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マフィンとチーズケーキとジャムクッキー
しおりを挟む美醜の感覚にずれていることに気づいてからは、ずいぶんと周りの目にも慣れてきた。話しかけられることはあまりないが、メイドたちからは遠巻きに見られている。これは奇異の目とかではなく、単純にアイドルや芸能人を見る目だ。
「なるほど、こんな気分なのか……」
元の世界では平均的な容姿をしていたせいか、こういった目には慣れていない。違和感がすごくて、どうしたら良いものかと思案する。もっと話しかけてみるか、とメイドに声をかけてみるが、にこりと笑って一礼して去っていってしまった。
「えっ、なんで……」
やはり嫌われているのでは、と思ったが、通りかかったセバスチャン曰く、アルバートが必要以上に接触しないようにと良い含めているとのことだった。なぜ。間違えても女性に手を出したりはしないのに。
「あまりこういうのは何ですが、イオリ様は結構鈍いですね」
セバスチャンにそう言われ、小首を傾げる。人の感情の機微には敏感なはずだ。空気を読む人種日本人なのだから。
「まあお気になさらず。話し相手でしたらアルバート様がおります」
「主人を話し相手にするのおかしくないですか?」
まあまあとキッチンへと連れていかれ、口にクッキーを押し込められる。相変わらず美味しいジャムクッキーだ。美味のジャムクッキーを頬張っていると、ティーポットとジャムクッキーの乗った盆を手渡される。
「アルバート様の休憩の時間です」
「持っていきます」
カートにジャムクッキーとティーポットを乗せるとあれよあれよとマフィンとチーズケーキを乗せられる。ティータイムにしては多くないだろうか。
「いつも美味しく食べてくれるからたくさん作りすぎちまった。部屋持って帰って食べてくれ」
いつも世話になっている気の良いシェフがそう言った。伊織はただ食べているだけだし、アルバートが甘いものを食べるわけでもない。ただ伊織のためだけに作られた菓子はありがたくもくすぐったい。残った菓子類はメイドたちの休憩時間に配られているらしい。菓子の量が増えてメイドたちも喜んでいると言っていたのはセバスチャンだ。彼は嘘をつかないから、それは本当なのだろう。伊織がきてからこの屋敷が明るくなり、働きやすくなった、とも。本当にそうなのだとしたら、少し救われた気分になるのだ。この世界に伊織が来たことが、ほんの少しでも良かったのなら。
「ありがとうございます」
ずっと、救われている気がする。アルバートに助けられて、この屋敷にいられて。この世界に来たばかりのとき、ずっと元の世界のことを考えていたのに働き出してから前向きになれたような気がする。あまり仕事という仕事はできていないが、雑用だって立派な仕事だ。
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