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第5章 王都へ

154ー前世の歌

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「あんた達、本当に商人か?」
「なんだ? 何に見える?」
「あんたは護衛だよな? でもさっき、爺さんと呼ばれていたか? そっちの2人は旅芸人か? で、商人のぼっちゃんだよな?」

 まあ、なかなか良い線いってるじゃん。俺達の変装も捨てたものじゃないな。
 だが、この男どうするんだ? 噛みつかれて、まだノワが威嚇している。

「ノワ、もういいぞ」
「アン」

 やっとノワが男から離れた。そして、尻尾を振りながら俺のそばへとやって来る。

「こいつ賢いなぁ。良い犬だ。俺達なんて人間様でもマトモに食えねーってのにさ。毛艶も良いじゃねーか」

 ノワに八つ当たりしても仕方がない。

「お祖父さま、もういいです」
「そうか?」
「はい。未遂ですし」
「そういう事だ。さっさと行きなさい」
「けッ……」

 なんなんだ? やさぐれたって、どうにもならないじゃないか。

「こんな事をしてないで、仕事を探す方がいいぞ」
「探したって、ねーんだよ」
「でも、奥方はちゃんと働いてるんだろう」
「旦那、俺みたいに学もなくて体力だけが取り柄の男なんて大した仕事はねーんだよ」
「だからと言ってこんな事をしたら奥方が悲しむだろうが」
「そうだけどよぉ……」
「じゃあな、まあ頑張ってみる事だ」

 俺達はその場を離れた。この街も問題を抱えていそうだ。

「若さまぁ、すみませんでしたぁ」

 珍しく咲がしょぼくれている。責任を感じているのだろう。

「大丈夫だ、気にすんな」
「若さまぁ」

 ふはッ、マジでなんだか懐かしいな。呼び方が前世と同じってだけで、こんな気持ちになるんだな。

「若、そうッスね」

 え? 隆、分かってんのか?

「ッス」

 だから隆、お前語彙力どころじゃないぞ。短文どころか、なんでも『ス』で終わらせるんじゃないよ。普通に話そうぜ。

「俺はこんなもんッス」

 そうかよ。隆が良いなら何も言わないさ。
 
「歌は上手なのに」
「ッスか?」
「うん。上手だった。思い出したよ」
「ッスよね~」

 前世でも隆は歌が上手かった。よく2人でカラオケに行ったもんだ。懐かしいなぁ。

「若、曲覚えてるッスか?」
「隆がよく歌っていたのだろ?」
「そうッス。こっちで歌ったらどうなるッスかね?」
「どうなんだろうなぁ。全然曲調が違うからなぁ」

 車でぶつかって来られる少し前に流行った曲だ。隆が気に入ってよく歌っていた。
 お前、あのギターの様な楽器で弾けるんじゃね?

「若、コードが分かんないッス」
「そうか、残念だな。久しぶりに聞きたかった」
「ッスね」

 すると、隆が鼻歌を歌い出す。ああ、そうだ。こんな曲調だった。
 大好きだった彼女との思い出を歌った曲だ。すると、咲がハモり出す。
 この姉弟はなんでも出来たんだ。勉強以外はだけど。

「ほう、また変わった歌だな」
「お祖父さま、良くないですか?」
「何やら哀愁を感じさせる良い歌だ」
「ですよね」

 懐かしいなぁ……あの頃俺は何をしていただろう。姉貴2人にしごかれていたっけ。若頭といっても、組の仕事なんて何もしていなかったから結構自由だった。今から思えば楽しかった。幸せだったよ。
 姉貴達に両親はどうしているのかな? 元気でいてくれたら良いと思う。俺はもうどうする事もできないから。

「この街は長居せずにさっさと通り抜けよう。領主に顔を見られたら厄介だ」
「お祖父さま、そうなんですか?」
「ああ、いつも色々難癖をつけてくるんだ。私達が動いている事も知られない方が良いだろう」

 じゃ、さっさと次の街へ行こうぜ。

「ココ、俺思わずやっちまってすまねー」
「何言ってんだよ。助けてくれたんだろう? 有難う」
「ハハ、良いって事よ」

 なんて話していたら何やら盛り上がってないか? 咲と隆、お前達まだ歌っていたのかよ。しかも、人集りができているし、咲なんて歌いながら踊っている。
 手が届かない。
 光の様な世界。
 幸せになれると信じていた。
 なんてサビで周りの人達が聴き惚れているじゃん。

「この様な歌をどこであの2人は覚えたんだ? 聴いた事がないぞ」

 そりゃそうだ。この世界にはない曲だ。
 ああまた咲がお捻りをもらっているぞ。いいのかよ。

「ハハハ。儲けるなぁ」
「お祖父さま、良いのですか?」
「かまわんさ」

 おう、太っ腹だぜぃ。霧島がバッグから顔だけ出して小さな声で聞いてきた。

「なあなあ、ココ」
「ん? キリシマ、なんだよ」
「あれ、この世界の歌じゃねーだろ」
「そう?」
「誤魔化すんじゃねーぞ」
「何よ」
「だから、俺はココの考えている事が分かるんだぞ。そんなの最初から分かってるぞ」

 マジかよ。

「大マジだ」

 そうなのか?

「だけどな、お前達は隠している様だから俺も言わなかったんだ。本当に若だったんだな」
「そうだな……霧島」
「なんだ?」
「有難う」
「なんだよ水くせーな」

 ふふふ、そうかよ。意外にも気を使う奴だ。ドラゴンなのに。

「なんだよー。ドラゴンだってなぁ、繊細なんだぞー」
「はいはい」
「俺様みたいなナイーブなドラゴンはそうはいねーぞ」

 本当にナイーブだったら、ドラゴンブレスで棲家を焼いたりしないと思うぞ。

「あれは、ほら。勢いだ。偶々だ」

 偶々でドラゴンブレスかよ。怖ーな。
 咲と隆が歌い終えて戻ってきた。2人共、良い笑顔だ。

「若ッ」
「おう」
「若さまぁ」
「おうよ」

 ハハハハ。咲や隆とは最後も一緒だった。転生してもそばにいてくれた。親よりも深く繋がっているのかも知れない。
 2人は嬉しそうな顔をして、俺を『若』と呼ぶ。俺もあの頃みたいに答える。ただそれだけなのに……嬉しい。ほんの少し寂しい。
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