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チートはないらしい
しおりを挟む「よく似合っているよ」
「そ、そうですか?」
何も分からないまま異世界に来てしまった伊織はといえば、あれからというものの神様がごめんね間違えたと謝りに来たわけでもなければ、魔法が使えるようになったわけでもなく、かといってチートが使えるようになったわけでもない。なんならステータスオープンとか恥ずかしいことを部屋の中で叫んだりもしたけれど虚しく伊織の声が響いただけだ。
ただ数日間食べては寝てを繰り返し、いよいよ何かすることはありませんか、とアルバートに尋ねた。この数日は草むしりをお願いされるわけでも皿洗いをさせられるわけでもなく、かといって何もすることがなくただ美味しいものを食べてやわらかなベッドに寝て、きれいな庭と毎日部屋に来るアルバートのきれいな顔を毎日眺めているだけだった。美人は3日で飽きるというけれど、ちっともそんなことはなく、毎日眺めていても飽きないものだ。
『何かすることは、ありませんか……?』
『え?部屋の中はやっぱり飽きたかな。庭に出てみるかい?』
『あ、いやそういうことじゃなくて働きたくて……』
そのときのアルバートの顔は少し幼く見えた。今までずっと大人に見えていたアルバートが伊織の年齢と近く見えて逆に伊織の方が面食らってしまった。
『働く?』
『食べて寝てばかりを繰り返していて申し訳ないですし……いつまでもお世話になるわけにも……』
『いいんだよ、いつまでもイオリのお世話したいし』
なぜか最初から好感度マックスなこの男は伊織の入浴や着替えの手伝いまでしたがるのだ。身分が高そうなのに不思議なことだ。しかも伊織が起きたらすぐに伊織の部屋に来て一緒に食事をしてそのまま1日中伊織の部屋にいる。仕事とかしていないのだろうかと不思議になるほどだ。今現在世話になっている伊織がそれを聞くわけにもいかず、アルバートの仕事のことに関しては謎のままだ。森の中とこの屋敷以外足を踏み入れたことのない伊織は、この世界がどんなものなのかもまったく検討がついていない。ただ何の知識もなく外に出るのは危険だ。そう思って働いて知識を得ようと考えたのだ。アルバートはどうにも伊織に知識を入れたくないのか外のことを全く話してくれず、何の情報も手に入っていない今、有効なのはこれしかないと思った次第だ。
『何もせず衣食住もらうのは申し訳ないので、働かせてください……!』
『なるほど』
アルバートは少し考えたあと任せて、と言って燕尾のスーツ一式をくれた。そうして冒頭のセリフとなるのだ。
「イオリは働かなくてもいいけど、その格好もいいね」
「あの、えっと、仕事はください」
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