オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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第2章 冒険者1~2か月目

25話 過程と結果の相異【前編】

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「………」

 あの後、何も声を掛けることが出来ず、オレはアルムが滞在している部屋を出た。
 そのまま宿から出て、街の中を歩いていく。

 ふらふらと歩いて行った先は、小川が流れる場所。

 そこに座り込んで、蹲る。

「あーもー……最悪。アルムのばーか、ばーか……オレはもっと大馬鹿野郎だけど……」

「バカバカ言うのは良いとして、街中とはいえ1人こんな時間にふらふらするのは、よくねーと思うぞ、俺」

 急に後ろから聞こえた声に、オレは思わず顔を上げて後ろを見る。
 気配なんてなか……ったとか言うレベルじゃない! 足音しなかったんですけど!?
 後ろを見ると、困り顔で夜道用のランプを持ったサディエルが立っていた。

「よっ、ヒロト。派手に喧嘩したみたいだな」
「……こーいう場合、次にサディエルがやることって、アルムは実はこんな過去があってどうたらこたら、みたいな感じで怒った理由を話しつつフォローだろ? 知ってる知ってる」
「こらこら、君の故郷にある摩訶不思議のびっくりどっきりファンタジーと一緒にしない。そのあたりはアルムが自分で語って同情を誘うところだろ。俺がわざわざ口出すことじゃないさ」

 言い方……今更だけど、言い方。
 隣いいよな、とこっちの返答を聞く前にサディエルは手に持っていたランプを置きながら、オレの横に座る。

「アルムの方が先じゃないの?」
「いやぁ、今回の喧嘩の根本原因は俺だからな。今行ったら火に油を注ぎかねない……つーか、もう1発貰ってる」

 1発って。
 残念ながら、ランプの光がしょぼい関係で『1発貰った』部分は見えないわけだけど。

「アルムの方には、リレルが行ってるしな」
「大変だね、どっちもフォローして」
「拗ねない、拗ねない。だいたい、喧嘩した者同士の間に入って仲裁するってのは、両方を信頼してないとやらないよ」
「どういうこと?」

 オレの問いかけに、サディエルは苦笑いする。

「ヒロトには細かく1つづつ教えた方が、やっぱ正解っぽいな」
「……」

「喧嘩の仲裁するのは、そりゃ仲間同士の不和解消が表向きの理由だ。だけどな、どっちも信頼してなきゃ誰もやらないんだよ」
「なにそれ」
「アルムを信頼していないなら、今ここに俺はいない。ヒロトがどれだけアルムに悪感情持とうが、どうでもいいからな。逆もしかり、ヒロトがアルムの悪口言ってるのをとりあえず頷いて聞いて、あとはゆっくりと距離取るだけだ」

 それは、そうかもしれない。
 例えば自分の友人と、あんまり仲良くない同級生が喧嘩していたら、理由はともかくとして一旦は友人の味方をすると思う。
 あとは、内容聞いて……と思ったけど、仲良くない同級生にわざわざ聞きに行かないよな、普通。
 むしろ人によっては理由聞かずに『謝れ!』と言ったりとかだよな。

 そっか……どっちも知っているから、仲が良かったりするから、仲裁しようってなるのか。

「ましてや理由が理由だ。誤解を解く意味でも、説明しに来たってわけ。アルムからどこまで聞いた?」
「……万が一があった時、オレが生き延びられるように、まで」

 アルムが語った言葉を思い出して、オレはそう答える。

「そうだな。俺ら……つか、俺が最初に設定した目標がそれだ。現状だけなら戻る方法は2の次」
「……生き延びられるようにってのは……冷静になって考えたら、なんとなく分かる……分かったけど……なんでそれを黙ってるんだよ」

 ずっとオレの中では『元の世界に戻る』って気持ちだった。
 それが実は全然違ってて、気が付いたら頭に血が上っていた。

 その結果が、先ほどのアルムとの衝突だ。

「いやさぁ……戻る方法前提に話したとするだろ。話は早いだろうな、超早い」
「そうだよな。こんな回りくどい上に、アルムと喧嘩はしなかった」

「けど、そうしないとヒロト、何も考えずに最短ルート行こうとするだろ?」
「へ?」

 思わずサディエルの顔を見ると……そこには、見覚えある残念なものを見る目でオレを見ていた。
 ちょっとまって、この表情してる時って確か……
 サディエルは念のためか、周囲を確認した後

「この前から聞かせて貰っていた、君のところのファンタジー文学のよくある展開で……そうそう! "やってみなくちゃわからないだろ!"って、確率1%以下の事に意気揚々と根拠なく挑んだり」
「うっ」

「戻る方法があるぞって聞いたら、戦えないのになりふり構わず危険な場所に突っ込んで行ったり」
「うぅ」

「多くの人が危ないって忠告する道のりだろうと、半年以内に往復できるなら! とか言って、とりあえず武器と防具と食料だけ持って意気揚々と旅に出そうで……そんなんじゃ、命がいくつあっても足りやしない」
「ねぇ!? この前の嫌味返し!? 嫌味返しだよね!?」

