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第5章 王都へ
153ー皺寄せ
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街をボゥーッと眺めていた時だ。俺の膝の上にいたノワが唸り声をあげた。
「ノワ、どうしたの?」
「アウ『ココを狙っている奴がいるぞ』」
なんだって? 俺をか? どうしてだ?
その時だ。後ろから突然口を塞がれ抱え込まれた。
「アウゥッ!」
「ココ!」
ノワが飛び掛かり腕に噛み付く。そして霧島が軽く短い手を振り風属性魔法で吹き飛ばした。
俺は驚いて霧島を抱えて隠す。見つかったら面倒だと思ったんだ。自分が連れ去られようとしている時に何を心配しているんだ? とも思ったが、騒ぎになるのは避けたいんだ。
そこに、ディオシスじーちゃんと隆、そして咲も走って戻って来た。
「若ッ!」
「若さまぁッ!」
「大丈夫かッ!?」
吹き飛ばされた男に乗り掛かって、まだノワが腕に噛み付いている。
「クソッ! 離しやがれッ!」
必死でノワを引き離そうとしている男を隆がアッサリと取り押さえた。
なんだよ、素人か? あまりにも、弱すぎるぜ。
「若さまぁ、すみません。私が離れたばかりにぃ」
「サキ、気にすんな。それより、リュウ」
「はいッス。素人ッス」
「そのようだな」
何で素人が人攫いなんてやっているんだよ。腑に落ちないぞ。じーちゃん、どうすんだ?
俺はディオシスじーちゃんを見た。
「だから領主の話をしたろう」
ああ、そういう事なのか。貴族主義の皺寄せが民にきているんだ。それはいかんぞ。
「お前、どうしてこんな事をしたんだ?」
「うるせーよ! 離せよ!」
隆に抑えられて踠いているが、隆は軽く手を押さえているだけだ。本当に素人なんだ。跳ね除ける力もないらしい。
「事情を話すなら離してやる」
「けッ、事情も何も金が欲しいんだよ! 生活できねーんだ。お前ら裕福そうじゃないか、少し位俺が頂いたって構わねーだろ!」
ああ、やはりか。路上生活者を見つけた時に嫌な予感はしていたんだ。この街は、活気があっても格差も酷いんだ。
生活の質が問題なのか? 民の権利か?
「領主の気持ち次第で俺達は仕事を奪われてしまうんだ」
なんだって? 意味が分からない。どうして領主の気持ちが民の仕事に関わってくるんだ?
「肉体労働者か?」
「そうだよ。悪いか?」
「いや、そんな事は言ってないだろう?」
「事情を説明してくれるなら離してやるぞ」
「……クソッ、なんなんだ」
そう言いながらポツリポツリと話し出した。予定されていた下水道改修工事が途中でなくなったそうだ。
「領主はな、自分さえよければそれで良いんだ。だから自分の邸近辺の改修だけやって後は中止さ。領主邸近辺だけじゃなく、街も改修して広げて整備する筈だったんだ。なのに中止しやがった。そんな事をされたら俺達はどうやって食べていったらいいんだよ!」
「だからといって人攫いは悪い事だぞ」
「分かってるさ。だからちょっと金を貰ったらちゃんと解放するつもりだったさ」
それでも悪い事だろう。強盗と同じじゃねーか。開き直ってるんじゃないぞ。
「どうせ俺みたいな貧乏人は生かさず殺さずなんだろうよ。仕事もねーしな」
働きたくても仕事がなければ働けない。それは辛いなぁ。
「俺達にとっては街を出る事だって命懸けなんだ。どんなに嫌な街でも、そこに生まれたからにはそこで生きていかなきゃなんねー。お前達には分からねーだろうがな」
俺がじーちゃんを見ると、頷いた。
「そうなんだよ。馬を買うのだって大金が必要なんだ。普通、民は徒歩だ。食料の問題もある。盗賊だって出るかも知れない。そうなったら命懸けなんだ。単純に馬車で何日も掛かった距離を歩くとなればね。冒険者なら未だしも、一般の民には命懸けだ」
領主の偏った思想による弊害だ。民の為の街。民の為の領地経営じゃなきゃ駄目なんだ。
「だから言っただろう? うちとは合わないと」
確かに、父とは気が合いそうにないな。
「お前、家族は?」
「カミさんがいる。今はカミさんの稼ぎに頼ってんだ。情けねーよ」
「どうしたいんだ?」
「何だよ?」
「金がいると言っていただろう。どうして金が必要なんだ?」
「金があったら腹一杯食わしてやれる。金があったら小さな馬車を買って食料を積み込んで街を出るんだ」
「この街を出てどうする?」
「隣町に行く」
俺達が通ってきた街だ。父を慕っている領主の街に行くと男は言った。
「この街に居たって生活は良くならねー。隣街は盗賊が出るって噂だけど、この街よりマシだろうさ。あの街の領主だったらもうとっくに手を打っているかも知れないしな」
手を打つどころか、父とじーちゃん達とで盗賊団を捕まえた。今はもう安全だ。
こうして、1人2人と街を捨て民が少なくなっていくんだ。そうしたら、極端な話だが街として機能しなくなる。だから、街は民なんだ。国も民なんだ。それを忘れたらいけない。俺はそう父や兄達に教わった。
「そうだ。覚えていたか?」
「はい、お祖父さま」
「領地を守るという事は魔物から守るだけではないんだよ」
「魔物? あんた達もしかして辺境伯領から来たのか?」
「ああ、そうだ」
「辺境伯領から売り出された『えんぴつ』あれは便利だな。工事中にちょっとした印をつけるのに使ってたぞ」
「そうか」
もう、えんぴつが広まっているのか。まあ、値段も庶民が手を出せるように安く設定したらしいな。俺は案だけ出して、後はロディ兄任せだ。
「ノワ、どうしたの?」
「アウ『ココを狙っている奴がいるぞ』」
なんだって? 俺をか? どうしてだ?
