上 下
149 / 249
第5章 王都へ

149ー入れるのか?

しおりを挟む
「ココ、何言ってんだ。普通に親子喧嘩だぜ。まだ可愛らしいもんだ。ワッハッハ!」

 え……小さくされて力も制限されて、その上汚い卵みたいなところに閉じ込められていたんだぞ。かなり酷くないか? まあ、霧島がそれだけの事をしたからなんだろうが。
 だが、その霧島の父ドラゴンはなんと若い頃に母親と喧嘩してドラゴンブレスを放ったらしい。

「親父は街を1つ壊滅させたらしいぞ」
「え……マジ?」
「ああ、大マジだ。そん時に母親にこてんぱんにやっつけられて叱られたんだと。それからドラゴンブレスを使う時は一度考えるようになったって言ってたぞ」

 なんとッ! エンシェントドラゴンの親子喧嘩は街が壊滅する規模らしい。しかも母ドラゴンとの喧嘩でだ。怖い怖い。
 だから今回は霧島へのお仕置きなのか?
 確かにドラゴンブレスを放ったり、こてんぱんにやっつけられたりするよりはマシなのか?

「親父はまだ優しい方だ」
「……そうなの」

 言葉が出ないな。
 霧島とそんな話をしながらやっと次の街が見えてきた。
 すると、馬車に乗ったメイドさん達が歌を歌い出した。

「ピクニックみたいね」

 俺はまたディオシスじーちゃんの馬に乗せてもらっていた。もちろん、男の子に変装している。父やじーちゃん達もちょっとだけ裕福そうな平民の格好をしている。そうは見えないけどな。だってみんな帯剣してるし、ガタイは良いし。どっちかっていうと護衛の冒険者だ。

「次の街は、うちとは相反する領主が治めているんだ」
「お祖父さま、相反するですか?」
「そうだよ。だからといって喧嘩したり仲が悪い訳ではないんだ。ただ、考え方と言うか思想が違うんだね」

 ディオシスじーちゃんが話してくれた『相反する』領主。
 うちは歴代が貴族や領民も皆一緒に安心して生活できるようにがモットーらしい。

「安心して生活できる事がどれだけ有難い事なのか、あの辺境の地で育ったココなら少しは分かるだろう?」

 もちろん分かる。いつ何時魔物に奪われるか分からないんだからな。安心して生活できるという事は大切だ。

「次の街の領主はね、先ず貴族である自分達が潤う生活をと考える人なんだ。そんな事を言えるのも、強い魔物が出ないからだね」

 なるほど。

「でも、お祖父さま。いつも、貴族は民の為にあると、民あっての国だと教わりました」
「そうだね。その通りだ。民がいないと国とは言えないだろう? 実際に民達も税を納めているんだ。それによって国が動いている。そんな事も考えないのだろうね」

 貴族だからといって偉い訳ではない。偶々、貴族に生まれただけだとじーちゃんは言う。
 俺は、前世の平和な世界の経験もあるからか、貴族だ平民だと思う気持ちが薄い様に思う。
 選挙の度に政治家が訴える。国民の為にと。それが完璧に為されているのかは知らないが、でもそれと同じなんだな。

「その事とメイドさん達が歌い出した事と、どう関係があるのですか?」
「それはね。ほら、変装しているだろう? メイド達は旅芸人の変装をしている。自分達は旅芸人だとアピールしているんだろうね。ココは馬車に戻って大人しくしていなさい」

 と、ディオシスじーちゃんに下ろされちゃった。
 でも、そういう事か。なるほどね。俺もあっちのメイドさん達の仲間に入れてくれないかなぁ。
 メイドのお姉さん達、いつもは皆同じ黒のメイド服で髪を後ろで1つにまとめている。メイドだからそれが定番なのだろう。
 でも、今は旅芸人だ。皆、長い髪をおろしてカラフルな衣装に身を包んでいる。化粧もいつもとは違うのか? 超可愛いんだよ。いつもより若くて色っぺー。

「みんな楽しんでますねぇ」
「て、サキだってそうじゃん」

 そうなんだよ。咲だって変装している。踊り子の様なヘソ出しルックだ。この世界でそれは大丈夫なのか?
 超張り切ってるじゃん。俺に付いてる使用人って設定じゃなかったか? その変装は必要か? て、話だ。

「ふふふぅ。だって1度こんな格好をしてみたかったんですぅ」

 そうかよ、もう何も言わねーよ。

「お嬢、言っても無駄ッスよ。あれ、気に入ってんス」
「リュウ、分かってるさ」
「そうッスか」
「リュウだって気に入ってるだろ?」
「え、何スか? 俺、変ッスか?」

 いや、変じゃないよ。変じゃないけどさ。
 何故か隆は遊び人の様な、いや吟遊詩人みたいなラフな格好をしている。後ろの長い上着を着て、長い羽根のついた帽子まで被っている。どうしてそれをチョイスした? 俺は未だにお前達姉弟が分からんぞ。隆だって俺に付いてる使用人の筈だぞ。

「ミリーさん達に適当にって頼んだらこうなったんスよ。なんでも俺は髪が派手だからと言われたッス」
「髪が派手だと吟遊詩人なの?」
「知らないッス」

 あ、そう。もうなんでもいいよ。
 そろそろ街に入る門だ。こんな集団、無事に通過できんのか? 前の街は、父と仲の良い領主だったから大丈夫だったんじゃないのか?
 マジでさ、怪しい集団じゃね? 絶対に止められるぜ。

「お嬢、今日は宿に泊まれますからベッドで眠れるッスよ。フカフカだったらいいッスね」

 隆、今からベッドの心配かよ。俺はそんな事より無事に通過できるかが心配だよ。

「お嬢さまぁ、大丈夫ですよぅ」

 本当かよ? なんて思っていたんだが、何も言われず無事に通過した。超スムーズだったよ。
 門番の兵達にメイドさん達が愛想を振り撒いている。
 じゃあね~なんて言いながら手を振っている。こら、門番。鼻の下を伸ばしてんじゃねーぞ。

「ありがとぉ~!」

 なんて言っている。甘いぜ。甘すぎるぞ。俺なら絶対に止めるね。チェックしまくるぞ。
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

処理中です...