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第6章 王都
173ー母の実家
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王都は頑丈な高い防御壁に囲まれている大きな街だ。
外側から順に、王都民の中でも農業を生業としている家や畑、それから小さな店や庶民の家がある。そして、公の施設や教育施設があったり少し大店の店があったり。その内側に貴族の大きな邸が建ち並ぶ貴族街だ。街の中心に城がある。そこに王がいる筈だ。もちろん、王妃や兄王子達もだ。
貴族街に入るまで、街の中を見ていても活気があるし道行く人達は忙しそうだ。
いいじゃん、と思っていたんだけどな。ふと街中の細い路地を見ると、小汚い恰好をした人達が恨めしそうな眼で街行く人達を見ている。
ああ、格差があるんだ。これだけ大きな街なのだから仕方ないのだろうか。
それにしても空気が違う。辺境の地は海が近くて田舎だからもちろん空気は違うだろう。だが、この纏わりつく様な嫌な感じは何だ? 首の後ろがゾワッとしそうな嫌な感じ。
ここは、魔物の脅威はない。洪水の心配もない。見る限りは平和な街だ。なのに俺は嫌な感じが付き纏い不安が過ったんだ。
中央の方を見ると街を見下ろすかのように建っている城が見える。頑丈な城壁に囲まれた大きな城だ。まるで、暗い雲を纏っているかの様に俺には見えた。
「皆良く来た。無事で良かったよ」
母の父だ。俺は初めて会う。
「まあ、ココちゃんなの? その恰好はどうしたの?」
「お祖父さま、お祖母さま、はじめまして。ココです。変装してます」
「そうか、覚えていないだろうな。まだココは赤子だった」
「本当に。よく笑う可愛い赤ちゃんだったわ。こんなに大きくなって」
俺が赤ちゃんの時に1度領地まで来てくれたらしい。母の両親だ。子供が産まれる度位にしか領地には来られない。遠いからな。それでも、何日もかけて来てくれる優しい祖父母だ。
母方の祖父、母の父親がグスタフ・セーデルマン。侯爵様だ。今は現役を引退して、王都近くにある領地の経営にのみ携わっているが以前は宰相を務めた事もあったらしい。
糸の様なストレートのブロンドの髪を後ろで1つにまとめていて、優しそうなブラウンの瞳の見るからに温厚そうなじーちゃんだ。うちとは正反対といってもいい。
そして、母方の祖母。母の母親がエリフェミア・セーデルマン。俺の母と同じ様に少し癖のあるブルーブロンドのウエーブヘアにガーネット色の瞳が印象的な侯爵夫人。
瞳も母と同じパイロープガーネット(深紅)だ。俺の母はまんまこの侯爵夫人の色を継いでいるらしい。
この人達が王都在住の貴族を、人脈と頭脳で仕切っている裏ボスだ。
「文をもらった時はどうなる事かと思ったよ」
と、話しているのは母の兄だ。イーヴェル・セーデルマン。祖父と同じブロンドの髪に、少し切れ長でブラウンの瞳の優しそうな伯父さんだ。事務方のトップと言っても良い事務次官を務めているそうだ。
そして、王子と対面する。祖父は片方の手を胸にやり頭を下げ、祖母は綺麗なカーテシーをし丁寧に挨拶をした。
「殿下、よくぞご無事で。まだ殿下が幼い頃にお目通りした事がございます。グスタフ・セーデルマンと申します。此度はよくお越しくださいました」
「ようこそお越し下さいました。ご無事で何よりですわ。妻のエリフェミアと申します」
「お初にお目に掛かります。事務次官を務めておりますイーヴェルと申します。お見知りおき下さい」
「世話になるよ。色々力になってもらったと聞いている。ありがとう」
「何を仰います。当然の事にございます」
祖父達が王子に挨拶をしている。うちに来た時とは全く違う王子がそこにいた。
