色々な武器を結果的に使えるようになった理由って……
自分で相手を怪我させて、どういう怪我が出来上がるか。
それをどう治療すればいいのかあれこれ検証するってこと!?
その怪我させる相手って十中八九魔物だよね?……いや、盗賊とか襲ってくれば、ワンチャン彼らで検証するとかそういう……
そこまで考えて、オレは悪寒が走る。
理論は分かる。凄い効率がいい『覚え方』なのも分かる。
だけど、ちょっとそれは、それはいただけないっつーか、いいのかそれが武器を色々扱える理由で!?
「ヒロト? どうされました?」
「いえ、ナンデモナイデス」
オレはこの時、アルムが彼女をちょっと特殊、と評した理由をハッキリと理解した。
正直、理解はしたくなかった。
リレル、思ったより変な方向にネジぶっ飛んでたー!?
怪我させる相手が魔物とか、敵対する相手だからいいものの、一歩間違えたらそれ完全にマッドサイエンティスト方向ー!
しかもそれを効率がいいの一言で済ませてそうだよ!?
あれか……やっぱり、ストレスがより多くかかる職業に従事る人たちって、多少ネジ吹っ飛ばさないと、正気を保てないのかもしれない。
本人が至って真面目に考察してるせいで、余計に始末が悪いよな、これ。
========================
ヒロトがリレルから、応急処置について学んでいる頃。
「…………」
船の先端で、黄昏ているサディエルが居た。
ふと、彼は自身の右手を見て、グーパーと何度か握りこぶしを作っては開くを繰り返した。
「……違和感は、無い。うん、感じない。間違いなくいつも通り……なんだけど……」
サディエルは眉を顰める。
違和感は確かに感じない、感じないが『おかしい』と……直感的に思った。
「サディエル、こんな所にいたのか」
「アルム?」
突然声をかけられ、サディエルは驚いたように後ろを見る。
そこには、何か言いたげな表情を浮かべたアルムがいた。
その無言の圧に、しばしサディエルは視線を泳がせるものの、観念したのか口を開く。
「さっきの模擬戦で、ちょっと違和感……いや、正確には違和感はないんだ。だけど、"おかしい"と思った」
「おかしい、ね……今はその程度か?」
「あぁ、本当に直感レベルだ。だけど、ヒロトの言っていたことを考えると……」
もしかしたら、と続けようとしてサディエルは言葉を止める。
そんな彼を見て、アルムはため息を吐く。
「わかった、今はそれでいい。一瞬隠そうとしたことは、リレルやヒロトには黙っておいてやる」
「あっははは……助かるよ。特にリレルに知られたら怖すぎる」
「怖いどころじゃないだろ」
「まぁな」
肩を落としながら、サディエルは同意する。
「はっきりと確信したら、また言うよ」
「すぐに言えよ」
「あぁ」
0
お気に入りに追加
310
あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる