上 下
6 / 35

6.お前もかよ〜!

しおりを挟む
 さて、ニキティス・オルデンが攻略されていると分かった。あいつは単純だから攻略もし易かっただろうと思う。もう一人の攻略対象者はどうなんだろう。と、本を読む振りをして、そいつを見る。

 第1攻略対象者、オネスト・ウィズダム。侯爵家の嫡男で同じクラスだ。
 濃紺の長い髪を後ろで1つに結んで、眼鏡の奥にブルーの瞳がキランと光る頭脳明晰、冷静沈着な奴だ。
 父親が現宰相をしていて、息子のオネストもいずれはと期待されている。
 そんな奴が簡単には攻略されないだろう。と、思いたいよね~。

 それよりも、王女のソフィアだよ。ゲームのシナリオの様に僕が婚約破棄する事はない。だって、もう先に僕が婚約破棄されちゃったからね! ハッハッハー!
 いや。笑い事じゃないんだけどぉ。どっちにしろ、僕の婚約者ではなくなったから、聖女候補を虐める理由もない訳だよ。
 婚約破棄もない、虐める事もない。と、言う事はソフィアが断罪される事もない。うんうん。それが1番重要なんだよ。

 なんて、呑気な事を考えていた。
 しかし、ゲームのシナリオの強制力なのか。ソフィアが聖女候補を虐めているらしいと言う噂をチラホラと耳にする様になった。

 何でだよ。もう虐める理由がないでしょう? てか、ソフィアは人を虐めたりする子じゃないんだよ。


 ある日、僕はいつもの様に一人裏庭のベンチで昼を食べていた。ボッチだよ。そうさ、いつも一人だよ。
 仕方ないじゃん。こんな見掛けなんだし。ほんの少しコミュ症だしさ。
 2階の渡り廊下を聖女候補が歩いているのが見えた。しかも、何あれ!!
 ぞろぞろと男子生徒を引き連れている。その先頭には、ニキティス・オルデンがいる。そして、その横にオネスト・ウィズダムがいた。
 あー、攻略されちゃったんだ。あれじゃあまるで逆ハーじゃない。女王様だね。待って、逆ハーか!? 逆ハー狙いなんだ! あれのどこが聖女なんだよ! 信じらんないよ!

 そう思って見ていると、聖女候補御一行は1階に下りてきた。まさか、僕がこんな所で昼を食べているなんて思いもしないんだろうね。気付いてもいない。
 何だ? また、ゾッとしたぞ。悪寒が走る。

 オネスト・ウィズダムにも婚約者がいる。貴族だからね、普通だよ。だいたいの貴族は10歳までに婚約者を決めちゃうからね。
 そのオネストの婚約者、シャルロッテ・サジェスがソフィアと一緒に聖女候補の進行方向、正面から歩いて来た。
 偶然だったのだろう。シャルロッテが微妙な表情をしている。
 オネストの婚約者、シャルロッテ・サジェス。侯爵令嬢だ。ブルーシルバーのふんわりウェーブのロングヘアーで横の髪を片方だけ編み込んで小さなリボンをいつもつけている。紺色の瞳が涼しげな清楚で控えめな子だ。
 聖女候補御一行とすれ違った時だ。突然、聖女候補が「キャアッ!」と声を出して倒れかけた。
 聖女候補の後ろには何人も男子生徒がいたから、そいつらが咄嗟に手を出して聖女候補を支えたので転けずに済んだ。
 なんだ、転けなかったじゃん。つまんねー、なんて見ていたら聖女候補が泣き出した。

「足を引っ掛けるなんて酷いわッ!」

 はぁッ!?  誰が足を引っ掛けたんだよ! 僕はここからしっかり見ていたよ! 誰もそんな事はしていない!

「まさか! シャルロッテ嬢か!? 」

 おいおい、ニキティス。何を根拠に言ってんの!

「ミーア、そうなのか!? 」

 聖女候補は何も言わずに泣きじゃくっている。
 それを、単細胞のニキティスは肯定と取ったのだろう。シャルロッテを責め出した。

「何でそんな事をするんだ!」
「そんな……! 私は何もしていません」
「シャル、そうなのか?」

 婚約者のオネストまで疑い出した。

「待ちなさい。貴方達は見たのかしら? 私は、シャルの横を歩いていたけどシャルは何もしていないわよ。」

 ソフィア。関わって欲しくないんだけど。仕方ないよね。こんな時は、思わず庇うよね。うんうん。ソフィアは良い子で優しいからなぁ。放っておけないんだよ。いや、僕の欲目じゃないよ。一般論だよ。

「失礼ながら、ソフィア王女殿下。状況から考えるとそうなりませんか?」

 ああ、オネスト。お前だけはシャルロッテの味方をしてやんなきゃ。婚約者だろ? なんて奴だよ。

「あなた、シャルの婚約者でしょう? それに、貴方も見たのかしら? 本当にその目で見たのなら仕方がないわ。でも、見ていないのなら軽はずみな事を口にしてはいけないわ」

 そうだ、ソフィアの言う通りだよ。
 そうしたらまた聖女候補が泣き出した。

「あたしの事が嫌いなのねッ!? 」

 いや、話をすり替えるのは止めようよ。

「シャル、君がそんな子だとは思わなかったよ」

 コラッ! オネスト! お前は本当に何を言ってんの!
 僕は、思わずベンチを立ち一行の方へ歩いて行った。

「待つんだ。オネスト・ウィズダム」

 一斉に俺の方を見る一行。あ、ソフィアが驚いた顔をしている。ビックリ顔も超可愛い。

「ぼ、僕は、そこのベンチから全部見ていたよ」

 と、言ってまだ自分の荷物を置いたままにしてあるベンチを指差した。

「誰も足を引っ掛けたりなんてしていない。も、もちろん、シャルロッテ嬢もだよ。君が一人で勝手にフラついたんだ。
 見ていない事を決めつけるばかりか、寄ってたかって一人の女子生徒を責めるなんて褒められた事じゃないな。」

 聖女候補が睨んできた。

「あなた! あたしのお友達じゃないのッ!?  仲間でしょッ!」

 意味不明だよね。

「ぼ、僕は君と友達になった覚えはない。仲間でもない。そんな事を言っているんじゃないよ。ただ、事実を言っているだけだ。そ、そこまでして、シャルロッテ嬢のせいにしたいの? とんだ聖女候補だね」

 あ、つい言ってしまった。最後のはきっと余計な一言だ。煽ってしまったかも知れない。

「なんだと!? 」

 ニキティスが僕に手を出そうとした。

「お止めなさい! ニキティス! 今度手を出したら問題にしますよ!」

 ソフィアだ。ソフィアが俺を庇ってくれたよ。マジ、天使だ!
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢、前世の記憶を駆使してダイエットする~自立しようと思っているのに気がついたら溺愛されてました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢エヴァンジェリンは、その直後に前世の記憶を思い出す。 かつてダイエットオタクだった記憶を頼りに伯爵領でダイエット。 ついでに魔法を極めて自立しちゃいます! 師匠の変人魔導師とケンカしたりイチャイチャしたりしながらのスローライフの筈がいろんなゴタゴタに巻き込まれたり。 痩せたからってよりを戻そうとする元婚約者から逃げるために偽装婚約してみたり。 波乱万丈な転生ライフです。 エブリスタにも掲載しています。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

処理中です...