オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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第3章 冒険者2~3か月目

44話 港町の再会

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 国を出発して7日後の午前。

「潮の香だー! 海だー!」

 荷馬車から降りて、オレは眼下に広がる蒼く透き通った海に向かって叫ぶ。
 すっげぇ、綺麗な蒼! 海外とか、国内だと南の方向にがっつり行かないとなさそうなこの景色!

「そして街並みも全然違う!」

 海と逆の方向を見ると、目的地の港町が広がっている。
 その光景は、これまで見てきたどの街や村、国とも異なる様相を呈していた。

「塩害対策の関係だな」

 同じように荷馬車から降りてきたアルムが、オレの言葉に対する回答を伝えてくれる。

「あぁ、なるほど塩害か。色々劣化や酸化するもんね」
「そう言う事。塩害対策専用の材質や塗料を使う都合上、これまで見てきた街や国と雰囲気が異なるのはその為さ」

 そういえば、沿岸部の街とかの雰囲気は確かにどこも違うよな。
 南国っぽい樹とかあったり、白めの家が多かったりとかもあるし。

「クレインさん、今回乗る船はどれですか?」
「ふむ、確かレックスの奴が手配していたはずなんじゃが……」
「あれ、そちら所有のやつじゃなくて、ですか?」
「儂の所有の船には違いないんじゃが……"念には念を"と言われての、護衛船団を手配しおったんじゃよ、あいつ」

「「「はい?」」」

 クレインさんの返答に、サディエルたちが素っ頓狂な声を上げている。
 護衛船団……これもゲームで聞いたことある単語だ。
 えーと、あれだ、駆逐艦とか軽巡とかの軍艦が輸送船を護衛するみたいな感じの……

「え?」

 そこまで考えて、オレも思わず声を上げてしまう。
 オレ、気楽な船旅を想定していたんだけど、もしかして四方ないし双方を軍艦に囲まれた船旅になるってこと?

「正確には、エルフェル・ブルグからの打診で、護衛船団を派遣するので有効利用して欲しい、と言われたらしい」
「それを許可しちゃったんですね……レックスさん、何やってるんだ」

 恐らくレックスさんからの言伝が書かれた紙にそう記述されているのだろう。
 はっはっは、と笑いながら言うクレインさんの回答を聞いて、サディエルは額に右手を当てて天を仰ぐ。

「彼からしたら、クレインさんとサディエル、双方の身の安全を第一に考えた結果ではございませんか?」
「それは分かるけど……目立つじゃん」
「目立つなぁ……」

 リレルの言葉に、サディエルは遠い目をして、アルムも同様に明後日の方向に黄昏る。

 うん、目立つ。凄まじく、目立つ。
 クレインさんの船がどんなもんか分からないけど、軍艦が横にいる時点で目立つ。

「安心しなさい。護衛船団を派遣する以上、ついでに便乗する形で何隻かの船も今回の航路に同行するそうだ」

 "木を隠すなら森の中"精神だなぁ……
 いや、あの魔族に対してはかけらも意味なさそうだけど。だってほら、目印(サディエル)が居るわけだから、複数の船があってもピンポイントで襲撃してくるだろうし。

「とりあえずは、儂の船に行こう。こっちじゃ」

 クレインさんに案内され、オレたちは多くの船が停泊している港へと向かう。
 到着すると、多くの船に混ざって明らかに軍艦のような船が2~3隻泊っていた……って!?

