上 下
83 / 249
第3章 領地の防御

83ーやりすぎだ

しおりを挟む
「サンプルにできそうな程度で良いから欲しいわ」
「はい、お嬢様。じゃあ、取り敢えず2種類共少しだけ織りますね」
「ええ、ありがとう。リュウ、ロディ兄さまの都合を聞いてきて欲しいわ」
「了ッス」

 隆がピュ―ッと走って行った。
 
「お嬢さまぁ、ロディ様ですかぁ?」
「サキ、そうなのよ。糸がねバージョンアップしていたのよ」
「バ、バージョンアップですかぁ?」
「そうなの。先に兄さまへ報告しなきゃダメね」
「そんなにですかぁ?」
「そんなになのよ」

 マニューさんから出来上がった2種類のサンプル生地をもらい鑑定してみる。ああ、やっぱりだ。

「こっちはメイド服用よね?」
「はい、そのつもりです」
「領主隊の隊服は1番太い糸で良いかしら?」
「お嬢様、隊服は裏地も付けますよね?」
「そうね。ああ、メイド服もスカートの部分は裏地を付けたいわ。もっと薄い生地があったじゃない?」
「そうですね。あと、エプロンですよね」
「エプロンはフリルがいっぱいが良いですぅ!」

 はいはい。咲、分かったよ。

「ポッケにリボンも可愛いですよねぇ」
「それは母さまと相談ね」
「はいぃ」
「お嬢、今から良いそうッス」

 隆がもう戻ってきた。早いな。よし、行こう。

「先にロディ兄さまへ報告してくるわ。まだ生地にするのは待って欲しいの。それからミリーさん。メイド服のパターンも一旦保留ね。デザインが変更になるかも知れないわ」
「分かりました」

 さてさて、本当に嬉しいんだけど。でもなぁ、きっと極秘扱いだよね。

「ココ、それでどういう事なのかな?」

 なんか俺、尋問されてるみたいじゃん?
 ロディ兄の執務室に来ている。

「兄さま、嬉しい誤算です」
「嬉しいのかい?」
「はい、ロウさんやルイソさんが頑張ってくれて……」

 と、糸自体にも防御力がある事を話した。

「何だって? 糸の時点で!?」
「はい、兄さま。凄いでしょう!?」
「いや、ココちょっと待って。それはいくら何でもやりすぎだよ」
「兄さま、あたしじゃないです」
「そうだったね、爺さん達か……あッ、ルイソさんか!?」

 そうで~っす! さすが、ロディ兄だよ。よく分かっているね。

「ああ……忘れてたよ。あの爺さん、そういうのが好きなんだよ」
「みたいですね」
「それで?」
「これ、見てください。黒がメイド服用で、モスグリーンが領主隊用のサンプル生地です」
「ふむ……」

 ロディ兄に、さっき織ってもらったサンプル生地2種類を手渡す。ロディ兄はそれをじっと見る。

「良いじゃないか」
「でしょう?」
「ああ。張りもあるし厚みもいう事ない」
「はい。耐久性もあるそうです。それで、兄さま。まだあるのです」
「え? まだあるのかい?」

 俺はルイソ爺さんが魔石の粉を餌に混ぜた件を話した。

「魔石の粉を!? ああ、野菜の真似をしたのか!?」
「そうです」

 ロディ兄、本当凄いよ。よく分かったな。

「魔石の粉を溶かして作った害虫除けや、肥料を考案したのはルイソ爺さんだからね」

 ほう、ルイソ爺さんってもしかして有名人なのか?

「で、効果が付いたと?」
「そうなんです。最初は火の魔石で試したらしいんですけど、そうしたら火耐性があったらしくて……」
「で? 最終的にこの生地はどんな耐性があるんだい?」
「四属性の耐性があるそうです」
「よ……四……!?」

 あらら。珍しくロディ兄がフリーズしっちゃったよ。再起動してくれ~。

「ココ、これは領内だけの話にしよう。この糸や生地を販売するにしても耐性はナシだ」
「そうですよね」
「ああ。これはやりすぎだ。もちろん、領主隊にとってはありがたい物だけどね」
「はい」
「ランス、母上の都合を聞いてきてくれないか?」
「はい、畏まりました」

 そう言って、ランスが部屋を出ていった。

「兄さま、母さまですか?」
「ああ。これは母上にも知らせないと」

 という事で、母の部屋に来ている。

「まあまあまあ! 素晴らしいじゃない!」

 と、全部説明した後の母の反応だ。相変わらず呑気だ。

「母上、これは流通させられませんよ」
「しなきゃいいじゃない。領内だけの秘密よ」
「母上、そんな呑気な……」
「あら、ロディ。そんな事いくらでもあるじゃない。ルイソの考案した物だけでも幾つかあるわ」

 え、そうなのか? 本当にこの領地の爺さん達は侮れないな。

「シゲ爺だってそうじゃない」

 え? なんだって!? あの、シゲ爺さんがか!?

「ココ、うちの領地の食べ物やワインは特別なんだよ」
「兄さま、知りませんでした」
「ココはまだ小さかったからね」
「それと同じよ。この生地は素晴らしいわ! ココちゃん、遠慮はいらないわよ。これでメイド服も隊服も作っちゃいなさい」

 作っちゃいなさいって、いいのかよ? 本当に?

「ココ、そういう事だから。爺さん達には僕から説明しておくよ。領内で使う物と、流通させる物を分けよう」
「分かりました」
「お嬢さまぁ、あのリボンのぉ……」

 咲、分かってるよ。

「母さま、それでメイド服とエプロンをもう少し可愛らしくしようと思うのです」
「あら、可愛らしく?」
「はい。母さま、紙とペンを借ります」

 で、俺は咲と相談していたメイド服とエプロンのデッサンらしきものを描いた。

「まあ! 可愛いわね! 良いじゃない!」
「良いですか?」
「もちろんよ。なら、ココちゃん。ヘッドドレスも変えない?」
「ヘッドドレスをですか?」
「そう。この横に主張しすぎない同色の小さなリボンを付けて、フリルを多くしない?」
「奥様、可愛いですぅ」
「でしょう?」

 おいおい、やり過ぎじゃないか?

「防汚効果を付与できればいいんだけど」

 さすがにそれは無理だね。

「ココちゃん」

 え? 俺なのか?

「クリスティー先生にお話ししておくわ」
「はい、母さま」

 ああ、俺が勉強するんだね。うん、そんな気がしていたよ。
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

処理中です...