王族らしい威厳の様なものさえ伺える。長旅をしてきたと言うのに疲れを微塵も感じさせない。父に連れられて初めてうちの領地に来た時には顔色も悪く、足もとだってふらついていたのに。同一人物とは思えない。こんなに変わるんだ。体力がついた事もあるが、それだけ精神干渉は王子の性格に影響を与えていたのだろう。
「伯父さま、伯母さま。バルト様は到着されましたか?」
そう言いながら賑やかに登場したのがバルト兄の婚約者だ。母の父の妹の娘だ。バルト兄が王都の学園に通っていた頃にこの家で出逢い、婚約した。バルト兄の方が3歳年上だ。婚約者はまだ17歳で学園に通っている。卒業を待って婚姻になるだろう。
その婚約者、キャリーナ・フーシェ。金糸の様なサラサラなブロンドの髪にロイヤルブルーの瞳の美人さん。俺は会うのが初めてだ。
「これ、リーナ。騒がしいぞ」
「あなたはいくつになっても落ち着かないわね。ご挨拶なさい」
「ごめんなさい。え……っと」
「リーナ、第3王子殿下だ」
「え? えぇ!? バルト様!」
「リーナ、内密にね」
「そ、そうなのですか? あ、失礼致しました。えっとお初にお目に掛かります。キャリーナ・フーシェと申します」
まさか王子がいるとは思わなかったのだろう。ぎこちなくカーテシーをしている。
「そう畏まらなくていい。私は世話になる方なのだから」
「殿下、お茶をお入れしましょう。どうぞこちらへ。アレクシス達も来なさい」
「ありがとう」
「はい、父上」
王子と護衛のアルベルトとソフィ、そして父とじーちゃん達が母の父に案内され部屋へと入っていった。
「ふぅ……驚きました」
「リーナ、だから内密にだ。ココは初対面だったね」
「はい、バルト兄さま」
「まあ、ココちゃんですの?」
「はい、はじめまして。ココです」
「あら? ココちゃんはたしか女の子じゃなかったかしら?」
「変装しているんだよ」
「まあ! 素敵! だから、バルト様達もそんな恰好をしているのですね?」
素敵だと言われちゃったよ。俺の男装、評判いいな。
☆ ☆ ☆
読んで頂きありがとうございます!
今日はハルちゃんお休みです。
が、『第16回ファンタジー小説大賞』にエントリーしています🌟
応援して頂けると幸いです🌟
宜しくお願いします!
外側から順に、王都民の中でも農業を生業としている家や畑、それから小さな店や庶民の家がある。そして、公の施設や教育施設があったり少し大店の店があったり。その内側に貴族の大きな邸が建ち並ぶ貴族街だ。街の中心に城がある。そこに王がいる筈だ。もちろん、王妃や兄王子達もだ。
貴族街に入るまで、街の中を見ていても活気があるし道行く人達は忙しそうだ。
いいじゃん、と思っていたんだけどな。ふと街中の細い路地を見ると、小汚い恰好をした人達が恨めしそうな眼で街行く人達を見ている。
ああ、格差があるんだ。これだけ大きな街なのだから仕方ないのだろうか。
それにしても空気が違う。辺境の地は海が近くて田舎だからもちろん空気は違うだろう。だが、この纏わりつく様な嫌な感じは何だ? 首の後ろがゾワッとしそうな嫌な感じ。
ここは、魔物の脅威はない。洪水の心配もない。見る限りは平和な街だ。なのに俺は嫌な感じが付き纏い不安が過ったんだ。
中央の方を見ると街を見下ろすかのように建っている城が見える。頑丈な城壁に囲まれた大きな城だ。まるで、暗い雲を纏っているかの様に俺には見えた。
「皆良く来た。無事で良かったよ」
母の父だ。俺は初めて会う。
「まあ、ココちゃんなの? その恰好はどうしたの?」
「お祖父さま、お祖母さま、はじめまして。ココです。変装してます」
「そうか、覚えていないだろうな。まだココは赤子だった」
「本当に。よく笑う可愛い赤ちゃんだったわ。こんなに大きくなって」
俺が赤ちゃんの時に1度領地まで来てくれたらしい。母の両親だ。子供が産まれる度位にしか領地には来られない。遠いからな。それでも、何日もかけて来てくれる優しい祖父母だ。