「めっちゃ本格的な軍艦っぽい」

 他の船は木材を基礎としているのに対して、エルフェル・ブルグから派遣されたと思われる船は、鉄の船だった。
 もちろん、全てが鉄……と言うわけではない。
 船底や、側面、そういった部分が鉄で補強されている船だ。

 ほぼ外装部分だけだろうが、それでも材質の違いの影響で威圧感が全然違う船に仕上がっている。

「つか、鉄が使われてる」
「採掘された鉄は、8割がエルフェル・ブルグに納品されております。当然、武器の開発などに使われているわけですが、海上護衛の為にあのような護衛艦にも使用されておりますね」

 リレルの説明に、なるほどなと納得する。
 8割も武器の開発だけに使うって、ちょっと使い過ぎじゃない? と思ったことはあったけど……護衛艦の補強にも使われているなら、そりゃ一般に回ってこないわ。

「ヒロト君、驚くのはまだ早いぞ。儂の船は、あれじゃ」
「ん?……うおおおおお!? すっげー!」

 周辺にある一般的な船と比べて規模が2倍以上。
 派手と言うよりは品の良い、と表現していい外装といで立ちは、それこそゲームや漫画でもよく見るような、まさに船! って感じの船だった。

 いやぁ、ここまで立派なRPGの船、乗るのがめちゃ楽しみなんだけど!?

「おーおー、ご機嫌だなヒロト。1週間もしたら飽きると思うけど」
「えー、サディエルは楽しみじゃないの? オレはめっちゃ楽しみ! 船旅3週間……あれかな、イルカとかクジラとか、こっちにもいるのかな!?」

 目を輝かせて力説するオレに、そうかーと笑顔で返すサディエル。
 だが、その後ろで……

「……知らないって、幸せですわね」
「全くだ」

 アルムとリレルがそんな会話をしていたとは、梅雨知らず。
 そして、きっちりそのフラグだけを回収することになるのだが、今のオレには知らない話であった。

「さて、儂は船へ荷物の運び入れと出航手続きを行う。明日の朝、この船の前に集合でよいかな?」
「分かりました。宿の方はどうしますか? 代わりに押さえておきますが……」

「なら1室頼むよ。確か、中央に宿があったはずじゃから、そこで頼む」
「了解です。では、明日、ここで」

 サディエルの言葉に頷いた後、クレインさんは荷馬車と共に船に消えていった。
 さーってと、オレらはこれで自由行動なわけだけど……

「サディエル、どうする?」

「とりあえず、まずは宿の確保と買い出しだな。3週間もあるから、保存の利くもの買っておかないと」
「そうですね。絶対に飽きます」
「だな、飽きる」

 飽きる?
 3週間の船旅で保存が利くものを買わないと、飽きる?

「えーっと、それってどういう意味?」
「あぁ、それは……」

「―――サディ? お前、サディエル!?」

「ん?」

 急に聞こえた知らない声が響く。
 オレたちは声のした方向を見ると、年ならばサディエルより少し年上にも見える金髪碧眼の男性がそこに居た。
 その人物はサディエルにゆっくりと近づく。

「……もしかして……アーク!?」

 サディエルも、その人物に覚えがあったようだ。
 驚いた表情を浮かべながら、アークと呼ばれた人物に駆け寄る。

「そうだよ、久しぶりだな。元気してたか?」
「おまっ……お前こそ……! というか、何でこんな場所に……」

 オレはちょいちょいとアルムたちを突っつく。
 視線を一瞬だけサディエルたちに向けてから

「どちら様?」

 と、問いかけた。
 2人は一度、オレから視線を外してサディエルを見た後、こちらに視線を戻し……

「僕らは初対面だ」
「はい、初対面ではあります。ただ、お名前はサディエルから聞き及んでいます。私たちとパーティを組む前に、一緒にコンビを組んでいた方ですね」

 そう答えてくれる。
 って、コンビ!?

「え!? サディエル、元々は別の人とパーティ組んでたの!?」
「そうだ。ちなみに、あいつの冒険者歴は今年で8年だ。僕らより3年先輩」

 えーっと、確かアルムたちとパーティを現在進行形で組んでいる期間が5年。
 クレインさんと出会ったのが、その1年前ぐらいだったから……旅立ってから2年ぐらい一緒にいたってことか。
 オレはサディエルを改めて見る。

 2人の雰囲気は、少なくとも喧嘩別れしたようには見えない。

 というか、喧嘩別れしていたら、恐らくあんな感じで旧友との再会! みたいな雰囲気はないはずだ。
 そうなると……サディエルがあの人とパーティを解散したのって……?

