153 / 249
第5章 王都へ
153ー皺寄せ
しおりを挟む
街をボゥーッと眺めていた時だ。俺の膝の上にいたノワが唸り声をあげた。
「ノワ、どうしたの?」
「アウ『ココを狙っている奴がいるぞ』」
なんだって? 俺をか? どうしてだ?
その時だ。後ろから突然口を塞がれ抱え込まれた。
「アウゥッ!」
「ココ!」
ノワが飛び掛かり腕に噛み付く。そして霧島が軽く短い手を振り風属性魔法で吹き飛ばした。
俺は驚いて霧島を抱えて隠す。見つかったら面倒だと思ったんだ。自分が連れ去られようとしている時に何を心配しているんだ? とも思ったが、騒ぎになるのは避けたいんだ。
そこに、ディオシスじーちゃんと隆、そして咲も走って戻って来た。
「若ッ!」
「若さまぁッ!」
「大丈夫かッ!?」
吹き飛ばされた男に乗り掛かって、まだノワが腕に噛み付いている。
「クソッ! 離しやがれッ!」
必死でノワを引き離そうとしている男を隆がアッサリと取り押さえた。
なんだよ、素人か? あまりにも、弱すぎるぜ。
「若さまぁ、すみません。私が離れたばかりにぃ」
「サキ、気にすんな。それより、リュウ」
「はいッス。素人ッス」
「そのようだな」
何で素人が人攫いなんてやっているんだよ。腑に落ちないぞ。じーちゃん、どうすんだ?
俺はディオシスじーちゃんを見た。
「だから領主の話をしたろう」
ああ、そういう事なのか。貴族主義の皺寄せが民にきているんだ。それはいかんぞ。
「お前、どうしてこんな事をしたんだ?」
「うるせーよ! 離せよ!」
隆に抑えられて踠いているが、隆は軽く手を押さえているだけだ。本当に素人なんだ。跳ね除ける力もないらしい。
「事情を話すなら離してやる」
「けッ、事情も何も金が欲しいんだよ! 生活できねーんだ。お前ら裕福そうじゃないか、少し位俺が頂いたって構わねーだろ!」
ああ、やはりか。路上生活者を見つけた時に嫌な予感はしていたんだ。この街は、活気があっても格差も酷いんだ。
生活の質が問題なのか? 民の権利か?
「領主の気持ち次第で俺達は仕事を奪われてしまうんだ」
なんだって? 意味が分からない。どうして領主の気持ちが民の仕事に関わってくるんだ?
「肉体労働者か?」
「そうだよ。悪いか?」
「いや、そんな事は言ってないだろう?」
「事情を説明してくれるなら離してやるぞ」
「……クソッ、なんなんだ」
そう言いながらポツリポツリと話し出した。予定されていた下水道改修工事が途中でなくなったそうだ。
「領主はな、自分さえよければそれで良いんだ。だから自分の邸近辺の改修だけやって後は中止さ。領主邸近辺だけじゃなく、街も改修して広げて整備する筈だったんだ。なのに中止しやがった。そんな事をされたら俺達はどうやって食べていったらいいんだよ!」
「だからといって人攫いは悪い事だぞ」
「分かってるさ。だからちょっと金を貰ったらちゃんと解放するつもりだったさ」
それでも悪い事だろう。強盗と同じじゃねーか。開き直ってるんじゃないぞ。
「どうせ俺みたいな貧乏人は生かさず殺さずなんだろうよ。仕事もねーしな」
働きたくても仕事がなければ働けない。それは辛いなぁ。
「俺達にとっては街を出る事だって命懸けなんだ。どんなに嫌な街でも、そこに生まれたからにはそこで生きていかなきゃなんねー。お前達には分からねーだろうがな」
俺がじーちゃんを見ると、頷いた。
「そうなんだよ。馬を買うのだって大金が必要なんだ。普通、民は徒歩だ。食料の問題もある。盗賊だって出るかも知れない。そうなったら命懸けなんだ。単純に馬車で何日も掛かった距離を歩くとなればね。冒険者なら未だしも、一般の民には命懸けだ」
領主の偏った思想による弊害だ。民の為の街。民の為の領地経営じゃなきゃ駄目なんだ。
「だから言っただろう? うちとは合わないと」
確かに、父とは気が合いそうにないな。
「お前、家族は?」
「カミさんがいる。今はカミさんの稼ぎに頼ってんだ。情けねーよ」
「どうしたいんだ?」
「何だよ?」
「金がいると言っていただろう。どうして金が必要なんだ?」
「金があったら腹一杯食わしてやれる。金があったら小さな馬車を買って食料を積み込んで街を出るんだ」
「この街を出てどうする?」
「隣町に行く」
俺達が通ってきた街だ。父を慕っている領主の街に行くと男は言った。
「この街に居たって生活は良くならねー。隣街は盗賊が出るって噂だけど、この街よりマシだろうさ。あの街の領主だったらもうとっくに手を打っているかも知れないしな」
手を打つどころか、父とじーちゃん達とで盗賊団を捕まえた。今はもう安全だ。
こうして、1人2人と街を捨て民が少なくなっていくんだ。そうしたら、極端な話だが街として機能しなくなる。だから、街は民なんだ。国も民なんだ。それを忘れたらいけない。俺はそう父や兄達に教わった。
「そうだ。覚えていたか?」
「はい、お祖父さま」
「領地を守るという事は魔物から守るだけではないんだよ」
「魔物? あんた達もしかして辺境伯領から来たのか?」
「ああ、そうだ」
「辺境伯領から売り出された『えんぴつ』あれは便利だな。工事中にちょっとした印をつけるのに使ってたぞ」
「そうか」
もう、えんぴつが広まっているのか。まあ、値段も庶民が手を出せるように安く設定したらしいな。俺は案だけ出して、後はロディ兄任せだ。
「ノワ、どうしたの?」
「アウ『ココを狙っている奴がいるぞ』」
なんだって? 俺をか? どうしてだ?
その時だ。後ろから突然口を塞がれ抱え込まれた。
「アウゥッ!」
「ココ!」
ノワが飛び掛かり腕に噛み付く。そして霧島が軽く短い手を振り風属性魔法で吹き飛ばした。
俺は驚いて霧島を抱えて隠す。見つかったら面倒だと思ったんだ。自分が連れ去られようとしている時に何を心配しているんだ? とも思ったが、騒ぎになるのは避けたいんだ。
そこに、ディオシスじーちゃんと隆、そして咲も走って戻って来た。
「若ッ!」
「若さまぁッ!」
「大丈夫かッ!?」
吹き飛ばされた男に乗り掛かって、まだノワが腕に噛み付いている。
「クソッ! 離しやがれッ!」
必死でノワを引き離そうとしている男を隆がアッサリと取り押さえた。
なんだよ、素人か? あまりにも、弱すぎるぜ。
「若さまぁ、すみません。私が離れたばかりにぃ」
「サキ、気にすんな。それより、リュウ」
「はいッス。素人ッス」
「そのようだな」
何で素人が人攫いなんてやっているんだよ。腑に落ちないぞ。じーちゃん、どうすんだ?
俺はディオシスじーちゃんを見た。
「だから領主の話をしたろう」
ああ、そういう事なのか。貴族主義の皺寄せが民にきているんだ。それはいかんぞ。
「お前、どうしてこんな事をしたんだ?」
「うるせーよ! 離せよ!」
隆に抑えられて踠いているが、隆は軽く手を押さえているだけだ。本当に素人なんだ。跳ね除ける力もないらしい。
「事情を話すなら離してやる」
「けッ、事情も何も金が欲しいんだよ! 生活できねーんだ。お前ら裕福そうじゃないか、少し位俺が頂いたって構わねーだろ!」
ああ、やはりか。路上生活者を見つけた時に嫌な予感はしていたんだ。この街は、活気があっても格差も酷いんだ。
生活の質が問題なのか? 民の権利か?
「領主の気持ち次第で俺達は仕事を奪われてしまうんだ」
なんだって? 意味が分からない。どうして領主の気持ちが民の仕事に関わってくるんだ?
「肉体労働者か?」
「そうだよ。悪いか?」
「いや、そんな事は言ってないだろう?」
「事情を説明してくれるなら離してやるぞ」
「……クソッ、なんなんだ」
そう言いながらポツリポツリと話し出した。予定されていた下水道改修工事が途中でなくなったそうだ。
「領主はな、自分さえよければそれで良いんだ。だから自分の邸近辺の改修だけやって後は中止さ。領主邸近辺だけじゃなく、街も改修して広げて整備する筈だったんだ。なのに中止しやがった。そんな事をされたら俺達はどうやって食べていったらいいんだよ!」
「だからといって人攫いは悪い事だぞ」
「分かってるさ。だからちょっと金を貰ったらちゃんと解放するつもりだったさ」
それでも悪い事だろう。強盗と同じじゃねーか。開き直ってるんじゃないぞ。
「どうせ俺みたいな貧乏人は生かさず殺さずなんだろうよ。仕事もねーしな」
働きたくても仕事がなければ働けない。それは辛いなぁ。
「俺達にとっては街を出る事だって命懸けなんだ。どんなに嫌な街でも、そこに生まれたからにはそこで生きていかなきゃなんねー。お前達には分からねーだろうがな」
俺がじーちゃんを見ると、頷いた。
「そうなんだよ。馬を買うのだって大金が必要なんだ。普通、民は徒歩だ。食料の問題もある。盗賊だって出るかも知れない。そうなったら命懸けなんだ。単純に馬車で何日も掛かった距離を歩くとなればね。冒険者なら未だしも、一般の民には命懸けだ」
領主の偏った思想による弊害だ。民の為の街。民の為の領地経営じゃなきゃ駄目なんだ。
「だから言っただろう? うちとは合わないと」
確かに、父とは気が合いそうにないな。
「お前、家族は?」
「カミさんがいる。今はカミさんの稼ぎに頼ってんだ。情けねーよ」
「どうしたいんだ?」
「何だよ?」
「金がいると言っていただろう。どうして金が必要なんだ?」
「金があったら腹一杯食わしてやれる。金があったら小さな馬車を買って食料を積み込んで街を出るんだ」
「この街を出てどうする?」
「隣町に行く」
俺達が通ってきた街だ。父を慕っている領主の街に行くと男は言った。
「この街に居たって生活は良くならねー。隣街は盗賊が出るって噂だけど、この街よりマシだろうさ。あの街の領主だったらもうとっくに手を打っているかも知れないしな」
手を打つどころか、父とじーちゃん達とで盗賊団を捕まえた。今はもう安全だ。
こうして、1人2人と街を捨て民が少なくなっていくんだ。そうしたら、極端な話だが街として機能しなくなる。だから、街は民なんだ。国も民なんだ。それを忘れたらいけない。俺はそう父や兄達に教わった。
「そうだ。覚えていたか?」
「はい、お祖父さま」
「領地を守るという事は魔物から守るだけではないんだよ」
「魔物? あんた達もしかして辺境伯領から来たのか?」
「ああ、そうだ」
「辺境伯領から売り出された『えんぴつ』あれは便利だな。工事中にちょっとした印をつけるのに使ってたぞ」
「そうか」
もう、えんぴつが広まっているのか。まあ、値段も庶民が手を出せるように安く設定したらしいな。俺は案だけ出して、後はロディ兄任せだ。
97
お気に入りに追加
2,968
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる