141 / 249
第5章 王都へ
141ー隣街
しおりを挟む
ロディ兄が馬車を降りていき逃げてきた商人らしき人物に話しかける。
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
「はい、はいッ! 有難うございます!」
「どちらまで行かれるのでしょう?」
「私はこの先の辺境、インペラート領まで小麦を仕入れに行きます。途中で襲われて馬車を捨てて必死で逃げてきたのです」
「おや、では馬車はどうなったのでしょうね?」
「まだ、その場にいてくれると良いのですが」
「そこまで乗って行かれますか?」
「有難うございます」
で、馬車に繋がれたお馬さんは無事に道端の草を食べながら大人しく待っていた。良かった良かった。商人は礼を言って俺達が来た方へと馬車を走らせて行った。
「うちの領地にですか?」
「そうだね、この辺だと小麦の産地はうちだからね。パンも手に入らないなんて、とんでもないね」
「本当ですね。では、盗賊団はその奪った物をどこかに隠しているのですか?」
「そうだろうね。街の兵に引き渡したら尋問して捜査するだろう」
そうか、なら良いや。食べるものがないなんて辛いからな。
各街は防御壁に囲まれている。統治する貴族がいる街は皆そうなのだが、そうでなく離れた街にいる貴族が統治している小さな村などでは防御壁がない。簡易的な柵の様な物があるだけだ。安全性に問題があるのだが、なんせ貴族が常駐している訳でもない。その上、そのような村は大抵貧乏だ。だから防御壁を造るお金もないんだそうだ。
その防御壁の一角、馬車も通れるようになっている入場門で身元チェックを受ける。
「はぁッ!? 辺境伯様であられますかッ!」
父の身分証明になるタグを確認して門番の兵が素っ頓狂な声を上げる。並んでいた民達がみんな見ている。そうだよな、まさか国でも有名な辺境伯が庶民の恰好をしているなんて誰も思わないだろう。
「声が大きいぞぉッ!! 秘密だッ! 変装しておるのだッ!!」
父がいつもの大きな声で『変装している』と言ってしまった。変装の意味がない。
「ふふふ」
ほら、また王子が笑っている。
「まあ、父上と仲の良い伯爵領だから良いんじゃないかな」
「でも、ロディ兄さま。変装の意味がありません」
「本当だよね」
「アハハハ」
王子がもう声をあげて笑っている。アルベルトとソフィまで笑いを堪えている。肩が震えているぞぉ。
今更だけど、精神干渉ってとんでもないものなんだな。精神干渉が完全に解けてからの王子は別人の様だ。ポヤァ~ッとしている印象だったのに、はっきりと自分の意見を言うようになった。結構、身体を動かすのも好きなようだ。毎日、じーちゃん達と一緒に走るだけでなく、剣の鍛練もしている。何よりよく笑う様になった。良い事だ。
そして、馬車は街中を進む。街の大通りを奥の領主邸に向かって進んで行く。
両脇の商店を見ても、途中逃げていた商人が話していた様に並べられている商品が品薄だ。パン屋さんはまだ昼過ぎだというのにもう店を閉めている。
たかが盗賊団でこんなに街の状況が変わるものなのだろうか?
「ココ、旅をする商人にとっては武器を持った盗賊団は脅威なんだ」
「そうですね。命に係わるのですから」
「そうだよ。でも、もっと早くなんとか出来なかったのかとは思うね」
そうだよな。1度や2度でここまで酷くはならないだろう。
そんな話をロディ兄としている内に領主邸に到着した。
「インペラート辺境伯! ようこそおいで下さった!」
「すまぬな、世話になる!」
伯爵本人が出迎えてくれたらしい。この伯爵、ベルンハルド・カルロッテ伯爵という。実はうちの父と同級生で父の事が大好きだ。傾倒している。そのせいかどうかは知らないが、この伯爵の令嬢が何を隠そうロディ兄の婚約者だ。伯爵は婚約が決まった時にうれし涙を流したらしい。
ロディ兄の婚約者は、アンジェリカ・カルロッテ。通称アンジェ。俺のすぐ上の姉、エリアリアと同級生で親友らしい。何度もうちに来た事があり、俺のことも可愛がってくれる。
エリアリア姉と気が合う位だから、勝気でおてんばさんだ。アメジスト色のストレートの髪を姉と同じ様にポニーテールにしていて、ロイヤルブルーの瞳の猫目美人だ。
「わたしもロディ様と一緒に辺境伯領を守りますッ!」
と、言って剣の鍛練もしているらしい。言う事まで姉とそっくりだ。
今は、エリアリア姉と同じで学園に通っているので寮生活だ。
「ロディ兄さま、アンジェ様がおられませんね」
「学園だからね」
「良かったです」
「ココ、それはどうかな?」
「ああ、確かカルロッテ伯爵のところは3兄弟だったかな?」
「殿下、よくご存知ですね」
「来る時にも世話になったんだ」
ほう、立ち寄ったんだな。確か、3兄妹でロディ兄の婚約者は3人目にやっとできた女の子だったか?
「もう、兄2人もね。父上のファンなんだよ」
「え……」
「ロディ、それは違うだろう? 家族で辺境伯のファンだろう? ふふふ」
「殿下、よくご存知で」
「来たからね。アハハハ」
なんだ、なんだ? 父のファンだと変なのか?