母方の祖父、母の父親がグスタフ・セーデルマン。侯爵様だ。今は現役を引退して、王都近くにある領地の経営にのみ携わっているが以前は宰相を務めた事もあったらしい。
糸の様なストレートのブロンドの髪を後ろで1つにまとめていて、優しそうなブラウンの瞳の見るからに温厚そうなじーちゃんだ。うちとは正反対といってもいい。
そして、母方の祖母。母の母親がエリフェミア・セーデルマン。俺の母と同じ様に少し癖のあるブルーブロンドのウエーブヘアにガーネット色の瞳が印象的な侯爵夫人。
瞳も母と同じパイロープガーネット(深紅)だ。俺の母はまんまこの侯爵夫人の色を継いでいるらしい。
この人達が王都在住の貴族を、人脈と頭脳で仕切っている裏ボスだ。
「文をもらった時はどうなる事かと思ったよ」
と、話しているのは母の兄だ。イーヴェル・セーデルマン。祖父と同じブロンドの髪に、少し切れ長でブラウンの瞳の優しそうな伯父さんだ。事務方のトップと言っても良い事務次官を務めているそうだ。
そして、王子と対面する。祖父は片方の手を胸にやり頭を下げ、祖母は綺麗なカーテシーをし丁寧に挨拶をした。
「殿下、よくぞご無事で。まだ殿下が幼い頃にお目通りした事がございます。グスタフ・セーデルマンと申します。此度はよくお越しくださいました」
「ようこそお越し下さいました。ご無事で何よりですわ。妻のエリフェミアと申します」
「お初にお目に掛かります。事務次官を務めておりますイーヴェルと申します。お見知りおき下さい」
「世話になるよ。色々力になってもらったと聞いている。ありがとう」
「何を仰います。当然の事にございます」
祖父達が王子に挨拶をしている。うちに来た時とは全く違う王子がそこにいた。
王族らしい威厳の様なものさえ伺える。長旅をしてきたと言うのに疲れを微塵も感じさせない。父に連れられて初めてうちの領地に来た時には顔色も悪く、足もとだってふらついていたのに。同一人物とは思えない。こんなに変わるんだ。体力がついた事もあるが、それだけ精神干渉は王子の性格に影響を与えていたのだろう。
「伯父さま、伯母さま。バルト様は到着されましたか?」
そう言いながら賑やかに登場したのがバルト兄の婚約者だ。母の父の妹の娘だ。バルト兄が王都の学園に通っていた頃にこの家で出逢い、婚約した。バルト兄の方が3歳年上だ。婚約者はまだ17歳で学園に通っている。卒業を待って婚姻になるだろう。
その婚約者、キャリーナ・フーシェ。金糸の様なサラサラなブロンドの髪にロイヤルブルーの瞳の美人さん。俺は会うのが初めてだ。
「これ、リーナ。騒がしいぞ」
「あなたはいくつになっても落ち着かないわね。ご挨拶なさい」
「ごめんなさい。え……っと」
「リーナ、第3王子殿下だ」
「え? えぇ!? バルト様!」
「リーナ、内密にね」
「そ、そうなのですか? あ、失礼致しました。えっとお初にお目に掛かります。キャリーナ・フーシェと申します」
まさか王子がいるとは思わなかったのだろう。ぎこちなくカーテシーをしている。
「そう畏まらなくていい。私は世話になる方なのだから」
「殿下、お茶をお入れしましょう。どうぞこちらへ。アレクシス達も来なさい」
「ありがとう」
「はい、父上」
王子と護衛のアルベルトとソフィ、そして父とじーちゃん達が母の父に案内され部屋へと入っていった。
「ふぅ……驚きました」
「リーナ、だから内密にだ。ココは初対面だったね」
「はい、バルト兄さま」
「まあ、ココちゃんですの?」
「はい、はじめまして。ココです」
「あら? ココちゃんはたしか女の子じゃなかったかしら?」
「変装しているんだよ」
「まあ! 素敵! だから、バルト様達もそんな恰好をしているのですね?」
素敵だと言われちゃったよ。俺の男装、評判いいな。
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