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第5章 王都へ

141ー隣街

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 ロディ兄が馬車を降りていき逃げてきた商人らしき人物に話しかける。

「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
「はい、はいッ! 有難うございます!」
「どちらまで行かれるのでしょう?」
「私はこの先の辺境、インペラート領まで小麦を仕入れに行きます。途中で襲われて馬車を捨てて必死で逃げてきたのです」
「おや、では馬車はどうなったのでしょうね?」
「まだ、その場にいてくれると良いのですが」
「そこまで乗って行かれますか?」
「有難うございます」

 で、馬車に繋がれたお馬さんは無事に道端の草を食べながら大人しく待っていた。良かった良かった。商人は礼を言って俺達が来た方へと馬車を走らせて行った。

「うちの領地にですか?」
「そうだね、この辺だと小麦の産地はうちだからね。パンも手に入らないなんて、とんでもないね」
「本当ですね。では、盗賊団はその奪った物をどこかに隠しているのですか?」
「そうだろうね。街の兵に引き渡したら尋問して捜査するだろう」

 そうか、なら良いや。食べるものがないなんて辛いからな。
 各街は防御壁に囲まれている。統治する貴族がいる街は皆そうなのだが、そうでなく離れた街にいる貴族が統治している小さな村などでは防御壁がない。簡易的な柵の様な物があるだけだ。安全性に問題があるのだが、なんせ貴族が常駐している訳でもない。その上、そのような村は大抵貧乏だ。だから防御壁を造るお金もないんだそうだ。
 その防御壁の一角、馬車も通れるようになっている入場門で身元チェックを受ける。

「はぁッ!? 辺境伯様であられますかッ!」

 父の身分証明になるタグを確認して門番の兵が素っ頓狂な声を上げる。並んでいた民達がみんな見ている。そうだよな、まさか国でも有名な辺境伯が庶民の恰好をしているなんて誰も思わないだろう。

「声が大きいぞぉッ!! 秘密だッ! 変装しておるのだッ!!」

 父がいつもの大きな声で『変装している』と言ってしまった。変装の意味がない。

「ふふふ」

 ほら、また王子が笑っている。

「まあ、父上と仲の良い伯爵領だから良いんじゃないかな」
「でも、ロディ兄さま。変装の意味がありません」
「本当だよね」
「アハハハ」

 王子がもう声をあげて笑っている。アルベルトとソフィまで笑いを堪えている。肩が震えているぞぉ。
 今更だけど、精神干渉ってとんでもないものなんだな。精神干渉が完全に解けてからの王子は別人の様だ。ポヤァ~ッとしている印象だったのに、はっきりと自分の意見を言うようになった。結構、身体を動かすのも好きなようだ。毎日、じーちゃん達と一緒に走るだけでなく、剣の鍛練もしている。何よりよく笑う様になった。良い事だ。
 そして、馬車は街中を進む。街の大通りを奥の領主邸に向かって進んで行く。
 両脇の商店を見ても、途中逃げていた商人が話していた様に並べられている商品が品薄だ。パン屋さんはまだ昼過ぎだというのにもう店を閉めている。
 たかが盗賊団でこんなに街の状況が変わるものなのだろうか?

「ココ、旅をする商人にとっては武器を持った盗賊団は脅威なんだ」
「そうですね。命に係わるのですから」
「そうだよ。でも、もっと早くなんとか出来なかったのかとは思うね」

 そうだよな。1度や2度でここまで酷くはならないだろう。
 そんな話をロディ兄としている内に領主邸に到着した。

「インペラート辺境伯! ようこそおいで下さった!」
「すまぬな、世話になる!」

 伯爵本人が出迎えてくれたらしい。この伯爵、ベルンハルド・カルロッテ伯爵という。実はうちの父と同級生で父の事が大好きだ。傾倒している。そのせいかどうかは知らないが、この伯爵の令嬢が何を隠そうロディ兄の婚約者だ。伯爵は婚約が決まった時にうれし涙を流したらしい。
 ロディ兄の婚約者は、アンジェリカ・カルロッテ。通称アンジェ。俺のすぐ上の姉、エリアリアと同級生で親友らしい。何度もうちに来た事があり、俺のことも可愛がってくれる。
 エリアリア姉と気が合う位だから、勝気でおてんばさんだ。アメジスト色のストレートの髪を姉と同じ様にポニーテールにしていて、ロイヤルブルーの瞳の猫目美人だ。
 
「わたしもロディ様と一緒に辺境伯領を守りますッ!」

 と、言って剣の鍛練もしているらしい。言う事まで姉とそっくりだ。
 今は、エリアリア姉と同じで学園に通っているので寮生活だ。

「ロディ兄さま、アンジェ様がおられませんね」
「学園だからね」
「良かったです」
「ココ、それはどうかな?」
「ああ、確かカルロッテ伯爵のところは3兄弟だったかな?」
「殿下、よくご存知ですね」
「来る時にも世話になったんだ」

 ほう、立ち寄ったんだな。確か、3兄妹でロディ兄の婚約者は3人目にやっとできた女の子だったか?

「もう、兄2人もね。父上のファンなんだよ」
「え……」
「ロディ、それは違うだろう? 家族で辺境伯のファンだろう? ふふふ」
「殿下、よくご存知で」
「来たからね。アハハハ」

 なんだ、なんだ? 父のファンだと変なのか?

「変じゃないよ。ないけどね。うん」
「兄さま、何ですか?」
「ちょっと面倒くさいんだ」
「ああ……」

 なるほど。好き過ぎて面倒な事になっているという事だろう。
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