 10日前に負傷したサディエルの部屋寄った時に、オレがあれこれ言ったときの嫌味返しだろ!
 言い方が完全にその時のオレじゃん!
 うろたえる姿を見てか、サディエルはいつものように、あっははは、と笑った後。

「けど、図星だろ?」
「……うん、そりゃ」
「目標が見えてるのはいいことなんだ。問題は、結果に至るまでの過程に発生する物事に対して、何1つ対処を考えてないことだけ」

 魔物と戦うとか、旅支度をどうするか、とか。
 確かに、最初はそのあたりは全然考えてなかったけど……

「だから、最初に俺はこう聞いたんだ。"10分間全力疾走出来るか"って」

 悪だくみが成功したと言わんばかりに、サディエルはそう言った。

「予想通り、大慌てで全力否定してくれたよな」

 あー、最初の時のあれ。

「いきなりそんなこと聞かれて、驚いたよ」
「けど、具体的な時間込々で言ったから、想像しやすかっただろ?」

 ……それは、確かに。
 10分という時間を提示されたから、実際に全力疾走出来るかってすぐに想像出来た。

「あの質問で、恐らく君は一気に現実に引き戻された。10分間なんて現実的な数値を、異世界の人間から言われたら、"あ、やべ、それぐらい出来ないとまずいのか"って思ってくれるんじゃないかなって期待した」
「さっすがにそこまで思わなかったけど、マジで? っては思った」
「だろ? そこからは、君が思っているファンタジーと、現実をじわじわ詰めていく。武器の消耗や食糧事情、魔物との戦いについて……1つ1つは、エルフェル・ブルグに行くだけなら必要ない情報だ」

 だってほら、荷馬車に乗って護衛されてりゃいいんだし、とサディエルは付け加える。

 それもそうだよな。時間制限があったから選択肢に上がらなかっただけで、2年も3年も滞在できるならば、お金を貯めて、護衛がついて安全度が高い荷馬車で行くって方法もある。
 ただ、半年後に受験を控えてるから、その選択肢が早々に消えただけで。

「事情と時間を考慮した結果、どうしても君を連れてエルフェル・ブルグに行く必要があると思った。そうなると次の問題は、俺らがその旅路を最後まで共に出来ない可能性だ」
「それが、オレが生き延びることに繋がるってことですか」
「そういうこと」

 道中で魔物や盗賊に襲われて逃走せざる負えない場合、基本的に殿につく誰かが犠牲になる可能性が高い。
 一気にサディエルたち全員が、って可能性も否定は出来ないけれども。

「旅に出るか、街に残るか、その2つの選択肢を提示しつつ、どっちに転んでも生き延びるために必要なことを、7日間であれこれ考えてもらったりもした」
「……うん、結局4日目の魔物の襲撃で一部保留になったけど」

 って、ここまで聞くと本当に……

「サディエル」
「なんだ?」

「本当に、オレが『生き延びること』しか考えてなかったんだな」
「あぁ」

 オレの問いかけに、サディエルは迷いなく答える。

「だって、最終目標が『君を無事に元の世界に戻すこと』なんだ。五体満足で送り出さない理由を逆に聞きたいね」
「……だからって、極端に飛んで『無言の帰宅の途につきたか』ってのもどうかと」
「それぐらい言わないと、ダメかなーって思ったけど……まー、それでも足りなかったわけで」

 そういうと、サディエルは立ち上がって背伸びをする。

「今回の件で、俺から君に苦言を呈すなら……当たる相手はアルムじゃなくて俺だろ、ってぐらいさ」
「それは……ごめん」
「謝る相手が違うって。むしろ、俺がヒロトに謝らないといけないぐらいだしな。悪かった。理由はどうあれ、君の最優先事項を蔑ろにした」

 オレは無言で頭を左右に振る。
 アルムが言ってた通り、サディエルはずっと負け筋を重視していた。
 最終目標を達成できても、その時オレが無事じゃなかったら意味がないからと。

「さて、そんなわけで、今からもうちょい詳しく説明する。ついでだ、目的達成表を何で準備したとか、ぜーんぶまとめて話すぞ!」
「……ん? え、今から!?」
「もちろん! 思い立ったが吉日だったっけ、ヒロトの所の言葉! いやぁ本当に良い言葉が多いよな! どうせまだ出発しないんだ、1日ぐらい徹夜したって死にゃしない!」

 そうと決まれば! と、サディエルはオレを立ち上がらせる。
 ええぇぇ……マジで今から?

「じょ、冗談だよね?」
「本気の本気だ! もういっそ、俺らの目的達成表の中身も全部教えよう! その方がすっきりする!」
「気持ちはありがたいけど、睡眠は大事だと思うよオレ!?」
「はっはっは! さぁ行くぞ! そうだなー、とりあえず順を追って説明するとだなー」

「人の話は最後まで聞けって、親に言われませんでしたかー!?」
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