「変じゃないよ。ないけどね。うん」
「兄さま、何ですか?」
「ちょっと面倒くさいんだ」
「ああ……」
なるほど。好き過ぎて面倒な事になっているという事だろう。
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
「はい、はいッ! 有難うございます!」
「どちらまで行かれるのでしょう?」
「私はこの先の辺境、インペラート領まで小麦を仕入れに行きます。途中で襲われて馬車を捨てて必死で逃げてきたのです」
「おや、では馬車はどうなったのでしょうね?」
「まだ、その場にいてくれると良いのですが」
「そこまで乗って行かれますか?」
「有難うございます」
で、馬車に繋がれたお馬さんは無事に道端の草を食べながら大人しく待っていた。良かった良かった。商人は礼を言って俺達が来た方へと馬車を走らせて行った。
「うちの領地にですか?」
「そうだね、この辺だと小麦の産地はうちだからね。パンも手に入らないなんて、とんでもないね」
「本当ですね。では、盗賊団はその奪った物をどこかに隠しているのですか?」
「そうだろうね。街の兵に引き渡したら尋問して捜査するだろう」
そうか、なら良いや。食べるものがないなんて辛いからな。
各街は防御壁に囲まれている。統治する貴族がいる街は皆そうなのだが、そうでなく離れた街にいる貴族が統治している小さな村などでは防御壁がない。簡易的な柵の様な物があるだけだ。安全性に問題があるのだが、なんせ貴族が常駐している訳でもない。その上、そのような村は大抵貧乏だ。だから防御壁を造るお金もないんだそうだ。
その防御壁の一角、馬車も通れるようになっている入場門で身元チェックを受ける。
「はぁッ!? 辺境伯様であられますかッ!」
父の身分証明になるタグを確認して門番の兵が素っ頓狂な声を上げる。並んでいた民達がみんな見ている。そうだよな、まさか国でも有名な辺境伯が庶民の恰好をしているなんて誰も思わないだろう。
「声が大きいぞぉッ!! 秘密だッ! 変装しておるのだッ!!」
父がいつもの大きな声で『変装している』と言ってしまった。変装の意味がない。
「ふふふ」
ほら、また王子が笑っている。
「まあ、父上と仲の良い伯爵領だから良いんじゃないかな」
「でも、ロディ兄さま。変装の意味がありません」
「本当だよね」
「アハハハ」
王子がもう声をあげて笑っている。アルベルトとソフィまで笑いを堪えている。肩が震えているぞぉ。
今更だけど、精神干渉ってとんでもないものなんだな。精神干渉が完全に解けてからの王子は別人の様だ。ポヤァ~ッとしている印象だったのに、はっきりと自分の意見を言うようになった。結構、身体を動かすのも好きなようだ。毎日、じーちゃん達と一緒に走るだけでなく、剣の鍛練もしている。何よりよく笑う様になった。良い事だ。
そして、馬車は街中を進む。街の大通りを奥の領主邸に向かって進んで行く。
両脇の商店を見ても、途中逃げていた商人が話していた様に並べられている商品が品薄だ。パン屋さんはまだ昼過ぎだというのにもう店を閉めている。
たかが盗賊団でこんなに街の状況が変わるものなのだろうか?
「ココ、旅をする商人にとっては武器を持った盗賊団は脅威なんだ」
「そうですね。命に係わるのですから」
「そうだよ。でも、もっと早くなんとか出来なかったのかとは思うね」
そうだよな。1度や2度でここまで酷くはならないだろう。
そんな話をロディ兄としている内に領主邸に到着した。
「インペラート辺境伯! ようこそおいで下さった!」
「すまぬな、世話になる!」
伯爵本人が出迎えてくれたらしい。この伯爵、ベルンハルド・カルロッテ伯爵という。実はうちの父と同級生で父の事が大好きだ。傾倒している。そのせいかどうかは知らないが、この伯爵の令嬢が何を隠そうロディ兄の婚約者だ。伯爵は婚約が決まった時にうれし涙を流したらしい。
ロディ兄の婚約者は、アンジェリカ・カルロッテ。通称アンジェ。俺のすぐ上の姉、エリアリアと同級生で親友らしい。何度もうちに来た事があり、俺のことも可愛がってくれる。
エリアリア姉と気が合う位だから、勝気でおてんばさんだ。アメジスト色のストレートの髪を姉と同じ様にポニーテールにしていて、ロイヤルブルーの瞳の猫目美人だ。
「わたしもロディ様と一緒に辺境伯領を守りますッ!」
と、言って剣の鍛練もしているらしい。言う事まで姉とそっくりだ。
今は、エリアリア姉と同じで学園に通っているので寮生活だ。
「ロディ兄さま、アンジェ様がおられませんね」
「学園だからね」
「良かったです」
「ココ、それはどうかな?」
「ああ、確かカルロッテ伯爵のところは3兄弟だったかな?」
「殿下、よくご存知ですね」
「来る時にも世話になったんだ」
ほう、立ち寄ったんだな。確か、3兄妹でロディ兄の婚約者は3人目にやっとできた女の子だったか?
「もう、兄2人もね。父上のファンなんだよ」
「え……」
「ロディ、それは違うだろう? 家族で辺境伯のファンだろう? ふふふ」
「殿下、よくご存知で」
「来たからね。アハハハ」
なんだ、なんだ? 父のファンだと変なのか?
「変じゃないよ。ないけどね。うん」
「兄さま、何ですか?」
「ちょっと面倒くさいんだ」
「ああ……」
なるほど。好き過ぎて面倒な事になっているという事だろう。
77
お気に入りに追加
2,978
あなたにおすすめの小説
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる