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第1章 冒険者はじめます
7話 信用と信頼の定義
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「到着だな!」
「ふー……今日は宿で泊まれそうで良かったよ」
「はい。食堂があれば美味しいごはんも食べましょう、そうしましょう」
遺跡洞窟から歩いて半日+何時間か……早い時間からずっと歩いて、ようやく目的地の街に辿り着いた。
最低限の高さを確保した壁と簡素な門に守られた街は、規模としては大きいというよりは小寄りの中規模といったところだ。
サディエルは嬉しそうに、アルムは背伸びをしながら、リレルは両手を口の近くに持っていきながら、各々テンションが高いのが見て取れる。
が、オレはそれどころではなかった。
「ヒロト君、大丈夫かい?」
「……疲れ、ました……」
今日1日ずっと、ただただ平坦な道を歩いただけで何でこんなに疲れるんだよ!
だいたい1時間歩いて10分休んで、1時間歩いて10分休んで、この単調な繰り返しかつ、歩いていただけ。
ただ歩くだけ、そう、歩くだけ!
なのにすっごい疲れたし、足痛いし、なんだこれ!?
いや、歩き始めはそんなことなかったし、サディエルたちからあれこれオレの世界について聞かれたから、色々話していたからその段階は良かった。
ほんと、最初にうっかり暴露したせいで、元の世界についてあれこれいうのに抵抗なくなったよな……
科学技術とか、機械とか、オーパーツもいいところなんだろうけどさ。
が、当のサディエルたちは『いや、君の世界の技術はあくまでも魔族や魔物がいないことを前提とした技術』ということで、便利そうだなー程度で終わってしまっているからいいんですけど。
それをいったら、オレの方も魔術とか聞いたところで元の世界に戻った時に有効活用出来るのか? って聞かれたら、もちろんノー、である。
魔力ねーのに魔術知識あっても使えるか! って話だ。
話が脱線した。
とにかく、本当に最初のうちは雑談しながらの遠足気分であった。
しかし、2回目の休憩に入る少し前から少しづつつらくなって、街に到着する頃には疲労困憊である。
山道とか坂道を歩いてたわけでもないのに、なんでこんなきっついんだよ!
現代人が1日歩きっぱなしの場合は、そもそも無理ゲーってことをオレは今日、この日、しっかりと学んだからな。
「歩き慣れていないのは予想してたけど、やっぱりこうなったか」
疲れたオレにタオルを差し出しながら、サディエルはそう言ってきた。
「予想……できたてんですか」
「君の世界が、クルマ? や、デンシャ? とかで長距離移動するって聞いた時点でね」
となると、まずは宿確保かなー? と言いながらサディエルは周囲を確認する。
そろそろ夕方に差し掛かっているせいか、人通りは少し少な目な状態だ。
「そうだ。ヒロト君、ここから先はしばらく『元の世界』の話は禁句な」
「え? まぁ、オレもぺちゃくちゃ喋る予定はないですけど……やっぱり、しゃべらない方がいいんですか?」
「オレらはヒロト君が本当のこと言ってると信じているけど、他の人が信じるとは限らないからね。ましてや突拍子もない話だし」
それもそうだよな。
というか、それを疑いもなく信じているサディエルたちが変わってる認定には違いないんだけどさ。
……いや、本当に何で3人ともさらっと信じたの? ねぇ。
オレそっちの方が疑問だよ、今更だけど。
「あっ、サディエル。宿に行く前にあそこに寄っておきませんか?」
「ん?……あー、ガーネットウールの毛か」
リレルがこれ、と荷物を指さしたそれは、昨日狩ったガーネットウールの毛だ。
「そうだな、先に済ませてしまった方がいいか。つーわけで、アルムとリレルはヒロト君連れて洋服店に。交渉は任せた! 俺は一足先にこの街のギルドに行って、目的のモノがあるか調べてくる」
「はいよ」
「いってらっしゃーい」
「え? ちょ、サディエルさん!?」
合流は宿屋でー! と言いながら、サディエルは笑顔で去っていった。
あ、嵐のような人だな本当に……
すたこらさっさと去っていったサディエルを見送ったオレたちは、しばしの沈黙後……
「さて、行くか」
「えっと、行くってどこにですか、アルムさん」
「お前の服の調達。さすがに僕らのおさがりをいつまでもってわけにもいかないし、どっちにしたって服は必需品の1つだ」
そういわれて、オレは今身に付けている服を改めて見る。
今朝の出発前に『汚れたらまずいから』ってことで、制服を没収されて、アルムの服を1着借りている状態だ。
制服のまま歩くのも、異世界にいるのも違和感しかなかったから助かったんだけど。
「そんなわけで、昨日狩ったガーネットウールの毛を元手に、仕立ててもらおうって話。なのはいいけど、歩けそうか?」
「……ハッキリ言っていいなら言います。つらいです」
「そうなるな。リレル悪い、僕の荷物も持ってくれないか?」
「構いませんよ。はい」
そういうと、アルムは自分の荷物を……冷静に考えて、3人ともそこそこの重さの荷物持って歩いてたのに、平然としすぎているし。
あれか、冒険者だから体力あるのか、そうなのか。
ともかく、アルムは荷物をリレルに預けると、オレの目の前に立ったかと思うと、しゃがんで背中を向ける。
「えーっと、おんぶってことですか?」
「俵持ちか、お姫様だっこがご所望ならそっちにするけど」
「おんぶでいい以前に、もうちょっとだけ休憩させてください! 自力で立ちますから!」
いやさすがに人通り少ないとはいえ、恥ずかしいから!
するとアルムはオレの右腕を掴んだと思ったら、肩に手を回して立ち上がらせてくれる。
「こっちで妥協ってことで」
「……あ、ちょっと歩きやすい」
「だろ。さてと、さっさと行きますかね」
オレが歩けそうな速度を模索しているのか、ちょっと早くなったりゆっくりになったりと、歩調を変えながらアルムは歩いてくれる。
その隣をリレルが街を眺めながら、楽しそうにしている。
「……サディエルさんもそうだけど、お人よしですよね、2人も」
「ん?」
「突拍子もないし、変なこと言ってる変なやつですよ? 自分で言っててあれですけど。それなのにこうやってあれこれやってくれるし」
先ほど、サディエルから『元の世界』関連は言わない方がいいと言われたから、少し濁した形のいい方になったけど、オレの正直な感想だ。
急に現れた異世界人に対して親切に、しかも分からないことはあれこれ1つ1つ説明を入れてくれる。
これをお人よしと言わずして何といえばいいんだか。
すると、アルムは……はぁぁぁぁ……と呆れ切ったため息を吐いて……って、ひどっ!?
「安心したい言葉が欲しいならサディエルのやつに言え。そういう担当は僕やリレルじゃなくてアイツだ」
「うっ……」
「君は妙に他者の親切を疑うよな。聞いてる限り便利で豊かで平和な場所にいるはずなのに、卑屈もいいところだ」
「えぇぇ……だって、ほら、普通ここまで馬鹿正直に信じないから。疑うの普通だから」
すると、アルムは「どーすんだよ」って表情でリレルを見る。
リレルの方も苦笑いをして、右手をフリフリと振る。どういう意図ですかそのジェスチャー……
「先に言っておくが、僕もリレルも、そしてサディエルも君が思っているほど、掛け値なしのバカでも、究極のお人よしでも何でもない。ちゃんと線引きはする」
「そうですね。ヒロト君の言葉を全て信じているわけではありません。けど……」
けど?
「少なくともヒロト君、貴方は嘘をつけなさそうですし」
「めっちゃ顔に出ているからな。百面相しまくってた」
「はあああ!?」
顔!? 顔に出てた!?
え、あれやこれや心の中で悩んでたこと全部顔に出てた!?
……って、何で2人揃ってオレの顔を見るんですか
「今、顔に出てた本当に? みたいにパニックなってただろ」
「……………パードゥン?」
「ぱーどぅん、という言葉の意味はわからんが、あれこれせわしない顔してたから」
誰か、鏡持ってきて。それか教室の鞄に入れっぱなしで持ってきていないスマホを誰か届けて。
そして心の中でツッコミ入れてた時のオレの様子撮影するか、映し出して現実直視させて。
「んで、僕らから言えることがあるとすれば、君は少なくとも嘘を言ってるようには見えないし、困っているのは確かだ。ましてや魔物も知らないし、警戒心ゼロだからこのまま放置すれば死ぬよな、寝ざめ悪いよな、という後付け理由を並べるならいくらでも並べてやれるぞ」
「後付けって……後付けって言いきっていいのかよそれ」
「そりゃそうだろ。何、君の世界には、誰が聞いても納得! 間違いない! って太鼓判押される理由を持たないと助けたり、信用や信頼したりしちゃダメなわけ?」
アルムのその言葉を聞いて、オレは思わず足を止めてしまう。
誰が聞いても納得が出来る理由、間違いないって思ってもらえる理由。
それらを上げ連ねないと『助けない』のか? 『信頼』出来ないのか?
「目の前に危ない人が居て、つい体が動いた。それに理由はいるか?」
「……いらない」
「そういうことだ。長い積み重ねの信用の末、信頼が生まれる……その前段階をお前自らが否定してちゃ世話ないぞ」
「ですね。今はこれも何かの縁、と思ってヒロト君は助けられていればいいんです。ちなみに、こうやって信用させておいて、あとで私たちがひどいことをするかもしれませんよー?」
「自分でそれ言っちゃいますか」
「いっちゃいまーす。……サディエルも、同じ気持ちですよ、きっと」
オレはゆっくりと歩きだす。
それに合わせるように、アルムも足を進めてくれる。
「まっ、なんだ。僕らだって5年もパーティ組んでるから、互いに信用も信頼もしているが……何で信用して、信頼したかなんて覚えてないしな」
「胸張って大声でこういう理由で信頼してます! なんて、滅多にありませんよ。気が付いたらしているもので、思い出しても分からないことです」
そういう……ものなのかな。
オレはふと、元の世界にいる友人たちを思い出す。
高校からの付き合いのやつもいれば、中学校、小学校……そのあたりからのやつらもいる。
だけど、そいつらと仲良くなった理由は……部活が一緒だったとか、席が近かったからとか、だいたいそういうので、趣味が同じってわけでもないし、中には正反対の性格のやつだっている。
じゃあそんなやつらと、どうやって仲良くなって、友人って思うようになったんだろう……何か大きな出来事とか、とまで考えて、思わず笑ってしまった。
「ん? 思い当たる節でもあったかい?」
「はい。オレの友人たちと、どうやって仲良くなったか思い出せなかったです。出会ったのはこことかあそこ程度で」
毎日学校で会ってるから、と言われたらそれまでだけど。
そういえば、本当にいつの間にかって感じだった。
もしかしたら、本当に単純なことなのかもしれないな……難しく考えていただけで。
「そういえばアルム。今の話題で少し思ったのですが……何で私たち、サディエルを信頼してるんでしょうね?」
「それもそうだよな、何で信頼してるんだ?」
「……さすがにそれは、サディエルさんがかわいそうな気がするんですが」
普通、普通の展開であればこの後『けど、なぜか放っておけないんだよね』的なセリフが続くと思うじゃん?
続かねーんだよなぁ……
1ミリもそんな話題が出ないどころか、2人とも、なんでだろー? って本気で首傾げている光景を見て、この場にサディエルがいなかったことに、心の底から安堵したぐらいであった。
「ふー……今日は宿で泊まれそうで良かったよ」
「はい。食堂があれば美味しいごはんも食べましょう、そうしましょう」
遺跡洞窟から歩いて半日+何時間か……早い時間からずっと歩いて、ようやく目的地の街に辿り着いた。
最低限の高さを確保した壁と簡素な門に守られた街は、規模としては大きいというよりは小寄りの中規模といったところだ。
サディエルは嬉しそうに、アルムは背伸びをしながら、リレルは両手を口の近くに持っていきながら、各々テンションが高いのが見て取れる。
が、オレはそれどころではなかった。
「ヒロト君、大丈夫かい?」
「……疲れ、ました……」
今日1日ずっと、ただただ平坦な道を歩いただけで何でこんなに疲れるんだよ!
だいたい1時間歩いて10分休んで、1時間歩いて10分休んで、この単調な繰り返しかつ、歩いていただけ。
ただ歩くだけ、そう、歩くだけ!
なのにすっごい疲れたし、足痛いし、なんだこれ!?
いや、歩き始めはそんなことなかったし、サディエルたちからあれこれオレの世界について聞かれたから、色々話していたからその段階は良かった。
ほんと、最初にうっかり暴露したせいで、元の世界についてあれこれいうのに抵抗なくなったよな……
科学技術とか、機械とか、オーパーツもいいところなんだろうけどさ。
が、当のサディエルたちは『いや、君の世界の技術はあくまでも魔族や魔物がいないことを前提とした技術』ということで、便利そうだなー程度で終わってしまっているからいいんですけど。
それをいったら、オレの方も魔術とか聞いたところで元の世界に戻った時に有効活用出来るのか? って聞かれたら、もちろんノー、である。
魔力ねーのに魔術知識あっても使えるか! って話だ。
話が脱線した。
とにかく、本当に最初のうちは雑談しながらの遠足気分であった。
しかし、2回目の休憩に入る少し前から少しづつつらくなって、街に到着する頃には疲労困憊である。
山道とか坂道を歩いてたわけでもないのに、なんでこんなきっついんだよ!
現代人が1日歩きっぱなしの場合は、そもそも無理ゲーってことをオレは今日、この日、しっかりと学んだからな。
「歩き慣れていないのは予想してたけど、やっぱりこうなったか」
疲れたオレにタオルを差し出しながら、サディエルはそう言ってきた。
「予想……できたてんですか」
「君の世界が、クルマ? や、デンシャ? とかで長距離移動するって聞いた時点でね」
となると、まずは宿確保かなー? と言いながらサディエルは周囲を確認する。
そろそろ夕方に差し掛かっているせいか、人通りは少し少な目な状態だ。
「そうだ。ヒロト君、ここから先はしばらく『元の世界』の話は禁句な」
「え? まぁ、オレもぺちゃくちゃ喋る予定はないですけど……やっぱり、しゃべらない方がいいんですか?」
「オレらはヒロト君が本当のこと言ってると信じているけど、他の人が信じるとは限らないからね。ましてや突拍子もない話だし」
それもそうだよな。
というか、それを疑いもなく信じているサディエルたちが変わってる認定には違いないんだけどさ。
……いや、本当に何で3人ともさらっと信じたの? ねぇ。
オレそっちの方が疑問だよ、今更だけど。
「あっ、サディエル。宿に行く前にあそこに寄っておきませんか?」
「ん?……あー、ガーネットウールの毛か」
リレルがこれ、と荷物を指さしたそれは、昨日狩ったガーネットウールの毛だ。
「そうだな、先に済ませてしまった方がいいか。つーわけで、アルムとリレルはヒロト君連れて洋服店に。交渉は任せた! 俺は一足先にこの街のギルドに行って、目的のモノがあるか調べてくる」
「はいよ」
「いってらっしゃーい」
「え? ちょ、サディエルさん!?」
合流は宿屋でー! と言いながら、サディエルは笑顔で去っていった。
あ、嵐のような人だな本当に……
すたこらさっさと去っていったサディエルを見送ったオレたちは、しばしの沈黙後……
「さて、行くか」
「えっと、行くってどこにですか、アルムさん」
「お前の服の調達。さすがに僕らのおさがりをいつまでもってわけにもいかないし、どっちにしたって服は必需品の1つだ」
そういわれて、オレは今身に付けている服を改めて見る。
今朝の出発前に『汚れたらまずいから』ってことで、制服を没収されて、アルムの服を1着借りている状態だ。
制服のまま歩くのも、異世界にいるのも違和感しかなかったから助かったんだけど。
「そんなわけで、昨日狩ったガーネットウールの毛を元手に、仕立ててもらおうって話。なのはいいけど、歩けそうか?」
「……ハッキリ言っていいなら言います。つらいです」
「そうなるな。リレル悪い、僕の荷物も持ってくれないか?」
「構いませんよ。はい」
そういうと、アルムは自分の荷物を……冷静に考えて、3人ともそこそこの重さの荷物持って歩いてたのに、平然としすぎているし。
あれか、冒険者だから体力あるのか、そうなのか。
ともかく、アルムは荷物をリレルに預けると、オレの目の前に立ったかと思うと、しゃがんで背中を向ける。
「えーっと、おんぶってことですか?」
「俵持ちか、お姫様だっこがご所望ならそっちにするけど」
「おんぶでいい以前に、もうちょっとだけ休憩させてください! 自力で立ちますから!」
いやさすがに人通り少ないとはいえ、恥ずかしいから!
するとアルムはオレの右腕を掴んだと思ったら、肩に手を回して立ち上がらせてくれる。
「こっちで妥協ってことで」
「……あ、ちょっと歩きやすい」
「だろ。さてと、さっさと行きますかね」
オレが歩けそうな速度を模索しているのか、ちょっと早くなったりゆっくりになったりと、歩調を変えながらアルムは歩いてくれる。
その隣をリレルが街を眺めながら、楽しそうにしている。
「……サディエルさんもそうだけど、お人よしですよね、2人も」
「ん?」
「突拍子もないし、変なこと言ってる変なやつですよ? 自分で言っててあれですけど。それなのにこうやってあれこれやってくれるし」
先ほど、サディエルから『元の世界』関連は言わない方がいいと言われたから、少し濁した形のいい方になったけど、オレの正直な感想だ。
急に現れた異世界人に対して親切に、しかも分からないことはあれこれ1つ1つ説明を入れてくれる。
これをお人よしと言わずして何といえばいいんだか。
すると、アルムは……はぁぁぁぁ……と呆れ切ったため息を吐いて……って、ひどっ!?
「安心したい言葉が欲しいならサディエルのやつに言え。そういう担当は僕やリレルじゃなくてアイツだ」
「うっ……」
「君は妙に他者の親切を疑うよな。聞いてる限り便利で豊かで平和な場所にいるはずなのに、卑屈もいいところだ」
「えぇぇ……だって、ほら、普通ここまで馬鹿正直に信じないから。疑うの普通だから」
すると、アルムは「どーすんだよ」って表情でリレルを見る。
リレルの方も苦笑いをして、右手をフリフリと振る。どういう意図ですかそのジェスチャー……
「先に言っておくが、僕もリレルも、そしてサディエルも君が思っているほど、掛け値なしのバカでも、究極のお人よしでも何でもない。ちゃんと線引きはする」
「そうですね。ヒロト君の言葉を全て信じているわけではありません。けど……」
けど?
「少なくともヒロト君、貴方は嘘をつけなさそうですし」
「めっちゃ顔に出ているからな。百面相しまくってた」
「はあああ!?」
顔!? 顔に出てた!?
え、あれやこれや心の中で悩んでたこと全部顔に出てた!?
……って、何で2人揃ってオレの顔を見るんですか
「今、顔に出てた本当に? みたいにパニックなってただろ」
「……………パードゥン?」
「ぱーどぅん、という言葉の意味はわからんが、あれこれせわしない顔してたから」
誰か、鏡持ってきて。それか教室の鞄に入れっぱなしで持ってきていないスマホを誰か届けて。
そして心の中でツッコミ入れてた時のオレの様子撮影するか、映し出して現実直視させて。
「んで、僕らから言えることがあるとすれば、君は少なくとも嘘を言ってるようには見えないし、困っているのは確かだ。ましてや魔物も知らないし、警戒心ゼロだからこのまま放置すれば死ぬよな、寝ざめ悪いよな、という後付け理由を並べるならいくらでも並べてやれるぞ」
「後付けって……後付けって言いきっていいのかよそれ」
「そりゃそうだろ。何、君の世界には、誰が聞いても納得! 間違いない! って太鼓判押される理由を持たないと助けたり、信用や信頼したりしちゃダメなわけ?」
アルムのその言葉を聞いて、オレは思わず足を止めてしまう。
誰が聞いても納得が出来る理由、間違いないって思ってもらえる理由。
それらを上げ連ねないと『助けない』のか? 『信頼』出来ないのか?
「目の前に危ない人が居て、つい体が動いた。それに理由はいるか?」
「……いらない」
「そういうことだ。長い積み重ねの信用の末、信頼が生まれる……その前段階をお前自らが否定してちゃ世話ないぞ」
「ですね。今はこれも何かの縁、と思ってヒロト君は助けられていればいいんです。ちなみに、こうやって信用させておいて、あとで私たちがひどいことをするかもしれませんよー?」
「自分でそれ言っちゃいますか」
「いっちゃいまーす。……サディエルも、同じ気持ちですよ、きっと」
オレはゆっくりと歩きだす。
それに合わせるように、アルムも足を進めてくれる。
「まっ、なんだ。僕らだって5年もパーティ組んでるから、互いに信用も信頼もしているが……何で信用して、信頼したかなんて覚えてないしな」
「胸張って大声でこういう理由で信頼してます! なんて、滅多にありませんよ。気が付いたらしているもので、思い出しても分からないことです」
そういう……ものなのかな。
オレはふと、元の世界にいる友人たちを思い出す。
高校からの付き合いのやつもいれば、中学校、小学校……そのあたりからのやつらもいる。
だけど、そいつらと仲良くなった理由は……部活が一緒だったとか、席が近かったからとか、だいたいそういうので、趣味が同じってわけでもないし、中には正反対の性格のやつだっている。
じゃあそんなやつらと、どうやって仲良くなって、友人って思うようになったんだろう……何か大きな出来事とか、とまで考えて、思わず笑ってしまった。
「ん? 思い当たる節でもあったかい?」
「はい。オレの友人たちと、どうやって仲良くなったか思い出せなかったです。出会ったのはこことかあそこ程度で」
毎日学校で会ってるから、と言われたらそれまでだけど。
そういえば、本当にいつの間にかって感じだった。
もしかしたら、本当に単純なことなのかもしれないな……難しく考えていただけで。
「そういえばアルム。今の話題で少し思ったのですが……何で私たち、サディエルを信頼してるんでしょうね?」
「それもそうだよな、何で信頼してるんだ?」
「……さすがにそれは、サディエルさんがかわいそうな気がするんですが」
普通、普通の展開であればこの後『けど、なぜか放っておけないんだよね』的なセリフが続くと思うじゃん?
続かねーんだよなぁ……
1ミリもそんな話題が出ないどころか、2人とも、なんでだろー? って本気で首傾げている光景を見て、この場にサディエルがいなかったことに、心の底から安堵したぐらいであった。
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