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11.訳分かんないよ〜!

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「ちょっと、テテ。本当に大丈夫? まさか、いつもこうなるの?」

 僕は、中庭のベンチまで移動した。

「はい、姉上。もう無理です。気持ち悪くて」
「お祖母様」
「ああ、よっぽどだわね」
「お祖母様、どうでした?」
「予想以上に強力なのかも知れないわ。気をつけないと。私が作ったネックレスがあるのに、テテがこんなに気分が悪くなるなんて」
「あ……」

 ネックレス…… ばーちゃんがくれた精神異常を完全防御するネックレス……あらら。

「え? テテ?」
「テテ、お前もしかして」
「アハ、アハハハ。ばーちゃん忘れちゃった! エヘッ!」

 ――バシッ!

「イッテー! ばーちゃん!」
「何の為に作ったと思ってるの!」
「だって、忘れちゃったんだもん!」
「もん! じゃないわよ、もん! じゃ!」
「エヘッ!」

 ――バシッ!

「イッテーよ!」
「祓ってやってんのよ!」

 ――バシッ!

「イテーッて! ごめんッて!」

 うっかりしてたよ。てか、マジ忘れてた。アッハッハー!


 この、聖女候補との接触の時に、姉はしっかり鑑定していた。
 姉の鑑定結果では、聖女候補の魔力量は普通以下だった。
 そんなだと、いつまで経っても聖女にはなれないよ。なのになんで聖女候補になったのか。
 確かに聖属性魔法が使えるそうだ。だけど。

「あんなの使える内に入らないわよ。ヒールも怪しいのじゃないかしら? ハイヒールは無理ね」

 なんだって! それじゃあ、僕の方がマシじゃん。しかし……

「魅了だと思ったんだけど、持っていなかったわ」

 なるほど。なら、何だろ?

「何かね、見えないものがあるのかも知れないわ」

 鑑定スキルは、対象者が自分より力が上だと見えない項目があるらしい。
 でも、どう考えても姉より聖女候補が上だとは思えない。

 その姉の鑑定結果を聞いてから、ばーちゃんは書斎にこもっている。
 なにか調べているようだよ。何故かブランもついて行ってる。ドラゴンに文字が読めるの?
 ばーちゃん頑張れ! 僕にはさっぱりわかりましぇーん。


 ばーちゃんが書斎にこもりがちになって何日も過ぎたある日だ。
 ブランは早々に飽きてたけど。

「分かった! きっとこれだわ!」
「ばーちゃん!」

 やった! さすがばーちゃんだ!

「お祖母様、分かりましたか?」
「ああ、イデス。帰ってたの?」

 イデスとは、俺の兄だよ。ブランは何故か兄の肩に乗っている。

「お祖母様、私もしっかり情報を持ってきましたよ」
「おや、そうなの。じゃあ、イデスの報告から聞くわ」

 ええー! 僕、ばーちゃんの方が先に聞きたい! 聞きたいなー!

「お祖母様、テテが子犬のように見てますから、先にお祖母様の調べた結果を」
「そう? まあ、私はこれだと思うんだけど」

 そう前置きして、祖母が書斎にこもって調べた結果を話してくれた。

「私もテテの話を聞いた時に真っ先に頭に浮かんだのが魅了だったのよ。
 状態がそっくりだったからね。でも、ラティの鑑定結果では魅了は持っていなかった」

 そこで、ばーちゃんは引っかかったんだそうだ。何か忘れてる気がしたんだって。
 もう歳だね。いや、これを口に出すとまた叩かれるから絶対に言わない。
 
「昔、まだ私が小さかった頃に起こった事件なのよ。変な事件で一時騒ぎになっていたから、子供の私でも覚えていたのね。
 今から56年前だから、私が8歳の時ね。
 山間にある小さな村で、もう今はその頃とは違う村の名前になっているわ。
 その村は小さいけど、暮らしには不自由しないどちらかと言うと裕福な平和な村だったのよ」

 その村は、周辺に群生しているサトウカエデが名産なんだそう。
 サトウカエデは、前世の有名なところで言うとカナダの国旗になっている。サトウカエデの樹液はあの、メープルシロップの原材料だよ。
 砂糖がまだ少しお高いこの世界で、メープルシロップだよ。そりゃあ金のなる木と言っても過言ではない。
 あー、パンケーキが食べたくなってきた。作ってくれないかなぁ。

 その村は小さいけど、サトウカエデのおかげで生活には困らない平和な村だった。
 その村の村長が、いつの間にか他所から来た別の者に変わっていた。しかも、新しい村長は国が決めた以上の税を村民から徴収していた。
 なのに、村民が誰一人として何も言わずに従っていた。だから、発見が遅れた。
 村に出入りする商人達からおかしいと声が上がり、国が調査に乗り出したときには村民の暮らしぶりが一転していた。
 メープルシロップで儲けている筈なのに、生活には困っていなかった筈なのに、餓死者が出る程に荒れ果てていたんだそうだ。
 
「え、ばーちゃん餓死者って……」
「ああ、酷いだろう? 村長一家だけが、贅沢な生活をしていた。そりゃあそうよ。税を余分にとって横領してるんだから。なのに、村民達は文句を言わない」

 最初は何か弱みでも握られているのかと調査したらしい。が、何も出てこなかった。それでも、横領罪で村長一家が捕らえられ牢に入れられた。
 その数日後、村長一家が脱獄したんだ。
 牢番もいる。牢から出たとしても衛兵や騎士団もいる。なのに、城の裏門辺りでの目撃証言を最後に忽然と姿を消した。
 その時に、牢番は自分が逃したと自白した。

「え? なんて自白したの?」
「村長一家は悪くない。村民が自分から税を余分に納めたんだ。だから、牢から出て当たり前なんだ。て、言ったそうよ。その時点でやっと精神干渉が疑われたの。それを見破ったのが、私のお祖父さんだった」

 ばーちゃんのお祖父様。僕の高祖父になるのかな? ややこしい。
 いつの間にか村長になっていた男と、実際に話した時に引っ掛かったそうだ。

「ばーちゃん、だから何なの?」
「もう今は使われていないと言うか、使ってはいけないから公にはしていないのよ。
 禁忌ね。言葉に魔力をのせるの」

 意味が分かんない。

「普通は意味が分からないでしょ? でも、そんなことをできる人がいるのよ。禁忌の魔術ね。言葉に魔力をのせて、精神を操るのよ」

 こわッ! なんだよそれ。

「しかもね、魔力量が大して必要ないのよ。魅了よりタチが悪いわ。」
「ばーちゃん、それ古代魔法の類いなんじゃないか? いや、それとも人種的な何かかな?」

 ブラン、知ってるの!?

「ドラゴンは人間よりもずっと長生きだからな。俺、話に聞いた事あるよ。ま、ドラゴンはそんなのにも惑わされないけどね」
「そう、ブラン。古代魔法かも知れないのね?」
「かも、だよ。まだ何か引っかかるんだけどさぁ。昔に何かそんな人種がいたような……?」
「でも、それも確定じゃないのよ。お祖父さんの予測なのよ。古代魔法の線でも調べてみるわ……」

 なんだよ、ばーちゃん。何か思い当たる事がありそうだね?
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