オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

文字の大きさ
上 下
16 / 132
第1章 冒険者はじめます

16話 対抗策と結果【前編】

しおりを挟む
 中央避難所へと逃亡の途中、曲がり角から2つの影が顔を出す。

「おっ、無事合流出来てたのか」
「お久しぶりです、ヒロト君」

 その影の正体は、アルムとリレルの2人だった。
 ただし、2人もオレらと同様にスケルトン様ご一行を引き連れての状態である。そう、引き連れている。

 増えてるし! 増えてどうすんだよ! 単純計算で3倍になってる!?

「よっ! アルム、リレル。そっちの調子は?」

 しかもこっちは呑気に挨拶しているし!

「お前のご希望通りだよ。あとでほんっっと覚えてろよ」

 じろりとアルムに睨まれるサディエル。
 そんな2人のやり取りをクスクスと笑いながら見るリレル、いやぁ……平和だなーって言いたいけど、もう一回言うぞ!?
 
 今! オレら! スケルトンの大群(3倍増)に! 追われてるから!

 あとオレはいつまで横抱きのままなんですかね!?

「つーか、サディエルが先にヒロト君見つけたかぁ。残念、俵持ちで運ぶ予定だったのに」
「私はお姫様抱っこ予定でした」
「オレは今、心の底から最初に合流したのがサディエルさんだったことに感謝してます」

 何、この3人、オレを見かけたらどういう形で運ぶか決めてたの!?
 いやまぁ、避難間に合ってない=体力少なすぎて逃げ遅れた、だもんな……そうだよな、そうなるよな。

「って、それどころじゃない! この後どうする!? どーすんだよ!?」
「いやぁ非常事態なお陰ですっかり敬語が外れてなにより。この後はそりゃ倒すよ、スケルトン」
「さっき一通り思いつく対策オール否定しておいてどうやって!?」

 武器も打撃もきつい。
 魔術もこれといった有効打がない。
 おまけに対策アイテムもないと一通り確認したよオレ! その返しが『夢見すぎ』というおまけつきで!

「あら、具体的にどんな案だったのですか?」
「光魔術、聖水、治癒術、格闘とかハンマーだってさ。あと、剣で切るのも選択肢らしいけど」

 サディエルから内容を聞かされた直後、僅かな沈黙が流れる。
 そして、アルムとリレルが……やめて、その残念な目を向けながらオレを見ないで。

「……え? それらでなんで倒せるって結論になるの?」
「ご冗談ですよね……? 何をどう頑張ったらそうなるんですか?」

「ああああああ、オレの世界じゃそれが一般的なスケルトンとの戦い方なんですー!」

「魔物……いねぇもんな、君らの故郷」
「そうですよね。いないモノ、存在しないモノは想像するしかありませんわよね……存在しないものに対してそこまで好戦的な対策取って、どうするんですか?」

 遠回しに『現実的なことに目向けないの?』と言われた感。

「―――ご」
「ご?」
「娯楽……?」

 再びの沈黙。
 ああああ、沈黙が痛い。走りながら、しかもスケルトンに追われながらという超シュール、っつーか、追われていることすら忘れそうだったけど、凄いシュール!

「……さて、ヒロト君の故郷の愉快痛快な面白さについての議論は一旦置こう」

 議論放棄された上に、オレの世界が面白認定ー!

「ヒロト君に対スケルトンについての結論を言おう。壊す」
「もっと具体的に!」
「そりゃそうだな。さっき、一般的な人間の骨の耐久力は健康な人で600キロで、魔力やらで補強されているスケルトンの耐久力は1500キロオーバー。これは大丈夫か?」
「それは大丈夫! その状態でどうやるの!?」

 そうこうしている間に、オレたちは無事中央避難所へ到着。
 そこには、数名の冒険者たちが待機しており、サディエルたちの到着を確認すると同時に、合図が飛び交う。
 サディエルはオレを地面に卸して、何かを渡してくる。

 これなに……耳栓っぽいんですけど。なんで、耳栓?

「スケルトンの回答は簡単だ。1500キロ以上の負荷を与えるだけ」
「格闘術のトップに補助術ばりばり掛けても無理なのに!?」

 ラスボス倒すような準備でもするのこれ!?

