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第二章

63ー盗賊

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「大丈夫です。直ぐに意識は戻ります。念のため今日と明日は解毒薬を飲んで頂き、身体の中に入った毒を取り除きます」
「ディアナ、助かった」
「私は解毒薬を作りに戻ります。あと毒薬の分析も。アーデス様、後ほどご報告します」
「ああ、ガイウスを一緒に行かせよう。解毒薬を渡してくれ」
「畏まりました」

 ディアナがガイウスと部屋を出て行きました。

「お父様、ジュード兄様が遭遇した盗賊といい、普通ではありませんわ」
「ああ、分かっている」
「お母様とジュノー様に説明してきます。毒の事はまだ?」
「ああ、まだだ。ジュノー嬢には話さないでおく」
「では、解毒薬ではなく薬湯とだけ話しておきます」

 私は隣の部屋に向かいます。

「ジュノー様、お母様」
「ルル様! お父様は!?」
「もう大丈夫ですよ。直ぐに意識は戻ります。念のため、今日と明日は薬湯をお飲み下さいね。旅の疲れもお有りみたいですからね」
「ああ、有難うございます。もうそばに行っても構いませんか?」
「ええ、ついて差し上げて下さい」

 ジュノー様が寝室へ向かいます。

「ルル」
「お母様、ディアナが後で報告してくれます」
「そう」

 お父様やお母様と一緒にお父様の執務室に移動しました。

「あなた」
「ああ、毒だった」
「どうなっているのでしょう。どうしてクロノス侯爵が……」
「分からん。今はディアナの報告を待とう」
「お父様、お母様、私はピアが気になるので一旦部屋に戻っています。何かあったら直ぐに呼んで下さい」

 私は、部屋に戻ってきました。

「ピー!」

 ピアが飛んで抱きついてきました。ごめんなさいね、急だったから驚いたわよね。

「ピア、お利口にしてた?」
「ルル様、大丈夫ですよ」

 リアンカが言ってくれます。

「ズッと、ピーピー言ってたのー」

 ラビさん、厳しいわね。

「そうなのね。ラビはお利口さんね」

 ラビを撫でます。ラビは本当に良い子だわ。

「ピー……」
「ピアも今日は我慢できたのね、偉いわ」

 ピアも撫でます。ピアなりに我慢したのよね。

「ピー!」
「リアンカ、有難う」
「いいえ、ルル様。それよりやはり毒でしたか?」
「ええ、ディアナが解毒薬を持ってきてくれるわ。その後のディアナの報告待ちね」

 ん? そう言えば。

「ねえ、リアンカ。ジュード兄様は今日は何していらっしゃるか知らない?」
「いえ、何も聞いておりませんが?」
「そう、朝から見ないなぁと思って。」
「そうですね。でも邸の敷地内にはいらっしゃらない様ですよ。ジュード様の馬がありませんでしたから」
「そうなの?」
「はい。ルル様、お茶入れましょうか?」
「ええ、お願い」
「お茶菓子はどうされますか?」
「んー、もう直ぐお昼だから止めておくわ」
「はい」

 お昼です。やっぱりジュード兄様がいません。ジュノー様もクロノス侯爵に着いたままです。

「お父様、ジュード兄様は?」
「私も知らんぞ。朝からいないみたいだが」

 んー、このタイミングでジュード兄様がいないのは……。

「ルル、帰って来るまで待ちましょう。さ、食べてしまいなさい」
「はい、お母様」
「ピー」
「ああ、ピアごめんね。レオン様しかお水持ってないのよ」
「ピ……」

 あー、レオン様に魔素水もらっておけば良かったなぁ。ごめんなさいね。

「アーデス様、ラウアース様とレオン殿下がお戻りになりました」

 え? もう? まだお昼よ?

「どうした? 何かあったか?」
「はい、討伐途中に不審者を捕まえられたとかで」
「なんだと!?」

 不審者!? 一体何なの?

「父上、食事中にすみません」
「構わん。もう終わった。不審者を捕らえたのか?」
「それが、捕らえたのですが、自害されてしまいました」
「なんだと!? またか! レオンも一緒か?」
「はい」
「戻りました」
「レオン様、丁度良い所に!」
「どうした?」
「ピー!」
「ああ、水ね」

 ラウ兄様、レオン様、モモも一緒にお父様の執務室へ移動しました。

「どう言う事だ!? 何が起こっている!」
「ティシュトリア領で不審者なんて」

 お母様の仰る通りです。辺境のティシュトリア領は、魔物が出る事で領主隊が精鋭揃いなのです。その事は広く知られています。なので、盗賊や不審者が出るなんて事はないのです。領主隊が抑止力になっているし、領民の団結力もあり治安は頗る良いのです。なのに、立て続けに起きた騒ぎです。何かあるに違いありません。

「とにかく、ラウ報告してくれ」
「はい、父上。今日は昨日より領地の境寄りで討伐をしておりました。モモがいつもの様に索敵していて、異変を察知したのです。魔物ではなく、人が何人も森にいると。領民が森に迷い込んでいたのなら大変ですので、急遽そちらに向かいました。すると領民ではなく、不審者達が矢を放ってきたので捕らえたのですが予め用意していただろう毒薬で自害されてしまいました」
「昨日ジュードが言っていた事と同じだな」
「はい。これは関係がない方がおかしいです」

 ――コンコン

「失礼致します。ご報告に参りました」
「ディアナ、毒の件だな」
「はい、アーデス様。結果から申し上げます。クロノス侯爵の腕から採取した毒と、昨日ジュード様が捕らえた盗賊が使用した毒とは同じものでした」
「やはりか」
「アーデス様、この毒はトリカイドでした。植物性の毒で、致死量は僅か2mgです。植物性の毒の中でも最強のものです。毒を致死量摂取すれば直ぐに心臓発作が起こり死亡に至ります。幸い、マールス侯爵の身体に入った毒の量はごくごく僅かだったと思われますが、今日と明日は解毒薬をお飲み頂きます」
「父上、侯爵が?」
「ああ、ラウアース。弓矢で狙われた。擦り傷だったのだが、意識を失われたのでルルとディアナが治療し今は落ち着いている」
「ルル!」
「ええ、レオン様。領地の境界ギリギリの所で狙われたそうです」
「俺達が不審者と遭遇した場所と近いな。ジュノー嬢は?」
「クロノス侯爵に付き添っておられます」
「そうか。しかし不審者が自害までするのは腑に落ちないのですが」
「レオンの言う通りだな。自害する覚悟をしてまで人を襲うものか?」
「ええ、父上。調べてみなければいけませんね」
「ラウアース、それでその自害した者達はどうした?」
「連れ帰りました。ディアナに調べてもらうべきかと思いましたので」
「では、私は今からそちらへ向かいます」
「ああ、ディアナ頼む。侯爵を狙った輩と同一だろう」
「はい、アーデス様」

 ディアナが部屋を出て行きました。
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