「明日出航する船団護衛に居るんだよ、おれ。お前こそ、こんな場所にいるなんて、冒険者を続けているとは知っていたけど」
「偶然だな。俺も明日出航する船に乗るんだ、ほら、そこのでかい船。この船の持ち主の護衛を……うわっ!?」

 すべてを言い終わるより先に、アークと呼ばれた人物の表情が険しくなった。
 凄い速さでサディエルの首元を掴んで、ぐいっと自身に引き寄せる。

「おい、アーク!?」

 サディエルの抗議を無視して、彼の視線はその首元に向けられている。
 恐らく"痣"を確認したのだろう。
 パッ、と服を離したと思ったら、サディエルの両肩に手を置く。

「………はぁぁ……まさかとは思ったが、"お前"だったのか。アホか、何やってんだよ」
「あっははは……なんで"俺"だってすぐに思うんだよ。ホント、相変わらず勘がいいな、お前」
「アホ抜かせ。大丈夫なのか?」

 その問いかけに、サディエルは頷く。
 オレらに背中を向けている形になっているから、その表情は読み取れない。

「今の所はな。エルフェル・ブルグへ行けば何とかなるんじゃないか?」

 あっけらかんと答えたサディエルに、再び厳しい目線を向ける。
 しかし、これ以上の詮索は無意味と判断したのか、彼の両肩から手を離す。

「そういうことにしておいてやる。んで、お前の後ろにいるのが、今のお仲間か?」
「おっと、そうだった。3人ともちょっと来てくれ」

 サディエルが振り返り、オレたちを手招きする。
 オレたちは一度互いの顔を見て頷いた後、2人に近づいた。

「紹介するよ、彼はアーク。俺と同郷で幼馴染の元旅仲間だ」
「初めまして。アークシェイドだ、皆からはアークと呼ばれている。今回、この護衛船団の船長も務めている」

「……え、聞いてないんだけど」
「言ってなかったからな。つーか、おれが"ソレ"に気づいた時点で分かるだろ。今回、保護対象が居るからの派遣なんだぞ、これ。さてと、そちらがアルム、んでもってリレルかな? 噂は聞いている」

 そう言いながら、アーク……アークシェイドさんはアルムたちを見る。

「こちらこそ、サディエルから聞いてます。初めまして、アルムです」
「リレルと申します」

 そう言いながら、2人は順番に握手を交わす。

「あぁ、よろしく。大変だろコイツのお守り、何だったら愚痴ぐらいは聞くぞ」
「それはもう、ぜひ!」
「お願い致します!」

 即答!?
 いや、言わんとしてることは分かるけど、即答!?
 あーあーあー……サディエルがへこんだよ。というか、今の内容からすると昔っからそういう性格なのか。

 ……オレも後で、混ぜてもらおうかな。うん。

「んで、こっちが………あれ?」

 アークシェイドさんが、オレに視線を向けて……一瞬だけ眉をひそめた。
 あれ、この反応少し前にもあったような。

「おいサディ。おれの記憶が確かなら、お前には姉はいたが、男兄弟はいないはずだよな?」
「そうだよ。似てる?」
「いや、似ていない。だが、一瞬だけブレた気がしたんだが……」

 この反応、レックスさんと同じだ。
 レックスさんも、視界に入った一瞬だけ、オレとサディエルが親戚筋じゃないかって聞いてきた。

「細かい事はいいか。えーっと、名前は?」
「ヒロトです」
「変わった名前だな、まぁよろしく。おれの事はアークでいい」
「じゃあ、アークさん。よろしくお願いします!」

 そう言葉を交わしながら、オレもアークさんと握手をする。
 挨拶を済ませると、アークさんはサディエルに向き直る。

「立ち話をするには、内容が内容だし移動するか。宿は取ったのか?」
「今からだ」

「なら、丁度いい。宿で部屋確保してそのままそこで情報交換するぞ」
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