「そうだ。だからこそ『各個撃破は非推奨』……まっ、見た方が早い。合図があったら耳栓しなよ、鼓膜が破れるから」

 え、なに、超音波でも放つの?
 と、オレが目を白黒させている間に、サディエルたちを含めた冒険者たちが近づいてくるスケルトンの大群と対峙する。
 ここから、冒険者vsスケルトンの大決戦……

 が、起こるわけない! 今日までの流れからそれだけは100%無い!

【みなさーん! 準備はいいですかー!】

 ギルドの職員さんの声が響く。
 それに合図するサディエルたちを含めた冒険者たち。

【第1陣! 壁と炎を!】
「"大地よ、そり立ちて!" そして……"炎よ、荒れ狂え!"」

 声が響くと同時に、この場にいる半数が魔術を放つ。
 最初にスケルトンの大群を大きく囲む壁が出来上がり、見えないけれど炎って言ってるから、中でスケルトンたちを燃やしているんだろう。
 けどこれって……

「負荷になってるのかこれ?」
「なってないよ。さて、そろそろ耳栓準備しとけ」

 だからなんで耳栓……って。

【第2陣! 水と風を!】
「"水よ、来たれ!" "風よ、吹き荒れろ!"」

 第1陣で魔術を使っていなかった残りの半分の冒険者たちが、水の魔術をスケルトンの上空に放ち雨を……って、これ炎が消えないの!?
 と、思っている間に今度は強い風をスケルトンたちの上にって、攻撃にすらなってない!

 無いんだけど……ちょっとまて?
 いやいや、これってまさか……!?

【最後は全員で! 壁を思いっきり高く! それが終わり次第、耳栓装備!】

 再び、冒険者たちによって天を衝くような壁が伸びる。
 それを確認すると同時に、全員が素早く耳栓を装備する。
 おっと、オレも装備しないと……じゃなくて、そうじゃない!

 ここまで冒険者たちが行ったこと、まさかとおもったけど……!

 上空で疑似的な"積乱雲の中にある膨大な量の水滴"を作り出す。
 地面を事前に高温に保つことで、上から室温の低い層がぶつかる……"本来は"そこから四方に広がって突風になる。
 オレの世界でも様々な国で発生する自然現象にして災害の1つ。

「ダウンバースト!?」

 オレがそう叫んだ直後、ドンッ……! と、耳栓をしていても響く轟音。
 同時に、地面がびりりっ、と揺れる。
 ダウンバーストの威力を、壁中に限定にすることで通常以上の威力の突風が出たのだろう。
 結果、この高い壁が大砲みたいになって、スケルトンの大群が一気に空へ放出された!?

 真っ直ぐ空へと高々と打ち上げられたスケルトンたちは、しばらくすると見えなくなる。
 え、これで終わりか? 遠くに飛ばして……と、思っているとオレの肩を誰かが叩く。
 叩かれた方向を見ると、アルムとリレルが居て、オレの後方を指さす。

 後方? って、冒険者さんたちも逃げてる!?

 唖然としてると、今度は捕らえられた宇宙人のごとく、2人に両腕を抱えられて持ちあげられるオレ。

「ちょ、アルムさん!? リレルさん!? って、聞こえてねえええええええ!!」

 2人も耳栓してるせいで声上げても届かない!
 そのままダッシュでオレたちはその場から離れる。って、ここまでダッシュするってことは……

 次の瞬間、絨毯爆撃の如くスケルトンたちが落ちてきて、その落下音が爆竹のように響き渡る。
 同時に、地面も揺れる。けど、これスケルトンが射出された時より弱いってことはつまりはそうである。
 オレは避難した場所から、降り注ぐスケルトンを眺める。

「……シュールって言葉がここまでしっくり来たのは、初めてだ」

 ダウンバーストの原理を利用して、大砲のように垂直に空に押し上げて、あとは重力に従って自由落下して、壁の中に落ちていき、そのまま地面に衝突させて倒す。
 みんながあの場から逃げたのは、空中の風とかでスケルトンが流されて落下箇所が、僅かにずれる可能性があるからだろう。

 いや、やってることは理にかなっている。1体づつふっつーに倒すというか、同じ方法でも1体1体を高いたかーい、するよりも効率がいい。
 実際、一定以上の高さから地面に衝突する衝撃は、並みの攻撃よりも強く、格闘術のトップに補助術ばりばり掛けて殴り倒すよりも、めちゃくちゃ早い。

 だから、『各個撃破は非推奨』というのもよーくわかる。

 ……だけど……戦ってよせめてこうさ! 苦戦してとは言わないけどさ!
しおりを挟む

ツギクルバナー
感想 10

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...