その時だ。後ろから突然口を塞がれ抱え込まれた。
「アウゥッ!」
「ココ!」
ノワが飛び掛かり腕に噛み付く。そして霧島が軽く短い手を振り風属性魔法で吹き飛ばした。
俺は驚いて霧島を抱えて隠す。見つかったら面倒だと思ったんだ。自分が連れ去られようとしている時に何を心配しているんだ? とも思ったが、騒ぎになるのは避けたいんだ。
そこに、ディオシスじーちゃんと隆、そして咲も走って戻って来た。
「若ッ!」
「若さまぁッ!」
「大丈夫かッ!?」
吹き飛ばされた男に乗り掛かって、まだノワが腕に噛み付いている。
「クソッ! 離しやがれッ!」
必死でノワを引き離そうとしている男を隆がアッサリと取り押さえた。
なんだよ、素人か? あまりにも、弱すぎるぜ。
「若さまぁ、すみません。私が離れたばかりにぃ」
「サキ、気にすんな。それより、リュウ」
「はいッス。素人ッス」
「そのようだな」
何で素人が人攫いなんてやっているんだよ。腑に落ちないぞ。じーちゃん、どうすんだ?
俺はディオシスじーちゃんを見た。
「だから領主の話をしたろう」
ああ、そういう事なのか。貴族主義の皺寄せが民にきているんだ。それはいかんぞ。
「お前、どうしてこんな事をしたんだ?」
「うるせーよ! 離せよ!」
隆に抑えられて踠いているが、隆は軽く手を押さえているだけだ。本当に素人なんだ。跳ね除ける力もないらしい。
「事情を話すなら離してやる」
「けッ、事情も何も金が欲しいんだよ! 生活できねーんだ。お前ら裕福そうじゃないか、少し位俺が頂いたって構わねーだろ!」
ああ、やはりか。路上生活者を見つけた時に嫌な予感はしていたんだ。この街は、活気があっても格差も酷いんだ。
生活の質が問題なのか? 民の権利か?
「領主の気持ち次第で俺達は仕事を奪われてしまうんだ」
なんだって? 意味が分からない。どうして領主の気持ちが民の仕事に関わってくるんだ?
「肉体労働者か?」
「そうだよ。悪いか?」
「いや、そんな事は言ってないだろう?」
「事情を説明してくれるなら離してやるぞ」
「……クソッ、なんなんだ」
そう言いながらポツリポツリと話し出した。予定されていた下水道改修工事が途中でなくなったそうだ。
「領主はな、自分さえよければそれで良いんだ。だから自分の邸近辺の改修だけやって後は中止さ。領主邸近辺だけじゃなく、街も改修して広げて整備する筈だったんだ。なのに中止しやがった。そんな事をされたら俺達はどうやって食べていったらいいんだよ!」
「だからといって人攫いは悪い事だぞ」
「分かってるさ。だからちょっと金を貰ったらちゃんと解放するつもりだったさ」
それでも悪い事だろう。強盗と同じじゃねーか。開き直ってるんじゃないぞ。
「どうせ俺みたいな貧乏人は生かさず殺さずなんだろうよ。仕事もねーしな」
働きたくても仕事がなければ働けない。それは辛いなぁ。
「俺達にとっては街を出る事だって命懸けなんだ。どんなに嫌な街でも、そこに生まれたからにはそこで生きていかなきゃなんねー。お前達には分からねーだろうがな」
俺がじーちゃんを見ると、頷いた。
「そうなんだよ。馬を買うのだって大金が必要なんだ。普通、民は徒歩だ。食料の問題もある。盗賊だって出るかも知れない。そうなったら命懸けなんだ。単純に馬車で何日も掛かった距離を歩くとなればね。冒険者なら未だしも、一般の民には命懸けだ」
領主の偏った思想による弊害だ。民の為の街。民の為の領地経営じゃなきゃ駄目なんだ。
「だから言っただろう? うちとは合わないと」
確かに、父とは気が合いそうにないな。
「お前、家族は?」
「カミさんがいる。今はカミさんの稼ぎに頼ってんだ。情けねーよ」
「どうしたいんだ?」
「何だよ?」
「金がいると言っていただろう。どうして金が必要なんだ?」
「金があったら腹一杯食わしてやれる。金があったら小さな馬車を買って食料を積み込んで街を出るんだ」
「この街を出てどうする?」
「隣町に行く」
俺達が通ってきた街だ。父を慕っている領主の街に行くと男は言った。
「この街に居たって生活は良くならねー。隣街は盗賊が出るって噂だけど、この街よりマシだろうさ。あの街の領主だったらもうとっくに手を打っているかも知れないしな」
手を打つどころか、父とじーちゃん達とで盗賊団を捕まえた。今はもう安全だ。
こうして、1人2人と街を捨て民が少なくなっていくんだ。そうしたら、極端な話だが街として機能しなくなる。だから、街は民なんだ。国も民なんだ。それを忘れたらいけない。俺はそう父や兄達に教わった。
「そうだ。覚えていたか?」
「はい、お祖父さま」
「領地を守るという事は魔物から守るだけではないんだよ」
「魔物? あんた達もしかして辺境伯領から来たのか?」
「ああ、そうだ」
「辺境伯領から売り出された『えんぴつ』あれは便利だな。工事中にちょっとした印をつけるのに使ってたぞ」
「そうか」
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