突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

いじめではないらしい

　働かざる者食うべからず。こう考えるのはやはり日本人だからなのだろうか。何かをしていないと不安というのもあるけれど、働くことはやはり大事なのだ。何もせずただ施しを受けているだけでは何かがだめになってしまうような気がした。

「イオリは私の専属執事として働いてもらうね。詳しいことは執事長から聞いてくれるかな」
「は、はい！」

　そういえばアルバート以外のこの世界の人間と喋るのは初めてだ。誰かに話しかけようとしてもいつもアルバートが話しかけてきてその間に皆下がってしまうから誰とも話ができていない。見るからに執事と言わんばかりの老執事が部屋に入ってきて頭を下げる。

「執事長のセバスチャンです」

　名前までまさしく執事という感じだ。伊織が着るとコスプレっぽいような雰囲気が出るのに、質のいい燕尾服を着こなしている。

「よろしくお願いします」
「それじゃあ、くれぐれも頼んだよ」

　アルバートの言葉にセバスチャンは深く頭を下げ、アルバートは部屋から出て行った。それを見送り、伊織はセバスチャンの顔を見る。アルバイトもしたことがない伊織は働くのが初めてだ。うまくできるだろうか、とどきどきする胸を押さえてセバスチャンの言葉を待った。

「イオリ様」
「え、様とかいらないです」
「アルバート様のお客人ですから」
「ここで働くのに？」
「はい」

　おかしいとは思いつつ、有無を言わさぬ雰囲気に頷くことしかできない。セバスチャンはほっと息を吐き、アルバートの部屋と執務室、食堂を案内してくれた。あまりにも広い屋敷の中、たったそれだけの部屋も覚えられなさそうだ。

「朝のお着替えを手伝っていただき、食事を一緒になさってください」
「あ、はい、みんなと食べれるの楽しみです」
「みんな？」
「はい、執事長たちと一緒に食べるってことですよね？」
「いいえ、アルバート様とご一緒に食事なさってください」
「えっ」

　さすがに違うような気がする。今まではアルバートと一緒に食べていたが、ここで働く立場になったのならそれはおかしいだろう。お客人という言葉を思い出して、伊織は眉を顰めた。

「まさかこれっていじめ……？」
「滅相もない！」
「ハブってやつでは？」
「ハブが何かわかりませんが、アルバート様の言葉が絶対なのです」

　ため息を吐き、セバスチャンは困ったような顔をした。困らせるつもりはなかったのだが、アルバートの言葉というのも気になる。そういえばくれぐれも頼んだとか言っていたような。